※この作品はR-18です。

サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館   作:ドン・ドナシアン

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029 王太子妃歓迎式【第7日】

「一時止め──全員集合──」

 

 ダンの怒号が、巨大な石造りの広間へ轟いた。

 その瞬間だった──。

 あちこちで続いていた狂宴が一斉に止まった。

 

 嬌声──悲鳴──嗤い声──怒鳴り声──。

 そして、鈴の音──。

 そういったあらゆる音が一時的に途切れ、広間に異様な静寂が落ちた。

 

「集合だ、急げ──」

 

「おい、そっち外せ」

 

「立たせろ、列へ入れ──」

 

 男兵と女兵たちが次々に怒鳴りながら動き始めた。

 一方で、狂宴の対象にされていた女たちも、慌てたように動き始める。

 吊られていた令嬢たちが慌ただしく降ろされた。

 台へ拘束されていた娘たちは、革帯や枷を乱暴に外され、よろめきながら床へ降り立たされていた。

 

「ひっ……」

 

「あ、ぅ……」

 

 足に力が入らないのか、まともに歩かない者も少なくない。

 長時間責め続けられていたのだろう。

 腰が立たず、その場へ崩れ落ちそうになる娘も多い。

 

「立て──列に入れ──」

 

 兵が腕を掴み、無理やり引き起こす。

 

「頑張りましょう。お掴まりになってください」

 

「さあ、お早く──」

 

 令嬢たちも必死の様子だ。

 ふらつく身体をお互いに庇いながら動く。

 令嬢たちが、必死に列へ加わっていき、六列縦隊を作っていく。

 

 裸の娘──。

 下着だけの娘──。

 服を半ば剥ぎ取られた娘──。

 胸元をはだけさせたままの娘──。

 脚だけは外されているが、手枷は装着されたままの娘も半分以上もいる。

 広場の隅で家事のようなことをしていた股間に小さな布一枚の女たちは、六列のうちの左二列に固まっていた。広間以外からも、全力疾走で列に加わりに来る娘もちらほらと増えていく。

 

 列中に入った女たちは、一応は立っている。

 だが、まともに身体を支えられていない娘も多かった。

 隣へ寄りかかる。

 互いの肩を掴む。

 兵に腰を支えられる。

 拘束されたままの者がかなりいるので、そうでない者が支えたりしている。

 そんな姿のまま、慌てて列へ並んでいく。

 

 また、どこかに、乳首へ小さな鈴を二個ずつ吊られている令嬢たちも多かった。

 その鈴が、列のあちこちで乱れ鳴り始める。

 ちろりん。

 しゃら、ちりりん──。

 

 震える呼吸。

 ふらつく脚。

 怯えた身動ぎ。

 そのたび、無数の鈴の音が広間へ重なって響いた。

 

 兵たちの姿もまた、統一などされていなかった。

 女兵たちは、まだ軍装の名残がある。

 

 だが、男兵たちは酷かった。

 まともに服を着ている者のほうが少ない。

 革帯だけを腰へ巻いている者。

 上半身を完全に裸にしている者。

 ズボンを膝まで下げたまま笑っている者。

 

 中には、下半身を露出したまま平然と歩き回っている兵までいた。

 広間の管理役らしいダンでさえ、その姿だ。

 その広間中央へセリアは引き出されていた。

 

「あぁ……っ、ひゃ……」

 

 前屈に折られた身体が震える。

 尻には、小さな共和国旗が突き立てられていた。

 鼻輪から伸びる紐を、アルジェが握っている。

 

 周囲を囲むのは、ダンと女兵たちだった。

 令嬢たちの視線が、一斉にセリアへ集まる。

 

「……っ」

 

 セリアの喉が引き攣った。

 見られている。

 無数の視線だった。

 床へ崩れそうな娘たち。

 涙を浮かべている娘たち。

 呆然としている娘たち。

 その全員が、自分を見ているのがわかった。

 

「ほら、挨拶だよ──」

 

 アルジェが鼻輪の紐を引いた。

 

「あがあああっ──」

 

 激痛が鼻の奥を貫いた。

 広間の空気が震える。

 ざわついていた令嬢たちが、一斉に息を呑んだ。

 前屈に折られたままのセリアは、涙と汗で濡れた顔を床へ向けたまま喘いでいる。

 

「静かにしな──」

 

 アルジェが鼻輪の紐を軽く揺らす。

 びくり、とセリアの身体が跳ねた。

 

「今日は特別に、お前らへ紹介しておく」

 

 女兵たちがにやつきながら左右へ開く。

 中央に、セリアだけが晒された。

 

「こいつは、セリア・テレオロス──」

 

 アルジェが愉快そうに口角を吊りあげた。

 

「テレオロス王国の元王太子妃殿下だ──」

 

 その瞬間だった。

 

「──っ」

 

「お、王太子妃殿下……?」

 

「うそ……」

 

「本当だったの?」

 

 令嬢たちの列に、衝撃が走ったのがわかった。

 どよめきが広間中へ広がっていく。

 かつて王都の頂点にいた女であり、雲の上の存在のはずの自分が。いま尻へ共和国旗を突き立てられ、鼻輪で引き回されているのだ。

 

「あ、ああ──」

 

 セリアが掠れた声を漏らした瞬間、アルジェが鼻輪の紐を乱暴に引きあげた。

 

「あがあああっ──」

 

 無理やり顔を上げさせられた。

 首筋が引き攣り、涙に濡れた顔が広間へ晒された。

 鼻輪を嵌めた鼻穴から鼻水を盛大に流し、開口具を装着されている口から、さらに大量の涎を噴きこぼしている恥辱的な顔を晒された。

 令嬢たちのざわめきが、さらに大きくなった。

 

 一方で、セリアは、晒し者のように見られながら、羞恥だけではない苦悶とも戦っていた。

 尻穴へ突き立てられている小さな共和国旗──。その棒を挿し込まれる際、尻穴へ塗り込まれた油剤による猛烈な痒みが、いまも奥を焼くように暴れ続けているのだ。

 

「ぁ……っ、あぁ……っ」

 

 じっとしていられない。呻き声さえもやめられない。

 ほんの少したりとも、身体を止めていられなかった。それほどの凄まじい痒みだ──。

 

 前屈に折られた姿勢のまま、セリアは小刻みに身体を震わせる。

 脚が勝手に足踏みを繰り返す。

 腰が落ち着かず、左右へ揺れてしまう。

 そのたび、尻へ突き立てられた共和国旗が、ぴくぴくと揺れた。

 令嬢たちのあいだから、怯えた視線と困惑が広がっているのがわかる。

 それでも、セリアはじっとすることができなかった。

 

 兵たちは違った。

 にやついている。

 笑っている。

 とくに男兵たちは、セリアの尻で揺れている共和国旗を見ながら、下品な笑い声をあげていた。

 

「アルジェ様──」

 

 不意に、列の中から女兵の声が響いた。

 

「なんだい──?」

 

「その王太子妃様は、どうして尻へ共和国の旗を刺しているんですか?」

 

 わざとらしく響かせた声だった。

 その瞬間、兵たちの集団からどっと嗤いが起きた。

 

「そりゃ気になるよなぁ」

 

「お妃様だもんなぁ」

 

 アルジェが鼻輪から伸びる鎖を、さらに背中側へぐいと引いた。

 

「あがああっ──」

 

 強引に顔を露出させられて、セリアの身体が跳ねる。

 このアルジェは、羞恥に襲われているセリアに、俯くことさえ許さないつもりなのだ。

 鼻穴へ激痛が走り、前屈姿勢のまま無理やり顎を引きあげさせられた。

 

「ふふ──見りゃわかるだろ? このお妃様、共和国への忠誠を誓いたいから、尻でも旗を振りたいんだってさ」

 

 アルジェが肩を揺らして笑う。

 

「ははははっ」

 

「忠誠心が立派だなぁ」

 

「尻穴で愛国とは恐れ入る」

 

 兵たちも爆笑した。

 

「あおおおっ──」

 

 違う──。

 そう叫びたかった。

 だが、セリアの口から漏れたのは、開口具越しの哀れな奇声だけだった。

 

 痒い──

 熱い──

 身体の奥が狂いそうに疼く。

 尻穴へ突き立てられた旗が、腰を揺らすたび内部を擦り続けてくる。

 

「でも、尻でちゃんと共和国旗を振り続けてるだろう? このお妃様が自分で望んでやってる証拠さ──」

 

 アルジェが大声を張りあげた。

 その言葉に合わせるように、セリアの腰がまた震えた。

 尻の共和国旗が、羞恥的に揺れる。

 広間に、兵たちの爆笑がさらに広がっていった。

 

「……じゃあ、王太子妃歓迎の恒例余興といくか。一般囚の新入り行事だが、是非、王太子妃殿下も受けてくれ」

 

 すると、ダンがにこやかな口調で告げた。

 

「余興って、なんだい?」

 

 アルジェが訊ねている。

 

「千人鞭ならず、千人羽根だな──。まあ、千人はおらんが、それはおまけだ」

 

「千人羽根?」

 

「まあ、見ればわかる──。お前ら、千人羽根だ──。直ちに態勢をとれ──」

 

 ダンが怒鳴る。

 その途端に、令嬢たちだけでなく、兵たちも一斉に駆けだした。

 令嬢たちの一部が吊っている鈴がやかましく鳴り響きだす。

 

 広間の空気が慌ただしく動く。

 令嬢たちの一部が、広間奥の倉庫のような場所へ駆け込んでいく。

 ほどなくして戻ってきた娘たちは、縦長の木箱を何本も抱えていた。

 箱の中には、長い柄の先へ柔らかな鳥の羽根を取り付けた道具が、大量に収められている。

 令嬢たちだけでなく、兵たちも次々に手を伸ばす。

 

「一周目の半分だ。今夜の酒代──」

 

「じゃあ、俺は一周越えに賭けるか」

 

「お前は最後まで耐えるにしろよ」

 

「ばーか、何周させんのか知らねえけど、そんなのに賭けんのはいねえよ」

 

 物騒なことを喋りながら、彼らもまた一本ずつ受け取っていく。

 令嬢たちも同じだった。

 拘束されたままだった娘たちは、そばの兵たちから慌ただしく枷を外されて、羽根を一本ずつ渡されていく。

 

 やがて、広間全体を囲むように、令嬢たちと兵たちの入り混じった二列が作られ始めた。

 ぐるり──。

 巨大な円だった。

 広間の中央を取り囲むように、人の輪が出来上がっていく。

 その全員が、羽根を持っている。

 

「……っ」

 

 セリアの背筋へ悪寒が走った。

 なんなのだ、これは──。

 

「さて──新入り側の準備だ」

 

 ダンが笑いながら言った。

 兵が短い金属棒を運んできたのだ。

 

「んっ、膝枷かい?」

 

 アルジェが言う。

 

「そうだ、これを嵌めてやってくれ」

 

 金属棒の両端には、革製の膝枷が取り付けられていた。

 

「へえ……」

 

 アルジェが受け取り、口角を吊りあげた。

 

「脚を閉じられなくするやつか」

 

「急いで通り抜けるのを防ぐ意味もある」

 

 ダンが嗤う。

 また、女兵たちはセリアの脚へ取りつく。

 

「あっ、や……っ」

 

 膝を強引に開かされる。

 短棒を挟み込まれ、そのまま両脚を固定された。

 股幅ほどに脚が開いたまま、膝から下が閉じられない。

 しかも鼻輪で前屈姿勢を強制されているため、まともに体勢を整えることすらできなかった。

 

「ぁ……っ」

 

 セリアの呼吸が震える。

 狂うような痒みは続いていた。

 尻穴へ突き立てられた共和国旗が、身体を揺らすたび内部を擦り続けている。

 こうしているあいだも、地獄のようだった。

 

 そこへ、さらにダンが別のものを差し出した。

 大きな陶器瓶だった。

 中に液体が入っているらしく、重そうに水音が鳴る。

 

「今度はなんだい?」

 

 アルジェが瓶を覗き込む。

 しかし、すぐに吹き出した。

 

「……おいおい。これ、利尿薬を溶かしてるんじゃないのか?」

 

 利尿薬──?

 その単語を聞いた瞬間、セリアの背中へ冷たいものが走った。

 

「そういうことだ──。これをたっぷり飲んで、羽根で責められながら輪の中を通り抜ける──。それが千人羽根だ。小便を漏らすたびに、もう一度飲んでやり直す決まりだ。新入りの最高記録は、十五杯を飲んだ娘だ。結局、成功しなかったけどな」

 

 ダンが愉快そうに説明した。

 セリアはぞっとなった。

 

「普通は二周だが、せっかくだ。元王太子妃殿下には倍の四周してもらおう。四周終わる前に漏らせば、利尿液を飲んでやり直しだ」

 

「……」

 

 セリアは目を見開いた。

 輪の中を四周──?

 改めて周囲を見る。

 

 令嬢たち。

 兵たち。

 羽根を持った男女が、広間をぐるりと囲んでいる。

 合わせて、百人近くはいるだろう。

 そのあいだを、四周も──?

 つまりは、四百人──。

 

 しかも利尿薬。

 嫌な予感が、猛烈な恐怖となって膨れ上がった。

 横でアルジェが爆笑した。

 

「そりゃいい。失禁癖の躾も途中だったしねぇ」

 

 にやつきながら、陶器瓶を軽く揺らす。

 

「……だから、一本じゃ足りないな……。最初から二本飲んでもらおうか」

 

「おいおい……。かなり効き目が強いんだ。一度に二壜飲めば、もたねえぞ。なんだかんだで、一杯ずつしか飲ませたことはねえんだ」

 

 ダンが肩を竦める。

 

「失禁したら令嬢たちに掃除してもらえばいい……。舌でね」

 

 アルジェが楽しそうに笑った。

 

「あおおおっ──」

 

 セリアの喉から悲鳴が漏れた。

 そんなこと──。

 そんなことを、他の令嬢たちへさせるなど──。

 

「顔を上げさせな」

 

 アルジェが命じる。

 次の瞬間、鼻輪が強引に引きあげられた。

 

「あがああっ──」

 

 鼻の奥へ激痛が走る。

 涙が溢れた。

 前屈姿勢のまま、無理やり顔を上へ向けさせられる。

 

「ほら、飲みな──」

 

 陶器瓶の口が、開口具の穴へ押し当てられた。

 どろり、とろりと液体が流し込まれる。

 

「ほごっ──ごっ、ごっ──」

 

 塩辛い。

 異様な味だった。

 セリアは反射的に吐き出そうとした。

 

 だが、左右から女兵たちが顔を押さえ込む。

 しかも、さらに鼻輪のある鼻穴まで、指で強引に塞がれた。

 

「んごっ──?」

 

 息ができない。

 喉が焼ける。

 口の中へ液体が溜まり続ける。

 

「さっさと飲み干しな。窒息したくなければね」

 

 アルジェが笑いながら言った。

 

「ごっ……ごもごっ、ごっ──」

 

 苦しい。

 セリアは必死に喉を動かした。

 液体を飲み込む。

 飲み込むしかない。

 

 ようやく一本目の瓶が空になった。

 だが、息を継ぐ暇すら与えられない。

 すぐに二本目が押し当てられる。

 

「んぐっ──」

 

 下腹部へ、熱のような感覚が走った。

 

「……っ」

 

 ぞわり、と膀胱が震える。

 早い。

 あまりにも早い。

 まだ一本目を飲み終えたばかりなのに、身体の奥で尿意が急激に膨れ始めていた。

 

 

 

 やがて、二本目が終わる。

 猛烈な尿意が、下腹の奥で脈打っていた。

 一本で限界のはずだと告げられた、利尿液を二壜飲まされた効果は絶大だった。セリアは必死に股間に力を入れて、圧迫している壮絶な尿意を耐えている。

 

「ぁっ……ぅ……っ」

 

 セリアは荒い呼吸を漏らした。

 すでに限界だった。

 膀胱は張り詰め、歩くだけで内部が揺れる。

 呼吸するだけでも危うかった。

 しかも、尻の奥では発狂しそうな痒みが暴れ続けているのだ。

 

「ぅあっ……」

 

 小旗の棹を肛門に挿すのに使われた潤滑油代わりの掻痒剤のあまりの痒さに勝手に腰が跳ね続ける。

 だが、その動きが、また尿意を助長する。

 じっとすることも、動くことも地獄──。

 塗り込まれた尻の周囲が熱を持ち、その内側を針で掻き回されるような痒みが、絶え間なく襲い続けている。

 

 掻きたい。

 尻を擦りつけたい。

 だが、それは許されない。

 前屈みにされた姿勢で、大きく脚を開かされたまま、必死に歯噛みする。

 両腕は背後へ引き上げられ、床へ手をつくことすらできない。

 鼻輪と陰核のリングから伸びる鎖は、脚のあいだを通され、そのまま後方へ伸びている。窮屈な姿勢に耐えかねて前屈の体勢を崩せば、その瞬間に股間と鼻輪に激痛が加わる。

 その瞬間に、失禁をするかもしれない。

 

「ほら、列の間に入るんだよ」

 

 アルジェに怒鳴られる。

 セリアは、膝のあいだに金属棒を挟まれた前屈の姿勢で身体を交互にずらすようにしながら、左右に長い柄のある羽根を構えた二列のあいだにはいっていった。

 

 じゃら、じゃらり──。

 鎖が石床を擦る音が響く。

 

「っ、くぅ……」

 

 少し身体を捩るだけで、鼻の奥と股間へ鋭い痛みが走る。

 その状態のまま、蟹股で必死に進む。

 

 無様だった。

 腰を落とし、脚を大きく開き、ほとんど四つ足に近い姿勢で、ふらつきながら進むしかない。

 しかも、その姿を無数の視線が見下ろしていた。

 

 広場に円状に続く、羽根の列は百人──。

 それを四周──。四百本の羽根だ──。

 この状態のまま、最後まで行き着くということがセリアにはもう想像できなかった、

 

 もう……漏れる……。

 セリアは必死に歯を喰いしばろうとする。しかし、口に嵌められた開口具がそれさえも許してくれない。無様に涎が流れ続ける。

 

「もう漏らしそうじゃないか」

 

「始まる前に漏らせば、ある意味、それも新記録だな」

 

 嘲笑が響く。

 兵たちだ。

 一方で、見える限りにおいて、大半の令嬢たちは羽根を構えたまま、複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「ぅ……ぅぅ……っ」

 

 とにかく、漏らすわけにはいかない……。

 ここで失禁などすれば、本当に終わる。

 だが、下腹はすでに痙攣し始めていた。

 

 しかも、痒みが思考を削る。

 腰を逃がしたい。

 尻を擦りたい。

 だが動けば、今度は鼻輪と股間のリングが裂けるように痛む。

 

「よーし、静かにしろ──」

 

 そのときだった──。

 低い怒声が、広間全体へ響き渡った。

 

 空気が凍る。

 一般囚の管理責任者のダンだ。

 大柄な彼は、いまは階段上から広間を見下ろ位置に立っていた。

 ざわついていた女たちが一斉に口を閉ざした。

 

「これより、千人羽根の試練を開始する──。手を抜いたと判断した者は、その瞬間に首が破裂して胴体と離れると思え。わかったな──」

 

 広間から音が消えた。

 女たちの顔色が消える。

 誰もが息を呑んでいた。

 その沈黙を、アルジェの声が切り裂く。

 

「あと、もうひとつだ。必ず、くすぐりながら罵倒しろ。お前たちの元王太子妃は、罵倒されるのが大好きな変態だからね」

 

 女たちの間に、ぴりりと緊張が走るのがわかった。

 

 「始め──」

 

 ダンの怒声と同時に、白い羽根が一斉に動いた。

 

「ぁおおおっ──」

 

 セリアの身体が大きく跳ねた。

 左右から伸びてきた羽根が、脇腹と内腿を同時に撫でたのである。

 

「ぁっ、ぉぁっ──んぉっ──」

 

 駄目だった。

 想像していた以上だった。

 柔らかい羽毛が、汗ばんだ肌を撫で回していく。

 

 しかも、一本ではない。

 左右前後から、絶え間なく羽根が伸びてくる。

 

 脇──。

 腹──。

 腰──。

 膝裏──。

 内腿──。

 くすぐったさが同時多発的に襲いかかり、セリアの身体が勝手に痙攣した。

 

 だが、身を捩った瞬間。

 じゃらっ──。

 

「ぉおおおっ──」

 

 鼻輪と陰核のリングが引き攣れ、鋭い激痛が走る。

 その衝撃に、下腹がびくりと震えた。

 

 漏れる──。

 

「んぅっ……ぉ、ぉぉ……っ」

 

 セリアは必死に脚へ力を込めた。

 だが、その踏ん張りが、今度は尻の痒みを刺激する。

 

「ぉぁあっ、ぁぁっ……」

 

 腰が勝手に跳ねる。

 すると、また羽根が追ってくる。

 

「ひ、ひどい顔ですわ……」

 

 震えるような女の声だった。

 右側に立っていた令嬢のひとりが、ぎこちなく羽根を動かしながら言ったのである。

 

「み、みっともないですわ……」

 

 別の令嬢も続く。

 だが、声に迫力がない。

 そもそも、罵倒など慣れていないのかもしれない。

 

「し、しっかりとなさらないと駄目ですわ……」

 

「そ、そうですわ……みっともないですわ……」

 

 同じ言葉が繰り返される。

 

「なんだい、それは。お貴族様のお茶会か──」

 

 その様子に、アルジェが大声で笑った。

 女たちがびくりと肩を震わせる。

 

「もっと馬鹿にしな。首環を作動させられたいのかい──。元王太子妃様は、尻を痒がって漏らしそうになってる変態なんだ──」

 

「んぉっ……ぉぉ……っ」

 

 セリアの顔が羞恥で熱を持った。

 だが、その瞬間……。

 

「セ、セリア妃殿下は、ご変態ですわ」

 

「そ、そうです。ご変態様です」

 

 ふわり──。

 脚の間に入ってきた羽根が股間をくすぐる。

 

「ぁおおっ──」

 

 さらに、別の方向から膝裏へ羽根が滑り込む。

 必死に前屈で脚を開いたまま進む。

 

「ばかたれが──。変態に、“ご”は要らないんだよ。せめて、“ど変態”と言ってやりな」

 

 アルジェの嗤い声が響く。

 彼女は羽根の責めを浴び続けるセリアの少し後ろをついてくる。

 

「ど変態です」

 

「そうです、ど変態です──」

 

 脇腹──。

 腹──。

 どれだけ前へ進んでも、新たな羽根が待っている。

 汗で濡れた肌を、柔らかな羽毛が何度も撫で回す。

 

「んぁっ、ぉっ、ぉぉっ──」

 

 呼吸が崩れる。

 笑うまいとしても、身体が勝手に震える。

 しかも、前屈みの姿勢のせいで腹へ力が入り、尿意が限界まで押しあげられていく。

 

「だから、同じ罵倒を続けるなって、言ってんだろうが──」

 

 令嬢たちへの怒声が後ろから飛ぶ。

 セリアは必死に進む。

 止まれば、さらに羽根が集中する。

 だから、蟹股のまま必死に前へ進む。

 

 じゃら、じゃらり──。

 鎖が石床を擦る。

 

「ぉっ、んぅっ……ぉぉっ……」

 

 一歩進むたび、鼻輪と股間が痛む。

 羽根が脇を撫でる。

 尻が狂ったように痒い。

 膀胱が悲鳴をあげる。

 それでも進むしかない。

 

「み、みっともないですわ……」

 

「お、お漏らししそうですわ……」

 

「しっかり……しっかりなさらないと……」

 

 令嬢たちの弱々しい罵倒が続く。

 まだまだ、千人羽根は始まったばかりだ──。

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