サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
じゃら、じゃらり──。
鎖を引きずる音が、石床へ途切れなく響いていた。
「んぅっ……ぉ、ぉぉっ……」
セリアは必死に呼吸を整えようとした。
漏らすな──。
崩れるな──。
頭の中で、それだけを繰り返す。
王太子妃として──。
テレオロス最後の王族として──。
こんな場所で失禁し、笑い転げながら這い回るなど、絶対に許されない。
だから、一歩ずつ進む。
前屈みのまま。
脚を開かされたまま。
腰を落とし、蟹股で。
だが、そのたびに羽根が伸びてきた。
脇──。
「ぁおっ──」
膝裏──。
「んぉっ──」
さらに、腹──。
柔らかな羽毛が汗ばんだ肌を撫でるたび、身体が勝手に震えた。
しかも、少しでも身を捩れば──。
じゃらっ──。
「ぉおおっ──」
鼻輪と股間へ激痛。
さらに、その衝撃で膀胱が痙攣する。
漏れる──。
「ぉっ……ぉぉ……っ」
セリアは必死に太腿へ力を込めた。
しかし、今度はその踏ん張りが尻の痒みを悪化させる。
「ぁぁっ、ぉぁっ……」
腰が勝手に跳ねた。
すると、そこへまた羽根が追ってくる。
「み、みっともないですわ……」
「ど、ど変態ですわ……」
「お、お漏らししそうですわ……」
令嬢たちの罵倒が飛ぶ。
だが、途中から誰が言っているのかもわからなくなっていた。
同じ言葉──。
同じ羽根──。
同じ笑い──。
終わらない──。
「んぅっ……」
セリアは必死に視線を前へ向けた。
まだ列が続いている。
白い羽根を持った女たちが、円を描くように並んでいる。
「ぉ……ぉぉ……」
喉の奥から掠れた呻きが漏れた。
無理だ──。
脳裏で、そんな声が響く。
だが、その瞬間。
「ほら、止まるんじゃないよ──」
後ろからアルジェが鎖を蹴り飛ばした。
じゃらりっ──。
「ぉおおっ──」
鼻輪と陰核が引き攣れ、セリアの身体が大きく跳ねる。
「歩きな。お前、自分が誰だと思ってるんだい──。元王太子妃様なんだろう──」
「んぉっ……ぉ、ぉぉ……」
その言葉に、セリアは必死に前を向いた。
負けるな──。
耐えろ──。
どれほど惨めでも。
どれほど無様でも。
ここで漏らすわけにはいかない。
だから、また一歩を踏み出す。
その瞬間。
ふわり──。
今度は、羽根が脇腹から胸の下をゆっくりと撫で上げた。
「ぁおおおおっ──」
セリアは泣くような声で吠えた。
じゃら、じゃらり──。
鎖を引きずる音だけが、いつまでも耳に残っていた。
「んぅっ……ぉ、ぉぉっ……」
もう、自分がどれほどの時間を耐え続けているのか、セリアにはわからなかった。
とっくに一周目は終わっている気がする。
だが、それからどれほど進んだのかも認識できない。
終わらない。
脇を撫でられる。
「ぁおっ──」
膝裏をくすぐられる。
「んぉっ──」
少し身を捩れば、鼻輪と陰核へ激痛。
「ぉおおっ──」
さらに、その衝撃で膀胱が痙攣する。
漏れる──。
「ぉっ……ぉぉ……っ」
セリアは渾身の力を下腹へ込め続けた。
汗が凄まじかった。
まるで全身へ水でも浴びせられたかのように、銀髪も裸身も濡れ切っている。
汗は顎から滴り、胸を伝い、腹を流れ、石床へぽたぽたと落ち続けていた。
あと少しだけ頑張ろう──。
そう思う。
いや、さらに少しだけなら踏ん張れる──。
その繰り返しだった。
それだけで、セリアは進み続けていた。
「ぁぁっ……ぉぉぉっ……」
もはや悲鳴ではなかった。
泣いていた。
涙をこぼし、涎を垂らし、鼻水を流しながら、呼吸を乱しながら、それでも必死に前へ進む。
だが、漏らさない。
死んでも──。
ここにいる令嬢たちの前でだけは、醜態を晒したくなかった。
いや──。
晒してはいけない。
自分が耐えることに意味があるのかはわからない。
だが、それでも。
この地獄へ立たされている令嬢たちへ、自分が最後まで耐える姿を見せることができれば──。
それだけでも、なにかを残せるかもしれない。
「んぅっ……ぉぉっ……」
その一心だけで、セリアは気力を振り絞っていた。
だが、尿意の波は何度も襲ってくる。
下腹が痙攣する。
尻の痒みは、もう狂いそうだった。
それでも進む。
蟹股で──。
前屈みのまま──。
鎖を引きずりながら──。
「なかなか、すげえな。まさか四周目まで行くとなあ」
不意に、小さな男の声が聞こえた。
前方の兵だった。
羽根を股間へ差し込みながら、思わず漏らしたように呟いたのである。
四周目──?
セリアの意識が揺れる。
最後──?
「ぉ……ぉぉ……」
終わるのか……?
もう少しなのか。
終わりがあるのか?
その瞬間、ぐらついていた意識の奥へ、かすかな希望が灯った。
「ちっ、余計なことを教えるじゃないよ──。どうせわかってないんだから──」
背後からアルジェの悪態が轟いた。
次の瞬間。
ぐいっ──。
「ぁごおおおおっ──」
後ろへ伸びていた鎖が、突然強く引かれたのだ。
鼻輪と陰核へ凄まじい激痛が走る。
セリアの身体が大きく跳ねた。
さすがに、膝が崩れる。
「ぉ、ぉぉっ……」
ついに歩みが止まり、その場へ膝を折った。
「はははっ。踏んじまったよ。悪いね──」
アルジェの意地悪い笑い声が、後ろから響いた。
「ぉっ……ぉ、ぉぉっ……」
セリアは石床へ膝をついたまま、荒い呼吸を漏らした。
全身が震えている。
下腹は痙攣し続け、尻の奥では狂ったような痒みが暴れていた。
しかも、崩れた姿勢のせいで、鼻輪と陰核のリングへ鎖の重みが余計に食い込んでいる。
「ははっ、無様だねえ──」
アルジェが嗤う。
その直後だった。
ふわり──。
「ぁおおっ──」
膝をついたままの脇腹へ、羽根が滑り込んできた。
さらに、腹。
内腿。
汗で濡れた肌を、柔らかな羽毛が何度も撫で回していく。
「んぉっ、ぉぉっ──」
セリアの身体がびくびくと痙攣した。
駄目だ。
止まれば、集中する。
立たなければ──。
「ど、ど変態ですわ……。も、もうちょっとですわ……」
「もう少しなのに……み、みっともないですわ……」
令嬢たちの震える声が降る。
慣れない悪態に混ぜて、セリアに送ってくれる激励の響き──。
その声を聞いた瞬間、セリアは奥歯の代わりに開口具を強く噛み込んだ。
負けるな──。
ここで崩れるな──。
テレオロスの王族が、地面へ這いつくばったまま終わるな──。
「んぅぅっ……」
喉奥から呻きを漏らしながら、セリアは震える脚へ力を込めた。
太腿が痙攣する。
下腹が悲鳴をあげる。
それでも、ゆっくりと腰が浮いた。
じゃら、じゃらり──。
鎖が揺れる。
「ぉぉっ……ぉ、ぉぉ……っ」
立ちあがっただけで、膀胱が決壊しそうだった。
漏れる。
でも、あと少しでも気を抜けば終わる。
だが、それでも──。
セリアは再び前屈みの姿勢を作った。
脚を開き──。
腰を落とし──。
鎖を引きずる──。
そして……。
一歩。
また一歩。
蟹股のまま、再び進み始めた。
その瞬間、周囲の羽根がまた一斉に動き出す。
「ぁおおおおっ──」
セリアは悲鳴をあげた。
じゃら、じゃらり──。
それでも、セリアは震える脚を必死に前へ運び続けていた。
「んぅっ……ぉ、ぉぉっ……」
もう意識も朦朧としかけている。
猛烈な尿意。
発狂しそうな痒み。
鼻輪と陰核へ走り続ける激痛。
全身が限界だった。
汗は滝のように流れ続け、銀髪は肌へ張り付き、裸身は完全に濡れ切っている。
それでも進む。
あと少し──。
あと少しだけ耐えれば──。
その思いだけで、セリアは蟹股のまま前へ進み続けた。
だが、そのときだった。
ふいに、四方から襲い続けていた羽根が止まる。
「ぉ……?」
セリアは荒い呼吸のまま、ゆっくりと顔を上げた。
正面──。
そこに、小さな木桶が置かれていた。
さらに、その向こう側にはアルジェ。
周囲には女兵たち。
そして、少し離れた位置にダンが立っている。
「まさか、ここまでやり遂げるとは思わなかったよ。ほら、木桶だ──」
アルジェがにやりと嗤い、軽く足で木桶を蹴った。
かんっ──。
木桶がセリアの前へ滑ってきた。
「おぅっ……ぉぉ……っ」
もう限界だった。
膀胱が悲鳴をあげている。
脚も震え、下腹は痙攣し続けていた。
出したい──。
やっと出せる。
もう、それしか考えられない。
セリアはふらつきながら、一歩、また一歩と木桶へ近づいていった。
だが、違和感を覚えた。
「……っ」
はっとする。
まだ先に、令嬢たちが立っている。
しかも、その視線がセリアに向いていた。
心配そうに……。
祈るように……。
「ぉ……ぉぉ……」
セリアの意識が、一瞬だけ醒めた。
違う──。
ここではない。
最後の終着点は、まだ先だ。
この木桶は罠──。
ここで放尿すれば、“最後の直前で失敗した”ことにされる。
そして、最初からやり直しだ。
「んぅぅっ……」
セリアは必死に股間へ力を込めた。
膀胱が痙攣する。
もう限界だ。
それでも。
木桶を素通りする。
「ちっ、あとちょっとだ。行かせるんじゃないよ──」
アルジェが叫んだ。
次の瞬間──。
ふわりっ──ふわふわっ──ふわっ──。
四方から羽根が一斉に襲いかかる。
「ぁおおっ──」
さらに、アルジェ自身が近くの令嬢から羽根をひったくった。
「ほら、頑張りな──」
にたりと笑いながら、今度は羽根ではなく柄の部分をセリアの下腹へ押し込む。
「ぉごおおおっ──」
膀胱が跳ねた。
尿意が爆発しそうになる。
セリアの脚が大きく崩れかける。
だが、それでも。
耐えた──。
耐える──。
漏らさない──。
耐えなければならない──。
「んぅっ……ぉぉっ……」
涙と涎を垂らしながら、セリアは最後の力で前へ進んだ。
そして──。
ついに……。
ダンの立つ、本当の終着点へ辿り着く。
「ほう、終わりだ。見事だぜ──」
ダンが大声で笑った。
広間の空気が変わる。
「ちっ……確かにね。最後まで耐え切るとは思わなかったよ──」
アルジェは舌打ちしながら羽根を放り捨てた。
「仕方ない。通過だ……。もっとも、排尿せずに終わったのが良かったことか、悪かったことかは知らないけどね──」
アルジェが不敵に笑った。
「ぉ……?」
セリアは荒い呼吸のまま顔を上げる。
アルジェの手には、細い棒のような魔道具が握られていた。
先端には、真珠にも似た極小の球体がついている。
だが、よく見れば違った。
棒の表面には、細かな触手のようなものが無数に生えている。
それらが、ねらねらと蠢いていた。
「……っ」
セリアの背筋へ悪寒が走る。
「膀胱栓だ。これを朝までつけてな。今度は我慢じゃなくて、出したくても出せない苦しみを味わいながら、失禁癖を矯正するんだ」
アルジェが笑いながら、棒をセリアの股間へ近づけた。
「ぉっ、おぁあっ──」
本能的に逃げようとする。
だが、左右から女兵たちが身体を押さえ込んだ。
「んぉっ──」
セリアは呻いた。
しかし、膝枷のあいだには、いまだ金属棒が固定されたままだ。
脚を閉じることも、逃げることもできない。
「ぉごおおっ──」
股間に圧迫感が加わる。
細い触手管が、尿道へ押し込まれていくのがわかった。
気持ち悪い──。
痛い──。
さらに、内部で触手が蠢く感触が伝わってくる。
「ぁっ、ぁぁっ……ぉぉっ──」
セリアは涙を零しながら震えた。
「丁度、そこが反省房だ。入りな──」
アルジェが顎で示した。
千人羽根の終着点だった広間奥──。
そこは反省房区画への入口になっていた。
開かれた扉の奥に短い廊下があり、その左右へ金属製の扉が二つずつ並んでいる。
その一番手前の扉が、いま開放されていた。
女兵たちがセリアを引き立てる。
中には何もなかった。
石床──。
石壁──。
そして、天井から一本だけ垂れ下がっている鎖。
「ぉ……ぉぉ……」
セリアの呼吸が乱れる。
女兵たちが、鼻輪と陰核へ繋がっている鎖を、その天井鎖へ接続した。
次の瞬間──。
がしゃりっ──。
「ぉごおおっ──」
鎖が引きあがっていく。
顔が無理やり上へ向けられた。
鼻──。
股間──。
両方へ同時に激痛が走る。
「ぁぁっ、ぉぉっ──」
セリアは泣き喚いた。
だが、アルジェは楽しそうに笑うだけだった。
「最初の反省房だから、そんなには追い詰めないよ。膀胱栓もしてやったし、失禁する心配もない。ただ歩くだけだ──」
「ぉ……ぉぉっ……」
「解放は明日の朝……いや、もっとかね。まあ、気が向いたら来てやるよ──」
アルジェがそう言った直後だった。
天井の鎖が、ゆっくりと前へ動き始める。
「んごおっ──」
セリアの身体が引っ張られた。
呆然としていた次の瞬間、鼻輪と陰核へ激痛が走る。
遅れたのだ。
「があぁっ……あおぉぉっ──」
セリアは涙を流しながら、慌てて鎖を追った。
しかも、びりりと鼻輪と股間に電撃が走ったのだ。セリアが遅れることで鎖に力が加わった途端に、軽い電流が流れたようだ。電流は強くなかったと思うし、一瞬だけだったが、その衝撃は凄まじかった。
セリアは号泣した。
とにかく、鎖に遅れないように必死に前屈とがに股の体勢で鎖を追い続ける。
だが、まともには歩けない。
膝枷のあいだには、まだ金属棒が固定されたままなのだ。
脚を大きく開き、肩を振るように身体ごと揺らしながら進むしかない。
強制的に上を向かされた視界へ、天井のレールが映る。
円形だった。
部屋全体を巡るように、鎖の軌道が続いている。
「これで疲れても、途中で寝るなんてできないだろう──」
アルジェが嗤った。
「しかも、鎖へ強い力が加わったら、電撃も流れるようにしてやってる。鼻と股ぐらへ電撃を受けたくなければ、遅れないように頑張りな──」
女兵たちが笑う。
そして──。
驚いたことに、全員が部屋から出ていった。
「……っ」
セリアの呼吸が止まる。
重い金属音とともに扉が閉じた。外から鍵が閉まる音がした。
その直後、部屋は完全な闇へ沈んだ。
「ぉ……ぉぉ……っ」
暗い──。
なにも見えない──。
聞こえるのは、自分の荒い呼吸と、鎖の音──お尻で揺れる小旗の音だけだ。
じゃら、じゃり──。
セリアは前屈みのまま、脚を開かされ、ただ前へ進み続ける。
終わらない。
まだ終わっていない。
絶望とともに──。