※この作品はR-18です。

サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館   作:ドン・ドナシアン

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030 千人羽根【第7日】

 じゃら、じゃらり──。

 鎖を引きずる音が、石床へ途切れなく響いていた。

 

「んぅっ……ぉ、ぉぉっ……」

 

 セリアは必死に呼吸を整えようとした。

 

 漏らすな──。

 崩れるな──。

 頭の中で、それだけを繰り返す。

 

 王太子妃として──。

 テレオロス最後の王族として──。

 こんな場所で失禁し、笑い転げながら這い回るなど、絶対に許されない。

 

 だから、一歩ずつ進む。

 前屈みのまま。

 脚を開かされたまま。

 腰を落とし、蟹股で。

 

 だが、そのたびに羽根が伸びてきた。

 

 脇──。

 

「ぁおっ──」

 

 膝裏──。

 

「んぉっ──」

 

 さらに、腹──。

 柔らかな羽毛が汗ばんだ肌を撫でるたび、身体が勝手に震えた。

 しかも、少しでも身を捩れば──。

 

 じゃらっ──。

 

「ぉおおっ──」

 

 鼻輪と股間へ激痛。

 さらに、その衝撃で膀胱が痙攣する。

 漏れる──。

 

「ぉっ……ぉぉ……っ」

 

 セリアは必死に太腿へ力を込めた。

 しかし、今度はその踏ん張りが尻の痒みを悪化させる。

 

「ぁぁっ、ぉぁっ……」

 

 腰が勝手に跳ねた。

 すると、そこへまた羽根が追ってくる。

 

「み、みっともないですわ……」

 

「ど、ど変態ですわ……」

 

「お、お漏らししそうですわ……」

 

 令嬢たちの罵倒が飛ぶ。

 だが、途中から誰が言っているのかもわからなくなっていた。

 

 同じ言葉──。

 同じ羽根──。

 同じ笑い──。

 終わらない──。

 

「んぅっ……」

 

 セリアは必死に視線を前へ向けた。

 まだ列が続いている。

 白い羽根を持った女たちが、円を描くように並んでいる。

 

「ぉ……ぉぉ……」

 

 喉の奥から掠れた呻きが漏れた。

 無理だ──。

 脳裏で、そんな声が響く。

 だが、その瞬間。

 

「ほら、止まるんじゃないよ──」

 

 後ろからアルジェが鎖を蹴り飛ばした。

 

 じゃらりっ──。

 

「ぉおおっ──」

 

 鼻輪と陰核が引き攣れ、セリアの身体が大きく跳ねる。

 

「歩きな。お前、自分が誰だと思ってるんだい──。元王太子妃様なんだろう──」

 

「んぉっ……ぉ、ぉぉ……」

 

 その言葉に、セリアは必死に前を向いた。

 負けるな──。

 耐えろ──。

 

 どれほど惨めでも。

 どれほど無様でも。

 ここで漏らすわけにはいかない。

 だから、また一歩を踏み出す。

 

 その瞬間。

 ふわり──。

 今度は、羽根が脇腹から胸の下をゆっくりと撫で上げた。

 

「ぁおおおおっ──」

 

 セリアは泣くような声で吠えた。

 

 

 

 

 

 じゃら、じゃらり──。

 鎖を引きずる音だけが、いつまでも耳に残っていた。

 

「んぅっ……ぉ、ぉぉっ……」

 

 もう、自分がどれほどの時間を耐え続けているのか、セリアにはわからなかった。

 とっくに一周目は終わっている気がする。

 だが、それからどれほど進んだのかも認識できない。

 

 終わらない。

 

 脇を撫でられる。

 

「ぁおっ──」

 

 膝裏をくすぐられる。

 

「んぉっ──」

 

 少し身を捩れば、鼻輪と陰核へ激痛。

 

「ぉおおっ──」

 

 さらに、その衝撃で膀胱が痙攣する。

 

 漏れる──。

 

「ぉっ……ぉぉ……っ」

 

 セリアは渾身の力を下腹へ込め続けた。

 汗が凄まじかった。

 まるで全身へ水でも浴びせられたかのように、銀髪も裸身も濡れ切っている。

 汗は顎から滴り、胸を伝い、腹を流れ、石床へぽたぽたと落ち続けていた。

 

 あと少しだけ頑張ろう──。

 

 そう思う。

 

 いや、さらに少しだけなら踏ん張れる──。

 

 その繰り返しだった。

 それだけで、セリアは進み続けていた。

 

「ぁぁっ……ぉぉぉっ……」

 

 もはや悲鳴ではなかった。

 泣いていた。

 涙をこぼし、涎を垂らし、鼻水を流しながら、呼吸を乱しながら、それでも必死に前へ進む。

 だが、漏らさない。

 

 死んでも──。

 ここにいる令嬢たちの前でだけは、醜態を晒したくなかった。

 

 いや──。

 晒してはいけない。

 

 自分が耐えることに意味があるのかはわからない。

 だが、それでも。

 この地獄へ立たされている令嬢たちへ、自分が最後まで耐える姿を見せることができれば──。

 それだけでも、なにかを残せるかもしれない。

 

「んぅっ……ぉぉっ……」

 

 その一心だけで、セリアは気力を振り絞っていた。

 だが、尿意の波は何度も襲ってくる。

 下腹が痙攣する。

 

 尻の痒みは、もう狂いそうだった。

 それでも進む。

 

 蟹股で──。

 前屈みのまま──。

 鎖を引きずりながら──。

 

「なかなか、すげえな。まさか四周目まで行くとなあ」

 

 不意に、小さな男の声が聞こえた。

 前方の兵だった。

 羽根を股間へ差し込みながら、思わず漏らしたように呟いたのである。

 

 四周目──?

 セリアの意識が揺れる。

 

 最後──?

 

「ぉ……ぉぉ……」

 

 終わるのか……?

 もう少しなのか。

 終わりがあるのか?

 その瞬間、ぐらついていた意識の奥へ、かすかな希望が灯った。

 

「ちっ、余計なことを教えるじゃないよ──。どうせわかってないんだから──」

 

 背後からアルジェの悪態が轟いた。

 次の瞬間。

 ぐいっ──。

 

「ぁごおおおおっ──」

 

 後ろへ伸びていた鎖が、突然強く引かれたのだ。

 鼻輪と陰核へ凄まじい激痛が走る。

 セリアの身体が大きく跳ねた。

 さすがに、膝が崩れる。

 

「ぉ、ぉぉっ……」

 

 ついに歩みが止まり、その場へ膝を折った。

 

「はははっ。踏んじまったよ。悪いね──」

 

 アルジェの意地悪い笑い声が、後ろから響いた。

 

「ぉっ……ぉ、ぉぉっ……」

 

 セリアは石床へ膝をついたまま、荒い呼吸を漏らした。

 全身が震えている。

 下腹は痙攣し続け、尻の奥では狂ったような痒みが暴れていた。

 しかも、崩れた姿勢のせいで、鼻輪と陰核のリングへ鎖の重みが余計に食い込んでいる。

 

「ははっ、無様だねえ──」

 

 アルジェが嗤う。

 その直後だった。

 ふわり──。

 

「ぁおおっ──」

 

 膝をついたままの脇腹へ、羽根が滑り込んできた。

 さらに、腹。

 内腿。

 汗で濡れた肌を、柔らかな羽毛が何度も撫で回していく。

 

「んぉっ、ぉぉっ──」

 

 セリアの身体がびくびくと痙攣した。

 

 駄目だ。

 止まれば、集中する。

 立たなければ──。

 

「ど、ど変態ですわ……。も、もうちょっとですわ……」

 

「もう少しなのに……み、みっともないですわ……」

 

 令嬢たちの震える声が降る。

 慣れない悪態に混ぜて、セリアに送ってくれる激励の響き──。

 その声を聞いた瞬間、セリアは奥歯の代わりに開口具を強く噛み込んだ。

 

 負けるな──。

 ここで崩れるな──。

 テレオロスの王族が、地面へ這いつくばったまま終わるな──。

 

「んぅぅっ……」

 

 喉奥から呻きを漏らしながら、セリアは震える脚へ力を込めた。

 太腿が痙攣する。

 下腹が悲鳴をあげる。

 

 それでも、ゆっくりと腰が浮いた。

 じゃら、じゃらり──。

 鎖が揺れる。

 

「ぉぉっ……ぉ、ぉぉ……っ」

 

 立ちあがっただけで、膀胱が決壊しそうだった。

 漏れる。

 でも、あと少しでも気を抜けば終わる。

 

 だが、それでも──。

 セリアは再び前屈みの姿勢を作った。

 

 脚を開き──。

 腰を落とし──。

 鎖を引きずる──。

 

 そして……。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 蟹股のまま、再び進み始めた。

 その瞬間、周囲の羽根がまた一斉に動き出す。

 

「ぁおおおおっ──」

 

 セリアは悲鳴をあげた。

 じゃら、じゃらり──。

 それでも、セリアは震える脚を必死に前へ運び続けていた。

 

「んぅっ……ぉ、ぉぉっ……」

 

 もう意識も朦朧としかけている。

 猛烈な尿意。

 発狂しそうな痒み。

 鼻輪と陰核へ走り続ける激痛。

 全身が限界だった。

 汗は滝のように流れ続け、銀髪は肌へ張り付き、裸身は完全に濡れ切っている。

 

 それでも進む。

 あと少し──。

 あと少しだけ耐えれば──。

 その思いだけで、セリアは蟹股のまま前へ進み続けた。

 

 だが、そのときだった。

 ふいに、四方から襲い続けていた羽根が止まる。

 

「ぉ……?」

 

 セリアは荒い呼吸のまま、ゆっくりと顔を上げた。

 正面──。

 そこに、小さな木桶が置かれていた。

 

 さらに、その向こう側にはアルジェ。

 周囲には女兵たち。

 そして、少し離れた位置にダンが立っている。

 

「まさか、ここまでやり遂げるとは思わなかったよ。ほら、木桶だ──」

 

 アルジェがにやりと嗤い、軽く足で木桶を蹴った。

 かんっ──。

 木桶がセリアの前へ滑ってきた。

 

「おぅっ……ぉぉ……っ」

 

 もう限界だった。

 膀胱が悲鳴をあげている。

 脚も震え、下腹は痙攣し続けていた。

 

 出したい──。

 やっと出せる。

 もう、それしか考えられない。

 

 セリアはふらつきながら、一歩、また一歩と木桶へ近づいていった。

 だが、違和感を覚えた。

 

「……っ」

 

 はっとする。

 まだ先に、令嬢たちが立っている。

 しかも、その視線がセリアに向いていた。

 

 心配そうに……。

 祈るように……。

 

「ぉ……ぉぉ……」

 

 セリアの意識が、一瞬だけ醒めた。

 違う──。

 ここではない。

 最後の終着点は、まだ先だ。

 

 この木桶は罠──。

 ここで放尿すれば、“最後の直前で失敗した”ことにされる。

 そして、最初からやり直しだ。

 

「んぅぅっ……」

 

 セリアは必死に股間へ力を込めた。

 膀胱が痙攣する。

 もう限界だ。

 

 それでも。

 木桶を素通りする。

 

「ちっ、あとちょっとだ。行かせるんじゃないよ──」

 

 アルジェが叫んだ。

 次の瞬間──。

 ふわりっ──ふわふわっ──ふわっ──。

 四方から羽根が一斉に襲いかかる。

 

「ぁおおっ──」

 

 さらに、アルジェ自身が近くの令嬢から羽根をひったくった。

 

「ほら、頑張りな──」

 

 にたりと笑いながら、今度は羽根ではなく柄の部分をセリアの下腹へ押し込む。

 

「ぉごおおおっ──」

 

 膀胱が跳ねた。

 尿意が爆発しそうになる。

 セリアの脚が大きく崩れかける。

 

 だが、それでも。

 耐えた──。

 

 耐える──。

 漏らさない──。

 耐えなければならない──。

 

「んぅっ……ぉぉっ……」

 

 涙と涎を垂らしながら、セリアは最後の力で前へ進んだ。

 そして──。

 

 ついに……。

 ダンの立つ、本当の終着点へ辿り着く。

 

「ほう、終わりだ。見事だぜ──」

 

 ダンが大声で笑った。

 広間の空気が変わる。

 

「ちっ……確かにね。最後まで耐え切るとは思わなかったよ──」

 

 アルジェは舌打ちしながら羽根を放り捨てた。

 

「仕方ない。通過だ……。もっとも、排尿せずに終わったのが良かったことか、悪かったことかは知らないけどね──」

 

 アルジェが不敵に笑った。

 

「ぉ……?」

 

 セリアは荒い呼吸のまま顔を上げる。

 アルジェの手には、細い棒のような魔道具が握られていた。

 先端には、真珠にも似た極小の球体がついている。

 

 だが、よく見れば違った。

 棒の表面には、細かな触手のようなものが無数に生えている。

 それらが、ねらねらと蠢いていた。

 

「……っ」

 

 セリアの背筋へ悪寒が走る。

 

「膀胱栓だ。これを朝までつけてな。今度は我慢じゃなくて、出したくても出せない苦しみを味わいながら、失禁癖を矯正するんだ」

 

 アルジェが笑いながら、棒をセリアの股間へ近づけた。

 

「ぉっ、おぁあっ──」

 

 本能的に逃げようとする。

 だが、左右から女兵たちが身体を押さえ込んだ。

 

「んぉっ──」

 

 セリアは呻いた。

 しかし、膝枷のあいだには、いまだ金属棒が固定されたままだ。

 脚を閉じることも、逃げることもできない。

 

「ぉごおおっ──」

 

 股間に圧迫感が加わる。

 細い触手管が、尿道へ押し込まれていくのがわかった。

 

 気持ち悪い──。

 痛い──。

 さらに、内部で触手が蠢く感触が伝わってくる。

 

「ぁっ、ぁぁっ……ぉぉっ──」

 

 セリアは涙を零しながら震えた。

 

「丁度、そこが反省房だ。入りな──」

 

 アルジェが顎で示した。

 千人羽根の終着点だった広間奥──。

 そこは反省房区画への入口になっていた。

 開かれた扉の奥に短い廊下があり、その左右へ金属製の扉が二つずつ並んでいる。

 その一番手前の扉が、いま開放されていた。

 

 女兵たちがセリアを引き立てる。

 中には何もなかった。

 石床──。

 石壁──。

 そして、天井から一本だけ垂れ下がっている鎖。

 

「ぉ……ぉぉ……」

 

 セリアの呼吸が乱れる。

 女兵たちが、鼻輪と陰核へ繋がっている鎖を、その天井鎖へ接続した。

 

 次の瞬間──。

 がしゃりっ──。

 

「ぉごおおっ──」

 

 鎖が引きあがっていく。

 顔が無理やり上へ向けられた。

 

 鼻──。

 股間──。

 両方へ同時に激痛が走る。

 

「ぁぁっ、ぉぉっ──」

 

 セリアは泣き喚いた。

 だが、アルジェは楽しそうに笑うだけだった。

 

「最初の反省房だから、そんなには追い詰めないよ。膀胱栓もしてやったし、失禁する心配もない。ただ歩くだけだ──」

 

「ぉ……ぉぉっ……」

 

「解放は明日の朝……いや、もっとかね。まあ、気が向いたら来てやるよ──」

 

 アルジェがそう言った直後だった。

 天井の鎖が、ゆっくりと前へ動き始める。

 

「んごおっ──」

 

 セリアの身体が引っ張られた。

 呆然としていた次の瞬間、鼻輪と陰核へ激痛が走る。

 遅れたのだ。

 

「があぁっ……あおぉぉっ──」

 

 セリアは涙を流しながら、慌てて鎖を追った。

 しかも、びりりと鼻輪と股間に電撃が走ったのだ。セリアが遅れることで鎖に力が加わった途端に、軽い電流が流れたようだ。電流は強くなかったと思うし、一瞬だけだったが、その衝撃は凄まじかった。

 セリアは号泣した。

 とにかく、鎖に遅れないように必死に前屈とがに股の体勢で鎖を追い続ける。

 

 だが、まともには歩けない。

 膝枷のあいだには、まだ金属棒が固定されたままなのだ。

 脚を大きく開き、肩を振るように身体ごと揺らしながら進むしかない。

 

 強制的に上を向かされた視界へ、天井のレールが映る。

 円形だった。

 部屋全体を巡るように、鎖の軌道が続いている。

 

「これで疲れても、途中で寝るなんてできないだろう──」

 

 アルジェが嗤った。

 

「しかも、鎖へ強い力が加わったら、電撃も流れるようにしてやってる。鼻と股ぐらへ電撃を受けたくなければ、遅れないように頑張りな──」

 

 女兵たちが笑う。

 そして──。

 驚いたことに、全員が部屋から出ていった。

 

「……っ」

 

 セリアの呼吸が止まる。

 重い金属音とともに扉が閉じた。外から鍵が閉まる音がした。

 その直後、部屋は完全な闇へ沈んだ。

 

「ぉ……ぉぉ……っ」

 

 暗い──。

 なにも見えない──。

 聞こえるのは、自分の荒い呼吸と、鎖の音──お尻で揺れる小旗の音だけだ。

 

 じゃら、じゃり──。

 セリアは前屈みのまま、脚を開かされ、ただ前へ進み続ける。

 

 終わらない。

 まだ終わっていない。

 

 絶望とともに──。

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