サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
031 特別矯正の朝【第8日】
「レイシア、出てきな」
鋭い声に、レイシアははっと目を開いた。
部屋の天窓から差し込む朝の光が、檻の中まで届いていた。鉄格子の影が床に幾筋も伸び、まるで自分を縛る縄のように見える。
サロンへ連行されて四日目の朝だった。
レイシアは冷えた石床の上で身を起こした。
身につけているものは、なにもない。
もっとも、逃げ出せる状況ではなかった。檻の中では手足を拘束されていないが、それは必要がないからだ。大型獣用の頑丈な鉄格子に囲まれたこの檻から、自力で脱出できる見込みなどなかった。
なによりも、首の後ろに埋め込まれている魔核がレイシアから抵抗の力を奪っている。昨日になって、常時筋力を奪うのではなく、レイシアがサロンの掟に逆らおうとしたり、逃亡の意思を抱いたりしたとき、その思考に連動して身体が動かなくなるように調整をされていた。
身をもってそれを味わわされているレイシアは、さすがに、もはや抵抗の方法がないことを自覚せざるを得なかった。
レイシアは膝を抱えるように座り直すとともに、乳房を両手で抱えるようにして、鉄格子の向こうへ視線を向ける。
「……?」
眉がわずかに寄る。
そこに立っていたのは、五、六人の女兵たちだった。
いつもなら、この時間にはヴェルデン本人が現れる。このサロンでは、レイシアは特別囚という扱いであり、専属の矯正係が決まっているのだ。
ヴェルデンは、レイシアの専属となる。
だから、このヴェルデンの私室に、レイシアの監禁場所である大型の獣用の檻が設置されているのだが、今朝については、部屋の中を見回しても、その姿は見当たらない。
ヴェルデンのいない状況で目を覚ますのも、女兵たちだけと向き合うのも、考えてみれば初日以来となる。
「起きたかい、騎士さん」
女兵のひとりが鍵束を鳴らした。
嘲るような笑みだった。
「ヴェルデンはどうした?」
レイシアは相手を睨む。
「今日から数日は、ヴェルデン様に代わって、あたしたちが担当だ。特別矯正が入る。お館様のご命令でね」
女兵のひとりが肩を竦める。
すると別の女兵が前へ出て、檻の鍵を解除した。
部屋の中で金属音が響く。
「厳しく行くからね。覚悟しときな、騎士さん」
女たちが笑う。
レイシアは奥歯を噛み締めた。
「なにを始めるのか知らないけど、どうせ、ろくなでもないことなのは、確かなんだろうね」
レイシアは腰を浮かして、開いた檻の扉から這い進んでいく。
「一人前の接待婦になるためさ。さあ、さっさと立って、両手を後ろに回しな」
檻から出たレイシアに女たちが声を掛けるとともに、縄を持った背中に回った。
片手で胸を、片手で股間を押さえながら、レイシアは立つ。
その両手首を両側に立った女兵たちがそれぞれに掴んだ。
「なにすんだよ──。あっ、くっ……」
逆らおうとすることが無駄だとわかっていても、拘束されるとなれば、どうしても反射的に抵抗しそうになる。すると、瞬時に魔核が反応して、レイシアの腕が弛緩されてしまうのだ。
いや、弛緩というよりは、レイシアの意思とは無関係に、脳が勝手に手脚を動かすのをやめるというのが正しいかもしれない。結果的に簡単に、レイシアの両手は背中に回され、手首に縄を巻きつけられていく。
「一応は足首も縄で結んでおこうか。魔核がある限り、蹴ることも逃げることもできないけどね」
腕を縛った縄がさらに、乳房の上下を二巻き三巻きと厳しく締められるあいだに、足首にも拳二個ほどの間隔を残して縄が巻かれる。
「よし、終わったよ。じゃあ、まずは、なにからいこうか?」
最後に腕を巻いた縄を背中側で縄留めをしたところで、縄で括り出されている乳房をつんと、指で突かれた。
「くっ──、さ、触るんじゃないよ──」
思わず怒鳴る。
「おやおや、三日も経っているのに、まだまだこんな感じなのかよ。ヴェルデン様の矯正も甘いというしかないねえ」
ひとりが呆れたように言う。
「まあ、男の場合はどうせ、犯して終わりが多いからね。でも、女はそうはいかない。覚悟しときな。徹底的に身体を作り変えてやるからね」
すると、目の前に銀色の小さな金属環が細い堅糸で繋がったものを翳された。
得体の知れない道具に、反射的に眉をひそめる。
「なんだい、それは?」
「あらあら、これも未経験かよ。ヴェルデン様はなにやってたのさ」
すると、小さな金属環を手にしていた女兵が呆れたように声をあげた。
「まあいいや。とりあえず、大人しくしてな」
女兵がレイシアの前に屈み、まずは指一本の太さもない細引きを腰の括れに巻きつけ始める。そして、がっちりと細引きを腰に縛ると、さっきの堅糸付きの環を受け取って、その銀色の環をレイシアの陰核に潜らせようとしてきたのだ。
「ひあっ、な、なにするのさ──」
よく見れば、銀の環には堅糸が上下についている。女兵はその環を女のもっとも敏感な場所に嵌めようとしていることにやっと気がついた。
すっかりと諦めて、大人しく淫らな仕打ちを受け入れるつもりになっていたレイシアだったが、さすがにかっと血が昇って、腰を左右に振ってそれを逃れようともがく。
「あっ、こら、じたばたするんじゃないよ──」
「大人しくしろって言っただろう──」
ほかの女たちもレイシアの肩や背中、縄尻を引っ張って、強引に姿勢を真っ直ぐにさせる。
さらに、魔核がそのレイシアの抵抗心を感知して、身体を弛緩させてしまった。
「お前みたいなじゃじゃ馬を調教するための道具だよ。ちょっとばかり仕掛けのあるただの糸と環だ。いいから、受け入れるんだよ」
「そ、そんなことしなくても、もうたてつかない──。だから、そんなことは許しておくれったら──」
「ははは、そんなに嫌なら、これから毎朝の日課にしてやるよ」
女たちは耳を貸さず、強引に金属環をレイシアの陰核の根元に嵌めてしまう。
嵌まった途端に、局部がぎゅっと絞られる。
「ああっ」
レイシアは込みあがった衝撃に耐えられず、思わず「いやっ、これは嫌──」と叫びながら腰を砕かせた。
「あんっ」
しかし、その動きで股間に切なさを伴った強い疼きが発生する。
レイシアは、びくりと身体を強張らせた。
「男勝りの女騎士さんが、たったこれだけで、随分と女らしくなったじゃないかい」
環を装着した女がまずは前側で細引きに糸を結ぶと、今度は股を通して、反対側に糸を後ろの女兵に手渡す。ぐいと引っ張られて、双臀のあいだに糸が喰い込み、今度は後ろ側の細引きにしっかりと結ばれた。
ぎゅっと官能の疼きが沸き起こる。
「ほら、できあがりだ。どうだい。もう身体が熱くなってきただろう? 今日は朝に装着したけど、これからは寝るときには、ずっとこれだ」
「こんなものをひと晩中装着されれば、朝になっての色責めが待ち遠しくなるのは請け合いだ」
「これも、立派な接待婦になるための訓練さ」
レイシアを囲む女たちが交互に揶揄をする。
だが、もうレイシアはどうしていいかわからなかった。女たちの言う通りに、環が喰い込んでいる場所から、熱くて切ない痺れがむずむずと込みあがってくる。
それを感じて、思わずぶるっと震えたが、その動きだけでも、意地悪い環は妖しい痺れをレイシアに込みあがらせる。
「ああっ、これ──これは外して──。お願いだ──」
レイシアは必死に哀願した。
しかし、女兵たちはそれを無視して、今度は天井から垂らした一本の太い縄をレイシアの両腕を緊縛した縄に繋いでしまう。
さらに、レイシアの正面の床に、新たに取り出した砂時計を置く。
「じゃあ、朝の訓練だ。起き抜けの運動代わりに、腰を揺さぶって、砂が落ち切る前にせんずりをして気をするんだ。遅れれば、強力な電撃が流れる仕掛けになってるからね。じゃあ、一回目だ──」
女兵が笑いながら、砂時計をひっくり返した。
「ひいっ」
すると、ぴりりと弱い電撃が股間に襲いかかる。
「砂時計と環は連動しているからね。間に合わなかったときの懲罰電撃は、その百倍は強いよ。速く始めた方がいいんじゃないかい?」
取り囲んでいる女兵たちが一斉に嘲笑する。
「ああ……」
びりびりと弱く流れる電撃──。
これが百倍となれば、どんなに凄まじい激痛となるか──。
レイシアは、その恐怖に、歯を喰いしばって左右に腰を動かし始めた。