サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
レイシアは後ろ手に拘束されたまま、石造りの廊下を歩かされていた。
身につけているものはなにもない。裸のまま連れ出されている。
両手首は背中で固く縄で縛られており、剥き出しの乳房も濡れている陰毛も隠す手段はない。
足首にも縄が巻かれ、その間隔は肩幅よりも狭い。
裸足の足裏が冷たい石床に触れる。
大股で歩くことはできず、周りの五、六人の女兵たちと同じ速さで進むには、小刻みに足を運ぶしかなかった。
「ほらほら、遅れてるよ」
「女騎士様ともあろうものが、まともに歩くこともできないのかい」
左右から飛んでくる揶揄に、レイシアは歯を食いしばる。
厄介なのは、今朝の矯正で取り付けられた股間の淫具だった。
腰に巻かれた細縄から伸びる堅糸が、陰核の根元に嵌められた金属環と繋がり、股間から双臀のあいだへ深く喰い込んでいるのだ。
足を一歩前へ出すたび、その存在が否応なく意識させられた。
わずかな動きだけでも身体の奥へ甘い痺れが走るのに、小刻みに歩かされるものだから、官能の疼きは絶え間なくレイシアを苛む。
立ち止まっても消えない。姿勢を変えても逃れられない。
歩けば歩くほど、その感覚はしつこく身体にまとわりついた。
「まったく、だらしないくらいに濡らしてしまって」
「それだけ愉しんだということだろう。よかったじゃないか」
誰ひとりとして口を閉ざしてはいない。レイシアを侮辱するように揶揄い続ける。
レイシアは俯いたまま、なにも答えなかった。
「だけど、女騎士さんともあろうものが、少しだらしないんじゃないのかい。姿勢くらい真っ直ぐにしなよ」
「う、うるさいよ……。これでも必死に歩いてんだよ……」
我慢できなくなり、つい掠れた声が漏れる。
上体は前へ傾き、腰は後ろへ引け、足元も覚束ない。
転ばないように歩くだけで精一杯だ。
全身から流れ落ちる汗が石床へ落ちていく。
ぽたり、ぽたりと……。
だが、床を濡らしているのは汗だけではなかった。股間から大量に滴る愛液が堅糸に当たって床に落ちていっている。
その事実を意識するたびに、レイシアは唇を噛み締めるしかなかった。
「……おっ、口答えかい?」
「お、お前ら、常識ってものがないのかよ」
すると周囲から笑い声があがった。
「常識だってさ」
「ここへ来て四日目で、まだそんなことを言うのかい」
女兵たちは面白そうに笑う。
レイシアは顔をしかめた。
身体の奥には鈍い疲労が溜まっていた。
それも当然だ。
今朝の起き抜けの訓練は異常だった。
女兵たちが準備したのは、陰核に喰い込まされた金属環と連動する砂時計の魔道具だった。
レイシアは最初、その意味を理解していなかった。
だが、すぐに後悔することになる。
砂時計は、自ら腰を振って金属環の刺激による絶頂を強要する矯正具であり、小さな電撃が走るだけでなく、砂が落ちきるまでにレイシアが達することができないと、金属環がそれを感知して、凄まじい電撃を股間に流す仕掛けになっていた。
連日のこのサロンの肉体矯正により、かなり性感が敏感になっているレイシアにとって、必死になればそれは難しいことではなかったが、さすがに自尊心と反発心が邪魔をする。
ただ、その矜恃も最初の失敗で股間に電撃を流されるまでだった。
砂時計の砂が落ち切るまでに絶頂することができなかったレイシアに、金属環が股間に電撃を迸らせだした。レイシアは悲鳴をあげてのたうち回った。
しかも、電撃は終わらない。
失敗した場合は、電撃は止まらず、開放されるためには、電撃を流されながら腰を振って達するしかないのだ。さすがにその状態では簡単に達することなどできず、かなりの時間レイシアは暴れ続けた。
泣き叫んだ。
女兵たちに哀願もした。
失禁もした。
だが、女兵たちは嘲笑うばかりだ。
強い電撃を流されながら腰を振り、やっと昇天することができたときには、それだけで疲労困憊になってしまった。
女兵たちは、「本当にあの電撃を股間に流されながら達することができるとは思わなかった。さすがは女騎士だ」と大喜びだった。
あまりもの口惜しさに腹が煮えかえった。
しかし、抵抗をする心だけは、完全に削ぎ落とされた。
だが、いまも周りにいるこいつらは、それだけでレイシアを開放しなかった。
股間に電撃を浴びながら、腰を振って自慰をして達するという苛酷なことをやっとのことやり遂げたレイシアの足元で、すぐに砂時計をひっくり返したのだ。
唖然とした。
しかし、躊躇することはできない。
レイシアはすぐに腰を振った。それこそ必死にだ。
女兵たちは、少しは素直になったと周りで大喜びだった。
気がつけば、どれほど時間が経ったのかわからなかった。
女兵たちは何度も砂時計をひっくり返した。
終わったと思えば次──。
さらに次──。
それが延々と続いた。
ようやく解放された頃には、全身から力が抜けていた。
膝は震え、呼吸も乱れている。
立ち上がるだけでも苦労する有様だった。
それなのに休む時間は与えられない。
少しでも休みたければ、砂が落ち切る前に終わらせるしかなかった。女兵たちが砂時計を返すのは、砂が落ち切ってからなのだ。
そして、十回──。
回数などレイシアにはわからないが、女兵たちがそう言っていたので、その回数なのだろう。
女兵たちは砂時計をひっくり返し続けた。
飽きたのか、やっと女兵たちが砂時計を返すのをやめた。
でも、休む時間は与えられない。こうして館の中を引き回されている。
「どこに……連れて行くんだよ……」
レイシアは肩で息をしながら声をかける。
連続絶頂の疲労と、金属環が苛む疼きに耐えられず、一歩踏み出すごとに、声が漏れそうになり、口惜しくも愛液があふれ出て床に落ちていく。
それが堪らないくらいに恥ずかしく、また口惜しかった。
「おや」
だが、廊下を曲がったところで、レイシアの首環を紐で引っ張っている先頭の女兵が足を止めた。
その声にレイシアも顔を上げる。
前方に広い部屋が見えた。
館の兵士や職員たちが利用する食堂らしい。
扉は開け放たれている。
中にいた何人かが、こちらへ視線を向けていた。
このサロンには、レイシアの専属矯正担当官のヴァルデンや、周りの女兵たちのほかにも、大勢の共和国の男兵がいることは知っている。
しかし、レイシアはほとんど彼らに会うことはなかった。
さすがに、この格好を男に見られているとわかり、レイシアの顔は強張った。
女兵たちはその反応を見逃さなかった。
「そう言えば、今日の矯正部屋は向こうを抜けるのが近道だったね」
「どうやら男連中がいるじゃないか。なんか、暇そうにしてるじゃないか」
「せっかくだし挨拶していくかい?」
周囲から笑いが起きる。
レイシアの胸に怒りが込み上げた。
「な、なにが近道だよ──まだわたしを辱めるつもりかい」
思わず声が荒くなる。
すると、女兵たちは顔を見合わせた。
そして吹き出した。
「ははは。こんなものは辱めには入らないよ」
「そうそう」
ひとりが肩を竦める。
「あんたの女主人なんて、もっと酷い目に遭っているよ」
レイシアの目が見開かれた。
「……セリア様のことか?」
思わず、訊ねる。
セリアがこのサロンに監禁されていることは知っている。そもそも、そのセリアを救出しようとして、レイシアは捕らわれてしまったのだ。
だが、元王太子妃でもあるセリアが、レイシアと同じように扱われている可能性は考えてなかった。
「他に誰がいるんだい」
女兵は楽しそうに笑う。
「セリア様になにをしたんだ──?」
自分でも驚くほどに冷たい声が迸った。
その反応を待っていたかのように、女兵たちはさらに口を開く。
「館じゃ有名な話さ。鼻輪を付けられて、この連中の前を歩かされたらしいよ」
「媚薬を塗られて、羽根でくすぐられながら、大広間を何周もしたってさ」
「いい見世物だったって噂だよ」
笑い声が続く。
レイシアは唇を震わせた。
「セ、セリア様を──? お前たち、あのお方をそんな風に扱っているのか──」
レイシアは憤怒のあまり、大声をあげてしまった。
「王太子妃のことはいいだろう。いまは、自分のことを気にしな──。ほら、行くよ」
首環を引っ張られる。
レイシアは、再び肉芯を疼かせながら、歩みを再開する。
じんと背骨まで貫くような甘い疼きがたちまちに襲いかかってきた。しかし、その疼きよりも、レイシアの胸を締め付けていたのは、セリアのことだった。
「ほら、止まるんじゃないよ」
女兵が首環の紐を引いて、強引に共和国の男兵の集まっている食堂の中に連れて行く。
レイシアはよろめきながら前へ進むしかなかった。
食堂の入口を越えた瞬間だった。
ざわり、と気配が揺れたのがわかった。
レイシアたちが近づくのを気がついていた男たちばかりでなく、ほかの食事をしていた男兵たちも次々と顔を上げる。
その視線が一斉にレイシアへ集まった。
「つっ」
さすがに、思わず足が止まりそうになる。
「前だよ」
だが、首環の紐が引かれた。
レイシアは、身体がつんのめり、思わず甘い声が漏れそうになる。必死に唇を噛み締めながら歩く。
長机が並ぶ食堂の中央を進まされる。
左右から向けられる視線が痛かった。
「おい──。本当にレイシアか?」
ひとりの男兵が立ち上がった。
その言葉に周囲がざわめく。
「あの王国の女騎士だ」
「あの城壁戦のか?」
「噂は本当だったんだな」
次々に声が上がった。
レイシアは顔を伏せる。
だが、それで視線が消えるわけではない。
むしろ視線はさらに増えた。
前を進む女兵も足をとめる。
食事の手を止めた男兵たちが椅子を鳴らしながら立ち上がって集まりだす。
いつの間にか通路の左右に人垣ができていた。
まるで見世物だった。
戦場では幾度となく敵兵の前に立った自分が。首環と縄だけを身につけた素っ裸で晒されているのだ。
「ほら、見ろよ。王国の英雄様だ」
「随分と大人しくなったもんだな」
「なんか、面白そうなものを股に挟んでねえか?」
笑い声が広がる。
レイシアは奥歯を噛み締めた。
「こいつが、あの城壁戦の女騎士か」
「俺の隊の連中も何人かやられたぞ」
「俺の隊長もだ──」
男たちの視線が一斉に集まり続ける。
レイシアは思わず身を固くした。
王都陥落前の攻防戦──。
王太子妃セリア付きの護衛隊長のレイシアだったが、あのときは、ほかの近衛隊の将兵と一緒に王都防衛戦に繰り出されて城壁で戦った。
迫り来る共和国軍を押し返すため、何度も城壁の上を駆け回った。
そのたびに剣を振るい、多くの敵兵を討ち取った。
目の前にいる男たちの中にも、その戦いで仲間を失った者がいるのだろう。
「なあ、こいつに、あのときの借りを返させてくれよ」
男兵のひとりが前へ出る。
「ああ、そうだな。このサロン詰めの中にも、こいつに恨みがある奴は大勢いるんだ。一日でいいから、こっちにも回せよ」
「そうだぜ。一般囚と一緒に、俺たちで矯正してやるからよお」
周囲から同意の声があがった。
だが、女兵がその前に立つ。
「馬鹿言うんじゃないよ──。今日はお館様の直接命令で特別矯正へ向かう途中なんだ」
手で追い払うような仕草をした。
「だがなあ……」
「駄目なものは駄目だ。勝手に手を出してみな。お館様が黙っちゃいないよ──」
女兵はぴしゃりと言い切る。
男たちは不満そうな顔をしたが、それ以上は踏み込んでこなかった。
レイシアは小さく息を吐く。
「……だけど、それじゃあ、お前らも不満だよな……。なら、いまから、こいつにせんずり芸をさせろよ。それで溜飲を収めておくれ」
すると、レイシアの首環の紐を握っている女兵が、とんでもないことを言い始めた。
レイシアは耳を疑った。
「なんだ、そのせんずり芸というのは?」
男兵のひとりがきょとんとなる。
「まあ見てな。女騎士様がさっき覚えた芸だよ」
その女兵がほかの女兵に手を伸ばす。
渡されたのは、あの砂時計だ。
「あっ」
レイシアは仰天して声をあげた。
「ほら、始めな。お前のお得意のせんずり芸だ」
レイシアの正面にあるテーブルに砂時計が置かれる。
砂が下に落ち始める。
びりりと股間に小さな電流が走る。恐怖の合図だ──。
「あうっ──。ああ、なんてことを──」
レイシアは抗議の声をあげるが、もう始まってしまった。
あの砂時計が落ちきる前に自慰で達しないと、あの電撃が股間を襲う──。しかも、その電撃を帯びながら、なんとか達しないと、電撃はいつまでも続くのである。
あの恐怖は、もう心に刻まれている。
「始めなくていいのかい、レイシア?」
女兵が笑う。
「うう、くそうっ」
レイシアは悪態を突くと、慌てて腰を動かす。前後左右に懸命に──。
「なんだ? こいつ、突然に腰を振り出したぜ」
「なにを始めたんだ」
男兵たちが一斉にざわつく。
「お前らへのお詫び代わりに、どうしても見てほしいそうだ。それで溜飲を下げてくれよ」
前の女兵がげらげらと笑う。
レイシアは、その揶揄の言葉を浴びながら、自棄になったように緊縛されている裸身を懸命に揺さぶった。
惨めだった。
敵兵たちの笑い声が胸に突き刺さる。
だが、その屈辱に押し潰されるたび、胸の奥に奇妙な熱が広がっていく気がして、レイシアは腰を振り続けながら、必死に首を振った