サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「あっ……くっ……」
レイシアは歯を喰いしばって、こぼれる声を必死に噛み殺す。そして、腰を振り、陰核を懸命に刺激して快感を溜め込んでいく。
周囲の笑い声など聞きたくなかった。
敵兵たちの視線も、侮辱も、いまはどうでもいい。
頭の中を支配しているのは、ただひとつだった。
砂時計──。
机の上で容赦なく落ち続ける砂。
その先に待っているものを、レイシアは知っている。
あの恐ろしい電撃──。
股間を焼き裂くような激痛──身体を痙攣させ、床を転げ回らせる悪夢。それでも達しないと止まってくれない電撃の恐怖──。
一度味わっただけで十分だった。
二度と受けたくない。
絶対にだ──。
レイシアは必死だった。
惨めさも誇りもかなぐり捨てて、男兵の嘲笑と揶揄を嵐のように浴びながら、懸命に腰を動かし続ける。
だが、その必死さこそが、周囲の笑いを誘っていることも理解していた。
それが堪らなく悔しかった。
「そろそろ、達するよ。十回以上させたからわかるんだ」
周りの女兵のひとりが上下の縄で抉り出されているレイシアの乳房に手を掛けて笑う。
「そうだ──。こいつも、いずれはサロンの接待婦になるんだから、そんな愛想のない顔で黙って尻を振るだけじゃしょうがない。ちょっと趣向をさせようや」
「どうすんだい?」
「色っぽく、いくわ、とか、気持ちいい、とか言いながら極めさせるのさ」
「はは、そりゃいいね。じゃあ、そういうことだ、レイシア──。できなければ、また砂時計をひっくり返すよ。合格するまでね」
「さっそく始めてもらおうか。喘ぐんだ──甘い声でね──」
横の女兵が平手でぴしゃりとレイシアの生尻を叩く。
「くっ──い、いいわ──」
レイシアは女たちの執拗ないたぶりに抗しうる余裕はなかった。従わなければ、女たちは容赦なく、終わってもまた砂時計を返すに違いない。
それだけは避けたい。
ただ、恐怖に負けて女兵たちに応じたことで、かっと下腹部がさらに燃えあがってきた。
誘発されるように全身に熱い疼きと燃えあがる甘美感が走り、レイシアはついに快楽の頂天に導かれそうになる。
一度は戦い、剣をかわし合った男たちの眼前で、惨めな姿を晒さなければならない口惜しさと情けなさ──。
しかし、もう歯止めは効かない。
金属環が喰い込む陰核が前後の糸で引っ張られては戻り、戻っては引かれて、刺激をどんどんと拡大する。
襲うかもしれない電撃の恐怖を思い出させる微少の電流の痛みでさえ快感だ──。
大きなものが込み上がる。
眼がくらみ、背に冷たい汗が大量に走りだす。
「い、いくよお──ああ、気持ちいい──あああっ、く、口惜しい──」
レイシアはついに喜悦の頂天に到達した。
なにを喋ったかなど意識もしてなかった。
緊縛された裸身を反らせ、がくがくと身体を震わせる。
気がつくと太腿を閉じ合わせて、膝を曲げるように腰を落としていた。内腿に股間から吐き出された蜜がべっとりと大量に流れている。
「ははは、やっちまいやがったか、ざまあみろ──」
「城壁の戦いで、俺たち相手に剣で大立ち回りをしたこいつだけど、やっぱり女なんだとわかり安心したぜ」
「そんなに情けねえ顔をすんじゃねえよ。恥ずかしい顔で俺たちに媚びのひとつでも見せやがれ」
男兵たちは大喜びだ。
すると、後ろから女兵に髪の毛を掴まれて強引に顔をあげさせられた。
「あんっ」
思わず声が出る。
だが、自分でも驚くような、女っぽい悲鳴だった。
また、しゃがみたくなるような疼きはまだ続いていた。レイシアは懸命に足と腰に力を込めた。
「しっかりしな、レイシア、声はいまいちだったけど、後の予定があるから、せんずり踊りは終わらせてやるよ」
「でも、確かに気をやれとは言ったけど、ここまで愛汁を垂らせとまでは言わなかったよ。王国の女騎士には恥もないのかい。よくも、これだけの男兵たちの前で、恥を晒せたものだよ」
周りの女兵たちがわざとらしく毒づく。
火照りきっていた身体が、屈辱ですっと冷えていく気がした。
「まあいい。ほら、行くよ」
ようやく女兵たちが足を動かした。
首環の紐が引かれる。
レイシアは重い足を前へ運んだ。
背後では、まだ男兵たちの笑い声が続いている。
「また来いよ、女騎士様」
「次はもっと愛想よくしろ」
「尻踊りも稽古しとけよ──」
嘲笑が追いかけてくる。
もはや、レイシアには反応する気力は残っていなかった。
食堂を抜け、石造りの廊下へ出る。
先ほどまでの喧騒が嘘のように遠ざかっていった。
やがて女兵たちが廊下の奥で足を止める。目の前には重厚な木扉があり、横に真鍮の札が掛けられていた。
“第一反省室”──。
先頭の女兵が扉を二度叩く。
「レイシアを連れてきました」
室内へ向けて大きな声が響く。
少し間を置いて、「入れ」という低い男の声が返ってきた。
女兵に首環の紐を引かれ、レイシアは部屋の中へ足を踏み入れる。
石造りの広い部屋だった。
壁際には棚や机が並び、中央には大きな机と椅子が置かれている。鉄格子の嵌まっている窓から差し込む朝の光が室内を照らしていた。
その中央にいる男の姿を見た瞬間、レイシアは表情を強張らせた。
将軍カイネウス──。
王都陥落の日、城門前で垣間見た共和国軍の将であり、この男の率いる侵略軍により王国は各地で大敗をして、ついに領土と王都を失い、王国は滅んだのだ。
レイシアも、彼を遠目に姿を見たことがある。だが、会話ができるほどに近づくのは、いまが初めてだ。
カイネウスは、白いシャツに黒いズボンという簡素な服装のまま、卓上の朝食を静かに口へ運んでいる。
彼の目の前には、ひとり用の小さなテーブルがあり、水の入ったグラスとともに、湯気の立つスープ。黒パン。燻製肉。そして、果物が載っていた。
「レイシアです」
先頭の女兵が声を張る。
「もう少しで食べ終わる。それまでぶら下げておけ」
カイネウスは、食事の手を休めることなく、短く答えただけだった。
「はい」
女兵たちが動く。
そのうちのひとりが天井を見上げた。
レイシアもつられて視線を上げる。
天井には何本もの鎖と滑車が取り付けられていた。
女兵がそのひとつを操作すると、がらがらと音を立てて鎖が降りてくる。
「なにをするつもりだよ……」
レイシアは思わず言う。
しかし、返事はない。
降ろされた鎖の先端が、後ろ手に縛られている縄へ繋がれた。
すぐに鎖が引き上げられる。
「くっ」
両肩と腕に痛みが走った。
後ろ手の縄ごと身体が持ち上げられて、つま先が床から離れたのだ。
さらに鎖が引きあがり、完全に宙へ浮かされる。
「ちっ」
レイシアは舌打ちとともに、思わず身体をよじった。
しかし逃れられない。
全体重が縛られた腕と肩へ掛かっていた。
女兵たちは慣れた様子で鎖を固定する。
レイシアは宙吊りのまま荒い息を吐いた。
「……さて、やっと待ち人が来たぞ。君の休憩も終わりだ」
そのときだった。
カイネウスが卓上に置かれていた紋様入りの四角い板へ指を触れた。
がしゃん──。
部屋の奥から金属音が響く。
レイシアは反射的に顔を向けた。
カイネウスの背後の、ちょうどいままで死角になっていた場所だ。
そこにも天井から鎖が垂れ下がっていた。
その先に、人影があったのだ。
ひとりの女だった。
その女は窮屈そうな姿勢のまま、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。
最初は誰なのかわからなかった。
顔がよく見えない──。顔が上を向いているし、口枷が嵌まっているようであり、顔も歪んでいる。
姿勢もおかしい──。極端な前屈の格好に見える。
髪も乱れている──。ただ、その金色の髪だけは妙に見覚えがある気がした。
女はゆっくりと部屋を回るように近付いてくる。
よく見ると、女が繋げられている鎖が天井の滑車に繋がり、その滑車が天井に埋められているレールに嵌まっていて、滑車がレールに沿って回っているのだ。
女はその鎖に繋がれて、歩かされているようだ。
そして距離が縮まるにつれて、その姿が少しずつ見えてきた。
繋がっているのは、女の顔?
進むたびに身体が引っ張られ、苦しいのか幾度も泣くような呻き声を上げ続けている。
女がさらに近づく。
一歩──。また一歩……。
そこでようやくレイシアは顔がわかった。
全身が凍り付く。
「……ああ、セリア様──」
掠れた声が漏れる。
信じられない──。
ずっと護衛として傍らに立っていた主君だった。
見間違えるはずがない。
「ああ──お願いだ。そんな惨いことはやめてくれ──」
今度は絶叫だった。
救いに来たはずだった。
守ると誓ったはずだった。
それなのに、自分はこうして宙吊りにされ、その惨状を見ていることしかできない──。
セリアはただの拘束ではなかった。
レイシアと同じように縄によって背中で両腕を後手縛りに緊縛されている。
だが、異様だったのはそこではなかった。
女の顔を引いている鎖──。
最初は額の辺りに繋がっているのかと思った。
違う──。
鼻だった。
鼻輪──。
セリアの鼻に嵌められた金属の輪に鎖が繋がっていた。
鎖が前へ進むたびに張り詰め、セリアの身体を強引に引いている。
あのセリアの美しい顔に鼻輪がある──。そこに天井から伸びる鎖が繋がっていて、それに引かれるたびにセリアが泣き叫んでいるのである。
しかも、口には穴の空いた丸い口枷が嵌められていて、セリアの顔は涙と汗、鼻輪の嵌まった鼻から垂れ流れている鼻水、そして、口枷の穴から零れ出ている大量の涎により凄まじいことになっていた。
レイシアでさえ、すぐにセリアだと認識できなかったくらいだ。
それだけでなく、セリアを前屈の体勢を強要している仕掛けがわかって、レイシアはさらに戦慄した。
鼻輪には天井からだけでなく、身体の方向にも細い鎖が繋がっており、それが股間に伸びている。多分。レイシアと同じように陰核になにかの仕掛けがあり、そこと繋がっている気がする。
だから、セリアは身体を伸ばすこともできず、歩き進むたびに、ぼろぼろと泣きながら口枷の下から獣のような声をあげている。
あまりにも残酷な主君の姿に、レイシアは言葉を失った。
「セリア様──」
部屋を前屈のまま鼻輪で引っ張られて歩かされているセリアがゆっくりと、レイシアの足元に近づいてくる。
汗みどろの顔には苦悶と憔悴が浮かんでおり、足取りは重くいまにも膝をつきそうだった。
それでも、あれでは立ち止まることは許されない。
身体が揺れるたびに鎖が鳴り、その音だけが静かな矯正室に響いていた。
「ああ、セリア様……」
レイシアは呆然と呟いた。
かつて王宮で誰よりも気高く振る舞っていた王太子妃のセリアだ──。
どんな苦境でも背筋を伸ばし、人々の前では決して弱音を見せなかった女性──。
だが、目の前の姿はあまりにも痛々しかった。
「お願いだ……。もうやめてくれっ──。わたしが──わたしが代わりに苦悶を受けるから──」
レイシアは思わず声を張り上げた。
しかし、カイネウスは返事をしない。ただ淡々と食事を続けるだけだ。
「その方は王太子妃だぞ──」
また叫ぶ。
返事はない。
そのあいだも、セリアはただ苦しげに息を繰り返しながら前へ進んでいく。レイシアを認めたのか、どうかすらわからない。そのまま鎖に引かれるまま離れていく。
「聞いているのか──おいっ──」
レイシアは、またもやカイネウスへ向かって叫ぶ。
カイネウスの答えはない。
セリアは部屋を無意味に歩かせられる。
レイシアは叫ぶが無視される。
それだけが繰り返される。
離れていったセリアがまた部屋を回ってきて、再びレイシアの足元を通り過ぎ、また離れていく。
そして、しばらくするとまたやって来る。
周るたびに、セリアの足取りは重くなり、呼吸も荒くなっていく。それでも鎖は止まらず、セリアを再びレイシアの前へ連れてくる。
やがて、やっとカイネウスの前の食べ物が載っていたトレイが空になった。今度は静かにグラスで水を飲み始めた。
「やめろと言っているんだ──」
レイシアの怒声が部屋に響く。
カイネウスは、顔色ひとつ変えない。
まるで風の音でも聞いているような無関心さだった。
レイシアは歯を食いしばった。
怒りなのか。
悔しさなのか。
あるいは、自分が何もできない無力感なのか。
胸の中で様々な感情が渦を巻く。
だが、そのどれよりも強かったのは、目の前の主君を救えないことへの苦しみだった。
やがて、カイネウスは静かにグラスを机へ置いた。
かすかな音だけが部屋に響く。
女兵が二人、すぐに近寄り、空になった食器を片付け始めた。
カイネウスはそこで初めて顔を上げた。
その視線がレイシアへ向く。
「さて、レイシア」
淡々とした声だった。
「なんだ?」
「今度、このサロンに客人が来る」
「だからどうした?」
レイシアは宙吊りのまま睨み返した。
「余興を用意する」
カイネウスは続ける。
「余興?」
「その余興に、君とセリアを使う」
「はあ? ふざけるな──」
思わず声が荒くなった。
だが、カイネウスは意に介す気配もない。
「今日から準備を始めるぞ」
そう言うと、机上の操作盤に手を触れた。
金属音が響き、セリアの鼻輪を引っ張りながら部屋を巡っていた鎖の動きが止まった。
セリアもその場で足を止める。
前屈みの姿勢のまま、肩で荒く息をしていた。
そこで初めてレイシアは床を見た。
部屋を巡る軌道の上には大量の水が落ちている。
汗なのか。
愛液なのか。
ほかのものなのか……。
とにかく、どれほど長く歩かされていたのかが、それで想像できた。
胸の奥が熱くなる。
「ふざけるな、カイネウス──。すぐにセリア様を解放しろ──」
レイシアは怒鳴った。
部屋がぴりりと張り詰めたのがわかった。
女兵のひとりが一歩前へ出る。
「お館様、少し黙らせましょう──」
怒気を含んだ声だった。
「目に余ります」
「あたしたちに、改めてこのレイシアの矯正をご命じください──」
別の女兵たちも言う。
だが、カイネウスは小さく首を横に振った。
「必要ない」
短く答える。
それだけで女兵たちは口を閉ざした。
レイシアは歯を食いしばった。
「聞いているのか、カイネウス──」
もう一度喚く。
しかし、カイネウスは表情すら変えない。
「聞いている。だから、君に選ばせる」
カイネウスが応じた。
「選ばせる?」
レイシアは眉をひそめる。
「君が従わないなら、セリアは苦しむ。君が従うなら、苦しみは軽くなる」
カイネウスは静かに言った。
「なにを──」
言葉が止まる。
カイネウスは表情を変えなかった。
「セリアは、一昨日の夜からほとんど休ませていない」
その言葉にレイシアの顔色が変わった。
「なんだと?」
「食事はまったくさせてない。水は飲ませているが死なない程度に最小限だ。ひたすら、鼻輪に鎖を繋げて歩かせていた。そして、君が来るのを待っていた」
レイシアは息を呑む。
視線の先でセリアが苦しそうに身体を支えていた。
疲労は明らかだった。
「セリア様……」
レイシアの声が震える。
だがカイネウスは淡々と続けた。
「君が拒み続ける限り、こいつの責めは終わらせない」
静かな声だった。
だからこそ重かった。
だが、いま一番苦しんでいるのは自分ではない。
目の前のセリアだった。
「レイシア、セリアを犯せ。終わればこいつを休ませてやる」
カイネウスが言った。
そして、女兵に合図をする。
「ふふ、これよ」
その女兵がいつの間にか手に持っていたものに、レイシアは鼻白んだ。
双頭のディルド──。女同士で愛し合うために作られた双方向で女が股間に挿入できるようになっている淫具だ。
いつの間にか、準備されていたのはそれだった。
「選べ。セリアを君が犯して楽にさせてやるか。あるいは、セリアをもっと苦しめるかだ」