サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「選べ。セリアを君が犯して楽にさせてやるか。あるいは、セリアをもっと苦しめるかだ」
カイネウスが静かに言う。
憤怒でレイシアは頭に血が昇るのを感じた。
「ふざけるな。わたしたちをなんだと思っているのだ──。主従の誓いを交わした主人を犯す畜生になれというのか」
後手縛りで宙吊りにされたまま、レイシアは怒鳴りあげた。
だが、その視線はカイネウスではなくセリアへ向いていた。
セリアの状態は明らかに異常だった。
一昨日から中腰のまま歩かされ続けているという脚は、立ち止まっているいまも小刻みに震えている。
肩は大きく上下し、荒い呼吸音が口枷の奥から漏れていた。
鼻輪を上から引かれ、さらにその鼻輪と陰核を繋げられて前屈の姿勢を強いられる苦痛がどれほどのものか、レイシアには想像もつかなかった。
セリアの頬は青白く、額から流れる汗は止まらない。
鼻輪の下から垂れ続けてる鼻水も、口枷の穴から化こぼれる涎も、苦悶で流す涙も凄まじい。
乱れた金髪が肌に張り付き、その姿からは王宮で見ていた頃の面影はほとんど失われていた。
セリアは、常に気高く、誇り高く人々の前に立っていた王太子妃だった。どんな苦境でも毅然としていたレイシアの自慢の主君だ。そのセリアが、いまはただじっとしているだけでも苦痛そうに息を荒げている。
家畜のように、鼻輪で無意味で残酷な歩行を強要されて……。
レイシアの胸が強く締め付けられる。
「畜生とは大袈裟じゃないの?」
女兵のひとりが鼻で笑う。
「そもそも、あんたらはサロンの奴婢よ。二級民にも劣る家畜と同じだのよ」
「女の身体を持っている奴隷同士さ。以前に主人と騎士だったからって、いまさらなんの意味もないね」
周囲の女兵たちも嘲笑する。
レイシアは激しく首を振った。
「とにかく、そんな真似ができるものか──。いっそ殺せ──。わたしは騎士だ。騎士らしく死なせてくれ」
叫ぶように言った。
カイネウスは小さく眉を動かしただけだった。
「死ねば楽になれると思っているのか?」
淡々とした声だった。
「なに?」
「随分と身勝手なものだな。王国の騎士道精神というものは」
そう言うと、傍らの女兵を呼び寄せて何事かを耳打ちする。
女兵はすぐに部屋を飛び出していった。
「君が死ねば、君は楽になる……。だが、残された者はどうなると思うんだい?」
静かな声が室内に響く。
レイシアは反射的にセリアへ目を向けた。
「……残された者?」
「そうだ」
そして、カイネウスは机上の操作盤に手を伸ばした。
金属音が鳴る。
「んぐううっ──」
セリアの呻き声が部屋に轟いた。
「ああ、セリア様──」
レイシアは声をあげる。
わずかではあるが、天井から繋げられている鼻輪がさらに鎖で引き上がったのだ。
しかし、その鼻輪は、短い鎖で陰核にも繋がっている仕掛けだ。それで極端な前屈姿勢をセリアは強いられているのである。
当然に、鼻輪があがれば、強引に顔が引きあがり、さらに鼻輪に繋がっている陰核を引っ張ることになる。
セリアは激しく身体を震わせて、口枷の奥から苦悶の絶叫を迸らせた。
「んぐううっ、んがああっ」
ぼろぼろと涙を流し、セリアの顔は苦痛に歪んでいる。必死な爪先立ちで体勢を保とうとしているが、足元も不安定で、いまにも崩れ落ちそうだ。
その姿を見た瞬間、レイシアの背筋に冷たいものが走った。
「やめえくれ──。そんな──」
レイシアは思わず叫んだ。
「レイシア、自分の言葉には責任を持たないとだめだね──。君が楽になるということは、セリアが苦しむということだから」
やがて、先ほど部屋を出て行った女兵が戻ってきた。
その手には、小さなガラス瓶が握られていた。
中には、どろりとした赤い液体が入っている。
火辛子──。
王国でも広く知られている香辛料だった。
肉料理や煮込み料理に少量を加えるだけで強烈な辛味が広がるため、普通は耳かき一杯ほどしか使わない。
女兵が持ってきたのは、その火辛子の小瓶だ。
しかも脇には、小さな茶さじまで添えられている。
レイシアは眉をひそめた、
なぜ、そんなものを持ってきたのだろう?
嫌な予感がした。
「君が拒絶したことで、セリアがどんな罰を与えられることになったか、よく見るといいよ」
小瓶を受け取った蓋を開ける。ツンとした刺激臭がここまで襲う。
カイネウスが茶さじと小瓶を持ったままセリアに近づいていく。
「ごめんね、セリア……。あんなに頑張ったのに罰を与えないとならなくなった……。騎士の罰は主人の罰だ。だから、火辛子で乾杯だよ」
カイネウスが茶さじにすくった火辛子を無造作に、セリアの片側の鼻の穴の中に突っ込んだ。
レイシアは目を疑った。
「んぎゃあああ──」
セリアが発狂したように暴れ出す。
体勢は崩れ、一時的に鼻輪だけで宙吊りになったかたちにまでなった。慌てたように足を踏ん張るがそれでも暴れ続けている。そして、セリアの股間からは、放尿が零れだした。
「ああ、セリア様──」
レイシアは叫んだ。
そのあいだも、セリアは狂ったように暴れ、号泣し、おしっこを流し続けている。
余程につらいのか、激痛のあるはずなのに、顔を振り身体を振り乱している。それでも、鼻輪に繋がっている鎖がセリアに姿勢を崩すことを許さない。
「やめろお──もうやめてくれ──。わたしに……わたしに罰を与えればいいだろう──。やめろおお──」
レイシアは懸命に喚く。
カイネウスが無造作に、さらに茶さじで火辛子をすくう。
「これが君の言葉の結果だよ。そして、セリアの鼻の穴はもうひとつある。さらに詰め込むこともできるんだ。レイシアが応じるまで続けるからね」
カイネウスは茶さじをセリアの鼻に再び寄せる。
「やめろおお──。わかった──。やる──。頼むからもうやめてくれ──」
レイシアは声をあげた。
「なにをするの? ちゃんと言葉にするんだよ」
カイネウスがセリアのもう一方の鼻の穴に再び火辛子を突っ込む。
「んぎゃあああ──」
セリアが暴れる。
「やめてくれえ──。犯す──。セリア様を犯す──だから、もう、セリア様を許してくれ──」
レイシアは悲鳴のように言った。
「……いいだろう……。じゃあ、セリアの鼻を洗ってやって」
カイネウスが何事もなかったかのように机に戻る。
机上の操作盤に触れ、鎖の高さが戻っていった。セリアは無理な姿勢から解放される。それでも、まだ暴れ続けている。
女兵たちがセリアの周りに集まり、水差しで水を鼻の穴にかけ、指で乱暴に洗いだした。
鼻の穴に水を注がれ、鼻輪の嵌まっている鼻の穴に指を突っ込まれるセリアは、その苦悶で新たに激しい号泣を続けている。
「レイシアをおろして、双頭のディルドを装着してくれるかい」
カイネウスが淡々とした口調で声を掛けた。
いまだに暴れているセリアを目の前にしても、カイネウスは意にも介した様子がない。
そして、女兵のひとりが壁に向かい、がらがらとレイシアを吊っている鎖がゆっくりとおろされていった。