サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
後手縛りのレイシアを宙吊りにしていた鎖が床へ落ちていき、足の裏が石床に触れたところで鎖は止まった。
「水差しを持ってきてくれるかい」
カイネウスは女兵へ軽く手を振った。
女兵が足早に部屋を出ていく。
続いてカイネウスがセリアへ視線を向ける。
「セリアを解放してあげて。鼻輪の鎖は外していいよ。口枷も。でも、クリピアスはそのままでね」
机に座ったまま操作盤へ手を伸ばす。
からからと向こうでも音が響いた。
セリアの鼻環を天井から吊っていた鎖がゆっくりと下りていく。
張り詰めていた鎖が緩んだ瞬間、セリアの身体が崩れ落ちた。
そのまま床の上で小さく丸くなる。
まるで糸の切れた人形のようだった。
「王太子妃様、お許しが出たわよ」
「ほら、外してあげるからね」
女兵たちが数人集まり、セリアの鼻輪から鎖を解き始める。
カイネウスは、そのセリアをじっと見ていた様子だったが、さっきの女兵が水差しを持って戻ったところで、さらに何事か耳打ちする。
女兵は頷くと、再び部屋を出ていった。
そのカイネウスが立ち上がる。
ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
レイシアは思わず息を呑んだ。
卑劣なサロンの拷問者──。
それはわかっている。
だが、この男こそが王国を滅ぼした将軍カイネウス・セルパンでもある。
目の前に立たれると、まるで巨大な獣を前にしたような圧迫感があった。身体の奥にある武人としての本能が、目の前の男への畏怖を呼び起こした。
しかし、その自分自身の怯えに気づいた瞬間、レイシアは自分自身を恥じた。
「な、なんだよ?」
裸身で拘束されているとはいえ、レイシアは王国の騎士だ──。
虚勢を振り絞って睨み返す。
「うん。さっき、臣下である騎士の罪は主人の罪だと言ったけど、逆もそうだね。主人の罪は臣下の罪だ」
カイネウスは穏やかな顔で笑う。
「はあ?」
レイシアは眉をひそめた。
「君も見ただろう。セリアは許可なく放尿した。それはこのサロンでは罪に当たる」
「そ、それはお前が──」
思わず言い返しかけて口を閉じる。
いや、この、サロンでは、抗議など意味はない。
それはもう嫌というほど思い知らされていた。
なにより、自分の言葉でセリアを苦しめたくなかった。
自分のせいで、セリアがどれほど惨い目に遭ったか……。あの姿はまだ目に焼き付いている。
「……ああ、申し訳……ありません……。か、勝手に……放尿しました……」
はっとした。
掠れた声が響いた。
視線を向けると、口枷を外されたセリアが涙と涎と鼻水で顔を惨く汚れたまま、こちらを見ていた。それでもセリアは誰よりも美しいと思った。
「あ、ああ、セリア様──」
レイシアは思わず叫ぶ。
痛々しい声だった。
張りも力もない。
ここ数日の責めがどれほど苛烈だったのか、その声だけで十分に伝わってくる。
「わたしの……罪です。レイシアには……関係……ありません。……どうか、あの者には……罰をお与えにならないで……ください……」
「セリア様、おやめください──。わたしのような者を庇うのは──」
レイシアは声をあげる。
守ると誓った主人が、また自分を庇っている。
その事実が胸を締めつける。
王都陥落の日から今日まで、自分はなにひとつ守れていない。
それでもなお、セリアが自分を気遣っているということが、情けなさを増大させる。
「レ、レイシア……申し訳……ありません。レイシア……、お前は……わたしを助けようとして……捕まったのでしょう……」
「謝らないでください。悪いのはわたしなのです」
絞り出すように言った。
それ以外に言葉が見つからなかった。
すると、先ほど部屋を出ていった女兵が戻ってきた。
小さな盆を両手で捧げている。その上には、指輪に似た銀色の輪が三つ並んでいた。指輪にしてはかなり大きなものが二つ。そして、それよりひと回り小さなものがひとつだ。
カイネウスがその中から大きい側の一個を摘み上げる。
「僕はこれをリングと呼んでいる」
まるで珍しい装飾品でも紹介するような口調だった。
「リング?」
「便利な魔道具でね。魔道で安全に身体に穴を開ける。そこへ環を通して、身体そのものへ喰い込ませる。血は出ない。外せば穴は塞がる。でも痛みはある」
「なっ」
「セリアの鼻環も同じものだよ」
レイシアは目を見開いた。
思わずセリアへ視線が向く。
床に蹲る主人の鼻には、いまも銀色の鼻環が嵌められたままだった。
あの忌まわしい輪も、この男の魔道具だったのか。
胸の奥から怒りが込み上げる。
王太子妃を家畜のように扱うための代物だ。
あんなものをセリアに──。
だが、その怒りはすぐに冷たい感覚へ塗り潰された。
背筋を冷たいものが走る。
もしかして、これを……自分にも……。
輪から目を離せなくなる。
その瞬間、自分が恐怖していることに気づいた。
レイシアは奥歯を噛み締めた。
王家の騎士たる自分が、怯えるなど──。
「なにをするつもりだ──?」
問いかけても、カイネウスは穏やかな笑みを崩さない。
「君に責任を取ってもらうと説明したよ」
カイネウスの持つリングがすっとレイシアの片側の胸に近づいてくる。
はっとなる。
反射的に身を引こうとした。
「退がるんじゃないよ」
「大人しくしな──」
女兵たちの手が後ろから肩へ食い込む。
逃げられない──。
カイネウスの持つリングの側面が乳首にぐっと押しつけられる。
「はぐうっ、ぐっ」
鋭い衝撃が身体を走った。
息を呑む。
視界が揺れた。
全身から汗が噴き出す。
だが、悲鳴だけはあげまいと、必死に奥歯を噛み締めた。
「ああ、レイシア──」
セリアの悲痛な声が聞こえた。
その声だけが、胸を締め付ける。
耐えろ──自分に言い聞かせる──。セリアの前だ──。
反射的に、跳びさがりかけるのを必死に我慢する。
「わかっていると思うけど、乳首はもう一個ある。セリアに代わってもらうかい?」
カイネウスがそう言って、盆からもうひとつの大きい方のリングを摘まみ上げる。
「なに?」
視線の先にはセリアがいる。
「もともと彼女の罰だったんだ。彼女にしてもいいよ」
レイシアは歯を食いしばった。
迷う余地などない。
「セリア様には手を出すな──。わたしが受ける」
掠れた声が漏れる。
カイネウスは小さく笑った。
まるで最初から、その答えを知っていたかのように……。
なにも言わずに、まだリングが嵌まってない乳首に、リングが押しつけられる。
「あぐっ、ぐっ」
全身がぶるぶると震えた。
それでもレイシアは俯かなかった。
「我慢強いね……。さすがは騎士だ。じゃあ、これも我慢できるね」
カイネウスが残った小さなリングを摘み上げた。
はっとなる。
レイシアの背筋を冷たいものが走った。
カイネウスが残ったリングをレイシアのどこに取り付けようとしているのか理解したのだ。
「や、やめてくれ──」
思わず叫んだ。
カイネウスの手がゆっくりと下がっていく。
視線も自然とそれを追った。
やはり、クリトリスに近づいていく……。
顔から血の気が引いた。
恐怖が一気に込みあがった。
「いやだっ──」
気がつくと声をあげていた。
逃げたい。
無意識のうちに腰が引ける。
すると首の後ろに埋め込まれた魔核が反応した。
一瞬で身体から力が抜け落ちる。
抵抗することすら許されない。
「抵抗するのかい? その罪はセリアに向かうよ」
直前で手を止めたカイネウスが穏やかに微笑む。
「くっ」
レイシアは歯を食いしばった。
視界の端には、不安そうにこちらを見つめるセリアの姿があった。
迷う余地などなかった。
「抵抗なんて……するものか──」
掠れた声で言い返す。
そして覚悟を決めるように、ゆっくりと顔を上げた。それだけでなく、下腹部をカイネウスに向かって突き出すようにした。
「……いい根性だよ。きっと我慢できる……。でもその前に、それを外そうか」
カイネウスは一度手を引っ込めた。
「はい」
女兵のひとりが前へ出る。
レイシアはなにを言われたのか理解できなかった。
だが、女兵の手が股間から垂れ下がる糸付きの金属環へ伸びた瞬間、身体が強張った。
「じっとしてな」
女兵は慣れた手つきで、クリトリスの根元に喰い込んでいた金属環を外していく。
「ひゃん」
思わず声が漏れた。
かっと羞恥が込み上がる。
よりにもよってセリアの前で──。
我慢しようと思ったのに、金属環が外れる開放感で、レイシアに大きな快感が生まれてしまった。
糸ごと取り外されて、金属環が無造作に盆の上へ放られる。
「準備ができたね」
リングを持つカイネウスの手が動く。
レイシアは奥歯を噛み締め、その動きを見据えた。
クリトリスの上からリングが押しつけられる。
「んぐううううっ、ぐううううっ」
思わず身体が折れかける。
だが、それを許すものかと踏み止まった。
呼吸が乱れる。
視界が滲む。
それでもレイシアは顔を上げ続けた。
「ああ──レイシア──」
セリアの悲痛そうな声が部屋に響いた。
レイシアは、懸命に耐えた。
そして、やっと痛みが引いていく。
荒い息を吐きながら視線を落とす。
股間にある銀色の輪が、先ほどの出来事が現実であることを否応なく突きつけていた。
「よく耐えたね。じゃあ、レイシアに双頭ディルドを装着してあげて。僕はセリアの準備をする」
カイネウスが離れていく。
すると、女兵たちがわっとレイシアへ群がった。
「さあ、騎士様のお世話の時間よ」
「主人を守るんでしょう?」
女兵たちが楽しそうに笑う。
レイシアは睨み返した。
だが、その抵抗に意味がないことは自分が一番よくわかっている。
首の後ろの魔核がある限り、この身体は自由にならない。
そのとき、女兵のひとりが棚からさっきの淫具を持ってきた。
レイシアは息を呑む。
見覚えがあった。
少し前、セリアに見せつけるように掲げていた奇妙な器具だ。
中央を境にして左右へ同じ勃起した男根のかたちが伸びている。
白い双頭のディルドだ──。
「ほら、これ覚えてる?」
女兵がわざと目の前へ掲げる。
レイシアは答えなかった。
「顔色が悪いわよ」
「騎士様でも怖いものは怖いのね」
「もちろん、魔道ディルドよ」
くすくすと笑い声が上がる。
レイシアは唇を噛んだ。
「ほら、脚を開きな──。さもないと王太子妃を折檻するよ」
女兵のひとりに生尻を叩かれる。
レイシアは観念をして脚を開く。
さっきまで装着させられていた金属環と、ここに来るまでにやらされた強制自慰により、恥ずかしいばかりに濡れまみれた股間が剥き出しになった。
双頭ディルドの先端がレイシアの股間にあてがわれた。
「あっ、んんっ」
それだけで甘い声が出そうになり、慌てて口をつぐむ。
女兵たちは気にすることなく、一気にディルドを奥まで突き挿してきた。
「ああ──な、なんだい、これっ」
身体をのけ反らせて思わず叫ぶ。
ディルドが奥に入るにつれて、股間の内側に得体の知れない感覚が襲いかかってきたのだ。まるで膣の内側を直接に手で触れられている──そんなおかしな感覚だった。
「くっ、くくっ、うう……」
ついに、ディルドが入口から深層部まで深々と貫いた。
いつの間にか、レイシアは声を放っていた。
「そろそろ、その魔道淫具の仕掛けがわかったかい?」
女兵が黒い器具を指先でぴんと弾いた。
「あぎいっ」
その瞬間、膣の奥にある子宮の入口を指で弾かれたような痛みが走った。レイシアは小さな悲鳴をあげてしまった。
「わかった? 外に出ている部分と内側にある部分が連動しているの」
「連動?」
レイシアは、荒い息をしながら眉をひそめる。
「外側を押せば、内側でも同じ場所が押される」
その女兵が外に出ているディルドの部分を軽くさすった。
「ひいっ」
思わず声が出る。
膣の内側を手で擦られるというあり得ない感触が迸った。
「撫でれば撫でたように。叩けば叩いたように。動かせば動かしたようにね」
「だから普通の器具とは違うのよ」
別の女兵が笑う。
「中で締め付ければ、外は逆に膨れる。内側が収縮すれば外からわかるし、外から中に刺激を伝えることもできる」
「まあ、これでセックスをするのは大変かもしれないけどね」
女兵たちが一斉に笑った。
レイシアは呆然となった。
「さて、こっちの準備はできたよ」
そのとき、女兵たちの輪の外側からカイネウスの声がした。
女兵たちが左右に分かれて、カイネウスとセリアの姿が見えた。
「ああ、セリア様──」
しかし、その可哀想なセリアの姿に、レイシアは思わず声をあげてしまった。