サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
女兵たちが左右へ退く。
その奥にいたセリアを見て、レイシアは息を呑んだ。
「ああ、セリア様──」
レイシアの口から悲鳴交じりの声が迸った。
セリアは、鼻環に短い鎖が繋がれて、しゃがんだ格好のまま床を歩かされていた。
鼻輪を引っ張る鎖の先はカイネウスの手の中だ。
右手首と右足首──。左手首と左足首──。それぞれが革手錠で繋がれていて、セリアはしゃがんだ姿勢のまま、拘束された身体を懸命に前へ進めていた。
「ひっ、ひいっ」
鎖が引かれて、セリアの口から短い悲鳴が零れ出ている。
右側の手足が前へ出て、身体が大きく右へ捻れる。
次に、左側が前へ出る。
今度は左──。
右──。
左──。
身体全体を交互によじるようにして、懸命に前へ進んでいた。
しかし、カイネウスは歩みを緩めようともしない。ちょっとでも遅くなれば容赦なく鼻輪を引き、セリアに泣き声を上げさせている。
「なんてことを──。まだ、セリア様を苦しめ足りないのか」
レイシアは吠えるように叫んだ。
まともな歩き方ではない。
見ているだけで脚が攣りそうな無理な姿勢だった。
しかもセリアの脚は小刻みに震えていた。
肩は大きく上下し、荒い息が途切れ途切れに漏れていた。
一歩進むたびに苦しそうに顔を歪めている。
それでもセリアは鼻環の鎖に導かれるまま、必死に前へ進んでいた。
レイシアは奥歯を噛み締めた。
「ほらほら、かっかしないのよ、騎士さん」
そのとき、横の女兵がレイシアの股間から突き出ている双頭ディルドの外側部分を激しく擦る仕草をした。
「んひいっ、ひいっ」
レイシアは思わず、身体を震わせて甘い声をあげてしまった。
「もういいよ。離れてくれるかい。ちょっとレイシアと話がしたい」
カイネウスが軽く手を振ると、女兵たちが左右へ退く。
目の前にセリアが連れてこられて、カイネウスがレイシアの前に止まった。
「ああ──」
レイシアは思わず声を上げた。
目の前のセリアは、左右の手首をそれぞれの足首に繋がれており、立ち上がることすらできなかった。
さらに鼻環に繋がる短い鎖をカイネウスに握られているため、顔を伏せることも許されない。
顔を上げさせられたまま、しゃがんだ姿勢でかろうじて腰を浮かせている。
その姿は痛々しいの一言だった。
肩は大きく上下し、荒い息を繰り返している。
顔色も悪い。
意識も朦朧としているのか、焦点の定まらない目が揺れていた。
誰の目にも限界が近いことは明らかだった。
「……はあ、はあ、はあ……ああ……レイシア……ご、ごめんなさい……色々と……」
それでもセリアは必死に顔を上げ、涙の滲む瞳でレイシアを見つめていた。
「なぜ、セリア様が謝るのですか──」
レイシアもぼろぼろと涙をこぼしてしまった。
奥歯を噛み締める。
目の前の姿があまりにも痛々しかった。
「貴様……」
怒りを込めてカイネウスを睨みつける。
だが、カイネウスは平然としていた。
「レイシア、そこに跪くんだ」
静かな声だった。
その言葉と同時に、天井から張られていた鎖が緩む。
「なにをさせるつもりなんだ?」
カイネウスは答えない。
代わりにセリアへ視線を向けた。
はっとなる。
その仕草だけで、レイシアの背筋に冷たいものが走る。
「やめろおっ……」
思わず声が漏れた。
カイネウスは構わずに手を動かした。
セリアの鼻環に繋がっている短い鎖を天井方向に強く引っ張る──。
「んぎいいいっ、あぎいいいっ」
セリアの顔が強引に持ちあげられる。しかし、いまのセリアは背中を伸ばせない。顔だけが無理矢理に引き上げられる。
悲痛な声が部屋に響きわたる。
「ああ、やめろっ──やめてくれ──」
レイシアは思わず一歩踏み出しかけた。
だが、身体は自由にならない。
「君はまるでわかってないね」
カイネウスがセリアの鼻環を引きあげたまま静かに言った。
セリアの悲痛な声は続いている。
「やめろっ。やめないかっ」
「さっさと跪くんだよ。セリアをもっと苦しめたいなら別だけどね」
「く、くそおっ」
レイシアは唇を噛んだ。
怒りで頭が沸騰しそうになる。
だが、その怒りをぶつければ苦しむのは自分ではない。
目の前のセリアだ。
レイシアは慌てて膝を折った。
床に膝が触れる。
天井からの鎖がそれに合わせて張り直される。
カイネウスはしばらくセリアを眺めていた。
そして、やっと鼻環に繋がる短い鎖をわずかに下げる。
「ああ……」
セリアの口から掠れた息が漏れた。
これまで無理に持ち上げられていた首が少しだけ下がる。
セリアの全身から力が抜けるが、まだ身体の震えは残っている。
それだけでどれほど辛かったのか、レイシアには痛いほどわかった。
セリアは荒い呼吸を繰り返しながら、その場でぐったりと身体を預ける。
額から汗が滴り落ちた。
肩はなお激しく上下している。
涙は流れ続け、鼻水も垂れたままだ。
それでも先ほどよりは幾分か楽になったのだろう。少しほっとした表情になっている。
まるで溺れていた者がようやく水面へ顔を出したかのようだった。
「セリア様……」
レイシアは思わず呟いた。
セリアはカイネウスを睨みつけた。
「困ったものだね。君はそれでもセリアの騎士かい? だから、セリアはこんな目に合うんだろうね」
カイネウスが吐息をつく。
「なんだと──」
かっとなり思わず声をあげたが、レイシアが慌てて口を閉ざした。
カイネウスは鎖を手放してはいないのだ。
ただ、少し緩めただけである。
「直情的。感情に任せて行動する。でも思慮は足りない……。相手を見極める意識も、主人への忠誠心も薄い。君はただ、自分の気持ちを満足させたいだけだ」
カイネウスが静かに言った。
「違う──」
レイシアは思わず声をあげた。
「なにが違う? 感情的に怒鳴るだけなら、サロンの掟に従って罰を与える。でも、僕は会話まで拒絶するつもりはないよ。話したいことを語っていい」
レイシアは憤怒を抑え込もうと、一度カイネウスから視線を外した。
大きく息を吐く。
そして改めてカイネウスを見据えた。
「ならば、忠誠心に欠けると口にしたのを取り消せ──。それは、わたしへの侮辱だ」
「……カ、カイネウス様……レ、レイシアは……本当に忠誠心のある騎士で……。た、ただ、わたしが不甲斐ないだけで……」
そのとき、震える声でセリアが口を挟んできた。
だが、カイネウスは軽く手を動かしてそれを遮る。
「いぎいいっ」
セリアの鼻環が再び強引に持ちあげられて、セリアが悲鳴をあげる。
「やめろ──」
レイシアは思わず叫んだ。
今度はカイネウスは、すぐに鎖を緩めた。
セリアの悲鳴が止まる。
「セリアは、さっきから少し口数が多いね。この場の掟に従って罰を与えよう……。ただし受けるのはセリアではなくレイシアだ。レイシアのお尻に油を塗ってくれるかい。即効性の掻痒剤がいいね」
カイネウスが女兵たちへ視線を向けた。
女兵たちの間から歓声にも似た声が上がる。
ひとりが棚へ駆け寄り、数名がレイシアの背後へ回った。
「あ、ああ……そんな……」
セリアの顔が青ざめる。
「セリア、いまは口を閉じるんだ。これ以上喋れば、レイシアへの罰が増えるよ」
カイネウスは穏やかな口調で言った。
セリアが泣き出しそうな顔になる。
レイシアへ視線を向ける。そして、申し訳なさそうに唇を噛み、やがて眼を伏せた。
一方で、棚に走った女兵が戻ってきた。背後に回った女兵たちが、跪いているレイシアのお尻をふたつに割る。複数の指がお尻の穴を刺激し始める。
「あっ、やめろ──。やめないか──」
レイシアは思わず喚きたてた。
排泄の穴を刺激される恥辱には、いまだに慣れない。
だが、得体の知れない鋭い快美感が込みあがってくるのも事実だ、レイシアはその感覚を振り払おうと、首を激しく左右に振る。
しかし、女兵たちが代わる代わる油剤をつけた指をその部分に挿入してきてほぐし出すと、もうどうにでもしてくれというような被虐の情念がレイシアを包み込んでも来るのだ。
この数日の矯正という名の辱めで、いつの間にかレイシアの身体はそんな反応をするようになっていた。
それが口惜しい──。
「まあ、あがってきたわ」
「昂奮してるのね」
女兵たちは騒ぐ。
はっとなる。
股間に挿入されたままの双頭ディルドだ。それまで挿入されたまま真っ直ぐに伸びている形状だったが、外に出ている部分がむくむくと亀頭の部分を持ちあげるようにして、せり上がったのだ。
いまは、ただ外に出ているだけじゃなく、レイシアの股間の前で屹立した状態になっている。
「な、なんで……?」
レイシアは狼狽えた。
「ふふ、このディルドは内側部分の反応が、外にも現れると教えたでしょ? あんたが尻をいたぶられて昂奮してるから、角度が上にあがるということ。つまりは、あんたがどんなに澄ましていても反応は隠せないということよ」
横にいた女兵がそのディルドをぎゅっと握る。
「うあっ」
レイシアは歯を喰いしばる。
その女兵がゆっくりとディルドをしごきだす。
後ろでは、他の女兵たちによる油剤の塗布が続いていて、指が交代交代に入ってくる。容赦のない前後からの責めに、レイシアの官能は嫌でもせり上がっていく。
「気をやれば、男のように射精もできるわよ。男の快感と、女の快感を同時に極められるわ。いまは、あんたが男役で魔道が刻まれているから」
前を刺激している女兵がくすくすと笑った。
「その辺でいいよ」
カイネウスが声をかけた。
女兵たちがレイシアから手を離して、一斉に距離をとる。
レイシアは顔を項垂らせてしまった。
すると、カイネウスがレイシアの横に片膝をついて屈んだ。
今度はカイネウスがレイシアのお尻の穴に深々と指を挿入してきた。奥まで入った指の腹で前方向に押し揉むように動かされる。
「あっ、うう……くっ、くうっ」
レイシアは首をのけ反らせながら、喰いしばる歯の隙間から呻きを漏らした。
「どうだ、レイシア? 口惜しいかい?」
カイネウスがレイシアのお尻の中で指を動かしながら、耳元でささやく。
「あっ、ああっ……な、なにを……く、口惜しいに決まっている──」
レイシアは声をあげた。
「だったら、王太子妃であるセリアはもっと口惜しかったと思うよ。僕がこの国の王宮を占領させたとき、セリアの前には護衛もなく、侍女もなく、ただひとり小間使いあがりの少女がいただけだ。そんな風にセリアは捕らわれたんだ。どうして、君はセリアを放置したんだい? それでもセリアの護衛だったというつもりなのかい」
カイネウスが指を抜く。
はっとなった。
レイシアはカイネウスを見た。
その口元は微笑んでいる。しかし、眼には怒りが浮かんでいる。
セリアは、カイネウスが本当に腹を立てているのだと悟り、唖然となってしまった。
「えっ、いや、だって……」
レイシアは声を返していた。