サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「えっ、いや、だって……」
レイシアは一瞬言葉につまった。
だって、あの日は、近衛兵の全員が王都防衛に動員されていたのだ。
王太子妃付きの護衛隊長であるレイシアも、近衛兵のひとりであり、例外ではない。
迫り来る共和国軍を食い止めるため、城壁の上で、城門の前で、近衛兵たちは最後まで戦ったのである。
レイシアも剣を振るい続けた。
だが、戦いの最中に崩れた瓦礫の下敷きとなり、意識を失った。
目を覚ましたときには、すべてが終わっていた。
王都は陥落し、王宮は共和国軍に制圧されていたのだ。
「セリアを捕らえたのは共和国の一介の兵士たちだ。彼らの多くは王国貴族に恨みを持っている。気がついた僕が介入しなければ、セリアはあの場でどうなっていたかわからない。そんな状況に君はセリアを陥らせたんだよ」
「えっ?」
レイシアは唇を噛んだ。
セリアが王宮に共和国軍が雪崩れ込んだときに、ほかの王族とともに捕らわれたのはもちろん知っていた。しかし、セリアがどのように捕らえられたのかまでは知らなかったのだ。
「犯されていたかもしれない。輪姦されてもおかしくない。実際に国王の王妃や寵姫、王女の幾人かは、そんな目にあったからね」
「そんな……」
「結果がすべてだ。君がそのことを仕方ないと言うのであれば、君は騎士じゃない。ただ自分の矜持を優先させただけだ。僕がさっき言ったのはそういうことだ」
カイネウスが静かに言った。
その言葉に、レイシアは反論できなかった。
結果がすべて──。
まさにその通りだからだ。
どれほど勇敢に戦ったとしても。
どれほど忠義を尽くしたとしても。
王都は陥落した。
王族は捕らえられた。
そして、自分は守ると誓った主人を守っていなかった。
その事実だけは変わらない。
「……い、いえ……レイシアには……わたしが……命じたのです……。軍の命令に……従うようにと……。ひぎいっ──」
そのとき、セリアがおずおずと口を開いた。
しかし、カイネウスがセリアの鼻環に繋がっている鎖をぐいと引っ張って、セリアを黙らせた。
「……まだ、わからないのかい、セリア。いまは勝手に口を開けば、レイシアに罰だと言ったよね……。もっともこれは君への罰になるかもしれないけどね」
カイネウスは、鎖を今度は前に引っ張って、セリアの顔をレイシアの腰にほとんど密着させるばかりにした。
しかも、そのまま、セリアの鼻環に繋がっている鎖を、レイシアのクリトリスに喰い込んでいる「クリピアス」に押しつけるようにして接続してしまった。
「あっ」
「うわっ」
しかし、接続された鎖は短く、セリアの顔は、レイシアの股間に挿入されて外へ突き出ているディルドの先端に、ほとんど密着した状態になってしまったのだ。
セリアとレイシアは、ほぼ同時に困惑の声をあげてしまった。
すると、カイネウスがレイシアの外のディルドに手を掛けて激しくしごきだす。
「うあっ、ああっ」
込みあがる疼きに耐えられず、レイシアは思わず腰を引く。
「いぎいいっ」
「あぐっ、ああ、申し訳ありません」
レイシアは慌てて腰を前に出す。
腰を動かしたことで、クリピアスが引っ張られるだけでなく、セリアの鼻環も引っ張ってしまったのだ。
「あらあら、動いちゃ駄目よ。セリア妃を守る騎士さまが、逆に傷つけちゃ」
「もっと腰を出さないと、お姫様の鼻が引き千切られるかもしれないわよ」
周りの女兵たちが囃したてる。
しかし、すでに鎖はぴんと張り、まったく余裕はない。それなのに、セリアの顔とディルドの先には指一本分の隙間すらない。前に出すということは、ディルドをセリアの顔に押しつけるということなのだ。
一方で、カイネウスは嵩にかかったように、いよいよ荒々しくディルドを擦りだしてきた。しかも、手付きが乱暴ではなく、しっかりと快感を送り込む。
たちまちに、おかしな感覚が込みあがってきた。
下腹部がじんと痺れて、股間の奥が熱くなるだけでなく、ディルドの中心部分となる本来の女の入口部分に得体の知れないものが集まってくる心地に陥ったのだ。
明らかに女の快感とは異なる。
レイシアは戸惑うとともに、未知の感覚にどうしていいかわからない。
「そろそろ出るか? この魔道ディルドは、女の快感だけでなく、男の快感も疑似的に与えてくれるようになっている。射精の感覚とともに、射精も体現できる。だが、このまま出せば、セリアの顔が汚れるぞ。我慢することだ」
カイネウスがディルドを擦りながら言った。
はっとなる。
「あっ、そんな」
やっとわかった。
ディルドの中心部付近がじんと疼き、腰骨を衝きあがるように込みあがってくるのは、射精感なのだと悟る。
しかし、腰を引くことはできない。
クリピアスには、セリアの鼻環が繋がっているのだ。
それだけでなく、カイネウスの理不尽な行為を阻止するために逃げることも、避けようとすることもできない。身じろぎすればセリアを傷つける。
レイシアにできるのは耐えることだけだ。
でも、我慢できない──。
「あ、ああっ、もうやめてくれっ──頼む──」
レイシアは悲鳴をあげた。
気力を振り絞って、セリアの顔を汚さないために下腹部に力を入れるが、いよいよ込みあがるものが襲ってくる。ディルドでしかないはずなのに、まるで本当のレイシアの身体の一部であるかのように、そこに集まってくる。
レイシアは歯を喰いしばる。
しかも、さっき尻に塗り込められた油剤がいよいよ本領を発揮して、激しい痒みと疼きが襲いかかってきた。
いよいよ限界に追い詰められる。
「レイシア、構いません。耐えないで出しなさい」
セリアは声をあげた。
鼻輪が伸びているので、完全に鼻声になっている。
「ほら、我慢しないのよ」
さらに女兵のひとりがお尻に指を挿入していて動かしだす。
「あ、あああっ」
それが決め手になった。
レイシアはむせ返るような呻きとともに、身体を反らせて絶頂した。
だが、すぐさま、ディルドになにかが込みあがって、さらに、その先端から白濁のものを吐き出してしまった。
「あっ、ひっ」
「ああ、セリア様──」
セリアの顔がレイシアが装着させられているディルドから噴き出したもので汚れる。しかも、一回で終わらない。ディルドを掴んでいるカイネウスが揉みしごくように、二射、三射と出させてセリアの顔にかけていく。
やっと終わったときには、女としての絶頂感と、男としての射精後の快感がこちゃまぜになった感覚に包まれ、レイシアはどうしていいかもわからなくなった。
目の前のセリアの顔が白濁液で汚れている。
それもまた、レイシアを罪悪感で追い詰める。
「ああ、申し訳ありません……」
レイシアはすっかり項垂れた。
「惨めかい、レイシア?」
すると、ディルドから手を離したカイネウスが静かに問う。
「う、うう……」
レイシアは答えられなかった。
惨めだった……。
いや、惨めすぎた。
守れなかった……。
いや、守るどころか、こんな風にセリアの顔を汚してしまい、それでもなにもできないなんて……。
騎士として誇ってきたものが、ひとつずつ崩れていくようだった。
「あら、さっきまで元気だったのに、射精しただけで、随分と大人しくなっちゃったわねえ」
周囲の女兵たちが笑う。
レイシアは歯を食いしばった。
反論したい。
だが、なにを言えばいいのかわからない。
なによりも、目の前にはセリアに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「これがいまの君だよ。どんなに虚勢を張っても同じ。まずはいまを認めるんだ」
カイネウスが言う。
「い、いま……?」
「いまの結果がすべてだ」
カイネウスが先ほどと同じ言葉を口にする。
「忠義を尽くしたつもりでも、守るべき相手は守れなかった。いまも、セリアを守る手段を持ってない。なにもできない。そこから始まる」
レイシアは俯いたまま動けない。
返事もできなかった。
沈黙こそが答えだった。
そのときだった。
まだ後ろの穴に挿入されたままだった指がうねうねと動いて刺激をしてきたのだ。
「あっ、いやっ」
レイシアは狼狽して声をあげた。
射精により水平になっていた外側ディルドが再び頭をもたげてせり上がっていく。
「さすがは騎士様だよ。また頭をあげたねえ」
「まあ男とは違って正体は女だから、射精しても快感は逃げない。いくらでもディルドを反応させられる」
「でも、さっき、女みたいな声をあげたねえ」
「ばーか、本当に女なんだよ」
女兵たちがげらげらと笑う。
レイシアは、口惜しさで惨めな気持ちになった。
「レイシア、お前にできるのは、セリアと一緒に堕ちることだけだよ。君に真の忠誠心があるなら、セリアとともに生きることだ」
すると、カイネウスが言った。
「はっ?」
レイシアが思わず顔をあげた。
「人生に『もしも』はない。だが、あえて言うなら、君が共和国と戦わず、セリアひとりを連れて王都から逃がしていたら、この結果にはならなかったかもしれない」
「……そう……かも……」
レイシアは小さく呟いた。
それは、この数日ずっと考えていたことだった。
おそらく、そうするべきだったのだろう。
あのときの混乱の中であれば、セリアひとりなら脱走させられた可能性はある。実際に、いまでも王国の一部では抵抗を続けている地域もあるのだ。
そこに合流していれば……。
「……いえ、わたしは王族です。その選択は……。んぐうううっ」
「あぎいいっ」
二人は同時に悲鳴をあげた。
カイネウスが二人を繋ぐ鎖を容赦なく引き上げたのである。
「セリア。君には学ぶということがないのかい?」
カイネウスが指を緩める。
「……も、申し訳……ありません……」
セリアは涙を零しながら謝罪した。
今度こそしっかりと口を閉ざす。
レイシアも、もう抗議しようとは思わなかった。
意味がない──。
悪態を吐けば、一瞬は胸がすくかもしれない。
だが、その代償を払うのはセリアだ。
そんなのは、忠誠心などではない。その一点については、カイネウスの言葉は正しい。
「王国の王族はすべて処刑された。例外はセリアだけだ。どうしてかわかるか、レイシア?」
カイネウスが静かに言った。
「……いや……」
「僕がセリアをサロンで管理すると決めたからだ。王国への見せしめとしてね」
「えっ?」
「セリアは、ここで惨めに生きる限り殺されない。わかるかい?」
思わずレイシアは顔をあげた。
カイネウスは、レイシアの言葉を待つことなく、さらに口を開く。
「……それ以外にセリアが生き残る道は存在しなかった。だから僕は徹底的にセリアを惨めに扱うよ。そうでなければ、セリアは処刑されなければならないからね」
カイネウスの口調は不思議なほど穏やかだった。
揶揄するような響きもない。
嘲るような色もない。
本気でそう信じているようにしか聞こえなかった。
ふと見ると、口を閉ざしたままのセリアもまた目を大きくしている。
なんだよ、それ……。
レイシアは戸惑った。
もちろん、納得などできない。
まるで、セリアを生かすためにこんなことをしていると言っているかのようだ。
セリアをこんな目に遭わせている張本人のくせに……。
もっとも、王宮で捕らわれた王族たちが順番に、ことごとく処刑されたという話も事実だ。
王族として死ぬことは許されずに、尊厳を奪われて、男も女も王都広場で全裸に剥かれ、絞首刑となった。
それだけ、それまで虐げられていた属国の民衆がこの国の王族に抱いていた恨みは大きかったのだ。
しかし、セリアだけが生きている。
それが、このサロン送りという代償の結果だというのは間違いないのかもしれない。
少なくとも、カイネウスは自分の言葉を信じているように見えた。
「……そうやって生きるしかないのなら、それが幸福だと思えるように変わるしかない」
カイネウスは続けた。
「はあ?」
「だから、レイシアができるのは、セリアと一緒に堕ちることだ。ひとりでは耐えられなくても、ふたりなら耐えられるかもしれない。あるいは、その中に幸福を見出せるかもしれない……。セリアと共に堕ちてくれ」
「……共に……堕ちる……?」
レイシアは呆然と呟いた。
「それこそが、いまのお前にできる現実的な忠誠心だよ」
カイネウスははっきりと言った。
そして女兵へ視線を向ける。
「水差しを持ってきてくれるかい」
「はい」
女兵のひとりがすぐに机上にあった水差しを手に取って戻ってきた。
それを受け取るとカイネウスは、セリアに顔を向ける。
「セリア、君が最後に水を飲んでから、かなり経っている。それなのに、そんなに汗だくで、さぞや喉が渇いているよね。水が飲みたいかい?」
カイネウスが水差しを軽く持ち上げる。
その瞬間だった。
セリアの視線が水差しへ吸い寄せられる。
乾いた唇がわずかに開き、喉がひくりと動く。
だが、唾を飲み下す音は聞こえない。
レイシアは息を呑んだ。
飲み下す唾液すら残っていないのだ……。
しかも、いつの間にか、ほんの少しだけ彼女の身体が前へ出ている。
「あ……ああ……」
セリアの口から掠れた声が漏れた。
「どうなの、セリア?」
「は、はい……。ああ、どうか……お願い……いたします……」
セリアの目は水差しから離れない。
レイシアは胸が締め付けられる思いだった。
あのセリアが……。
王太子妃であるセリアが。
まるで命乞いでもするかのように、あんなに惨めそうに水を求めている。
ただ、水を求める切実さだけが滲んでいた。
「じゃあ、飲むといい」
カイネウスが水差しを傾けた。
次の瞬間、冷たい感触がレイシアの下腹部から突きだしている双頭のディルド部分を濡らした。
ぱしゃばしゃ、と水の跳ねる音が響く。
続いて、床を叩く水滴の音。
「えっ?」
レイシアははっとした。
「あ……」
セリアもまた目を見開いている。
その視線が追った先には、石床の上に広がる小さな水溜まりがあった。
だが、届かない。セリアの鼻環がレイシアのクリピアスに繋がっている。レイシアもこれ以上屈むことはできない。
いまのセリアでは到底届く場所ではない。
レイシアは、カイネウスの意図を理解した。
カイネウスは、ただで飲ませるつもりはないのだ。
セリアに選ばせるのだ……。
惨めに水を求めることを……。
「どうしたの、セリア? 水はそこにある。ディルドから舐め取れば、いくらでも濡らし足してあげよう。君の喉が癒えるまで、何度でも何度でも、それを舐めとるといい」
カイネウスが穏やかな声で言った。
セリアの肩がびくりと震えた。
乾ききった唇は開いたままだ。
その目は、いまはレイシアのディルドを濡らしている水から離れない。
レイシアは、思わず背中の拳を握り締めた。
なんて意地の悪い男だろう。
そう思う。
だが同時に、それでもセリアは生きるために飲まなければならないのだとも思ってしまう。セリアは明らかに弱っている。
そのとき、ふとカイネウスが顔を上げた。
視線が向けられた先はセリアではない。
レイシアだった。
息を呑む。
なぜか目を逸らせなかった。
カイネウスは、なにも言わない。
ただ静かにこちらを見ている。
一方で、セリアはカイネウスなど見ていない。一心に見つめているのは、濡れたディルドだけだ。
何度も、何度も喉が動いている。
やがてカイネウスの唇がゆっくりと動いた。
一文字ずつ……。
噛みしめるように。
声はない。
だが、レイシアには読めてしまった。
──共に、堕ちよ。
心臓がどくりと鳴った。
思わず身体が強張る。
次の瞬間には、カイネウスはもう視線をセリアへ戻していた。
まるで何事もなかったかのように。
「セ、セリア様……」
レイシアは口を開いた。