サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「セ、セリア様……」
レイシアは震える声で主人に呼びかけた。
セリアがゆっくりと顔を上げる。
その瞳には疲労の色が濃く滲んでいた。
明らかに弱っている。
その事実だけは疑いようがなかった。
騎士として考えなければならないのはなんだろう。
意地を張ることか……。
誇りを守ることか……。
──違う。
守るべきはセリアだ。
どれほど惨めでも……どれほど屈辱的でも……生き延びてもらわなければならない。
それが騎士の務めだ。
ふと、カイネウスの言葉が脳裏をよぎった。
──共に堕ちよ。
レイシアは奥歯を噛み締める。
その言葉を認めたくはなかった。
だが、いま優先すべきものは別にある。
憤怒はあるが、いまできることは、セリアを生き延びさせることだ。どんなに恥辱にまみれても。
そう決めた──。
「気になさらないでください……。どうか、水をお飲みください……」
レイシアは静かに言った。
「レイシア……」
セリアは驚いたように目を見開いた。
「いまは誇りよりも、お身体です。どうか……」
レイシアは真っ直ぐに主人を見つめる。
セリアの唇がかすかに震えた。
その表情には戸惑いも、苦しみも、そして感謝にも似た感情も浮かんでいる。
レイシアは続けた。
「わたしは、あなたの騎士です……」
その声は小さい。
だが揺らがなかった。
「……どのような惨めな姿になろうとも、最後までセリア様と共にあります……」
セリアはしばらく、なにも言わなかった。
だが、そのあいだも、セリアの喉は音がないまま、動き続けている。乾きで苦しいのだろう。
「……ごめんなさい……」
やがてセリアは小さく目を伏せた。
その肩がかすかに震えている。
すると再び、上から水が注がれた。
カイネウスが水差しを傾け、ディルドを濡らしたのだ。
セリアが小さく口を開き、ゆっくりと顔を寄せる。
二人を繋ぐ鎖が微かに音を立てた。
そして、ためらうように舌を伸ばし、付着した水滴を舐め取る。
「くっ……」
刺激が伝わった瞬間、レイシアは思わず身体を震わせた。
「あっ、レイシア……」
セリアがはっとしたように顔を離す。
「か、構いません……。そのまま続けてください……。なるべく反応しないようにしますから……」
レイシアは慌てて言った。
「セリア、水はもう十分かい? もうやめてもいいんだよ?」
カイネウスがわざとらしく水差しを引く。
「あっ……そんな……」
セリアの声が震えた。
「まだだ──。水差しを引くな──。……ねえ、セリア様、やめてはいけません」
レイシアは声を張った。
「あっ、は……はい……」
「いまは恥を捨ててください。わたしも捨てますから……」
せめてセリアが少しでも楽に水を飲めるように、レイシアは必死に姿勢を保った。
「ほら、口を開けるんだよ。ディルドを口に咥えて舐め続けるんだ。そのあいだは、水を飲ませてあげるよ」
カイネウスが再び水差しを傾ける。
「セリア様──わたしの反応は気にしないで──」
レイシアは主人の名を呼んだ。
「ああ……。わ、わたしこそ……許して……」
セリアが小さく息を漏らす。
そして、小さな口を精一杯に開くと、真っ直ぐにディルドを口の中に入れた。水差しが傾き、少しずつディルドの上に水が這う。
余程に喉が渇いていたのか、セリアの舌がディルドの上を踊るように動き出す。
「んっ……ん、んっ……」
渇ききった喉を潤そうとする様子は痛々しかった。
一方で、そのたびに伝わってくる妖しい感覚に、レイシアは歯を食いしばるしかなかった。
また、ずっと耐えていたが、後ろに塗られた媚薬の影響を隠すことが、そろそろ難しくなってきてもいた。
異常なまでに、後ろの穴が疼き、激しい痒みで身体が小刻みに震えてくる。
しかし、反応をしてしまったら、セリアが怯えてしまうかもしれない。レイシアは必死に我慢する。
「その調子だよ。君たちにはこれに慣れてもらわないと困るからね……。頑張ろうか」
カイネウスが水差しの水をディルドに流しながら、女兵たちへ小さく頷いた。
すると、女兵たちがレイシアとセリアの周りに集まった。レイシア側に三人、セリア側に三人だ。
「んあっ」
「あっ、な、なにを──」
セリアとレイシアは同時に声をあげた。
いきなり乳房をわし掴みにされて、揉み上げられたのだ。セリアも同じようにされている。
レイシアについては、お尻の穴の周辺をくすぐるように指で愛撫されてもいる。
「あくっ」
レイシアは身体を弾ませて呻いた。
丁寧で巧みな女性たちの手管に、レイシアは堪らず身体を反応させてしまう。
「ひぎっ」
「んぐっ」
セリアの鼻輪とレイシアの陰核に繋がっている鎖がぴんと張ってしまったのだ。
お互いに、身体を跳ねさせた瞬間が合致してしまったのだ。
「ほらほら、動いちゃ駄目よ、騎士さま。セリアが痛い思いをするわよ」
「お姫様もね。そのまま、レイシアのおちんぽを咥えてなさい」
女兵たちが笑う。
それだけじゃなく、それぞれの腰を押しやって、さらに密着するようにさせられた。
「んごっ、おごっ」
「あっ、セリア様──」
レイシアのディルドが喉の奥を突いたのかもしれない。セリアがえずくような動作をする。
「なにも考えないで、快感をむさぼる獣になるんだ。それが君たちのすることだよ」
カイネウスが声を掛ける。
だが、もうレイシアはなにも考えられない。
裸身に三人の手がまとわりついてくる。
いや、指だけじゃなく、舌まで這い回ってきた。
胸に、お尻に、股間に、全身のあちこちに刺激が送り込まれる。女の身体を知り尽くしている女兵たちの愛撫──。
たちまちに、レイシアは追い詰められた。
「や、やめっ」
レイシアは、思わず身体を反応させかける。
しかし、動けばセリアと繋がっている鎖が張り、激痛が走ることを思い出して自重する。
動かないで耐えるしかなくなり、沸き起こってくる狂おしいばかりの欲情のうねりから逃れることはできない。
見ると、目の前のセリアも、三人がかりの女兵の愛撫に耐えられずに、激しく身体を反応させている。
それでも必死に、ディルドの水を舐めすっている。
その刺激もまた、レイシアを追い詰める。
カイネウスに──女兵たちに、淫らに弄ばれているのはわかっている。
それでも、セリアの唇が──舌がレイシアを刺激してくると、全身を這い回る愛撫さえも、セリアに送られているような錯覚に陥ってくる。
そう思ったとたんに、身体の芯までじんと届くような悩ましい快感が一気に込みあがった。
「あ、ああっ、セリア様──」
レイシアは全身をがくがくと震わせながら甲高い声をあげる。
「ん、んん、んんんっ」
一方でセリアもまた、三人掛かりの責めに追い詰められている。
レイシアと同じように、激しく快感で全身を震わせだした。
女兵たちが、さらにレイシアたちを追い詰める。
乳房に──股間に──お尻にと、舌や指を這い回らせて、さらに絶頂に導かれていく。
「あっ、ああ、だ、だめえ──」
レイシアは身体を弓なりにして声をあげた。ひたすら、レイシアが装着されてられているディルドを舐め回しているセリアも、いまは淫らに身体をくねらせていた。
もう、なにがなんだかわからない。
だが、セリアの前で醜態は見せられない──。
気力を振り絞って耐える。
「レイシア、どうして我慢しようするんだい? セリアはもうもたないよ。セリアだけに恥をかかせるつもりかい?」
カイネウスが小さく笑う。
はっとなる。
目の前のセリア──。
いまは、ディルドを咥えながらも、女兵たちに送り込まれる快感に、完全に崩壊しそうになっていた。
セリアを恥辱から守ることはできない──。
ならば、せめて一緒に……。
レイシアは、抵抗をやめた。
その途端に、一気に堰を切ったように、快感が全身で炸裂する。
「ああっ、セ、セリア様──」
がくがくと身体が揺れる。
「さあ、二人で一緒に気持ちよくなるといいよ。彼女たちが、君たちを導いてくれる」
すると、カイネウスが手を伸ばして、レイシアの股間に繋がっていた鎖を外した。
その鎖を持ちあげて、セリアの顔をぐいとあげさせていく。
「あっ、ま、待って──」
鼻輪を容赦なく引っ張られて、セリアが泣き声をあげた。
カイネウスは、無理矢理にセリアの顔をレイシアの顔に密着させる。
女兵たちの愛撫がさらに激しくなった。
「はああっ、うああっ」
「ひゃあ、あああ──」
頬と頬をくっつけたまま揃って声をあげた。
レイシアとセリアは、女兵たちの手と舌が絡みつく中で、汗まみれの裸身をぶるぶると震わせる。
「セリア──レイシアに口づけをするんだ。命令だよ……」
カイネウスがセリアの耳元にささやくのか聞こえた。
「ああ、レイシア、ごめんなさい──。も、もう……わ、わたしは──」
セリアの顔が動き、レイシアとぴたりとくっついてきた。
鼻輪の固い金属の感触に次いで、柔らかい唇がレイシアの唇に重ね合わされる。
全身が愉悦で痺れたようになっているレイシアは、頭が真っ白になるような衝撃を感じていた。
あのセリアと口づけを──。
その瞬間──恥辱も口惜しさも消えたような気がした。心臓が激しく高鳴り、全身が震え、頭の中が痺れきる。
崇拝し、憧憬し、尊敬をしていたセリア妃の唇が、いまレイシアの唇に触れているのだ。
眩暈がするほどの感慨とともに、もうセリアと一緒であれば、このまま墜ちてもいいのではないかと思った。
身体が宙に浮くような──。一気に全身が浮きあがっていくような恍惚感を感じた。
「舌を絡めるんだ……。そうしたら、もっと淫らになれる」
カイネウスが耳元でささやく……。
なにも考えられない。
まるで操られているかのように、レイシアは重なっている口を開いた。
すると、セリアがそこから舌を割って口の中に挿入してきた。
「んんっ」
「んああっ」
レイシアはセリアから舌を入れてきてくれたと知覚し、思わず全身を痙攣させた。
息も止まるような感激とともに、官能の芯が溶け込むような甘美感が襲いかかる。
女兵たちが、示し合わせていたかのように、一気に愛撫を強くした。最後のひと押しを全身の性感帯に加えられる。
「んんんっ、んんん──」
「んあっ、んああっ」
口づけをしたまま、ついにふたりで絶頂を極め合った。
激しく身体を震わせて、お互いの肩に顔を埋める。激しく息を切らして、上体を預け合う。
女兵たちの手も一斉に離れた。
息詰まるような欲情と官能を発散させ、汗まみれの身体を寄せ合った。
セリアは激しく息をしている。
レイシアは欲情のうねりの渦巻く身体で、しばらくのあいだセリアの身体を支え続けていた。
だが、レイシアの身体には、まだ別の苦悶が残っていた。
いや、一度淫欲が発散したことで、むしろその異常に気づかざるを得なくなった。
お尻が──。
媚薬を──掻痒剤を塗られたお尻の深い部分が狂うように疼き──そして、凄まじく痒い──。
愛撫を受けているうちは、忘れることができた。
しかし、それがなくなった途端に、陥っている苦悶に意識が向いてしまったのだ。
「ああ、これは……」
レイシアは戸惑いとともに、身体をくねらせる。
「ああ、どうしたの、レイシア?」
痒みに苦しみだしたレイシアに気がつき、セリアがはっとしたように、顔を離して声を掛けた。