サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
レイシアとセリアは、夜のサロンの廊下を、周囲を六名ほどの女兵たちに囲まれながら歩かされていた。
両腕は背中側で後手縛りにより緊縛されている。
衣服は身につけていない。その代わりに、レイシアには両乳首と陰核に金属のピアスが嵌まり、セリアには陰核のピアスと鼻輪が嵌まっている。
このサロンで「リング」と呼んでいる淫具らしく、肌に密着させると、その部分に穴を作って喰い込んでぶらさがるという、魔道の刻まれた責め具である。
「ほら、また遅れてるよ、お姫さん」
それぞれの首輪から伸びる縄を女兵たちが握っているのだが、また歩みが遅れたセリアの縄を女兵が強く引っ張った。
「あっ、申し訳……」
セリアがよろけながら、必死に脚を前に進めている。
しかし、腰に力が入らないのか、腰を引いて上体を前へ倒したような姿勢であり、その足取りはおぼつかない。
「セリア様──。なあ、わたしの縄を解いて、セリア様を支えさせてくれ。絶対に逃げないし逆らわない。剣に掛けて誓う──」
レイシアは周りを進む女兵たちに哀願した。
「許可は与えられないよ。お前の監督官は一時的にヴェルデン様からお館様に移った。そのお館様のご命令だ。今夜は縛られたまま、ふたりで檻に入ってもらう」
先頭を進む女兵が冷たく言い放った。
「だ、大丈夫よ……レイシア。ちゃんと……歩くわ」
セリアが荒い息をしたまま、レイシアに笑みを向ける。しかし、その笑みがあまりにもぎこちなく震えているので、逆に申し訳なくなる。
結局のところ、セリアの疲労困憊には、レイシアにも責任がある。
さっきまで相対責めの訓練と称して、ふたりで女同士の責め合いを延々とやらされていた。同じように愛し合えば、騎士として体力のあるレイシアに、セリアがついてこられないのは当然だ。
それは申し訳なくて、レイシアは罪悪感に打ちひしがれている。
いままでいたのは、反省房という特別矯正室のような場所らしい。そこをやっと出されて休むために部屋がある特別囚の層に向かっているのだが、いまはまだ階下の一般囚のエリアだ。
しかし、すでに夜の矯正が終わったあとなのだろうか、廊下に他の囚人の姿はない。
そのひっそりとした廊下を、レイシアも歯を食いしばりながら歩いていた。
脚は重い。
身体の奥には不快な熱が残っている。
だが、まだ歩ける。
問題は隣だった。
「あっ……」
セリアの身体がまた大きく揺れる。
一歩歩く。
だが、そのたびによろめく。
さらに数歩進む。
今度は腰が沈んだ。
それでもセリアは転ばないよう必死に足を前へ出している。
「お姫様は、だいぶお疲れのようだね。まあ無理もないけど。夜の矯正はかなり数をこなしてもらったしね」
セリアの横を進む女兵が笑いながら言った。
周囲の女兵たちからもくすくすと笑い声が漏れる。
「でも大したものだよ。午前中のときも含めて、夜の矯正でも、ほとんど一緒に昇りつめてたじゃないかい。あんたら余程に気が合うんだね」
レイシアは奥歯を噛み締めた。
だが、言葉は返さない。
「あっ……」
またもや、セリアの身体が傾く。
膝が大きく折れ、身体が前へ崩れかける。
首輪の縄が張り、辛うじて転倒だけは免れる。
セリアの肩が大きく上下していた。
「転んだら折檻だよ。相棒の騎士さまにね。あんたらについては、そういう扱いになってんだ」
前を歩く女兵が笑う。
「そ、そんな……歩きます……。ですから、レイシアには……」
セリアが驚いたように顔をあげる。
でも、その歩みは頼りない。
もう限界が近い。
それは誰の目にも明らかだった。
「わ、わたしは問題ありません。気に……しないで──」
レイシアは声を掛ける。
しかし、それ以上のことができないのが恨めしい。
「なら、ハンディをやるよ。騎士さんが立ち止まったら、お姫様を折檻だ。しっかりと歩きな」
一番後ろを進んで、今夜に使った調教具をまとめて背負っていた女兵が、背中からなにかを取り出した気配があった。
すると、脚と脚のあいだに、柄のついた鳥の羽根が差し込まれて、レイシアの股間に密着させられたのだ。
「あっ、いやっ」
レイシアは思わず悲鳴をあげた。
柔らかい鳥の羽根が敏感な股間を余すことなくくすぐるだけじゃなく、羽根の芯のようなところで股間に嵌まっているクリピアスを突き動かされたのだ。
さすがにまともに姿勢を保っていられず、レイシアは腰を落としそうになる。
「しっかりしないと、姫さんが折檻だよ」
ほかの女兵がレイシアに揶揄の声を掛ける。
はっとなり、慌てて腰をあげる。
「あっ、レイシア」
今度はセリアが心痛の声をレイシアにかけてきた。
だが、後ろの女兵は、羽根を股間から抜く気配はない。それどころか、さらに数名の女兵が羽根を手に取って左右から、ピアスの嵌まっている乳首のリングを転がすようにくすぐってくる。
「あっ、や、やめてくれ」
さすがに、レイシアは声をあげた。
しかし、立ち止まることは許されない。
セリアに迷惑をかけることになる。
レイシアは一歩進むごとに、後ろからと左右から抉る股間と乳首への官能の疼きに耐えながらも、懸命に脚を進めた。
「ここからは階段だよ」
レイシアとセリアは、尻を突きたてられるように、さらに階段を昇らされる。
やがて、やっと特別囚用の階につき、ひとつの部屋に辿りついたときには、レイシアもセリアもぐったりとなってしまっていた。
「入りな」
女兵に背中を押され、セリアとともに、レイシアは部屋の中へ足を踏み入れた。
思わず眼を見開く。
牢獄のような場所を想像していたが違った。
柔らかな絨毯が床一面に敷き詰められる、広くはないが、狭くもない客室のような広さの部屋だった。
もっとも、調度品はなにもない。
机も椅子も棚もない。
部屋の隅に数枚の毛布が積み重ねられているだけだ。
ただ、部屋の奥には低い仕切りが設けられていた。
壁で隔てられているわけではなく、その向こうには小さな浴槽があった。
床を掘り下げたような造りの浴槽には、すでに湯が張られていて、いまも白い湯気がゆらゆらと立ち昇っている。
レイシアは思わず眼を見開いた。
浴槽の脇の壁には、小さな魔石が幾つか嵌め込まれている。
おそらく魔道式なのだろう。
魔道式の湯漕など、余程の分限者でもなければ設置できない。
王都にいた頃ですら、レイシアは数えるほどしか見たことがなかった。
それが囚人の部屋に備え付けられているというその事実に、驚きを隠せなかった。
また、部屋の中央に板が置かれていた。
板の上には食事が並べられている。
白い湯気を立てるスープ──、細かく刻まれた肉と野菜。焼かれたパン。そして、水がたっぷりと入った丸皿。
二人分だ。
レイシアの胃がきゅっと縮んだ。
ここへ来てから、まともな食事を見た記憶がない。
ヴェルデンに与えられていたのは、空腹を誤魔化すためだけの餌のような食べ物や飲み物ばかりだった。
温かい食事の匂いが鼻をくすぐる。
それだけで胃が疼いた。
「レイシアは今夜から、このセリア様の部屋で寝泊まりしてもらう。お館様のご命令だ。よかったな。ヴェルデン閣下よりは待遇がいいはずだよ」
女兵が鼻で笑った。
「ここは、セリア様の……?」
レイシアは思わず息を吐く。
「驚いているけど、特別囚の檻は、本来全部これだ。ヴェルデンの閣下が、レイシアをそばに置きたがったから、あの獣用の檻を使っていただけさ」
女兵が言う。
そして、顎で床の食事を指す。
「食べな。十分以内だ」
「食べましょう、レイシア」
セリアはそう言うと、慣れた様子で食事の前へ進んだ。
そして、後手に縛られたまま膝を折り、身体を屈める。
口だけでパンにかじりついた。
一瞬ためらう。
犬のように口だけで食事をするなど、さすがに胸の奥に小さな抵抗が残っていた。
だが、セリアはもう食べ始めている。
セリアだけに、そんな真似をさせるわけにはいかなかった。
レイシアも食事の前へ進む。
身体を屈め、舌を伸ばして、まずはスープをすすった。音を出さずに食べるのは不可能なので、どうしてもずずず、と音が鳴る。しかし、肉は驚くほど柔らかく、野菜にも味が染みていた。
思わず涙が出そうになる。
屈辱的だ──。
まるで家畜だ。
だが、口の中へ広がった味に、そんな感情が溶けてしまうのが口惜しい。
温かい……。
そして美味い……。
気づけば夢中になっていた。
空腹は、それほど深刻だったのだ。
いつの間にか、目の前の丸皿は全部空になっていた。
「終わったかい。いつもは口を拭いてやるけど、今夜からはふたりいるんだ。自分たちでなんとかしな」
女兵がそう言って笑った。
レイシアは顔をしかめた。
両手は後ろで縛られたままだ。
まともに口元を拭くこともできない。
女兵たちは面白そうにふたりを眺めている。
「まったく……」
レイシアは小さく息を吐いた。
すると、セリアが少しだけ身を寄せてくる。
「動かないで、レイシア」
セリアが立て膝になり肩を寄せてきた。
レイシアも立て膝の姿勢をただして、それを受け入れる。
戸惑っているレイシアに構う気配もなく、レイシアの口元についているらしい、食べかすや水滴を舌を伸ばして舐めてきた。
「あっ」
小さな声が出た。
しかし、セリアの舌は、丁寧にレイシアの口の周りを舐め続ける。
レイシアも躊躇うのはやめた。
舌を伸ばして、セリアの口の汚れを舐めとる。鼻輪にもスープの汚れがあったので、余り刺激しないように丁寧に舐め尽くす。
女兵たちがそれを見ているのはわかる。
傍から見ればひどく不格好だろう。
だが、両手を使えない以上、ほかに方法がなかった。
終わったところで、顔を離す。
「ありがとうございます、セリア様」
「今夜から同じ部屋なのでしょう。助け合わないと……」
そのセリアの言葉に、レイシアは静かに頷いた。
「さて、いつもなら身体を洗わせるんだけどね。今日は昼間も洗ったし、どうせまた汗をかく。そのまま寝てもらうよ」
女兵の言葉に、レイシアは首を傾げた。
そのときだった。
いつの間にか、六人いた女兵たち全員が、立て膝で向かい合っているレイシアとセリアを取り囲むように近寄っていたのだ。
ぎょっとなる。
ひとりの女兵がセリアの鼻環を掴んだ。
なにをするつもりなのかと身構えた次の瞬間、その反対側をレイシアの鼻へ強く押しつけてきた。
「んぎゅううっ」
刺すような激痛が走る。
思わず奇声をあげた。
涙が滲む。
気がつけば、セリアの鼻環はレイシアの鼻にも喰い込んでいた。
ひとつの鼻環で繋がれた形になり、ふたりは顔を離せなくなる。
「あっ……」
「ああ……」
さらに別の女兵が手を伸ばした。
今度はレイシアの胸元へ触れる。
嫌な予感がした。
だが、逃げることはできない。
乳首のリングがセリアにも接続される。
「ひいいっ」
「あああ……」
レイシアとセリアは、お互いの鼻と両乳首を縫い付けられたような状態で身体を固定されてしまった。
少し動くだけでも痛みが走る。
離れようとしても離れられない。
「ああっ、なんてことを……」
「ひっ、ひい……」
レイシアとセリアは思わず声を漏らした。
慌てて、互いの身体を支えるように身を寄せ合う。
女兵たちはそんなふたりを見て満足そうに笑った。
「最後の仕上げだ。今夜ひと晩は、そうやって身体をくっつけたまま過ごしてもらう。明日の朝には、すっかり距離も縮まっているというわけだ。お館様のご命令さ」
女兵たちが取り出したのは、今日一日ずっと使わされた双頭のディルドだ。それだけでなく、やはり、今日一日苦しめられ続けた掻痒剤の油剤を出した。
ディルド全体にその油剤を塗り込み始める。
「な、なにをする……」
レイシアは恐怖した。
女兵たちがやろうとしていることに気づいたのだ。
「暴れないでおくれよ。余計に痛いだけだからね」
女兵たちは手慣れた様子でレイシアとセリアの周囲に群がってくる。
「ああ、お、お許しを……」
まずはセリアの股間に双頭ディルドの片側を深々と挿入してしまう。さらに反対側の中にも──。
油剤が潤滑油になり、抵抗なくディルドが股間を貫く。
「仕上げだ」
前後に分かれた女兵がレイシアとセリアの腰を押し、ぎゅっと下腹部を密着した。
すると、真ん中にいた女兵が手を伸ばして、レイシアとセリアのクリピアスを接続してしまった。
「あっ……」
「ひぅっ……」
レイシアとセリアの口から悲鳴が迸った。
熱い息が掛かり合う。
ただでさえ鼻と胸を繋がれたのに加えて、今度は股間も接続されてしまった。
少し身じろぎするだけで激痛が走った。
「や、やめて……許してください……」
セリアが震える声を漏らす。
「あっ、ああ、セリア様……」
だが、作業が終わった女兵たちは離れてしまう。
ふたりは身体を寄せ合うような姿勢のまま、鼻と胸と股間で固定されていた。
離れようにも離れられない。
背を向けることもできない。
互いの体温と息遣いが嫌でも伝わってくる。
「これでよし」
女兵が満足そうに頷いた。
「朝まで仲良くするんだよ。横になるにもよし、そのままでいるのもよし。好きにしていいってさ」
「水の皿は一個だけ残しておくよ。小便したくなったら、それにするといい。仲良くね」
「大便は明日の朝にさせてやるけど、どうしてもしたかったら、それにしな」
女兵たちの笑い声が響く。
レイシアは唇を噛んだ。
逃げ場はなかった。
今夜はこのまま過ごさなければならないのだ。
そして、女兵たちは部屋の扉を閉めて、鍵を外からかけた。
魔道灯の光が消えて、部屋は真っ暗になった。
女兵たちの笑い声も、廊下を遠ざかる足音も、やがて聞こえなくなる。
残ったのはレイシアとセリアの荒い息遣いだけだった。
暗闇の中で、ふたりは向かい合ったまま身を寄せている。
少し動くだけで痛みが走る。
だから動けない。
いや、動きたくても動けなかった。
そのまま時間が過ぎていった。
やがて、身体の奥から嫌な感覚が這い上がってくる。
じわり。
じわり。
最初は小さな違和感だったものが、次第に無視できなくなっていく。
「ああ……」
セリアが小さく声を漏らした。
レイシアは歯を食いしばる。
気のせいであってほしかった。
だが、そうではない。
不快感は容赦なく広がっていく。
背筋が震える。
呼吸が浅くなる。
「ああ、痒い──。痒いいい──」
とうとうセリアが泣き声をあげた。
レイシアは唇を噛む。
「……と、とにかく横になりましょう。明日の朝まで耐えるしかありません」
自分でも驚くほど弱々しい声だった。
それでも、なにか言わなければならなかった。
主人の前で、自分まで取り乱すわけにはいかない。
朝まで耐えられる保証などなかった。耐えられるとも思わなかった。
それでも、ほかになにも思いつかなかった。
「……は、はい……」
セリアが小さく頷く。
ふたりは声を掛け合いながら、少しずつ身体を傾けていった。
急げば痛みが走る。
だから慎重に。
息を合わせながら……。
ようやく横になることができた頃には、ふたりとも肩で息をしていた。
「ああ、痒い──。痒いわ、レイシア」
「ああ……わたしもです、セリア様」
セリアは泣き声を漏らし続ける。
レイシアもまた目を閉じ、耐えようとした。
だが、意識を逸らそうとしても、不快感は逃がしてくれなかった。
長い夜は、いま始まったばかりだ。