サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「あっ、ああっ、やめてっ、やめなさい──」
クラウディアは不自由な身体を懸命に揺すった。
しかし、アルジェたちは、胸衣の肩部分を切断し、腰の紐布を解くと、あっという間にクラウディアを全裸にしてしまう。
また、その動きで逆海老吊りの鎖がぎしぎしと揺れて、またもや背中に痛みが生まれる。
無駄な抵抗だと頭が理解しているのだが、女としての本能が自然と身体を反応させてしまうのだ。
「聖女様ともあろうものが、裸に剥かれるくらいで、そんなに抵抗しなくてもいいでしょう。それとも、もしかして生娘なの?」
アルジェが洗浄油を塗布しながら嘲笑する。
かっと頭に血が昇った。
冷静でいなければとは思う。しかし、さすがにこの恥辱には憤怒が全身を支配する。
「か、勝手なことを言うんじゃ……。あっ、くっ」
悪態を返そうとした。しかし、それを揶揄うように、アルジェたち三人の薬剤を塗った指が股間を這い、乳房を揉みしだく。思わず甘い声が迸ってしまい、そのことでまた怒りが込みあがる。
「ふうん……。じゃあ、折角だから、話でもしようか」
そのとき、不意にカイネウスが言った。
「い、いいわ……。その代わり、あなたも……本音で……喋って……」
クラウディアは歯を喰いしばりながら応じる。
──焦るな。
自分に言い聞かせる。
身体は敵の手に落ちた。だが、思考まで渡すつもりはない。
この男は試している。問いかけも、沈黙も、辱めさえも、すべて反応を測るための布石だ。
ならば逆に、この男の性根を見抜いてみせる。そこに、生き残るための道があるはずだ。
だが、クラウディアの言葉になぜかカイネウスが爆笑した。
クラウディアは眉をひそめた。
「な、なにか……おかしい……のよ?」
「いや、失礼……。じゃあ、まずは、さっきのことかな……。もしかして、聖女は処女かい? 答えるんだ」
カイネウスが何気ない口調で訊ねてきた。
かっとなる。
なんという馬鹿げた質問を……。
いや、違う。こんなことを聞くために話を切り出したはずがない。これも平静を乱すための手段か?
その手に乗るな……。
そのときだった。
首筋にぴりりと小さな刺激が走った。
「……処女よ」
はっとなる。
質問はされたが、答えるつもりなどなかった。
しかし、たったいま、クラウディアの口はまるで、クラウディア自身の意思とは無関係に返事を返したのだ。
唖然となる。
「へえ、処女なの? でも、まさか、自分で秘部くらい触わったことはあるのよね」
アルジェが股間に触れながら笑う。
今度は口を開かなかった。
口を開けば、また情けない声を出してしまいそうだったからだ。三人がかりで両乳首と股間を転がすように弄られ、クラウディアの身体がびくびくと震えてしまっている。
「どうなんだい、聖女? 君は自慰の経験は? 答えるんだ」
カイネウスが静かに告げる。
だが、またしても首の後ろが熱くなる。
「け、経験はあるわ」
自分が口走ったことに、クラウディアは愕然となった。
舌が勝手に動き、喉と口が完全に自分の意思に反して言葉を紡いだ。
これは尋常ではない。クラウディアは、質問に答えさせられている。
もしかして、カイネウスが口にした“答えるんだ”という単語が、操心術の術式の合言葉になっているのだろうか?
背に冷たい汗を感じた。
「な、なによ、これ」
クラウディアは呆然となりながら言った。
アルジェたちは爆笑している。
「じゃあ、聖女様が自慰をするときには、どこを触るの? 答えるのよ」
そして、アルジェが言った。
クラウディアは、必死に口を塞ぐ。
しかし、またしても、クラウディアの舌は勝手に、言葉を紡いでしまう。
「……む、胸……。下腹部……」
喋りかけたのは、乳首とクリトリスという言葉だった。だが、頭の中で必死に言葉を言い換えようともがいた。すると、言葉を喋らないことはできなかったが、嘘ではない限り、言い換えることはできた。
いずれにしても、なんという処置を……。
「下腹部? お上品だこと。まあいいわ。じゃあ、さっきの媚薬の原液を、下腹部と胸に塗ってあげるわね」
アルジェたちが洗浄油を置き、別の容器から茶色い油剤を指にたっぷりと掬って使い始める。
それはともかく、どうやら、たったいまの現象が首の裏に打たれている魔核の効果なのは間違いなさそうだが、発動の合言葉は“答えろ”──という意味の単語らしい。
しかも、カイネウスだけでなく、アルジェにも逆らえなかったということは、もしかして、すべての人間に対して、クラウディアは、正直に答えてしまうのだろうか。
全身に戦慄が走る。
「聖女、本音を晒し合う会話には賛成だよ。あなたには聖女らしく、嘘をつけなくなる精神作用の術式を刻んでおいたから丁度いいね。さっきはあまりにも、あなたの要求がぴったりだったんで笑っちゃった。ごめんね」
カイネウスが愉しそうに言った。
クラウディアは歯噛みした。
魔核を使った魔道技術は、もともと王国よりも、共和国が遙かに高度だということは認識していたが、こんなことができるとは……。
「うあっ」
そのとき、クラウディアは思わず声をあげてしまっていた。
逆海老吊りのために真下に垂れている乳房の先端──さらに、陰核を転がすように、新たな油剤が塗り込み始めたからだ。これまでの洗浄油のような自然な塗り込めじゃない。
クラウディアを感じさせようという明確な意図を持った愛撫だ。
「あっ、ああ……ああっ」
懸命に声を我慢しようと思うが、全身に響く衝撃に、どうしても声が迸ってしまう。
しかも、塗られたばかりだというのに、その箇所が異常なほどに火照り始め、無数の虫が這うような妖しい疼きが襲いかかってきた。
しかも、それが一瞬ごとに拡大する。
そこを指で弄られるのだ。
「あら、やっぱり、感じ易いのねえ。さすがは自慰が大好きな聖女様ね。答えて?」
アルジェがくりくりと陰核を転がしながら笑う。
「あっ、いっ、いいいっ──だ、大好きじゃないいいっ」
“好きじゃない”とは口にはできなかった。その代わりに“大好きじゃない”とであれば口にできた。
「んふううっ」
だが、思念はそこまでだ。
クラウディアは、不自由な身体を限界までのけ反らせていた。
股間側にいるアルジェの指が油剤の潤滑を借りて、油剤そのものとともに奥に入りこんできたのである。
「処女膜を破ったらごめんね、聖女様。だけど、この媚薬を使っているから、痛みは大きくないはずよ」
アルジェが指に油剤を足し、さらに指を出し入れしながら言う。
ほかのふたりも、乳房から股間側に移動をしてきて、左右から指を股間に伸ばしてきた。膣に塗られているアルジェの指に加えて、花弁の入口に擦り込まれ、お尻の穴にも塗り足されていく。
「や、やめなさい──やめるのよ──」
クラウディアは逆上して叫んでいた。
しかし、指が油剤の滑りを利用して、粘膜を淫らに弾く音まで響かせながら、股間の二穴が責められ、さらに乳首も執拗に愛撫を加えてくる。
宙吊りの裸身からは、最初から汗が滴っていたが、さらに汗まみれになっていた。
「やめてえっ──いい加減にして──」
あまりにも執拗な女兵たちの愛撫に、クラウディアはついに絶叫した。
すると、こつこつとなにかが叩かれる音が耳に入ってきた。
「聖女の言う通りにしてやろう」
カイネウスだった。
さっきの音も、どうやら、目の前の小卓を指で軽く叩いたらしい。
アルジェたちが一斉に指を抜いて離れ、それぞれの椅子に戻っていく。
相変わらず、馬車は動き続けており、クラウディアはぐらぐらと揺れる鎖に逆海老の身体を吊られて放置される体勢に戻る。
ほっとしたが、それは束の間だった。
アルジェたちが指を離しても、淫らな感覚はなくなるどころか、さらに拡大して全身に燃えあがってくる。
そして、なによりも、媚薬を塗られた乳房と乳首、陰核、女淫とアナルが凄まじいほどの掻痒感に襲われていた。
「ああ、なによ……これ……」
クラウディアは感覚のなくなりかけている両手を握ったり、開いたりしながら呻いた。
全身を洗浄油で塗られたときにも異常なほどの疼きと痒みに追い詰められそうになった。しかし、新たに塗られたものは、そんなものとは次元が違っていた。
狂う──。
このまま放置されれば間違いなく、自分は発狂する──。
クラウディアは確信できた。
それほどの打ち痺れるほどの熱さとむず痒さ──。そして、性欲の疼きだった。
強烈な掻痒感──。
逆海老の身体はもう疲労が限界であり、背骨も腰骨も少しでも揺られるだけで激痛の苦悶が襲う。
しかし、それでも身体を捩らざるを得ないほどの痒みだった。
「聖女、サロンのひとつ目のルールを覚えているかい? 答えるんだ……」
そのとき、カイネウスが言う。
ひとつ目のルール……。
カイネウスが言っていたのは……
またしても、クラウディアの唇は勝手に開く。
「……ふ、服従は首を……縦に……。ふ、不服従は首を横……、でも不服従には罰……」
「その通り。顔をあげたままでいろと言ったのは解除するよ。どのみち、もう限界だろうからね」
カイネウスが小さく笑う。
「お、おろして──、もう十分でしょ──。おろしてったら──」
クラウディアは狂乱して叫んだ。
乳首と股間とアナルが狂いそうに痒い──。
とてもじゃないが、もうじっとしていられない──。
「二番目のルールだよ。要望は口にすること。要望がない場合は与えられることはない。ただし、その要望は無視される場合もある」
カイネウスが言う。
なにを言って……。
もうだめだ。
爛れるような掻痒感は、刻一刻とクラウディアの自制心を蝕んでいく。
「な、なにを言っているのよ──。じゃあ、おろして──。わたしは、おろして欲しい──。それを要望する──」
叫んだ。
「却下だ。拘束は解かない。要望は別のかたちに変えるといい」
カイネウスが即答した。
クラウディアは奥歯を噛みしめる。
「ついでだ。聖女だけの、第三のルールを作ろう……。そうだね。ディアがいいか。君の一人称は、“ディア”だ。“私”、“わたし”、”わたくし“、”あたし“全部禁止だ……。望みが叶うのは、”ディア“と自分を呼んだときだけにしよう」
カイネウスが小さく笑う。
「……な、なによ、それ……」
クラウディアは、呻くように言った。
もう限界だった。
あまりもの薄きと痒みは、クラウディアに残っている理性を根こそぎ剥ぎ取ってしまいそうだった。
「……おろして……。お願い……お願いします……」
ぼろぼろと涙が零れてきた。
「却下だと言ったはずだよ? それに、“誰が”と忘れているよ。もしかして、あなたは、そんなに頭がよくないのかな」
カイネウスが笑う。
クラウディアは、ぎりぎりと歯を噛みしめる。
それしかできることはないからだ。
そして、限界を遙かに超える疼きと痒み──。そのうえ、さらに新たな苦悶がクラウディアを追い詰めていた。
この馬車に乗せられたときから、ずっと悩ませていたものだったが、これもまた、ついに限界に達しようとしているのだ。
「か、厠に行かせて……ください……」
クラウディアは泣くような声で言った。
もともと、一日一回しか許されてなかった。男兵にぎっしりと囲まれている荷馬車の中でできるわけがなく、クラウディアは一日の尿意をずっと我慢して、毎朝の放尿だけしか許されなかったのだ。
ところが、今朝は許されることなく、馬車に乗せられて、それからずっと逆海老吊りだ。
いよいよ、尿意は限界に達していた。
そのうえに、狂うような痒みと疼き──。激痛の襲う背中と四肢──。
もうなにを耐えていいかわからない。
誰も反応しない。
揺れる馬車の音だけ──。
沈黙が流れる。
「……くっ……ディアを……厠に行かせて……ください……」
屈辱に耐えてそう口にした。
もういよいよ漏れてしまう。
「……わかった。それは許可しよう。馬車の中を汚されたくはないしね……。アルジェ、準備してあげて」
カイネウスが言った。
ほっとした。
とにかく、やっとこの逆海老吊りから解放されるのだ。
アルジェが立ちあがる。
横の箱からなにかを取り出して、クラウディアの股の真下辺りに置いた。
眼を開く。
なにこれ──?
そこにあったのは、洗顔に使うような一個の金桶だった。それがぽつりとあった。
「よく狙ってね。こぼれたら罰だよ」
カイネウスが事も無げに言った。
クラウディアは唖然となった。