サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
階段を下り切った先には、さらに奥へ向かって石造りの廊下が伸びている。
ここはまだ、一般囚たちが収容されている区域ではなく、地下で勤務する職員たちのための区域である。
廊下の左右には、地下層を管理する監房長のダンの執務室をはじめ、男性職員の私室、休憩室などが並んでいた。
昼間の勤務時間中ということもあり、人の気配は少なかった。
その静かな廊下の先から、突然、大きな歓声が響いた。
「いけっ、そのまま押せ──。こんな女男の矯正官に負けんじゃねえ──」
「負けるな──。あと少しだ──。お前が最後の砦だ──」
男たちの野太い声に混じり、机を叩く音が聞こえる。
カイネウスは足を緩めた。
声は、少し先の扉を開け放した休憩室から聞こえていた。
「勤務中に、なにを騒いでいるのでしょう……」
オクタヴィアが眉をひそめる。
カイネウスは答えず、休憩室に近づいて、開いた扉から室内を覗いた。
休憩室の中央に置かれた丸い卓を挟み、二人の男が腕相撲をしていた。
一人は、上半身を裸にした筋骨隆々の男兵だ。太い腕を震わせ、歯を食いしばりながら、相手の手を押し倒そうとしている。
向かいに座っている男も、体格では負けていなかった。
だが、その姿は周囲の男兵たちとは明らかに異なっている。
白いシャツには細かなレース飾りが縫いつけられ、胸元は大きく開いていた。
肩まで伸びた髪は艶やかに手入れされ、顔には薄く化粧が施されている。
その男は涼しい顔をしたまま、相手の腕を受け止めていた。
周囲には、上半身裸の男兵が五人ほど集まり、卓を囲んで野次と応援を飛ばしている。
上半身が裸の六人は、このサロンで勤務する男兵たちだ。そして、シャツを着ているのが、矯正官のひとりであるローランだ。
「どうしたの。もう終わりかしら?」
白いシャツの男──ローランが笑う。
「まだだ──」
男兵が力を込める。
太い腕が盛り上がり、卓が小さく軋んだ。
だが、次の瞬間だった。
ローランが腕へ僅かに力を込める。
それまで拮抗していた男兵の手が、一気に卓へ押し倒された。
ばん、と大きな音が響いた。
「ほほほ、決まりね」
ローランが倒した相手の手を離すと、優雅な仕草で髪を耳へかけた。
「ちくしょう──」
腕相撲の相手をしていた男だけじゃなく、ほかの者たちも頭を抱えた。
「これで六人抜きよ。約束どおり金貨三枚ね」
にこりと微笑み、周囲の男兵たちを見回す。
「勘弁してくれよ、ローラン。そんなに出せるわけないだろ。まだ手当前なんだ」
敗れた男兵が、卓に腕を載せたまま顔をしかめた。
「だったら、あんたらのうちのひとりが今夜あたしの相手を務めるのでもいいわよ。そしたら、賭け金のことは忘れてあげる」
ローランと呼ばれた男が身を乗り出し、しなを作るような仕草で、相手の裸の胸へ指先を触れた。
「うげえっ──。わ、わかった。夜までには用意する。お前らも出せよ。割り勘だ──」
男兵の顔が引きつって、飛び退いた。
「ふざけるなよ──」
「最後に負けたのはお前だろ──」
「お前がローランの相手をすりゃあいいだけだろう。それでちゃらなんだ」
「じゃあ、お前がしろ──」
周囲の男兵たちが騒がしく声をあげだした。
「あんたたち、なにをしているの──」
そのとき、オクタヴィアの鋭い声が休憩室へ響き渡った。
男兵たちの動きが止まり、全員がこちらを振り返った。
「あっ、お館様──」
「カイネウス様──」
椅子が倒れそうな勢いで男たちが立ち上がる。
ローランを除く全員が慌てて姿勢を正した。ローランも椅子から立ったが、ほかの男兵たちほど慌てた様子はない。
白いシャツの裾を整え、優雅に頭を下げる。
「勤務区域で賭け事とは、ずいぶん余裕があるようね──」
オクタヴィアが冷たい視線を向けた。
「非番の時間なんだよね? だったら、なにをしても問題はないよ。仕事に支障が出ない範囲なら、賭け事も禁止していない」
カイネウスは軽く手を上げた。
「しかし──」
オクタヴィアが不平そうに、カイネウスを振り返る。
「いいから、いいから……。それより、ローラン、ずいぶん暇そうだね」
カイネウスは、ローランに視線を向けた。
「そうなの。暇なのよ。誰もあたしに仕事をくれないんですもの」
ローランが微笑んだ。
「腕相撲をして遊ぶ暇があるなら、ちょうどよかった。君に任せたいことがある」
「仕事をくださるの?」
ローランの目が僅かに細くなった。
「アルトという騎士見習いが捕らえられているのは知っているかい?」
「ああ、ダンが三日前に反省房に入れた坊やね。もちろん知っているわ。初めての男性特別囚でしょう。地下じゃ、その話でもちきりよ」
ローランはすぐに思い当たったようだった。
「その子の面倒を君が見るかい?」
「まあ、あたしにあの坊やを任せてくださるの?」
ローランが顔に喜色を浮かべて眼を見開く。
「君なら彼の矯正もうまくやるんじゃないかと思ってね。しばらくの間だけだ。恒久的な処遇は、本人を見てから決める」
「恒久的な処遇も、是非やらせてほしいわね」
ローランが満足そうに笑う。
「事後承諾になるけど、それでいいかい、オクタヴィア?」
カイネウスは、オクタヴィアに視線を向ける。
一応は、すべての矯正官は、主任矯正官のオクタヴィアの統制下にある。もっとも、特別囚の専属矯正官の配置は、実際にはカイネウスがすべて決定しているのだが。
「結構ですよ。カイネウス様のお指図に不満は申しません」
オクタヴィアが肩を竦める。
「やったわね。ちょうど、かわいい男の子の相手がしたいと思っていたところなのよ」
「ローラン──。遊びではないのよ──」
オクタヴィアが咎めるように名を呼んだ。
「わかっていますわ、主任矯正官様」
ローランは笑顔のまま答えた。
「では、一緒に来てくれ」
カイネウスは言った。
「もちろんですわ」
ローランは卓の上に置かれていた上着を取り、肩へかけた。
それから、先ほど腕相撲で負かした男兵へ振り返る。
「金貨三枚か、ひとりの生け贄をあたしの部屋に差し出すこと。忘れないでね」
「わ、わかってるよ……」
「生け贄を決めたら、お尻は綺麗に洗っておくのよ。ちゃんとね……」
ローランが笑う。
「金貨を持っていくよ──」
男兵たちが苦々しそうに答えた。
ローランは満足そうに頷くと、カイネウスたちの後ろへ並んだ。
カイネウスとオクタヴィアは、ローランを伴って地下の廊下を進んでいく。
先ほどまで並んでいた職員の私室や休憩室に代わり、左右の扉には宿直室や武器庫、一般囚に使う矯正具や拘束具の倉庫を示す札が増えていった。相変わらず、昼間の勤務時間中ということもあり、人の気配はほとんどない。
ローランが歩きながら、肩へ掛けていた上着へ腕を通した。
白いシャツの上から前を整え、乱れていた髪を指先で軽く撫でつける。
「せっかく身体が温まったところでしたのに。もう少し遊んでいたかったわ」
「仕事を与えてもらえただけ、ありがたく思いなさい」
オクタヴィアが前を向いたまま言った。
「もちろん感謝しておりますわ。主任矯正官様」
ローランが笑顔で答える。
廊下は途中から緩やかに曲がり、その先には、なにも置かれていない長い回廊が続いていた。壁には等間隔で魔道灯が据えられ、青白い光が石床を照らしている。
三人の靴音だけが、乾いた音を立てて回廊へ響いた。
やがて、その先を塞ぐ鉄格子の門が見えてきた。
天井まで届く頑丈な格子門である。門の脇には小さな監視所が設けられ、二人の男兵が詰めていた。
その鉄格子の向こうから、男たちの大声が聞こえてくる。
「腰を落とすな──。姿勢を保て──」
「あと少しだぞ──」
「そこで力を抜いたら、ほかの四人が罰を受けるぞ──」
何人もの男兵がはやしたてる声や幾つかの鈴が重なって激しく鳴る音。その合間に、若い女たちの押し殺した喘ぎ声や、苦しげな息遣いが混じっていた。
カイネウスの姿に気づき、監視所の男兵たちがすぐに立ち上がる。
「あっ、お館様──」
二人が揃って敬礼した。
「そのままでいいよ。開けてくれるかい?」
「はっ」
ひとりが腰から鍵束を取り出し、もうひとりが格子門の横に取りつけられた魔道盤へ手を触れた。
淡い光が盤面に浮かび、格子門の内側を走っていた術式が消えていく。
続いて鍵が回された。
カイネウスはオクタヴィアとローランを伴い、開いた格子門をくぐった。
門の先にも、石造りの回廊が続いていた。
男兵たちの号令や女たちの喘ぎ声は、その奥から響いている。
三人が回廊を進むにつれ、幾つもの鈴が重なって鳴る音も、魔道具の低い作動音も次第に大きくなっていった。
汗と油、それに薬品の匂いも濃くなり、地下に籠もった熱気が肌へまとわりつく。
やがて、左右を石壁に挟まれていた回廊が途切れた。
視界が一気に開ける。
その先には、天井の高い地下広間が広がっていた。
カイネウスの眼へ最初に飛び込んできたのは、男兵たちに周囲を囲まれながら、広間の中央で矯正を受けている若い女たちだった。
二十名ほどいる。
女たちは五人ずつの四つの組に分けられているようだ。
両腕は頭の後ろへ回され、左右の手首が首環の後ろでひとまとめに拘束されている。さらに、両膝の間には短い棒枷が挟まれ、脚を大きく開いた姿勢を強いられていた。
全員が腰を落とした中腰の姿勢だ。
曲げた両腿の上には、姿勢を確認するための細長い棒が一本ずつ載せられており、それを落とさないよう強要されているらしい。
背筋を伸ばしたまま、その不自然な格好を保つことも訓練の一部なのだろう。
膝を閉じることも、腕を下ろして身体を隠すこともできない。
僅かに腰が上がり、あるいは背中が丸まっただけで、周囲の男兵たちから鋭い叱咤が飛んだ。
かなり長い時間、その不自然な格好をさせられているのだろう。全員の肌は赤く火照り、おびただしい汗が身体を伝って石床へ滴り落ちていた。
「棒を落とすなよ。落とせば、自分以外の仲間に電撃だ」
「締めつけも忘れるな。緩めれば電撃だからな──」
さらに広間の中へ進むと、女たちの股間だけでなく、尻にも矯正訓練用の張形が使われていることがわかった。
体内へ差し込まれた器具は、根元の一部だけを外へ覗かせ、絶えず激しく振動していた。その強さは、周囲の男兵たちが手にした操作具で調整されているらしい。
腰を震わせまいと歯を食いしばる者──。
荒い息を繰り返しながら、必死に中腰を保つ者──。
声を漏らすまいと唇を噛み、それでも喉の奥から掠れた喘ぎを零す者──。
回廊まで響いていた若い女たちの声は、このためだったようだ。
だが、刺激を与えているのは魔道具だけではない。
男兵たちの何人かは、細い柄の先に鳥の羽根をつけた道具を手にしていて、組の間を歩き回りながら、気紛れに羽根の先を女たちの内腿や腰の際へ這わせている。
いつ、どこへ触れられるかわからない。
女たちは反射的に身を捩るが、首の後ろで拘束された両腕と、膝の間に嵌められた棒枷が、それを許さない。
羽根から逃れようと腰を引けば、太腿に載せられた棒が傾く。姿勢を崩した途端、たちまち男兵たちの罵声が浴びせられた。
「棒を落とすな──」
一人の令嬢の腋の下をくすぐっていた男兵が、いったん羽根を離した。
令嬢がほっと息を吐いた直後、隣の兵が背後へ回り込み、股のあいだに羽根を滑らせる。
「ひああっ、ひいっ」
令嬢の身体が小さく跳ね、押し殺していた声が漏れた。
さらに、女たちの胸と股間には、三個の小さな鈴がぶら下がっていた。
胸の二つの鈴は乳首の根元へ取りつけられた金具から垂れ、もう一つは股間からぶら下がっている。全員の股間は無毛処置が終わっているので、鈴のぶら下がっている場所が陰核の根元を締めつけている細い金属環であることまでわかる。
身体の反応が強くなり、震えを抑えられなくなれば、鈴が揺れて音を立てる仕組みらしい。
だが、単に反応を知らせるためだけの鈴ではないようだった。
りん──。
ひとつの鈴が鳴る。
「ああ、だめえ」
女が泣きそうな声で息を呑み、慌てて身体を固くした。
りん、りん──。
別の組からも音が続く。
「おお、こっちの班は、また二個鳴り出したな。あとひとつ重なれば、残りのふたりに電撃だ。我慢しろよ」
鈴の音が重なるたび、男兵たちが囃し立てる声が上がった。
「おい、お前、太腿が震えてきたぞ。棒を落とすと、仲間の四人に電撃だ。また迷惑をかけるのか?」
別の班では、そうやって一人の令嬢が囃したてられている。
それだけでなく、同じ組の令嬢たちが、必死に互いを励まし合う声も聞こえていた。
どうやら、五人一組で行う連帯訓練らしい。
おそらく、決められているいずれかの条件を満たせば、同じ組の仲間へ電撃が加わる仕掛けなのだろう。
女たちは互いの音へ怯えるように視線を動かしながら、それでも命じられた姿勢を崩すまいと耐えている。
そして、周囲では、別の一般囚たちが広間の床を拭き回っていた。
清掃当番の令嬢たちである。
両手首には手枷が嵌められ、腰には姿勢を制限する赤い股縄が施されている。長い柄のついたモップを持たされ、訓練中の女たちの足元へ滴り落ちる汗や愛液、そのほかの汚れを追いかけるように、石床を往復していた。
新たな汚れが落ちるたび、すぐに駆け寄って拭き取らなければならない。
訓練中の者や男兵の進路を妨げれば、棒で床を叩かれて退かされる。
それでも腰を伸ばすことは許されず、決められた姿勢のまま、広間の中を動き続けていた。
「そこが残っている。もう一度拭け──」
男兵の声が飛ぶ。
清掃役の令嬢が怯えたように頭を下げ、いま拭き終えたばかりの場所へ戻っていく。
矯正を受ける者も、その後始末をさせられる者も、同じように身分を奪われた王国の元貴族令嬢たちだった。
「大将」
広間の奥から、野太い声が響く。
カイネウスは、そちらへ眼を向けた。
男兵たちの間を縫うようにして、大柄な男がこちらへ歩いてきた。
地下層を預かる監房長のダンだ──。
広い肩と太い腕を持ち、共和国軍の軍服の上からでも、鍛え上げられた身体つきがはっきりとわかる。もとは共和国軍の下級兵士から叩き上げで昇進した軍人であり、現在は地下層に勤務する男兵たちを束ねている。
ダンはカイネウスの前まで来ると、胸へ拳を当てて頭を下げた。
「お戻りになったのですね、大将」
「ついさっきね。僕が留守の間も、問題はなかったかな」
「大きな問題はありません。一般囚の収容も矯正も、予定どおり進んでいます」
ダンが顔を上げた。
「そのようだね」
カイネウスは、目の前の令嬢たちの必死の肢体に視線を向けながら頷いた。
広間では、いまも男兵たちの号令と鈴の音が絶えず響いている。
ひとつの組で令嬢の太腿が震え、載せられていた棒が僅かに傾いた。仲間たちが怯えた声で、その女へ耐えるよう呼びかけている。
ダンの視線がカイネウスの後ろにいるオクタヴィアとローランへ向けられた。
「ローランはどうしたんだ。今日は非番じゃなかったのかよ」
ローランの姿を認めると、ダンは小さく笑う。
「あたしも、いよいよ特別囚のお相手よ。お館様に直々のご指名を頂いたのよ」
「もしかして、例の坊主ですか? なるほど、適任かもしれねえ。とりあえず、よろしく頼むぜ」
ダンはそれだけで察したらしい。
「よろしく頼まれるわ。任せて」
ローランが太い腕を曲げて力こぶを作るような仕草をした。
「ところで、ここでやっているのは、どういう矯正なのかな?」
カイネウスは尋ねた。
「連帯持久矯正ですよ」
ダンは訓練中の女たちへ顎を向けた。
「どんな風にやってるんだい?」
さらに訊ねる。
「五人を一組にして、指定した姿勢を保たせています。太腿の棒を落とす。股間の器具を締めつける力を緩める。身体の反応を抑えきれず、規定数の鈴を鳴らす。どれかの条件に触れれば、同じ組の仲間へ電撃が流れます。鈴がぶらさがっている三箇所にね」
「失敗した本人ではなく、仲間に?」
「そういうことです。この連中は、自分が罰を受けるより、自分のせいで仲間が罰を受ける方が堪えるようでしてね。このやり方に変えてから、ずいぶん矯正の効率が上がりました」
そのとき、一番近くの組から、二つの鈴の音が重なった。
りん、りん──。
男兵たちが声を上げる。
同じ組の令嬢たちは、残るひとつの鈴まで鳴らせまいと、必死に互いへ呼びかけていた。
「なるほど。電撃を受けない者も、決して楽ではないということだね」
「本人を直接罰するより、よほど堪える者もいます」
「なるほどねえ。よく考えているね……。でも、何度も失敗すれば、仲間から恨まれることにもなるんじゃないかい?」
「それも狙いのひとつですよ」
ダンは平然と答えた。
「どういう狙い?」
「同じ女の失敗で何度も電撃を受ければ、慰め合ってばかりもいられません。必ず能力の差が出てきます。うまくやっている者がそうでない者を詰るようになりますね」
「わざと優劣をつけてしまうのかい?」
「そのままにはしませんよ。次の訓練では、仲間を詰った者へ刺激を集中させ、今度はそいつ自身を失敗させます。そうやって牙を折っていくんでさあ」
ダンが笑い声をあげる。
すると、鼻を鳴らす音が聞こえた。
オクタヴィアだった。
「馬鹿馬鹿しいことですわ」
オクタヴィアが小馬鹿にしたように口を挟んだ。
「なにがですかねえ、主任矯正官様?」
ダンがゆっくりと彼女へ顔を向けた。
「耐えられなかった者を、その場で罰すれば済む話でしょう。鈴を吊るし、棒を載せ、仲間同士で励まし合わせる。無駄に手順を増やした、回りくどい矯正ですこと」
「身体だけでなく心まで折る。それがサロンの方針でしょう。俺たちは、そのとおりにやっているだけですがね」
「回りくどいと言ってるんです」
「回りくどいかどうか、主任矯正官殿も体験してみますか」
ダンは反論せず、オクタヴィアの姿を上から下まで眺めた。
「はあ、なにを言っているのです?」
「馬鹿馬鹿しいと仰るくらいです。なら体験しましょうよ」
「体験?」
「ちょうどひとり外して、主任殿に効果を確かめてもらおうと思ったのですがね。あそこに並んで、裸で同じ格好になるんですよ、ああ、鈴がぶら下げにくいので、陰毛は先に剃らせてもらいますけどね」
ダンが大真面目な表情で言った。
しかし、近くにいた男兵たちが、笑いを堪えるように顔を伏せている。
「ダン──」
オクタヴィアが真っ赤な顔で怒鳴る。
「冗談ですよ。主任殿が地下の矯正へ難癖をつけるのは、いつものことですから」
「わたくしは、無意味なものを無意味だと申し上げているだけです」
「なら、実際に試してから仰ればよろしい。いかに効果的かがわかるはずです」
「ふざけないで──」
オクタヴィアが喚いた。
「まあまあ、それよりも、ほかの矯正も見せてくれるかい。せっかくだから、見学をさせてもらってもいいかな」
カイネウスは口を挟んだ。
「もちろんです。ご案内します。矯正室で魔道技師殿が面白い実験をやってましてね」
「もしかして、エリナかい?」
カイネウスは言った。
エリナが絡んでいるのなら、また妙なことを始めたに違いない。
「まあ、見てくださいよ」
ダンが意味ありげに笑い、広間の奥へ向かって歩き始めた。
カイネウスも、オクタヴィアとローランを伴ってその後に続いた。