サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「破瓜? なんで、そんなことをさせているのよ。しかも、一般囚同士で?」
オクタヴィアが唖然とした顔になり、大声をあげた。
「生娘のままじゃあ、矯正はできないからね。最初に生娘を散らす。僕の指示だよ」
カイネウスは応じた。
「馬鹿馬鹿しい。王国の娘たちに、そんな処置は必要ありません。百歩譲って処女を散らさせるとしても、男兵の輪姦で十分です。そのために、一般囚には男兵をつけているんですから」
「僕の指示だからいいんだよ。まあ、女囚同士で破瓜をさせろとまでは指示していないけどね……。それはマルティナが?」
カイネウスはダンへ僅かに視線を向けた。
「いきなり心を毀されても、矯正に支障が出ますからね。寮母様がそうすると。まあ、俺はいい方法だと思いますけどね」
「却下よ──却下。共和国の考えるサロンの理念に反します。生娘は冷酷に輪姦にかける──。それが必要です」
すると、オクタヴィアが三人の男兵へ視線を向けた。
「許可します──。あんたらは、この向こうへ行って、あの娘たちの処置を代わりなさい」
オクタヴィアが金切り声をあげた。
三人の男兵は顔を見合わせた。
誰ひとり動こうとはせず、困ったようにカイネウスへ視線を向ける。
「困るなあ……。勝手な命令をされては。そもそも、君に兵への命令権はないよ」
カイネウスは、意識して穏やかな口調で言った。
「ここは譲れません──。さもなければ、共和国政府へ正式に申し立てます。閣下の運営方針そのものを、査問にかけてもらいます」
オクタヴィアがカイネウスを睨みつけた。
「参ったねえ」
カイネウスは苦笑した。
そのとき、カイネウスは透明壁の向こうで、マルティナが椅子から立ちあがったことに気づいた。
マルティナは、真っ直ぐにこっちに向かってきながら、足を止めることなく、処置を続けている令嬢たちへ一度だけ視線を向けた。
「そのまま続けてね。いい子ちゃんたちね」
それだけを告げ、そのまま石壁を抜けるようにして観察室に現れた。
「ええっ?」
ローランが眼を見開く。
三人の男兵も驚いたように身体を固くしていた。
オクタヴィアでさえ、一瞬だけ言葉を失っている。
「カイちゃん、お帰りなさいね。怪我はなかった?」
マルティナが、にこにこしながら言った。
「おかげさまでね……。ただいま、マルティナ。……ところで、新入りの一般囚の世話をしてくれたみたいだね。ありがとう」
カイネウスは、マルティナを軽く抱き締める。マルティナも抱き返してきた。
すると、横に立っていたオクタヴィアが一度だけ大きく足を踏みならす。
「冗談じゃありません──。こんな生ぬるい方法は到底許容できません。方針の変更を求めます」
オクタヴィアが毅然として言った。
マルティナがカイネウスから離れて、初めて彼女へ顔を向ける。
「さっきから、あなたがこっちで怒鳴っていたのは聞こえてたわ。この前いらした主任矯正官よね。このサロンは、共和国政府から認められたカイちゃんのお城なのよ。カイちゃんの言葉が、ここでは掟なの。あなたが勝手に口を出すことではないわ」
「サロンは私的機関ではございませんよ、マルティナ様。共和国政府が進める統治施策のひとつです」
「建前はそうね。でも、ここはカイちゃんが王国の滅亡に寄与した功績として与えられた場所でしょう」
「愚かしいことを……。そもそも、どうして、あんな生ぬるいやり方を採っているのです?」
オクタヴィアが、小馬鹿にしたようにマルティナへ訊ねた。
「最初から男へ渡すとね、娘たちは男を憎むことだけを覚えてしまうわ」
マルティナは穏やかに答えた。
「憎むような余裕を与えるからでしょう。徹底的に恐怖で縛る──。それをしないから、余計な手間がいるんです。ここには瀕死になっても、蘇生させられる設備があるんですから、徹底的に暴力で躾ければいいんです。それが最適解ですわ」
「恐怖や羞恥が強すぎれば、心を病んでしまう娘もいるわ。そうなれば、その後の矯正にも生活にも支障が出てしまうでしょう」
「だから、一般囚同士で馴れ合いのような破瓜をさせると?」
「馴れ合いではないわね」
マルティナが微笑んだ。
「でも、そうとしか見えませんのよ、マルティナ様」
オクタヴィアが嘲笑するような表情で、壁の向こうに視線を向ける。
見ると、透明壁の向こうでは、いよいよちょうど中央の娘への処置が始まっていた。
腰に固定式の張形をつけた令嬢が、処置椅子の脚台の間へ進み出ている。残る二人は、拘束された娘の手を握り、肩を抱いたまま、変わらず優しい言葉をかけ、愛撫を続けていた。
「力を抜いてね。すぐに終わるから」
「大丈夫よ。わたしたちも、みんな同じだったの」
令嬢がゆっくりと腰を進める。
中央の娘が息を詰め、手を握っていた令嬢の指へ縋るように力を込めた。
張形の先端が真ん中の娘の股間に触れ、静かに挿入されていく。処置椅子に拘束されている娘の身体が大きく跳ねあがる。
「頑張りましょう──。しっかりとして──」
「大丈夫よ──。もう少しだから──」
周囲の娘たちは誰ひとり手を放さなかった。
髪を撫で、頬へ口づけをし、苦痛に歪む顔へ何度も大丈夫だと言い聞かせている。それだけでなく、少しでも苦痛が小さくなるようにと、乳首を舐め、胸を揉み、張形の繋がっている部分に手を伸ばして、静かに陰核を愛撫したりもしている。
苦痛の声に混じって、快感を覚えている娘の嬌声も混じりだした。
「……なによ、この甘い掛け合い……。これが王国貴族への報復になるとでも?」
オクタヴィアが鼻を鳴らす。
「自分と同じ目に遭った娘に手を握られて、わたしも同じだったわ、と言われながら最初の処置を終えるの。そうすれば、自分だけが特別に酷い目に遭わされているとは思わなくなるでしょう」
透明壁の向こうでは、令嬢たちが変わらず新入りの娘へ優しく声をかけ続けていた。
「それがなに?」
「ここでは、誰もが同じことを経験している。この先も、みんながこうして生きていく。その事実を受け入れた娘ほど、早くこの場所へ馴染めるのよ」
「恐怖で心を折って、諦めさせればいいことでしょう」
「これが当たり前なのだと覚えてもらうのよ、それが一番効率的なの」
マルティナは、幼い子供へ言い聞かせるような口調で言った。
「一番効率的なのは、恐怖です──。圧倒的な絶望を最初に与える。それで支配できます」
「恐怖は適度に混ぜるわ。でも、それだけでなく、受け入れるための言葉と一緒に与えた方が、心は毀れにくいわ。実際、最初から男兵へ渡した娘より、先に収容された娘たちに付き添わせた方が、その後の生活にも早く適応しているもの」
「だからといって、共和国の理念に反するやり方が認められると思わないことです」
オクタヴィアが冷たい口調で言い放つ。
「理念、理念って……。あなたは難しいことばかり言うのね」
マルティナが困ったように微笑んだ。
「これについては、王都の共和国暫定政府へ正式に申し立てます。そこで問題がないと判断されれば、それ以上は、なにも申しあげません」
「うーん、まあいいんだけど、意味はないと思うよ。僕も、せっかく来てもらった優秀なあなたを、サロンから追い出したくはないしね」
カイネウスは頭を掻いた。
「それは、わたしに対する脅迫ですね。それも含めて、申し立てをさせていただきます」
「熱くなるのはおやめなさい。ほら、これを見て?」
マルティナが服の内側へ手を入れた。
取り出したのは、手のひらに載るほどの赤い楕円球だった。
表面には張りがなく、柔らかな肉の塊のように、ぶよぶよと僅かに形を変えている。
「はあ……。なんですか、それ?」
オクタヴィアが怪訝そうに訊ねた。
「あなたの陰核よ」
マルティナが、なんでもないことのように答えた。
「はああ、なにを言っているのですか?」
「もちろん、実物ではないわよ。でも、あなたの陰核が受ける感覚をこの中へ移したの。知っているかしら。陰核というのは、外から見えている小さな部分だけではないのよ。大半は身体の中へ隠れているの」
「ちょっと、なにを喋っているのか、わからないんですけど?」
オクタヴィアの口元に薄い笑みが浮かんだ。
「だから、つまりはこういうことよ」
マルティナが手に持っていた楕円体のものをぐっと握って、揉むように手の中で動かし始めた。
「うあっ」
オクタヴィアが悲鳴をあげるとともに、下腹部に両手を当ててしゃがみ込んだ。
「あら、なにごと?」
「どうしたんだよ」
ローランとダンが驚いたように眼を丸くしている。
しかし、カイネウスには、マルティナがなにをしたのか、おおよその見当がついていた。マルティナはどこにも属さない市井の魔女だが、その能力は神がかりだ。
多分、一瞬にしてオクタヴィアの身体の感覚を操ったのだろう。
「ひいいっ、いやっ、あっ、ああ──」
オクタヴィアは身体を真っ直ぐにしようとするものの、マルティナの手が楕円球を揉み続けているので、腰を屈めたまま立つことができないでいる。
「あら、大丈夫、主任矯正官様」
マルティナがやっと楕円体を揉むのをやめて、白々しくオクタヴィアに声を掛けた。
「な、なんなのですか──、い、いまのはあなたの仕業──?」
オクタヴィアがやっと立ちあがって、マルティナを睨む。
「仕業ってなにかしら? それよりも、頭は冷えたかしら」
マルティナがくすくすと笑う。
「冷えるどころか、もっと熱くなったんじゃないの? 頭もあそこも……」
ローランが横から軽口を挟んだ。
「か、帰ります──」
オクタヴィアが真っ赤な顔のまま廊下に出る扉に向かって身体を向けた。
すると、またもや、マルティナが楕円体を手で揉み始める。
「んくうっ」
オクタヴィアがその場で膝を折った。
「帰るのなら、これをあげるわね。誰にも取られないように隠した方がいいわよ。あなたのクリトリスだから」
マルティナが悪戯をやめて、楕円体をオクタヴィアに差し出す。
「くっ、お、覚えてなさい──」
オクタヴィアは楕円体を引きつった顔で掴むと、書類板で隠すようにしながら立ち去っていく。
乱暴に扉が閉じられて、オクタヴィアはいなくなってしまった。
「参ったねえ。しばらく不機嫌だよ……。その相手を僕がするんだけど」
カイネウスはわざとらしく肩をすくめて見せた。
「そのときは、またあの娘を叱ってあげるから大丈夫よ、カイちゃん」
マルティナがにっこりと微笑んだ。