サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「──始めろ」
カイネウスの声が落ちた瞬間、女兵たちの動きが揃った。
左右、背後、下方に配置された女兵が同時に踏み込み、セリアの身体に一斉に手を伸ばしてくる。肩、乳房、腹部、腰、内腿へと、くすぐるように指を這わせる。
セリアは息を呑んだ。
「──その手を放しなさい……。だ、誰の身体に触れているか、理解しているの……っ──あ……」
思わず身体をのけぞらせる。
しかし、四肢は上下に引き延ばされ、肩関節と股関節に張力がかかっている。わずかな動きでも肩と腕に鋭い痛みが走る。
「く……っ──」
歯を食いしばる。
女たちの指は執拗に絡みつくように動き、身体の奥からざわつく感覚を引きずり出してくる。胸の奥が締めつけられるように疼き、逃げ場のない身体が反応を強いられる。
顔を逸らそうとするが、顎は固定されている。視線も動かせない。
胸元に触れていた指が、中心を探るように触れ方を変える。
腹部をなぞる手がゆっくりと上下し、呼吸の動きに合わせて圧を変える。
内腿に入った手が、じわりと奥へ触れ、反射的な緊張を引き出す。
「……あ……っ、やめなさい……──それ以上は……ゆ、許しません……っ」
声が乱れる。
だが、言葉は崩さない。
呼吸が詰まる。
刺激は確かにある。だが、それ以上に関節へかかる負荷が強い。少しでも身じろげば、肩と腕に痛みが走り、身体の感覚が歪む。
「──待て」
カイネウスが言った。
女兵の手がぴたりと止まる。触れている位置はそのままに、動きだけが消える。
「どうしたのだ、将軍? よいところではないか」
横からヴェルデンの声が入る。給仕の女に酒を足させながら、軽く肩をすくめている。
カイネウスは姿勢を変えないまま、視線だけをセリアへ向けた。
「……いまの状態だと、少しもったいないかなと思ってね」
静かに言う。
「もったいない?」
「苦痛が強すぎて、他の反応が潰れている」
「構わんだろう。どうせ、そのうち慣れる。いずれ、その苦痛すら快感と受け入れるようになる」
ヴェルデンが笑う。
「それはそれでいいけどね。せっかくだから、もう少しわかりやすくしてあげよう」
カイネウスは軽く息を吐き、視線をわずかに動かす。
「アルジェ──少し緩めろ」
「はい」
アルジェが即座に応じ、ハンドルに手をかける。
ゆっくりと巻き取られていた鎖が戻る。上方へ引かれていた腕がわずかに下がり、張力が調整される。
爪先が床に触れる。体重の一部が戻る。
「……っ──」
セリアの呼吸は乱れている。
完全な解放ではない。だが、先ほどまでの一方的な痛みだけの状態ではなくなる。
「そのくらいでいいよ。じゃあ、再開しようか」
カイネウスが言う。
セリアの背筋が強張る。
開放されたのではない。とことんセリアを嬲るために鎖を緩めただけだ。それはわかった。
「……ま、待ちなさい──。さっきから、わたくしになにをするつもりですか」
息を整えきれないまま、それでも言葉を返す。
「ただの矯正だよ。いやなら、拒否すればいい」
カイネウスがくすくすと笑う。
「きょ、拒否ですって……? だ、だったら、拘束を解きなさい──」
セリアは声を張りあげた。
「その自由はないよ、隷属民セリア……。あなたは常に拘束される。檻の中で休むとき以外はね。それがこのサロンにおける隷属民の掟だ」
隷属民──。
また、その言葉……。
「あなた──自分のしていることが許されるとでも思っているの──。わたくしは王族です──。隷属民とはなんですか──」
カイネウスは答えない。にやにやと微笑むだけだ。
セリアは一瞬、声を失った。
それにしても……。
やはり、似ている。
顔の傷で印象は大きく変わっている。それでも、眼差しや声の響きに、どうしても記憶を刺激されるものがあった。
──カイン。
十年以上前、初めて恋を知った少年。
一瞬だけ、その名が胸の奥に浮かぶ。
だが、否定した。
あり得ないのだ。
カインは死んだのだ。父の命によって、殺された。
ならば、似ているだけなのだろう。
そうでなければ、おかしい。
セリアは胸の奥に残った違和感を振り払った。
「続けて、アルジェ」
カイネウスが指先を軽く動かした。
その一言で、女兵たちの手が再び動き出す。
四方から同じように、だが、先ほどよりも確実に身体へ入り込む。
「あっ、もう、やめなさい──」
セリアの身体がびくりと反応し、思わず悲鳴をあげる。
拘束している鎖が小さく鳴った。
全身のあちこちに伸びた女兵たちの手が、先ほどよりも確実に、深く、セリアの身体に入り込む。
肩から胸へ、腹部から内腿へ──指先が逃げ場を塞ぐように配置され、間を置かずに動く。触れられているというより、絡み取られている感覚だった。
「……っ、やめなさい──それ以上は許しません──」
言葉は保とうとする。だが、呼吸がそれに追いつかない。
胸が上下するたび、指先がそれに合わせて圧を変える。逃げようと力を入れれば、その反応に合わせて別の場所に触れられる。
動きがすべて読まれている。
「……あ……っ、ああ……」
喉の奥で音が漏れる。
身体の内側から、熱がせり上がってくる。
「あなた方テレオロス人は二級民だが、このサロンに収容されるのは、さらに隷属民に区分されたものだ……」
そのとき、カイネウスが軽く言った。
耳に入る。しかし、女たちの愛撫が邪魔で頭でうまく処理できない。
すると、何人かの刺激が指ではなく絵筆のようなものに変わった。穂先の柔らかいところで股間の茂みをくすぐられ、乳首をはかれる。
その刺激に別の女の指が混ざる。
「くあっ、ああっ」
戦慄のような身震いが襲う。
「……あなたももう隷属民……。立場も出自も関係ない。一切の権利を持たない最下位の階級だよ」
「……違う……わたくしは……っ」
逃げ場がない。四肢は固定され、逃げるための動きそのものが刺激に変わる。
いくら悶えても──この責めを防ぐ手段は、なにもない。
肉体はすでに、制御を失いかけている。
「……やめなさい──やめ……っ」
言葉が続かない。
内腿を襲っていた指が、わずかにクリトリスに位置を変える。
「んくうっ」
その瞬間、身体が跳ねる。
鎖が鳴る。
「──っ」
息が止まる。
胸を押さえていた手が、呼吸の止まりを逃さず圧をかける。
腹部にあった手が、収縮を確かめるように指を沈める。
逃げようとした動きが、そのまま反応になる。
「……ま、待ちなさい──わたくしは──」
言葉が崩れる。
止めようとしているのに、身体が止まらない。
「ここは──ただ閉じ込める場所じゃない」
カイネウスがさらに続ける。
「……選民意識の高い連中を、まともに使えるように矯正するための場所だ」
内腿に触れていた指が、わずかに動く。
「……王侯貴族だった人間ほど、手間がかかるからね」
「……っ」
セリアの身体が跳ねる。
脚が震える。
指先から逃れようとした動きが、逆に絡め取られていく。
「……っ、や……やめ……っ」
呼吸が乱れる。
どこに力を入れても、そこに触れられる。
どこを逃がそうとしても、そこを捕まえられる。
限界が近い。
拒もうとするほど、深く引きずり込まれる。
理解している。
それでも止められない。
「矯正が終われば、このサロンで、僕たちフィロス人の慰安に使われる」
カイネウスが言う。
「あ、ああ……。い、いあ……ん……?」
「……それが隷属民に与えられた役割だよ……」
「あっ」
セリアは昂ぶった声を張りあげた。
いきなり、セリアの前後の女兵がしゃがみ込み、前から女の羞恥の源と、後ろの穴を舌で舐め始めたのである。
「ば、ばかなことは──やめなさいっ」
セリアは悲鳴をあげた。
身体が大きく跳ねた。
声にならない音が喉で潰れる。
「うあっ」
セリアはうなじを大きくのけぞらせた。
腰から背中にかけて、じんと切ない快感が走る。
視界が一瞬、白く飛ぶ。
身体が限界まで反れてぴんと張る。次いでがくりと脱力した。
鎖が強く鳴り、固定された四肢がわずかに震え続ける。
数瞬、時間が止まったように動かない。
「……っ……なに……を……」
遅れて呼吸が戻る。
自分の身体が何をしたのか、理解が追いつかない。
「結構、あっという間だったね、セリア妃。仮にも王族と名乗るなら、もっと我慢してみたら?」
カイネウスが、肘をついたままその様子を見ていた。
「仕込みがいがあるな」
ヴェルデンも陽気な声をあげた。
「これがサロン・セルパンタンだ──。矯正は毎日行われる、隷属民セリア」
カイネウスが静かな口調で言った。
セリアは肩で息をしながら、自分が晒してしまった醜態に歯噛みした。
「──だが、これで終わりか? 随分と大人しいな、将軍。これではただ弄んだだけだろう。王族を堕とすには、まだ足りんのではないか?」
すると、ヴェルデンがカイネウスの横で軽く肩をすくめて笑った。
視線は前方へ向けられている。拘束台に固定されたセリアの身体がその先にある。
「まだだよ。これは導入に過ぎない。ここでの扱いと自分の立場を認識させる必要がある。それが曖昧なままだと、矯正は効率が悪い」
カイネウスは姿勢を変えず、視線だけをセリアへ向けて言った。
「随分と手間のかかる話だな」
ヴェルデンが鼻で笑う。
「王侯貴族だった人間ほど、手間がかかる」
カイネウスは短く返す。
「……は、恥を知りなさい……ふたりとも……」
セリアの指先がわずかに震える。絶頂したばかりの身体はまだだるい。しかし、脱力したくなる身体を懸命に耐え、毅然としてふたりを睨む。
「恥を知るのはあなたの役割だ、隷属民セリア……。……アルジェ、次に進め」
カイネウスが言った。
「はい」
女兵たちの動きが変わる。
「首環を嵌めて、前屈の体勢で固定しろ」
カイネウスの指示が落ちる。
女兵が一斉に動いた。首元へ手が入り、金属の環が嵌められる。同時に、そこから伸びた鎖が床側の固定具へ繋がれた。
同時に両手首に繋がっている鎖を緩められながら、首の鎖が床側に引っ張られていく。上体が前へ折れる。
「くっ、な、なにを……」
腰を支点に背中が押し下げられて首は床側へ引かれ、上体が前へ折られる。腕の拘束は緩められているが、体勢を崩すこほどではない。
前屈した格好のまま動かすことができなくなってしまった。
その状態のまま、拘束台が動かされる。台座自体がもともと動かせるようになっていたようだ。車輪がからからと床を転がり、カイネウスたちのすぐ前に移動させられた。しかも、向きが変えられ、前屈したセリアの尻側が、カイネウスたちに向けられる。
「こ、こんなこと……」
お尻の穴を男たちの目の前に晒すという、息も止まるかのような浅ましい格好をさせられ、さすがに真っ赤に火照った顔を左右に動かして悲鳴をあげた。
「ほう、妃殿下の尻の穴か。まさか、そんなものが見られるとはな」
ヴェルデンが愉しそうに声をあげた。
その声があまりにも近く、セリアは憤怒と口惜しさに歯ぎしりした。
「アルジェ、痒み油を塗ってやって。尻の穴にね」
すると、カイネウスが事も無げに言った。