サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「アンクレット……?」
セリアは、カイネウスの手に載せられた真紅の足環を見つめた。
カイネウスは答えず、その場へゆっくりと腰を落とす。
そして、セリアの右足首へ細い輪を通した。
豪奢なドレスを身につけてはいるものの、足元には靴を履かされていない。
カイネウスが無言で、セリアの右足首に、開いていた輪の両端を合わせた。
かちり──。
小さな音がして、次の瞬間、足環が青白く光った。
「……っ」
足首から身体の奥へ、微かな魔力の流れが走る。
それと同時に、嵌められた場所へ僅かにくすぐったいような感覚が生じた。
覚えがある。
部屋で嵌められた指環も、身体へ取りつけられたほかのリングも、装着された瞬間に同じ光を放った。
「これも……魔道具なのですね……」
「ああ。ところで、そのままでいいのかい?」
カイネウスは楽しそうに答えながら、もうひとつの足環を取りあげた。
そして今度は、セリアの左足首へ通す。
「……えっ?」
ようやく嫌な予感がした。
そういえば、少し前にカイネウスは、この贈り物について、セリアへ意地悪をするために用意したのだと笑っていた。
その言葉が不意に脳裏へ蘇る。
カイネウスの指が、輪の端へ掛かった。
はっとした。
「あっ、待って──」
セリアは慌てて声をあげた。
しかし、もう遅かった。
かちり──。
輪が閉じた。
次の瞬間、アンクレットから青白い光が弾ける。
「きゃうううっ」
セリアの全身が跳ねた。
両足首だけではない。
すでに身体へ装着されていたリングまでが一斉に反応し、電撃が発生したのだ。
髪が逆立つような衝撃が四肢だけでなく乳首と局部に駆け抜け、セリアの膝から力が抜けかける。
「おっと」
カイネウスがすぐに立ち上がり、倒れかけたセリアを支えた。
その拍子に、揃えていた両脚が離れる。
すると、電撃が僅かに弱くなった。
「……え?」
セリアは息を呑んだ。
反射的に、さらに脚を開く。
電撃が止まった。
「……くっ」
セリアは肩を上下させながら、その場に立ち尽くした。
ほかのリングと同じだ。
リング同士を近づければ、身体へ装着されたすべてのリングから電撃が発生する。
「仕組みがわかったかい?」
カイネウスはセリアの身体を軽く支えたまま、くすくすと笑った。
「足環は輪が大きいからね。そのぶん、必要な間隔も広い」
「そんな……」
いま、セリアの両足は肩幅ほどに開いていた。
どの程度まで近づければ作動するのかわからない。
けれど、さっきの電撃を思い出すと、それ以上脚を狭めることができなかった。
「そのくらい開いていれば大丈夫だろう。気をつけることだね」
カイネウスの声は楽しげだった。
セリアの顔がかっと熱くなる。
自分がどんな姿勢を取らされているのか、いまさら意識してしまったのだ。
ドレスの前裾はもともと極端に短く、中央には深い切れ込みが入っている。
脚を大きく離したことで、布に隠れているはずの下腹部まで露わになっていた。
「セリーのここの毛をどうするか迷っているんだ。残すのと、剃りあげるのと、どっちが似合うのかと思ってね」
カイネウスの手が、セリアの内腿へすっと伸びてきた。
「あっ……」
反射的に脚を閉じかける。
けれど、身体が止まった。
また電撃が来る──その記憶だけで、膝から下が動かなくなった。
両手も持ち上げかけたところで止まる。
払いのけようとすれば、指環が身体のリングへ近づいてしまう。
脚も閉じられない。
手でも防げない。
セリアは立ったまま、カイネウスの手を受け入れるしかなかった。
「あっ、ああ……」
身体がびくりと震える。
カイネウスの手が陰部のぎりぎりのところに触れて留まる。
このサロンへ来てから三十日近く、媚薬と淫具による刺激を繰り返し受けてきた身体は、僅かな刺激にも敏感に反応してしまう。
ゆっくりと指が股間の亀裂に触れた。
「んんっ」
身体が反射的に弾ける。
「……濡れてるね」
カイネウスが手を引きながら、くすくすと笑った。
「……そ、それは……カインが……触るから……」
「違う。僕が触る前からだよ。そんなに電撃が気に入ったかい?」
カイネウスが揶揄うように言った。
「違うわ──。淫具のせいよ。それに媚薬だって──」
セリアは慌てて否定した。
身体が反応していることそのものは否定できない。
けれど、それが電撃を喜んだからだなどとは認めたくなかった。
「そうかな? 乳首も尖っているよ。もちろん、リングの刺激もあるだろう。でも、セリーは受虐の女だ」
「受虐の女……?」
聞き慣れない言葉に、セリアは戸惑った。
「羞恥や屈辱、苦痛まで快感へ変えてしまう性癖のことだよ」
「ち、違います──」
咄嗟に否定した。
そんなものであるはずがない。
「そうかな、セリー」
カイネウスの声が、不意に柔らかくなった。
「自分でも、少しは気づいているだろう?」
「……なにに……ですか……」
「こういう目に遭わされることを、前ほど嫌い切れなくなっていることにだ」
「……っ」
胸の奥を見透かされたような気がした。
「恥ずかしいと思っている。屈辱だとも思っている。こんなことをされる自分が許せないとも思っている。それなのに、その羞恥も屈辱も、もう君の身体は快感と切り離せなくなり始めている」
カイネウスはひとつずつ確かめるように言葉を重ねた。
「やめて……」
セリアは掠れた声を漏らした。
否定したかった。
けれど、できなかった。
この館へ来たばかりの頃なら、どれほど辱められようとも、ただ憎み、耐えればよかった。
いまは違う。
恥ずかしいほど身体が反応する。
嫌だと思えば思うほど、その嫌悪と一緒に別の感覚まで湧き上がってしまうことがある。
それを、セリア自身もすでに知っていた。
「なら、言葉ではなく身体で否定してごらん。賭けてもいい。次に僕が触れたときには、さっきよりも身体が熱くなっている」
カイネウスが静かに囁いた。
「脚を閉じることまで封じられて、こんな言葉を聞かされている。それなのに、君の身体は反応している。違うかい?」
「……そ、そんなことは……」
セリアは僅かに首を横へ振った。
しかし、否定の言葉を最後まで言い切ることができなかった。
「……それでいいんだ。セリーに必要なのは受け入れることだ」
カイネウスの声は優しかった。
いや──カインの声だった。
十二年前、自分を助けてくれた少年が、いまはまるで当然のことのように、自分が変わっていくことを受け入れろと言っている。
だからこそ、逃げ場がなかった。
「それで……いいって……」
セリアはカイネウスを見上げた。
「僕が君を、もっとそうしたいんだ。そして、これからもそうする」
カイネウスの言葉に有無を言わせない強さを感じた。
その言葉に、セリアの胸が奇妙に震えた。
怖いはずだった。
なのに、カインがそれを望んでいるのなら、自分は拒んではいけないのではないか──そんな考えが一瞬だけ頭をよぎった。
十二年前、自分のせいで死んだと思っていた少年──。
その彼にいま望まれていることならば……。
しかし、そこまで考えて、セリアは自分の思考にぞっとした。
「……セリーは逃れられない」
「逃れ……られない?」
セリアはゆっくりと顔を上げた。
視界が、なぜか涙で僅かに歪んだ。
「羞恥も、屈辱も、嫌だと思う気持ちさえも、いつか君にとって心地よいものになるようにする」
「……そんなこと……」
「そうする。そして、そうなる」
カイネウスは静かに言い切った。
「そう……なるの……?」
自分でもなにを口走っているのかわからない。
カイネウスの言葉を聞いていると、頭の奥がぼんやりと痺れていくようだった。
「セリーを変える。そのために、このサロンを作った……」
「そのため……?」
「ああ……。セリーの身体だけじゃない。心までね……。それこそが、このサロンの目的だ。それ以外は、付け足しに過ぎない」
ぞくりとした。
セリアはなにも言えず、ただカインの眼を見つめ返した。
「……君が辱められれば辱められるほど、それを求めてしまうようにする。恥ずかしくて逃げたいのに、その恥ずかしさがなくなることの方を寂しいと思うくらいにね」
「……」
「いつか君は、自分から僕の前に立って、今日はどんな恥ずかしいことをされるんだろうって、期待するようになる」
「そんな……わたしは……」
言葉が続かなかった。
否定すればいい。
そんな自分にはならないと、いつものように睨み返せばいい。
それなのに、声が出ない。
カイネウスはそんなセリアを見つめ、ほんの僅かに笑みを深くした。
「……怖いかい?」
セリアは答えなかった。
「……それとも、少し愉しみかい?」
「た、愉しくは……」
セリアの頬が熱くなった。
「答えなくていい」
カイネウスが微笑んだ。
「……もう、自分でも気づいているんだろう?」
「……」
セリアは視線を伏せた。
否定できなかった。
「……恥ずかしいことも、屈辱も、もっと心地よいものにしてあげる。身体だけじゃない。心までね」
カイネウスに顎をつままれて、顔をあげさせられた。
恐ろしい言葉のはずだ。
それなのに、セリアはカインから眼を逸らせなかった。
自分を作り変える。
胸の奥が、酔うようにゆっくりと痺れていく。
拒まなければならないはずなのに、その言葉をもう一度聞きたいと思っている自分がいた。
唇を奪われた。
カイネウスの舌がセリアの口の中を蹂躙し、舌で舌を愛撫される。
小鼻をいっぱいに拡げて辛うじて呼吸をする。
その息も突きあがってくる興奮のために、詰まりそうになる。
「んんっ」
身体がびくんと震えた。
カイネウスが前から片側の乳房をわし掴みにしたのだ。
唇を吸いあげられ、胸を揉まれて、全身の力が抜けていく。
再びカイネウスの指がセリアの股に迫る。他愛なく股間を割られて、奥をぐいと擦りあげた。
「んんんっ」
セリアは股間をカイネウスの手に押しつけるかのように前に押し出してしまっていた。
「やっぱりじっとりとさせているね……」
カイネウスが口を離した。
セリアは視線を伏せた。
否定できなかった。
「……ところで、さっきの答えは? どうする?」
カイネウスが言った。
「……こ、答えって?」
なんのことかわからない。
やっと胸からも手が離れた。しかし、股間に挿されている指はそのまま……。
「この茂みだよ。剃りあげるかい? それとも残す?」
カイネウスが指を挿入させたまま、空いている指で陰毛を軽く摘まんで引っ張る。
「あんっ」
セリアは軽い痛みに身体を突っ張らせた。
「ほら、また蜜が増えたよ」
カイネウスの指が抜けていく。
「う、嘘です──」
さすがにセリアは叫んだ。
「正直になることだよ」
カイネウスがまたもや手を伸ばし、鼠蹊部から内腿へと指を這わせてきた。
それだけでなく、今度は反対の手で、背筋からくぼみをまさぐって、尻たぶのあいだに滑り込ませる。
「あっ、そこ、だめっ」
セリアは全身を硬直させた。
「だったら、抵抗してごらん。でも、セリーの指に嵌まっている指環をお尻にまで近づけてしまえば、股間のリングが反応して電撃を発生させるかもしれないね」
カイネウスが喉の奥で笑いながら言った。
脅しの言葉に、セリアの身体はびくりとなる。
「そ、そんな……あっ、そこは……」
お尻を動かして、カイネウスの淫らな指を避けようとするが、脚を開いたままでは避けようもない。
簡単に、カイネウスの指にお尻の穴を捉えられてしまう。
「ああっ」
セリアは身体を捩った。
後ろだけでなく、前からもまたもや指を挿入されてしまったのだ。
両方から責められて、逃げる道は完全に塞がれてしまった。
前後の指が静かに律動を開始する。
「遠慮せずにいくといい。セリーはこんな風に抵抗する手段を奪われて責められれば、どうしようもなく快感を覚えるように躾けている。快感から逃げるのは……不可能だ」
指が前後から責める。
すべてが気怠い陶酔の中に引き込まれていく。
鋭い快感が貫いてくる。
「あ、ああっ、許して──許して──カイン──だめええっ」
カイネウスの指は動き続ける。
前と後ろを深々と抉られたセリアは、悲鳴のような声とともに、背中をぐっと反らせた。
全身が激しく痙攣する。
「あっ、あああ──」
ぐいぐいと股間をカイネウスの指に押しつけながら、ついにセリアは快感を弾けさせた。
二度、三度と衝撃に貫かれて、腰をがくがくと震わせる。
「セリー、まだ自覚ができないかい? 君は受虐の女だ……。さて、食事にしよう。レイシアを連れてついておいで」
カイネウスがなにごともなかったかのように、身体を離しながら言った。