サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「んんっ、くくっ」
セリアは、奥歯を噛みしめる。
食事と飲み物に混ざっていたに違いない媚薬は、もはや理性を保つのが難しいくらいにセリアを追い詰めていた。
そこで、股間ではなにも知らないレイシアによる舌責めが始まったのだ。さらに、横についた女兵が汗を拭くと言って、布越しに剥き出しの乳房を揉むように動かしてくる。
あっという間に、セリアは追い詰められてしまった。
だが、絶頂してしまえば、やはりなにもイシアに電撃が浴びさせられるのだ。懸命にせり上がる快感を堰きとめようともがくが、すでにセリアは絶頂寸前だった。
媚薬の効果により、肉体は煮えたぎり、わずかな刺激だけでも官能の芯が突き破られて、羞恥を晒しそうだ。それにも関わらず、股間の亀裂をレイシアの舌が這い、女兵がリングの嵌まった乳首を強く捻り、また、全体を握りつぶすように揉みしだく。
「ああ、もうやめて──」
セリアは拘束された身体を右に左にと悶えさせながら悲鳴を漏らした。
「ほら、口を開けないか、セリー」
一方で、カイネウスはセリアの口に、またもやフォークに突き刺した肉を押しつけてくる。
まだ、先ほど食べさせられた肉料理の香りが残っている口に、新たな肉片が押しこまれた。
けれど、味などしない。
一口を噛み、飲み込もうとしているあいだにも身体は翻弄される。
乳首と乳房は代わる代わる女兵により愛撫を与えられ続けている。
「ゆ、許して──カイン──。お願いよ──」
セリアは叫んだ。
もう、まともに考えることさえ難しくなっていた。
セリアは椅子の背へ身体を預けることもできず、激しい呼吸を繰り返している。
「食事をしながら大きな声をあげるなんて、それでも王太子妃かな? 王太子妃として身につけた食事作法はどうしたの?」
カイネウスがフォークを置き、グラスに注いだ鉱泉水をセリアの口に運んできた。しかも、目の前で新しい媚薬の錠剤を溶かすのを見せつけてからだ。
「こ、これ以上は無理です──。い、意地悪をなさらないで──」
セリアは涙目で必死に訴える。
だが、グラスを拒絶はできない。それをすれば、レイシアを苛めると脅されている。セリアはさらに自分を追い詰めるとわかっている媚薬入りの鉱泉水を無理矢理に飲み下していく。
またもや、身体が熱くなる。
「……意地悪かい? 意地悪というのがこういうことを言うんだよ」
すると、グラスを置いたカイネウスがテーブルに置いていた白い球体──伝声具を手に取るのが見えた。口元に持っていく。それは視覚も聴覚も封じられているレイシアに、唯一言葉を伝える手段だ。
「……レイシア、君が不甲斐ないと、セリーが悲鳴をあげるだけだ。もっと追い詰めるんだよ。君が頑張ることで、セリーは幸福感を味わえる。その代わり、レイシアが苦しむことになるかもしれないけどね」
カイネウスが伝声具にそう言葉を伝えて、横に置き直した。
「ああ、なんてことを言うんです──」
セリアは声をあげた。
「嘘は言ってない。真実だろう」
カイネウスが自分の皿から肉片を自分の口に入れ、次いで、セリアの前の皿から新たな肉片をフォークに刺してセリアの前に運んできた。
反射的に口を開いたが、テーブルの下で股間を舐めていたレイシアの舌が、リングに締めつけられている小さな突起を捉えた。しかも、激しく動かしてくる。
これまでとは比べものにならない快感がセリアに貫いた。
我慢するなど不可能だった。
「あああっ、ああああ──」
セリアは首を反らし、喉から甲高い声を押し出した。全身が痙攣する。背中に快感の衝撃が走り、震えが身体を駆け巡った。
ついに達してしまった。
セリアははっとした。
「んぐうっ」
そのとき、テーブルの下のレイシアが苦悶の呻きを発して、四つん這いの身体を床に突っ伏させた。セリアの股間からレイシアの顔が離れている。
セリアが不甲斐なく絶頂してしまったことで、レイシアの全身に電撃が迸ったのだろう。
「ああ、レイシア──」
セリアは声をあげたが、呼び掛けてもレイシアには伝わらないのだ。
しばらくのあいだ、レイシアは蹲ったまま全身を痙攣させていた。
「あらあら、可哀想に」
女兵がやっと胸に悪戯を加えるのをやめて、布を引く。
また、カイネウスがフォークを皿に置くかすかな音が響いた。
「……レイシア、よくやった。だが、終わりじゃないぞ。続けるんだ。それが今夜の君の役目だ」
見ると、カイネウスが伝声具でレイシアに言葉を伝えている。
「もう、レイシアは許してあげてください。わたしの罰はわたしに与える約束です──」
セリアは必死に訴えた。
しかし、カイネウスは笑みを浮かべた表情を崩さない。
「これは罰じゃないよ、レイシアの選択に過ぎない。君を絶頂させれば、自分に電撃が起こることをいまレイシアは知っただろう。そして、それにより君にはなにもない。絶頂の幸福感を味わっただけのことだ。レイシアを解放したければ、早く食事を終えることだ。それしかない」
カイネウスが伝声具を置き直して、皿の肉をセリアの口元に持ってきた。
口を開く。
必死に咀嚼をすると、四つん這いの体勢に戻したレイシアの顔がセリアの股間に戻り、水音をたててセリアの秘部を舐めだす。
「んんんっ」
セリアは口の中に肉を残したまま懸命に歯を喰いしばった。
「歯を喰いしばって頑張るのはいいけど、まだ、皿には料理が半分以上残っているわよ。そのあと甘味もあるし、焼き菓子も準備してあるからね」
女兵が交代して、セリアの胸責めを再開した。
もはや、布も使わない。直接に手で両方の乳房を揉まれ、乳首を指で転がされる。
真相を知らないレイシアの舌がまたもや、セリアの陰核に伸びてくる。
「あっ、もうっ──」
セリアは必死に腰を引く。
しかし、レイシアの顔がぐっと前に突きだして追ってくる。
ついに、またもやレイシアの舌がセリアの陰核を捉えてしまった。
「んぐううっ」
セリアは全身を突っ張らせてしまう。
「ほら、頑張りなさい。レイシアを苦しめたいの?」
女兵がセリアの胸から手を離しながら揶揄う。
「し、死んだって──が、我慢を……」
セリアは今度こそと心に強く思って、必死に快感を堰きとめる。
胸責めが中断されたことで、集中もしやすくなった。身動きできないまま懸命に快感を逸らそうともがく。しかし、媚薬に爛れた肉体はそれを許してくれない。
ぎりぎりまで追い詰められ、それでもまた最後の気力だけで踏ん張り続けた。
レイシアの舌が股間で激しく動き続ける。
全身は汗みどろになり、呼吸は荒々しくなった。
それでも懸命に口に近付けられたものを、なにも考えて口に入れて咀嚼する。
ひたすらにそれを繰り返すだけだ。
どれくらい経っただろうか。
眼を開ける。愕然とすることに、目の前の肉の皿は、まだかなり残っていた。
まだ耐えなければならないのか──。
食事をしながら辱められるという屈辱感は、恍惚感と陶酔感に変わり、思念は乱れ、脈絡のないものが浮かんでは消え、消えては浮かんでいく。
だんだんと、いまがどういう状況で自分がなにに耐え、なにを我慢しているのかもわからなくなっていった。
身体の内側に、逃げ場のない熱が籠もっている。
額から流れた汗が頬を伝い、顎の先から白い卓布へ落ちていく。
いま自分は、食事をしているはずだった。
王宮に並べられていてもおかしくない料理を口にし、格式ある晩餐卓についている。
それなのに、その最中にも身体は容赦なく責められ、意思とは関係なく反応を引き出され続けている。
食べることと、辱められること。
本来なら決して交わるはずのない二つが、今夜はひとつの行為のように重ねられていた。
たまらなく屈辱だった。
王太子妃だった自分が、晩餐の席でこんなふうに呼吸を乱し、汗を流し、まともに料理さえ味わえなくなっている。
その姿をカイネウスにも、給仕する女兵たちにも見られている──。
屈辱がセリアの羞恥を焼き焦がす。
だが、同時に凄まじいほどの快感でもあった。
「だ、だめええっ」
セリアはまたもや、食事の場であることを忘れて、悲鳴をあげた。
レイシアの舌が股間を舐め続け、下半身が炎を噴き出したかのように、一気に熱くなった。太腿が硬直し、次いで発作的な痙攣が襲う。
咄嗟だった──。
セリアは、レイシアの顔を太腿で締めつけるようにして、両足首を密着させた。
「んぐうううっ」
四肢の先から──乳首から──股間から強い魔道の電撃が迸った。
電撃特有の不快な痛みがセリアに迫っていた快感を強引に引き離した。
レイシアはセリアの股間に顔を密着させたまま、びくんと震えた。
しかし、当惑しているだけで、苦悶している様子はない。それだけはほっとした。
脱力するまま脚を開き直す。
電撃が止まる。
「へえ……自分でリングを密着させて、電撃を起こして快感を逃したの? やるじゃないの、妃殿下」
「だったら、あたしたちも気合い入れないとね」
女兵たちが交代する。
セリアは眼を丸くした。
二人が持っていたのは絵筆だった。しかも、両方の手に一本ずつ──。
「な、なんなのです、それは──。もはや、汗拭きでもないではありませんか」
セリアは抗議する。
しかし、女兵たちはなにも言わずに、一斉に上半身のあちこちに四本の絵筆を向けてきた。
一方で、当惑したように中断していたレイシアによる股間への舌責めも再開する。
「ああっ、もう無理です──」
セリアは声をあげた。
すると、いつの間にか、またもやフォークに刺さった肉片が、口元に突きつけられていることに気がつく。
「さあ、食事の続きだ」
絵筆が全身を這い回っているが、カイネウスは止める様子はない。ただにこにこと笑っているだけだった。
もう自分でもどうしようもない。
電撃の苦悶で押しのけた絶頂感だったが、もともと快感が消えたわけではない。中断されただけだ。レイシアの舌と四本の絵筆の責めにより、高いところに一気に引きあがらされる。
「ど、どうしてこんなことをするの、カイン──、あ、あなたがわたしを憎んでいるのは知っているけど、レイシアを巻き込まないで──」
自分でもなにを口走っているのかわからない。
ただ、絶頂をしてしまえば、レイシアが苦しめられるという思念がセリアに叫ばせていた。
「憎む? 僕は君を憎んだことなど一度もないよ」
カイネウスがきょとんとした声で言い、セリアの口元へ運んでいた肉片をすっと離した。
「そ、そんなはずがないわ──。カインはわたしを憎んでいる。だから、こんなことをしてわたしを苦しめるのでしょう。でも、復讐ならわたしだけに──」
言いながら、セリアは戸惑った。
カイネウスの顔には誤魔化しも虚勢もない。本気でそう言っているようにしか見えなかったのだ。
「憎んでなどいない。正直な思いだ」
カイネウスがきっぱりと言った。
「嘘よ──」
セリアは感情が迸るまま声をあげた。
そのあいだも、女兵たちの絵筆とレイシアの舌がセリアを追い詰める。
セリアは快楽にのた打ちそうになるのを必死に耐えた。
「もしかして、僕が恨みで王国を滅ぼしたとでも思っているなら、それも断じて違う。王国は滅びるべくして滅んだ。宗主国として属国を蔑ろにした結果、反乱が起きた。僕はたまたま、それを束ねるのに都合のいい立場にいただけだ」
「でも──」
「……ただ」
カイネウスがセリアの言葉を遮った。
「君の父君は僕を殺し損ねた。強いて挙げれば、それが王国の滅亡へ繋がったのかもしれないね」
カイネウスが静かに笑った。
同時に、彼がそっと片手をあげた。
すると、女兵たちの絵筆が一斉に離れた。