サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「君の父君は僕を殺し損ねた。強いて挙げれば、それが王国の滅亡へ繋がったのかもしれないね」
カイネウスがそう言うとともに、片手を軽くあげた。
身体を這い回っていた女兵たちの淫らな絵筆が、一斉にセリアから離れる。
さらに、カイネウスは伝声具が載せられていた丸皿から、それを手に取った。空いた丸皿へ自分の前に置かれていたグラスから鉱泉水を注ぐ。
続いて、まだ残っている肉料理からいくつか肉片を取り分け、皿の中へ落とした。
「……休憩だ。餌だよ。手は使うな。犬のように喰うんだ」
伝声具を使ってレイシアへそう伝えると、カイネウスはテーブルの下を覗き込むようにして、セリアの脚のあいだへ丸皿を置いた。
レイシアの動きが、一瞬止まった。
だが、とりあえずセリアの股間から口を離す。
やがて、顔を床近くまで下げ、置かれた皿を探り始めた。
セリアの脚のあいだから、その気配が伝わってくる。
しばらく戸惑うように顔を動かしていたが、やがて皿の位置がわかったらしい。レイシアは大人しく、手を使わずに口だけで水を飲み、肉を食べ始めた。
いずれにしても、あれほど自分を追い詰めていた刺激がすべてなくなったことで、セリアはほっと息を吐いた。
荒れていた呼吸を整えながら、力の抜けた身体を椅子へ預ける。
すると、先ほどカイネウスが口にした言葉が、遅れて頭の中へ蘇る。
──君の父君は、僕を殺し損ねた。
「……その顔の傷は……やはり、父が……?」
セリアは呆然とカイネウスを見つめた。
カイネウスが、十二年前に出会ったあのカインではないか──。セリアは、このサロンへ連れてこられた当初から疑っていた。
声も、眼差しも、ふとした仕草も記憶の中に残っている少年と重なるところがあった。
それでも、どうしても確信を持てなかった。
理由のひとつが、カイネウスの顔に残る傷だった。
十二年前に出会ったカインは、まだ十五歳の少年だった。
素朴で、温和そうで、人を警戒させるようなところなどほとんどなかった。
しかし、いま目の前にいる男の顔には、斜めに走る大きな傷跡が残っている。
その傷が、記憶の中のカインと現在のカイネウスを、まるで別人のように見せていたのだ。
「そうだね。君の父君が放った刺客に襲われたときについた傷だ」
カイネウスは事も無げに答えた。
「……そ、そうなの……ね」
セリアは項垂れた。
改めて、自分の罪を思い知った気分だ。
惨い傷だ。そして、カイネウスの身体には同じような傷がたくさんある。
痛かったはずだ。苦しかったはずだ。
「……顔だけじゃない。全身を滅多切りにされた。どうにか逃げたけれど、途中で力尽きてね。君を助けたあの山の川へ落ちて、そのままさらに下流まで流された」
微笑みを浮かべたまま、カイネウスが頬の傷跡を指先で斜めになぞる。
「でも……死ななかったのね……。よかった……」
セリアの心に浮かんだのは素直な安堵だった。
恨まれてもいい。憎まれてもいい。当然だと思う。しかし、死んでいれば、それさえも求めることはできなかった。よく生きてくれていたと思う。
父自身の言葉でも、セリアが後で調査した結果でも、カイネウスの死は間違いないとされていたのだ。
「どうして、とどめを刺されなかったのかは知らない。もう死んだと確信したのか、それとも最後のところで手心を加えた者がいたのか。いずれにしても、僕は命だけは助かった」
「も、申し訳……」
セリアは椅子に括りつけられたまま、せめて頭だけでも下げようとした。
しかし、カイネウスが片手をあげて、それを制した。
「頭を下げる必要はないよ。刺客を君が送り込んだわけではないことくらい、わかっている」
そこで、カイネウスが僅かに首を傾げる。
「それとも、セリーが送り込んだのかな?」
カイネウスが冗談っぽく言う。
「ち、違う──そんなこと、あるわけがないわ──」
セリアは咄嗟に否定した。
「あっ、いえ……でも、だからといって、わたしの罪まで消えるわけではありません。だけど、どうか、その恨みはわたしだけにして……」
だが慌てて付け加える。
「恨んでないと言ったじゃないか──。ある意味では、君の父君は正しかったからね」
カイネウスは、セリアの言葉に被せ気味にあっさりと言った。
「えっ……正しかった?」
セリアは怪訝な顔をした。
先ほども、カイネウスは自分を恨んでいないと言った。
だが、どうしてもその感情が理解できない。
侯爵令嬢だったセリアと、山里の猟師小屋で一人暮らしをしていたカインとの身分違いの幼い恋──。当時の自分たちでは、どうにもならなかったことくらい、いまのセリアにはわかっている。
しかし、それとこれとは別の話だ。
娘の醜聞を避けるために、なんの罪もない少年を口封じに殺そうとするなど、許されることではない。
たとえ、それを命じたのが自分ではなかったとしても──。
しかも、最終的に父の決定に逆らい切れず、カインを切り捨てることを受け入れてしまった自分にも罪がある。
「どういう意味なの……。父が正しかったって……」
セリアは戸惑いながら問い掛けた。
「質問が多いね」
カイネウスが楽しそうに笑った。
「……でも、教えて、カイン……」
セリアはカイネウスを見つめたまま呟くように言った。
知りたい──。
カイネウスになにがあったのか……。
彼の気持ちを……。
「じゃあ、こうしようか。質問ひとつにつき寸止め一回だ。ぎりぎりまで我慢して耐えられたら、その質問に答えてあげるよ」
「えっ?」
すぐには言葉が頭に入ってこなかった。
だが、カイネウスは構うことなく、セリアへ顔を向けたまま右手の親指をゆっくりと立てた。
それを合図に、傍らで待っていたふたりの女兵たちが、一斉にセリアへ手を伸ばしてきた。
「あっ、いやっ」
思わず椅子に縛りつけられている身体を強く突っ張らせた。
両側の女兵が左右から乳房を揉みしだき、内腿に手をかけてきたのだ。ひとりの指が股間には入り込み、緩やかに律動される。もうひとりの指が陰核をまさぐる。乳房が揺すぶられて、乳首を転がされる。
「あっ、待って──待ってください──」
あっという間にセリアは進退窮まった状態になった。媚薬に苛まれているこの肉体で、襲いかかる快感に耐えるのは難しかった。身体が硬直し、激しい発作的な痙攣が走る。
脳天まで痺れが拡がり、またもや崩壊に向かってセリアの快感が加速する。
セリアは歯を喰いしばり、背中を弓なりにした。絶頂すれば、レイシアに電撃が走る──。それを思い出す。咄嗟に足首を触れさせようとした。
「おっと、そんな自由は与えないわよ」
「ずるなしに、我慢しなさい」
愛撫を続ける女兵たちがふたり掛かりで脚を割り込ませてきて、セリアが足首を密着するのを防ぐ。両腕だけでなく、両足の自由をも奪われたセリアには、もうなにもできない。
視界が真っ白くなる。
しかし、セリアの身体がまさに絶頂しようとした寸前だった。ぴたりと愛撫の指が離れて行き、押し寄せていた絶頂感が引いていく。
セリアは強い焦燥感に包まれるとともに、絶頂を逃れられたことに安堵した。
そして気がついた。
天井を向いていたカイネウスの親指が床に向けられていた。
「……僕に君を忘れさせるのは、僕を殺すしかない。それは君の父君が正しかった。僕はこうして死ななかった。だから、王国が滅んだのかもしれない」
カイネウスは語りだす。
しかし、寸止めされたばかりのセリアには、内容を頭に染み込ませるのさえ、ひと苦労だった。それでもなんとか意味を理解していく。
「……はあ、はあ、はあ……。だ、だから、王国を滅ぼす復讐を……したのではないの……?」
荒くなっている息を懸命に整えながらセリアは訊ねる。
しかし、カイネウスが首を横に振る。
「さっきも言ったけど、王国が滅んだのは王国自身に原因がある。悪政で属国を追い詰め、付け入る隙を与えた。滅ぶべくして滅んだだけだ。僕が連合軍の司令官になったのは、たまたまだよ。でも王太子妃になったセリーを手に入れるには、僕が属国連合軍を率いて王太子を処分してしまうのが早道だったのは確かだ。実際にそうしたしね」
カイネウスが言う。
セリアは理解できなかった。それだとまるで、セリアを手に入れるために、王国を滅ぼしたとでも言わんばかりではないか。
「ど、どういうこと……? わたしを……あなたを愛していると言いながらも裏切り、別の男と婚姻をしたわたしを恨んでいたのではないの?」
セリアは言った。
「うーん、その質問への答えは、次の寸止めのあとにしようか」
カイネウスが親指を上に向かって突きあげる。
女兵たちの手がまたもや、左右から伸びてきた。
股間と乳房を苛まれる。
「あたしも参加しようかな」
「足首も椅子に拘束しちゃおうか」
残りのふたりも責めに加わってきた。しかも両足首を新たに革枷で、前側の左右の椅子の脚に繋げられてしまう。
「うわっ、だめっ、あっ、あんっ、いやっ、いやあ──」
もう声さえも我慢できない。
呼吸があっという間に再び苦しくなり、押し寄せる快感に意識をとられていく。
しかし、絶頂寸前でカイネウスの親指が下を向いた。
またしても、絶頂直前に女兵たちの手が一斉に離れる。
「ああっ」
セリアは身体を脱力させてしまった。
「いい顔になったね。苦しめば苦しむほど、その苦悶が快感になる。僕が君をそうする。そして、そうなってしまう。大丈夫だよ。きっとそうしてあげるから……。いや、もうそうなりかけているかもしれないね」
カイネウスがくすくすと笑う。
セリアは切ない疼きに耐えて、涙目でカイネウスを睨む。
「えーと、なんの話だったかな……? ああ、裏切りへの恨みだったね……。僕は恨んではいない。真実だ。だって、どうでもいいことだからね」
「どうでもいい?」
思わず、言葉を繰り返す。
カイネウスが微笑んだまま頷く。
「そう──。どうでもいいんだ。僕は君がどんな夫と結婚をしていても、君を奪うつもりだった。君が王太子妃になったのは驚いたけど、だから、移住をした共和国で、君と並び立つ地位を目指した。それが軍人だった。しかも、僕には軍事的才能があったようだ」
カイネウスが小さく笑う。
「わたしを……手に入れるため……?」
呆然と繰り返す。
「そうだね。もしも、商人の夫とか、貴族でも下級貴族程度だったら、ほかの手段でもよかったかもしれない。だけど、王太子妃ともなれば、王国を滅ぼすようなことをしないと、君は手に入らない。僕が最初に言ったのは、そういうことだよ。君の父君は僕を殺し損ねた。だから王国は今回、滅んだのかもしれない」
「……え……」
セリアはカイネウスの物言いに唖然となってしまった。
「ああ、ちょっと喋りすぎたかな。じゃあ、寸止めを三回くらいしようか。その後、次の質問を受け付けよう」
カイネウスが女兵たちにさっと手を振り、椅子に背もたれるような姿勢になって、葡萄酒に手を伸ばした。
四人の女兵たちの手が襲いかかる。
「ふふ、じゃあ、お館様のご命令よ。頑張ってね、妃殿下」
女兵たちの手管は巧みだった。
セリアの身体を知り尽くしているかのように、押すかと思えば引き、引くかと思えば押し、わざと一斉に中断したかと思えば、一番堪える場所だけを攻め、また引き、そして同時に攻撃を仕掛けてセリアを翻弄する。
媚薬にここまで苛まれているセリアを翻弄させるのは、彼女たちにとっては、赤子の手をひねるよりも容易いことだったのだろう。
彼女たちにされるがまま、絶頂寸前まで追いあげられたり、少し引き落とされたりした。
セリアは汗みどろになり、もうなにがなんだか、わからなくなっていった。
「ああ、もうだめよ──」
セリアは女兵たちに同時に左右の乳首を吸われて、さらに別の女兵の指先に股間をゆるやかに掻きたてられて、名状できない甘美な感覚に身も心もすっかりと溶け込まされた。
そして、快感の大きな波に耐えられずに、「いくわ」と鋭い叫びを我を忘れて口走った。
「じゃあ、またおあずけね」
しかし、またしても、意地悪く刺激を引きあげられる。
女兵たちの技巧は、相変わらず卓絶しており、セリアは言語に絶するような切なさと官能の痺れを味わい続けた。
だが、火のような昂ぶりから、あと一歩のところで下降させられ、すぐに同時責めでゆっくりと引きあがられるというのをひたすらに繰り返されるのは、まさに性の地獄でもあった。
そして、またもや、追いあげられて、あとひと息というところで、またしても、引きさげられた。
「いやあ、もうやめないで──」
セリアは狂ったように、首を左右に揺さぶって泣きじゃくっていた。
「ふふ、相当、焦らし抜かれて、頭に血が昇ったみたいだね」
気がつくと、女兵たちが距離をとっていて、セリアはカイネウスと向かい合うように座っていた。
いつの間にか、テーブルにではなく、カイネウスに身体を向けるように、椅子ごと回転をさせられていたのだ。
レイシアは、相変わらずテーブルの下で四つん這いのまま、舌を出して荒い息だけを繰り返している。
「三度と言ったんだが、もっと回数を味わったみたいだね。じゃあ、質問の時間だ。なにが訊きたい?」
カイネウスがセリアの顎を再び掴んで顔をあげさせる。
セリアは虚ろな視線をカイネウスに向ける。
「……も、もう意地悪な真似はなさらないで……」
気がつくとそう言っていた。
カイネウスが笑いを噴きこぼす。
「それが質問かい?」
カイネウスが愉しそうに言った。
セリアははっとなる。
しかし、頭が回らず、なにをカイネウスに訊ねていいのかわからない。
必死に思念を巡らす。
「じゃあ、質問ごっこは、これで終わりだね……。じゃあ、セリーの拘束を解いてあげて」
カイネウスが女兵たちに合図をする。
さっと寄ってきた四人の女兵が手摺りに結んだ革紐や、足首の枷を外し始めた。
セリアは焦った。
「カインはどうして──」
そして、口走っていた。
「ん?」
カイネウスがセリアを見たまま、わずかに首を傾げる。
「……どうして、わたしを殺さなかったの──? 王族のなかでわたしだけを生かしたのはなぜ。ここでわたしを辱めるためなの──?」
叫んだ。
恨まれていると思っていた。憎んでいると思っていた。だから、セリアを辱めるのだと……。
しかし、恨みも憎しみもないというのであれば、セリアにはもうなにもわからなくなってしまった。
すると、カイネウスが心から意外だという表情になった。
「殺す? なぜ、殺さなければならない。僕はセリーを手に入れるために生きてきたと言ったはずだ。戦功の褒賞として、共和国に求めたのはセリーだ。だから、君は処刑されなかった。いや、させるはずもない。もしも、君の処刑を共和国が決めていたら、僕は王国ではなく共和国を滅ぼしただろうね」
カイネウスが声をあげて笑う。
セリアは言葉を失った。
冗談めかした口調だった。
しかし、冗談ではない。
それくらいは、もうわかる。
「……では、どうして……」
唇が震えた。
「……どうして、わたしをここへ……? 命を助けるだけなら、こんなことをする必要はないでしょう……」
「ああ、そっちか」
カイネウスは納得したように頷いた。
「……そうは言っても、共和国の重鎮たちが、どうしても王太子妃を処刑しないことに納得しなくてね。だから、このサロンを作った。ここで処刑されるよりもずっと残酷な屈辱を与えればいいと説得した。目的がそうだから、まさか君だけというわけにはいかない。だから、ほかにも揃えさせてもらった」
セリアは耳を疑った。
このサロンをセリアのために作ったというのは、幾度かカイネウスは口にしていた。だが、なにかの暗喩なのか、彼特有の意地悪だと感じていた。
まさか、飾りのない真実の言葉だとは……。
「本当にそのためだけに、このサロンを……」
セリアは絶句した。
「もちろん、これは共和国としての統治政策に基づく正式決定によるものだ。ただ、僕の動機がそれだというだけだね」
カイネウスは淡々と言った。
「でも……」
「結果として君は生きている。それで十分だろう?」
「十分って……」
セリアは呆然と呟いた。
「君はもう、ここで生きていくしかない。だったら、ここで与えられるものを苦痛だと思い続けるより、幸福だと感じられるようになった方がいいだろう?」
「……幸福……?」
意味がわからず、セリアは聞き返した。
「そうだよ。恥ずかしいことも、屈辱的なことも、それを幸福だと思えるようになればいい」
カイネウスは淡々と言う。
「そんな……」
セリアは言葉を失った。
「心配しなくていいよ。僕がそうしてあげる」
カイネウスが微笑む。
あまりにも優しい声だった。
だからこそ、セリアは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
この男は冗談を言っているのではない。
脅しているのでもない。
本気なのだ。
「……君がここで辱められることを嫌がらなくなるまで、僕が少しずつ変えてあげる。そのうち、それがない方が寂しいと思うくらいにね」
「……そんなの……」
「大丈夫だよ……。セリーはここで幸せになるんだ。僕が必ず、そうしてあげるから」
カイネウスは、まるで幼い子供を安心させるような声音で言った。
怖ろしいことを口にしている。
そう思うのに、どうしても心の底から嫌悪することができない。
「さあ、話はもういいだろう。久しぶりに戦場に行っていた。血もたぎっている。僕は君にしか手を出すつもりがないから、かなり追い詰められている。相手をしてもらうよ、セリー」
カイネウスが立ちあがり、椅子に座ったままだったセリアを横抱きにして抱えあげる。
「あっ、カイン──」
思わず声をあげる。
しかし、リング同士が接した場所があることに気がついて焦る。だが、電撃は発生しなかった。
「大丈夫だ。すでにリングの効果は解除した。レイシアとの繋がりもね。遠慮なく気持ちよくなるといい」
カイネウスはセリアを横抱きにしたまま、傍らの椅子へ片足を掛けた。
そのまま椅子を踏み台にして長い晩餐卓へあがり、白い卓布の上へセリアの身体をそっと横たえる。
「あっ……」
背中に柔らかな布地の感触が広がった。
まだ、卓上の一角には食事の途中のものが残っている。すぐ横にはまだ料理の残った白磁の皿があり、磨き上げられた銀器や細い脚のグラスも並んでいる。葡萄酒の香りと料理の残り香が漂い、白い卓布にはセリアが先ほど零した汗の跡さえ残っていた。
「カ、カイン……ここで……?」
セリアは戸惑いながらカイネウスを見あげた。
身体には媚薬の熱がまだ濃く残っている。
しかも、何度も絶頂寸前で焦らされたせいで、刺激を失ったいまも全身には激しい疼きが燻っていた。
激しく乱れていた呼吸も完全には戻っていない。
そして何より、先ほどまでカイネウスから聞かされた言葉が、まだ頭の中を巡っていた。
──僕はセリーを手に入れるために生きてきた。
その言葉を口にした男が、いま自分のすぐ傍らにいる。
セリアを手に入れるために、王国さえ滅ぼした──。
先ほどまでなら、大袈裟な戯言だと思ったかもしれない。
だが、いまはもう、そうは思えなかった。
王国が滅んだこと自体は、カイネウスの復讐ではなかったのだろう。
けれど、その滅亡を利用して王太子を排除し、セリアを自分のものにした。
それだけではない。
処刑されるはずだったセリアを生かすために、こんなサロンまで作った。
そして、ここでセリアを辱めるために、レイシアをはじめ、多くの女たちまで巻き込んでいる。
狂っている──。
そうとしか思えない。
けれど、その狂気の根底にあるものが、恨みでも憎しみでもなかったことを、セリアはもう知ってしまった。
愛なのだろう。
少なくとも、カイネウス自身はそう信じている。
あまりにも歪み、あまりにも恐ろしい愛だった。
それなのに、心の底から嫌悪することができない。
なぜなのだろう。
十二年前、自分が彼を見捨てたからなのだろうか。
あのとき父に逆らい切れず、カインを切り捨てたことが、彼をここまで狂わせてしまったのだろうか。
もしそうなら──。
このサロンでレイシアが辱められていることも……。
ここへ集められた多くの女たちが、こんな目に遭っていることも……。
その始まりには、自分がいるのではないか。
胸の奥に、重いものが沈んでいく。
目の前にいるカイネウスを恐ろしいと思う。
狂っているとも思う。
ならば、その狂気にセリア自身も染まってもいいのかもしれない。
「忘れられない晩餐になるはずだ。王宮での晩餐会のことなど、この記憶に塗り替えられて思い出せないほどにね。そうやって、ひとつひとつ、セリーの心にあったものは消していく。残るのは僕のことだけだ」
素早く下半身を露出させたカイネウスがテーブルの上で仰向けに横たえられているセリアの上に、膝立ちで馬乗りになりながら言った。
やはり、狂気の愛だ──。
セリアは、虚ろな視線でカイネウスを見上げながら思った。
「散々に焦らすように指示していたからね。さすがにセリーも待ち遠しい気持ちになったはずだ」
カイネウスがセリアの両腿を抱えて持ちあげた。
セリアの秘奥がおびただしい蜜が溢れ出ているのを感じる。膣襞も痛いほどに疼いている。
その秘裂に、カイネウスの怒張がゆっくりと沈められてくる。
「ああ、あああ──」
セリアは悲鳴のような声をあげて、身体を弓なりにのけ反らせてしまった。
膨れあがったまま行き場をなくして暴れていたセリアのなかのものが一気に弾ける──。止まらない──止めたくもない──止めて欲しくない──。
セリアは一気に絶頂まで昇りつめた。
今度は、カイネウスはそれを阻まなかった。
「遠慮なく達するといいよ。まずは僕が達するまでで一回だ。終わったら縛り直して一回……いや二回かな」
カイネウスが本格的な律動をしながら、愉しそうな口調で言った。
「ああ、カイン──」
もうなにもわからない。
圧倒的な快感があるだけだ。
セリアは、縋るように下からカインの身体に抱き付く。
「その後で寝室に移動かな。君が大好きな痒み剤を塗って一刻休憩。放置されて泣き叫ぶセリーを、淫具と僕自身で代わる代わる前と後ろで犯してあげよう。朝までね」
カインは腰を激しく動かしながら、唄うように語る。
セリアはその残酷な予告を聞きながら、早くも二回目の昇天を迎えようとしていた。