サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
クラウディアは、目の前の丸皿を睨みつけていた。
白い粥には、刻んだ野菜と小さな肉片が混じっている。見た目だけなら、粗末ながら普通の食事だった。
だが、その皿がつい先ほどまで、なにに使われていたのかをクラウディアは知っている。放尿を受け止める容器代わりに使われ、その中身を捨てることもなく、朝食の粥をそのまま注ぎ込まれたのだ。
それを、自分に食べろという──。
「……っ」
悔しかった。
伯爵令嬢として生き、征服軍への抵抗勢力に加わり、最前線にも赴いて回復術で将兵を癒やし、人々から聖女と呼ばれてきた自分が、いまは衣類を剥がされ、床に膝をつき、こんな扱いを受けている。
皿を蹴り飛ばしてやりたい。
そう思うのに、できなかった。
顔を上げれば、六本の懲罰杖が自分へ向けられている。
白い杖先を見ただけで、先ほど身体を貫いた名状しがたい苦悶が蘇った。
背筋が冷える。
また、あれを受ける……。
そう考えただけで、怒りに震えていた身体が、今度は恐怖で強張った。
しかも、腹は減っている。
温かな粥の匂いに身体が反応してしまうことまで、クラウディアには口惜しかった。
「食べなくていいのかい、聖女? 砂時計の砂は落ち続けているよ」
オクタヴィアが冷たく言った。
クラウディアは両手を強く握りしめた。爪が掌へ食い込み、痛みが走る。
抵抗は無意味だ。
反抗も反撃も、成功する見込みがなければ意味はない。
機会を待つのだ。
いまは、そのときではない──。
必死に自分へ言い聞かせる。
そしてクラウディアは、ゆっくりと目の前の皿へ顔を近づけた。
手は使わない。
命じられたとおり、口だけで食事を始めた。
素直に皿へ顔を寄せ、命じられたまま食べ始めたクラウディアを見て、周囲の女兵たちから一斉に驚きの声が漏れた。
「……へえ、案外、肝が据わっているじゃないかい。素直に皿に放尿をしたときにも思ったけど、奴隷としての服従心が血にまで染みついているのかもしれないわね。お前たち、テレオロス人は生まれながらの家畜人だわ。間違って宗主国のようなことをしていたのは失敗だったのよ。そうやって、自分の排泄物を食べるのはお似合いよ」
オクタヴィアが挑発するように喋りかけてくる。
おそらく、彼女はクラウディアを怒らせたいのだろう。激昂したクラウディアが抵抗をすれば、嬉々としてさっきの懲罰杖か、あるいは、もっと惨い仕置きをするに違いない。
わかっていて、抵抗する意味などない。
クラウディアは、ただ黙って皿の中のものを口へ運び続けた。
貴族令嬢として生きてきた自分には、考えられないほど無様で屈辱的な食事だった。
絶対に、この口惜しさを忘れるものか──。
その言葉だけを胸の内で繰り返した。
やがて、クラウディアは皿の中のものをすべて食べ終えた。砂時計にはまだかなり砂が上側に残っている。
「……へえ、本当に残さなかったのね。聖女様にしては上出来じゃない。じゃあ、矯正室に移動するわよ。その前に準備処置をしましょうか」
オクタヴィアが皮肉っぽく笑った。そして、女兵たちに視線を向け直す。
「お前たち、拘束しなさい。家畜らしくね」
女兵たちが懲罰杖を縮め、腰の横へ格納すると、クラウディアを取り囲んだ。
取り出されたのは、二組の革製の枷だ。
右手首と右足首、左手首と左足首が、それぞれ短い革帯で繋がれていく。
「……っ」
クラウディアは、繋がれた自分の手足を見下ろした。
これでは、まともに立ち上がることさえできない。
脚を伸ばそうとすれば、同じ側の腕が引かれる。逆に腕を伸ばせば、脚が引き寄せられる。
立って歩くことなど不可能だった。
もし、この状態で移動しろと命じられれば、足だけでは進めない。繋がれた両手も床へつき、手足を使って身体を運ぶしかない。
そこで初めて、先ほどのオクタヴィアの言葉の意味がわかった。
家畜らしく──。
クラウディアの頬が強張った。
わざわざ、この姿勢でしか動けないように拘束したのだ。
人として当たり前に立ち、歩くことさえ許さない。
クラウディアは奥歯を噛みしめた。
別の女兵が布を取り出し、クラウディアの顔を拭い始める。
クラウディアはされるがままになった。
いまの自分には、自分の顔を拭うことさえできないのだ。
「最後に水を飲ませてあげなさい」
女兵が水筒を差し出してくる。
クラウディアはそれを見て、口元を僅かに歪めた。
「今度はなにが混じっているの。また変なものじゃないでしょうね」
「ただの薬草よ。口の中と身体の健康を整えるものだから、警戒しなくていいわ」
オクタヴィアが平然と答えた。
喉はひどく渇いていた。
クラウディアは水筒へ口をつけた。
冷たい水が乾いた喉を流れ落ちる。身体が思っていた以上に水を欲していたらしい。
水に味も匂いもなかった。
一度飲み始めると止められず、クラウディアは差し出された水筒をほとんど一息に飲み干した。
「……はぁ……」
息をつく。
その直後だった。
「……え?」
最初に感じたのは、ほんの僅かな火照りだった。
だが、それはすぐに腹の奥から胸へ、肩へ、腕へと広がっていく。
「な、なに……これ……?」
額に汗が浮かんだ。
次の瞬間には、首筋にも汗が滲み、呼吸が浅く速くなっていく。
心臓まで、急に強く脈打ち始めた。
クラウディアは戸惑って周囲を見回した。
部屋の温度が変わったわけではない。
女兵たちも平然としている。
異変が起きているのは、自分の身体だけだった。
「ちょっと……待って……。なにを飲ませたのよ」
クラウディアが息を乱しながら問いかける。身体の変化は続いていた。すでに全身は汗で濡れている。乳房の先端が痛いほどに固くなり、股間がしっとりと湿りを持ち始めていた。
オクタヴィアは、クラウディアの様子を眺めながら口元を歪めている。
「言い忘れていたけど、その水には強い媚薬も混ぜてあるわ。サロンに収容された家畜には、毎日与えている常用薬よ」
「……なっ」
クラウディアは目を見開いた。
「薬草が入っているとは言ったでしょう。ほかになにも入っていないとは言っていないわ」
「……あんた……」
クラウディアはオクタヴィアを睨みつけた。
だが、睨みつけているあいだにも、身体の熱は収まらない。
落ち着け、と自分に言い聞かせる。
呼吸を整えようとする。
それでも、汗は止まらず、下腹部が熱く疼き続ける。
自分の意思など、まるで聞いてくれない。
それがたまらなく屈辱だった。
「このサロンにいる限り、お前たち家畜が口にする食事にも飲み物にもすべて、この薬草が混ざっているわ。慣れなさい。そういえば、先に収容されているあんたの弟は、拒否しようとして、鼻から水を入れられたそうよ」
「アルトが──?」
クラウディアは声をあげた。
王都に潜伏したままだったアルトが、このサロンに収容されているとはすでに聞かされていた。だが、自分より先に弟がここで同じような扱いを受けていたと知ると、胸が締めつけられた。
「それ以来大人しくなったらしいけど、できればあんたにも、是非反抗して欲しいわね。そうすれば、もっと残酷に水を飲ませてやるんだけどね」
オクタヴィアが笑った。
「アルトに会わせて──」
クラウディアはオクタヴィアに向かって声をあげた。
「会ってどうするのよ。ところで、お前は戦場で回復術を使っていたそうじゃない。なら、軍用魔道紋の〈耐痛紋〉くらいは知っているわよね。これから、それをお前に刻んであげるわ」
すると女兵たちが、クラウディアを両側から引き起こした。
クラウディアは、左右それぞれの手首と足首を革枷で繋がれている。しゃがみ込んだ姿勢のまま両側から押さえられ、腹部をオクタヴィアへ向けさせられた。
「耐痛紋?」
クラウディアは、思わず聞き返した。
もちろん知っている。
戦闘の直前、兵士の腕へ一時的に刻まれる軍用魔道紋だ。
戦場では、負傷そのものよりも、激しい痛みによって身体が動かなくなることがある。〈耐痛紋〉は、身体が本来持っている苦痛を和らげる反応を強く引き出し、傷を負っても戦闘を続けられるようにするのだ。
「知っているなら話は早いわね。でも、これからお前に刻む〈耐痛紋〉は、軍で使っていたものとは少し違うわ。一時型じゃない。解除もできない。身体へ刻んだら、そのまま残り続ける常続型よ」
「耐痛紋を常続型に?」
クラウディアは眉をひそめた。
耐痛紋が一時型のみで運用されているのは理由がある。
長く使えば傷そのものを悪化させる危険があるからだ。痛みに耐えられるからこそ、本来なら動きを止めるべき負傷でも、そのまま身体を使い続けてしまうからだ。結果として、傷口を広げたり、損傷をさらに悪化させたりすることがある。
だからこそ、王国軍では常用されていなかった。
戦闘直前に刻み、一定時間が経てば自然に消える一時型として運用されている。
ただし、一時型を常続型に変更すること自体は、特段に難しい魔道技術というわけではない。
むしろ魔道紋は、身体へ残り続けるように組む方が単純だ。一定時間だけ作用させ、その後に自然消失させる一時型の方が、術式としては複雑になる。
つまり、常続型にすること自体は難しくない。
問題は、なぜ一時的にしか使うべきではない術式を、消えない形で人間の身体へ定着させるのかということだった。
しかも、〈耐痛紋〉が作用するのは身体の感覚だ。
常続させれば、痛みに対する身体の反応、とりわけ感覚路そのものへ影響が及ぶことになる。
それが長期間続けば、どのような変化が起こるのか。少なくとも、通常の軍用術式では想定されていない使い方だ。
人間にそれを施すというのは、もはや軍用強化の応用の範疇ではない。
人体実験に近い──。
「……耐痛紋を常続型に変更して使うのは禁忌のはずよ。王国でも共和国でも……」
クラウディアは、自分の前に立つオクタヴィアを睨みつけながら言った。
「そうね。相手が人間ならね。でも、お前たちはサロンに入る前に、人間としての権利は剥奪されているの。家畜と同じと言ったでしょう。これは合法なのよ」
オクタヴィアは、わずかに笑った。
「じゃあ、勝手にすれば。拷問に耐えやすい身体に変えてくれるなんて、面倒見がいいのね」
クラウディアは虚勢を張った。
すると、オクタヴィアだけでなく、周りで押さえつけている女兵たちまで笑いだす。
「……なにがおかしいのよ」
クラウディアは眉をひそめた。
「ところで、そもそも鎮痛は人に備わっている本来の性質なのよ。強い苦痛を受けたとき、体内で作られて感覚路に作用する要素はわかる?」
「快楽素のことでしょう」
クラウディアは答えた。
「快楽素」とは、人間の身体が強い苦痛や恐怖に晒されたとき、自分自身を守るために作り出すものだ。痛みを鈍らせるだけではなく、身体を楽にして、安堵させ、ときには強い陶酔まで生み出す。だから、重傷を負った直後なのに妙に気分が高揚したり、苦痛が遠のいたようになることがある。
戦場で重傷を負った兵士が、傷の程度からは考えられないほど平静に喋っているにも関わらず、治療が終わり、安全な場所へ運ばれた途端、それまで感じていなかった激痛を訴え始めることも珍しいことではない。
「さすが聖女ね。じゃあ、〈耐痛紋〉が、快楽素の分泌を人為的に増幅することで効果を及ぼすというのも知っているわね」
「知っているわ」
「つまりは、〈耐痛紋〉というのは、その快楽素を作り出す身体の働きを、魔道的に強制して増幅するものなのよ。本来なら身体が限界を感じたときにしか大量には出さないものを、必要なときに一気に引き出す。だから兵士は苦痛に耐えられる」
オクタヴィアはそこで、意味ありげに笑った。
「……だから、なによ……?」
クラウディアは、いまだに、どうしてオクタヴィアがクラウディアに、〈耐痛紋〉を刻もうとしているのかわからなかった。
「ここまでは、普通の〈耐痛紋〉の話よ。でも、一時型でなく、常続型に変更すれば、話が変わってくるのよ」
「……どう変わるっていうの?」
クラウディアは警戒しながら訊いた。
「普通の〈耐痛紋〉なら、その場の苦痛を和らげて終わり。でも、常続型なら違うわ。苦痛を与えるたびに、その直後の鎮痛反応を同じ感覚路へ重ねていける。身体に道を作って、それを少しずつ太くしていけるのよ」
「太くする……?」
「身体には、繰り返した反応を覚える性質があるでしょう。同じ刺激と同じ反応を繰り返せば、やがてその感覚路は強くなる。最初は意識して起こしていた反応でも、そのうち身体が勝手に起こすようになる」
「……」
クラウディアは黙った。
それも知っている。
剣術でも回復術でも同じだった。何度も繰り返した動作は、やがて考えるより先に身体が動くようになる。
「この魔道紋なら、その過程を短縮できるのよ。つまりは、簡単に身体を作り変えるの」
オクタヴィアが微笑む。
クラウディアは眉をひそめた。だが、すぐに言葉に含まれている悪意に気がついた。
「……まさか」
「ようやく気づいた? 強い苦痛を与えれば、それを打ち消そうとして大量の快楽素が発生する。その反応を感覚路へ焼き付けるのよ。そうすれば、身体は必ず苦痛のあとに来る安堵と陶酔を覚えるわ」
クラウディアは眉をひそめた。
言っている意味はわかる。
それだけに、嫌な予感がした。
「ちょっと待って」
「それだけじゃないわ。一度できあがった感覚路を増幅するのよ。道を太くするとでも言えばわかりやすいかしら。そうすれば、次第に強い苦痛でなくても、同じ反応が起こるようになる」
クラウディアは息を呑んだ。
そこまで言われれば、この女がなにをしようとしているのか理解できた。
苦痛のたびに大量の快楽素を発生させ、その反応を身体へ定着させる。
しかも、感覚路そのものを増幅していく。
そんなことを続ければ──。
「……身体が苦痛とそのあとの快感を結びつけてしまう……?」
クラウディアは、半ば呆然となった。
「そういうことよ。しかも強い習慣性がある。中毒性もね。いずれ、お前がどう考えているかとは関係なく、肉体の側が同じ反応を起こすようになるわ……。お前の身体は、簡単に苦痛を欲しがる被虐体質になる」
「ば、馬鹿なこと言わないでよ──。冗談でしょう。絶対に抵抗してみせるわ」
口にしながら、クラウディア自身、それが反論になっていないことに気づいていた。
感覚路は、意思そのものではない。
考えて止められるものでもないのだ。作り変えられれば、クラウディアの意思とは無関係に身体は反応する。
「無理よ。お前の考え方を変えるわけじゃないもの。頭では最後まで嫌がっていて構わない。でも、身体は別よ。お前がどれだけ誇り高くても、肉体の反応までは命令できないわ。聖女のお前がどれだけ誇り高くても、身体はそんなものを尊重してくれないのよ」
否定したかった。
だが、できなかった。
オクタヴィアの言葉ではなく、自分自身の魔道知識が、その理屈を肯定していた。
「……わたしを……人為的に被虐嗜好へ変えようというの。やめなさい。そんなことしても面白くないでしょう──」
クラウディアは声をあげた。
そんな魔道紋を身体に刻まれてしまえば終わりだ。
クラウディアは理解してしまった。だからこそ、翻意させるしかない。必死に頭を巡らせる。どういう物言いであれば、目の前の狂女にやめさせることができるだろう。
「心配いらないわ。十分面白いから」
オクタヴィアが首を横に振った。
「や、やるなら、そんなものの力を借りずにしなさいよ──。そっちがあんたたちのお好みじゃないの」
「大丈夫よ、十分に愉しめるもの。耐痛紋は、お前の心は変えないわ。苦痛は嫌いなまま。わたしを憎んだまま。貴族としての誇りだって、最初は持ち続けられるわ」
「当たり前よ──。わたしが簡単に屈すると思ったら大間違いよ」
クラウディアはオクタヴィアを睨みつけた。
「でも身体は別なの。頭では嫌だと叫んでいるのに、身体だけが次に来る苦痛を求めてしまう。そのうち、心も肉体に同化するわね。わたしは、そっちの過程を愉しむことにするわ」
クラウディアは、なにも言えなくなった。
精神を折るのではない。
自分という人間を消すのでもない。
クラウディアの反抗心を残したまま、その意思とは異なる反応を身体へ覚え込ませるということだ。
それが、オクタヴィアの言っていることだった。
そしてなにより恐ろしいのは、その説明が荒唐無稽な脅しではないことだ。
クラウディアには、魔道の知識がある。だからこそ、その方法が成立し得ることを理解してしまっていた。
「さて、随分と説明しすぎたわね。あとは言葉ではなく、身体で理解してちょうだい」
オクタヴィアはそう言うと、部屋の外へ向かった。
「待って──もう一度、話し合いをしましょう。条件を言って。受け入れられるものは受けるわ」
「なにを話し合うのよ。馬鹿じゃないの」
オクタヴィアは取り合わず、そのまま部屋を出ていった。
すぐに、廊下から車輪の音が近づいてくる。
やがて開いたままだった扉から、オクタヴィアが台車を押して戻ってきた。
オクタヴィアが押してきた台車を見て、クラウディアは目を見開いた。
載っているのは、軍で使われる魔道刻印具などではなかった。
金属製の容器の中で、コークスが真っ赤に燃えている。その中には、長い柄のついた魔道刻印具が突き込まれていた。だが、その形はどう見ても家畜に使う焼印だった。
「なによ、それ……。耐痛紋を刻むんじゃなかったの?」
「刻むわよ。ただ、家畜にはこっちの方が似合うでしょう。ああそうだ。耐痛紋なんて名前も似合わないわね。家畜紋……いいえ、被虐体質を作るんだから、〈雌畜紋〉とでも呼びましょうか」
オクタヴィアは笑いながら、赤熱した刻印具を燃えるコークスの中から引き抜く。
こちらに向けた面が真っ赤に焼けている。
「やめてええっ──」
クラウディアは絶叫し、必死に身体を捩った。
だが、四人の女兵に押さえ込まれた身体はほとんど動かなかった。
赤く焼けた刻印具が、へその下へ近づいてくる。
「やめなさい──やめて──」
次の瞬間、刻印具が腹部へ押し当てられた。
「あぎゃあああ──」
じゅっ、と肉の焼ける音がした。
激痛が腹部から全身へ突き抜ける。
だが、その直後だった。
身体の奥から、これまで媚薬で感じていたものとは明らかに異なる、強烈な安堵と陶酔が一気に噴き上がった。
痛い──。
耐えられないほど痛い──。
それなのに、その苦痛を追いかけるように、身体だけが異様な心地よさに包まれていく。
──これが、快楽素……。
そう理解した瞬間、視界が大きく揺らいだ。
オクタヴィアの姿が滲み、笑い声が急速に遠ざかる。
クラウディアの意識は、あっという間に暗闇へ沈んでいった。