※この作品はR-18です。

サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館   作:ドン・ドナシアン

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007 尻穴矯正・痒み【第1日】

「痒み……? ば、馬鹿なことはやめなさい──やめるのです」

 

 セリアは前屈の体勢で固定された窮屈な格好のまま叫んだ。

 背後で続くアルジェたちの気配が異様だった。

 布を広げる音──。器具が触れ合う微かな音──。新たに台のようなものを運んできて、なにかを並べながら準備していると思う。──そのひとつひとつが、はっきりと耳に入る。

 

 懸命に首を捻る。

 だが、前へ引かれた鎖がそれ以上の動きを止める。

 視界にあるのは、床と自分の脚だけだ。

 

「ははは、王族様とは言っても、身体の造りは同じみたいだねえ」

 

 アルジェの声が、すぐ背後から落ちる。

 距離が近い。

 気配が、逃げ場を塞ぐようにまとわりつく。

 

 次の瞬間──

 つんと鼻を刺すような匂いが届いた。

 甘さのない、鋭い刺激臭。

 “痒み油”──。あのカイネウスの言葉を思い出す。

 セリアの喉がひくりと震えた。

 

「じゃあ、覚悟はいいかい、妃殿下。すぐに痒みが襲ってくるよ。狂ったようにね」

 

 アルジェが笑う。

 

「……そんなもので、わたくしを──」

 

 言いかけた、そのときだった。

 背後でお尻の穴をすっと掃かれた。

 

「ひゃん──」

 

 細い先端が、お尻の穴をくすぐっている。

 さらに、別の角度から襲う。

 

「や、やめっ──」

 

 反射的に短い声が漏れた。

 必死に腰を避ける。

 

「どこに逃げるのかしら?」

 

 すると、別の方向から、またお尻の穴近くを掃かれる。

 これは筆だ──。

 数本の絵筆でセリアのお尻の穴を刺激しているのだとわかった。

 

 だが、なにもできない。

 必死に腰を逃がそうと動かす。

 だが、前へ引かれた鎖がそれを止める。

 引き戻される。

 逃げた分だけ、さらに晒される。

 戻された位置に別の絵筆で狙われる。

 

「今度はこっち?」

 

 また筆が襲う。

 見えないので筆を避けることはできない。

 できるのは、くすぐられてから反射的に逃げることだけだ。しかし、逃げてもまた絵筆が襲う。

 

「ほらほら」

 

 腰を跳ねさせて筆の刺激を避ける。

 しかし、そこにまた筆。

 

「こっちよ」

 

 悲鳴とともに腰を振る。

 

「いらっしゃい」

 

 しかし、そこにも筆が待っている。

 一体全体、何本の絵筆で狙っているのか──。

 

 しばらくのあいだ、セリアは悲鳴をあげながら、右に左にと腰を弾かれるように動かし続ける。

 

「ははは、セリア妃の尻振り踊りか。これは見事だ。だが、目の毒だな」

 

 ヴェルデンの高笑いが響いた。

 セリアははっとした。

 自分の引き起こした醜態を自覚してしまう。

 

「ああ、もう殺しなさい──。これ以上は耐えられません……。わたくしを処刑しなさい──。せめて、王族として殺して──」

 

 セリアはかっとなって叫んだ。

 

「やめることだね」

 

 すると、低い声が、割って入った。

 カイネウスだった。

 なにかの合図でもしたのか、襲っていた筆が一斉に離れる。

 

 また、カイネウスの物言いは柔らかいのに、ぞっとするほどの凄みがそこにあった。

 場が止まる。

 セリアの身体は強張った。

 

「……あなたが死ねば、あの娘が地獄の苦しみを味わうことになるよ」

 

 カイネウスが続ける。

 

「えっ、どういうことです?」

 

「あなたが、あの娘と仲がよかったのは知っている。だから、一緒にサロンに連れてきた」

 

 カイネウスが淡々と告げる。

 後ろが見えないセリアには、カイネウスがどんな表情なのかは見えない。しかし、ほとんど感情がこもってないかのような口調だった。

 

「……ケイは……彼女は無事なのですか?」

 

 絞り出すように問う。

 

「無事だね……。いまは……」

 

「いまは?」

 

「あなたが矯正に従順である限りは……」

 

 それだけだった。

 余計な説明はない。

 だが、それで十分だった。

 セリアの思考が止まる。

 

 記憶がよぎる。

 揺れる馬車の中で、死にたくないと、震えていたあの娘……。

 セリアは、はっきりと思い出した。

 

「……あの娘は……人質だ」

 

「人質?」

 

「あなたが死んでも、毀れても……あの娘を毀す……」

 

 カイネウスが声を重ねる。

 確定事項のように……。

 セリアの指が震えた。

 

 逃げられない──。

 死ぬことはできない。

 毀れることも……。

 セリアは、それをはっきりと自覚した。

 

「さあ、じゃあ、そろそろ塗りましょうか」

 

 アルジェの声──。お尻の穴に、ねっとりとした感触の指が触れる。

 異物が入り込んでくるような錯覚に、セリアの身体がぶるりと痙攣した。

 

「動くんじゃないわよ──」

 

「じっとすんだよ」

 

 腰を押さえている手に力が加わる。

 油剤を載せた指がお尻の奥に入っていく。

 

「あっ──」

 

 セリアは思わず、昂ぶった声をあげてしまった。

 ついに、妖しい薬剤の塗布が始まったのだ。

 アルジェの指が幾度か油剤を塗り足しながら、その微妙な部分に痒み油を塗り込み続けてくる。

 堪らない嫌悪感と、それに混じる得体の知れない異様な感覚にセリアは、歯を鳴らしながら、汗を額から流し続ける。

 

「さて、こんなものね……。お館様、終わりました」

 

 アルジェが振り返り、カイネウスへ報告する気配があった。

 

「ああ、じゃあ、少し待とうか……」

 

 カイネウスが静かに応じる。

 アルジェたちが左右に分かれる気配がした。

 

 しばらくのあいだ、セリアは必死に息を整えようと喘いでいた。

 塗り込まれた場所が、じりじりと火に当てられているかのように熱い。

 

 だが、その熱はすぐに変質した。

 じんじんとした疼きへ……。

 

 そして──。

 

 鋭い感覚へと変わる。

 

「ああっ、痒い──」

 

 セリアは唇を震わせて叫んだ。

 塗り込められた痒み油が、ついに効力を現しはじめたのだと理解する。

 お尻から貫いたのは、背骨を這い上がるような強烈な痒みだった──。

 前屈した全身の肌から、一斉に脂汗が噴き出す。

 

「ああ、痒い──痒いです──。こ、これは──」

 

 耐えられるようなものではない。

 少しでも逃れようと、必死に腰を振る。

 だが、身体を拘束する鎖が、それ以上の動きを許さない。

 

「ひいいい──痒いいい──なんとかして──なんとかしてください」

 

 セリアは、鎖に引かれながら、それでも止められず、前屈の体勢のまま腰を振り続けた。

 

「すごいのう……。さすがはサロン・セルパンタンの媚薬だ。どうだ、セリア妃、そんなに痒いのか?」

 

 ヴェルデンが愉しげに笑う。

 だが、セリアにはその声を受け止める余裕はない。

 この痒み──。

 こんなもの、耐えられるはずがない。

 

「セリア妃、答えよ──。痒いのかと訊いているのだ──?」

 

 ヴェルデンの声が強くなる。

 

「か、かゆい──痒い──なんとかしてください──。お願いです」

 

 セリアは腰を振りながら、上ずった声で叫ぶ。

 

「これはすごい効き目だ。これなら、駆け引きでなんでもさせられそうだな……。なあ、将軍、後ろの穴は、私に回してもらえないか? 頼む──」

 

 ヴェルデンが半ば冗談めかして言う。

 

「だめですよ……。セリア妃は僕専用にします。元帥の許可も得ていますから」

 

 カイネウスが淡々と応じた。

 そのあいだも、セリアは絶叫し続けている。

 狂う──。

 本当に、狂ってしまう──。

 

「ああ、もうお許しを──。お願いです──」

 

 ついに、哀願の声が漏れた。

 

「だが、このセリアの尻振りを前にして、なにもさせんというのは、さすがに酷いぞ」

 

「諦めてください。その代わりに、次はセリア妃付きの女騎士が入荷します。そちらはあなたに任せますから」

 

「セリア付き? もしかして、レイシアのことか──? あれをこのサロンで扱うのか?」

 

「ええ……。もっとも、まだ捕らえてはいませんがね。居場所は掴んでいます。どうやら、このセリアを奪回しようとしているようです。このサロンの情報も、あえて流してあります。いずれ自ら来るでしょう」

 

 二人の会話は続く。

 だが、その言葉は、もうセリアの中で意味を結ばない。

 

 ただひとつ──。

 

 この痒み──。

 

 それだけが、全てを支配していた。

 セリアは、ただのたうち、悲鳴を繰り返し続けるしかなかった。

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