※この作品はR-18です。

サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館   作:ドン・ドナシアン

70 / 100
070 主任矯正官の暴走【第29日】

「ちっ」

 

 失禁をしながら意識を失ったクラウディアを見て、オクタヴィアは舌打ちをした。連撃のあいだは、クラウディアの限界だと思う高さまでクリトリスの根元に結んだ堅糸を引きあげてやっていた。

 

 四肢を背中側で交差して束ねられ、股ぐらを曝け出して股間をはしたなく晒し上げている姿は、王国の高位令嬢に相応しい無様さだと思っていたが、途中で意識を失って力を失ったクラウディアは、クリトリスだけでぶら下がるかたちになり、引き千切れはしないものの、糸が喰い込んでいる場所から血が流れ出してきた。

 

 女兵たちが慌ただしく鎖を下げようとするのを、素早く懲罰杖を取り出して真横に振り、糸を切断する。

 だが、得体の知れない感情が込みあがり、懲罰杖を返す勢いのまま思い切り股間に叩きつけてしまった。まあ構わないだろう。

 それでも、腰が完全に床に落ちてぴくりとも動かないクラウディアに、今度は血が流れている陰核の上からもう一度、懲罰杖を鞭のように叩きつけた。

 

「うわ、主任──、もう気を失ってますよ」

 

「布を取ります──」

 

「死んでないか」

 

 女兵たちが慌てふためくのをオクタヴィアは苛つきとともに眺めた。

 懲罰杖を短くして懐にしまう。

 ぬれ布をしばらく被せることで息を止めてやっていたクラウディアの顔は完全に白目を剥いており、涙も鼻水も垂れ流しであり、口からは舌を覗かせて泡を吹いていた。

 

「医務官を呼んできます──」

 

 女兵のひとりが部屋を駆けだしていこうとするのをオクタヴィアは呼び止めて制した。

 

「……え、でも……」

 

 扉の手前で立ち止まって振り返った女兵が、困惑している。

 

「よく観察しなさい。息はしているわ」

 

 オクタヴィアは静かに言った。

 股間からは血が流れ出ている。一瞬、クリトリスだけで宙吊りになったときに切ってしまったのか、そのあとのオクタヴィアの打擲で切ったのかはわからない。

 ただ、それなりに血が流れている。

 しかし、オクタヴィアはそれだけでないことに気がついていた。

 すでに意識を失っているクラウディアは、失禁と出血だけでなく、かなりの愛液を垂れ流していた。

 あの状況で、この女は絶頂に等しい程の愛液を噴き出させたのだ。

 腹に刻んでやった〈雌畜紋〉が順調にクラウディアの肉体に作用している証拠だった。

 

「……しかし……」

 

 医務官を呼ぶのを止めたオクタヴィアに、女兵のひとりが当惑したように顔を向ける。

 四人のうちでは組長格にあたる女兵で、ダリヤという名前だっただろうか。

 

「治療石があるわ。それで十分よ。傷を癒やして、血を拭いなさい。すぐに再開するわ」

 

 オクタヴィアは事前に用意していた治療石をダリヤに手渡した。

 治療石は簡易治療具のひとつであり、負傷してからそれほど時間が経っていなければ、患部に翳すことで大抵の傷を短時間で癒やすことができる。

 ただ、高価な軍事用の規制品でもあり、このサロンでも厳格な使用統制が敷かれていた。

 

「えっ、治療石ですか。でも、これは……」

 

 ダリヤが戸惑うのも無理はない。

 治療石の使用を判断できるのは、主任医務官ソフィアと、その上位にいるサロン主のカイネウスだけである。主任矯正官であるオクタヴィアに、その権限はなかった。

 だが、カイネウスと仲がいいソフィアに連絡がいえば、カイネウスに伝わる。どんな横槍を入れられるかわからない。

 

「主任矯正官としての指示です。ただちに処置しなさい」

 

 オクタヴィアは有無を言わせない強い口調で命じた。

 

「……はい」

 

 ダリヤたちが慌ただしく動き始める。

 治療石が出血している箇所へ翳されるとともに、一度拘束も解かれ、クラウディアの身体が床へ伸ばされた。残っていた糸も取り除かれたが、それでもクラウディアは目を覚まさない。

 治療石の光を受けて、クラウディアの傷が塞がれていくのを見ながら、オクタヴィアはふと昔のことを思い出した。

 

 もう、七年も前になる。

 当時のオクタヴィアは、フォロス共和国の首都で働く、まだ二十代前半の若い官吏にすぎなかった。

 もっとも、共和国とは名ばかりだった。当時のフォロス共和国は、まだテレオロス王国の属国だった。

 共和国政府の政庁には、顧問、弁務官、監督官、監察官──名前だけはもっともらしい肩書をつけた王国の貴族たちが、当然のように入り込んでいた。

 その下には、交流や研修などという名目で送り込まれてきた若い貴族の子弟までいた。

 

 彼らは、なにひとつ責任を負わない。

 それでいて、共和国の官吏よりも強い権力を持っていた。

 宗主国の高位貴族──。

 ただそれだけで、なにをしても許されると思っていた。

 

 オクタヴィアに目をつけたのも、そんな連中だった。

 彼らは、十代後半の王国の貴族令息たちだった。

 ある日の夕刻、オクタヴィアは政庁の空き部屋へ連れ込まれた。

 そこで、彼らから集団で強姦を受けた。

 

 翌日、オクタヴィアは訴え出た。

 当然のことだった。

 自分は共和国政府の官吏である。

 政庁の中で起きたことなのだから、調査され、罪を犯した者は処罰されるべきだ。

 

 そう信じていた。

 甘かった。

 令息たちは、口を揃えて合意の上だったと言った。

 そして宗主国側の人間は、それを信じた。

 

 いや、信じたのではない。

 最初から、真実などどうでもよかったのだ。

 王国の高位貴族の子弟と、属国の女官吏──。守るべき者がどちらなのか、彼らにとって答えは最初から決まっていた。

 

 令息たちの中に処罰を受けた者はひとりもいなかった。

 それどころか、いつの間にかオクタヴィアの方が、若い貴族令息たちを誘惑した女だという噂まで流された。

 訴えれば訴えるほど、笑われた。

 抗議すればするほど、痴女だと囁かれた。

 やがて、同僚たちまでオクタヴィアを見る目を変え始めた。

 

 もう、諦めるしかないのかもしれない。

 そう思い始めた頃だった。

 婚約者が捕らえられたという報せが届いた。

 

 結婚の日取りまで、ほとんど決まっていた男だった。

 彼は、オクタヴィアを襲った令息のひとりを待ち伏せし、襲撃したらしい。

 だが、傷ひとつ負わせることもできず、護衛に取り押さえられた。

 

 三日後、婚約者は帰ってきた。

 死骸になって──。

 

 顔は、知っている男とは思えないほど変わっていた。

 歯も爪も失われ、全身にはひどい火傷が残り、四肢の骨も砕かれていた。

 局部は切断されていた。

 それでも当局は、牢内で自ら命を絶ったのだと発表した。

 馬鹿馬鹿しい話だ。

 どうやれば、人間が自分の爪を残らず剥がし、自分の四肢を砕きながら死ねるというのか。性器を切断して自殺する男がどこにいる──。

 

 オクタヴィアは泣かなかった。

 少なくとも、人前では泣かなかった。

 その日から半年間、ただ証拠を集めた。

 仕事を続けながら、ひとりずつ話を聞いた。

 記録を探した。

 握り潰された報告書を拾い集めた。

 

 そして知った。

 自分だけではなかった。

 同じような目に遭った女が、何人もいたのだ。

 泣き寝入りした者もいた。

 職を失った者もいた。

 家族や恋人から見放された者もいた。

 訴え出たために、逆に罪を負わされた者までいた。

 

 あの令息たちにとって、それは特別な出来事ですらなかったのだ。

 属国の女など、好きに扱ってよい。

 そう考えていたのだろう。

 そして、その考えを誰も咎めなかった。

 

 証拠が積みあがるにつれ、さすがに共和国政府の内部でも声が上がり始めた。

 やがて騒ぎは隠しきれなくなった。

 フォロス側の反撥があまりに大きくなったため、テレオロス王国もようやく再調査を命じた。

 

 令息たちの行為は認定された。

 オクタヴィアへの暴行も、ほかの女たちへの行為も──。

 ただ、婚約者が牢内でなにをされたのかについてだけは、最後まで曖昧にされた。

 それでも、ようやく裁かれる。

 そう思った。

 

 処分が決まった。

 本国への強制送還。

 それだけだった。

 

 オクタヴィアは、その知らせを聞いた日のことを今でも覚えている。

 怒りで目の前が赤くなった。

 全身の血が一度に沸騰し、皮膚を破って噴き出してくるのではないかと思った。

 

 自分を辱めた。

 婚約者を殺した。

 ほかにも何人もの人生を壊した。

 その代償が、国へ帰されることだった。

 

 そのとき、ようやくわかった。

 腐っているのは、あの令息たちだけではない。

 彼らを守った者たちも同じだった。

 

 証拠を握り潰した者──。

 被害者を嘲笑った者──。

 嘘だと知りながら報告書へ署名した者──。

 そして、それを可能にしていたテレオロス王国そのもの──。

 

 王国貴族は、生まれながらにして自分たちは属国の人間より上だと信じていた。

 共和国の土地を使い、共和国の富を奪い、共和国の人間を従わせることを当然だと思っていた。

 女ひとりの人生など、その当然の中で踏み潰される小石にすぎなかったのだろう。

 

 だが、踏み潰された側は忘れない。

 オクタヴィアだけではない。

 フォロスの人間は、誰も忘れていなかった。

 

 積み重なった屈辱を──。

 奪われた誇りを──。

 命令され続けた年月を──。

 宗主国の貴族が、自分たちの国で我が物顔に歩いていた姿を──。

 

 そして七年後──。

 テレオロス王国は滅びた。

 フォロス共和国を中心とする属国連合軍によって、王都は陥落した。

 かつてオクタヴィアを襲った令息たちも、その混乱の中で捕らえられた。

 今度は本国へ逃げ帰ることなどできなかった。

 過去の罪まで掘り起こされ、王都で裁かれ、処刑された。

 

 その知らせを聞いたとき、オクタヴィアは少しも嬉しくなかった。

 胸の奥に、なにかが満ちることもなかった。

 婚約者が戻ってくるわけではない。

 七年前の自分が救われるわけでもない。

 ただ、当然のことが、七年遅れて行われただけだった。

 それだけだ。

 

 憎しみも消えなかった。

 むしろ王国が滅びたいまになって、なおさらはっきりとわかる。

 あの男たちだけを殺せば終わる話ではなかったのだ。

 

 彼らは、王国が生み出した人間だった。

 王国の貴族として育ち、王国の特権に守られ、属国の人間を下に見ることを当然として生きてきた。

 だからオクタヴィアにとって、王国の貴族だった者はすべて同じだった。

 

 誰ひとり、無関係ではない。

 誰ひとり、罪の外にはいない。

 聖女と呼ばれていようが関係なかった。

 

 人を救ってきたのだとしても関係ない。

 クラウディア=フォルクスもまた、王国の高位貴族として生きてきた女だ。

 その身分に守られ、その秩序の上に立ち、その国の恩恵を受けてきた。

 それだけで十分な罪だ。

 オクタヴィアにとって、この女もまた、赦されることのない罪人でしかない。

 

「終わりました」

 

 ダリヤの声で、オクタヴィアは七年前の記憶から引き戻された。

 クラウディアは床に横たえられ、いったんすべての拘束を解かれている。治療石による処置も終わったらしく、先ほどまで見えていた傷も塞がっていた。目隠しと耳の遮断栓こそそのままだが、それ以外はすべて外されている。

 

「なにをしているのよ。元の体勢に戻しなさい。連撃責めの途中でしょう」

 

 オクタヴィアは当然のことのように命じた。

 だが、女兵たちはすぐには動かなかった。

 

「……しかし、これ以上は、カイネウス様の定められたサロンの規則に……」

 

 四人を代表するように、ダリヤが口を開いた。

 オクタヴィアは、また舌打ちしたくなるのを堪えた。

 

 カイネウス・セルパン──。

 このサロンの主にして、テレオロス王国を滅ぼした征服将軍……。

 その点について、オクタヴィアは彼に感謝していた。

 彼がいなければ、王国がこれほど早く滅びることもなかっただろう。七年前、宗主国の威光を笠に着て好き放題をしていた者たちが、罪を遡って裁かれることもなかったかもしれない。

 

 だが、サロン主としてのカイネウスには、どうにも理解できないところがある。

 甘いのだ。

 本人は冷酷な支配者を装っているつもりなのだろうが、オクタヴィアにはそうは見えなかった。

 囚人に細かな規則を課すだけではない。

 矯正する側にも同じように規則を課し、許可された範囲から逸脱することを厳しく禁じている。

 傷を残すな。必要以上に壊すな。決められた手順を守れ。

 そしてなにより、恐怖と苦痛だけで屈服させるのではなく、囚人自身の感覚や心を少しずつ作り変え、自ら従う方向へ導くのだという。

 

 馬鹿ではないかと思う。

 王国の貴族など、もっと単純に扱えばいい。

 彼らが属国の人間へしてきたのと同じように、その誇りを徹底して砕き、自分たちがもはや何者でもないと思い知らせれば、それで十分ではないか。

 

 だが、オクタヴィアがそれ以上に気に入らないのは、カイネウスの考え方を支持する者が驚くほど多いことだった。

 このサロンの兵も官吏も、彼の定めた規則を当然のものとして受け入れている。

 それは、彼が類い稀な軍事的才能を持つ将であることとも無関係ではないのだろう。

 実際、テレオロス王国征服の最大の功労者であるカイネウスが、その褒賞としてただひとつ望んだのが、このサロンについての大きな裁量だった。

 だから王都に置かれた共和国の統治政府にも、よほどの問題を起こさない限り、カイネウスの好きにさせておけばいいという空気がある。

 その意味では、オクタヴィアのような考え方の方が、この場所では少数派だった。

 それが、なおさら気に入らなかった。

 

「わかった。もう行きなさい。ここからはしばらくひとりでいいわ」

 

 オクタヴィアは言った。

 四人の女兵たちが戸惑ったように顔を見合わせる。

 だが、オクタヴィアはすでに決めていた。ここから先は、クラウディアと一対一で向き合う。

 そもそも、主棟から離れたこの別棟でクラウディアを矯正すると決めたとき、アルジェの指揮下にいる女兵の中から、王国貴族に対する恨みが特に強いはずの者を選んだのだ。

 それが、この四人だった。

 それでも、この程度なのだ。

 

「お待ちください。あたしたちは別に、主任に従わないつもりは……」

 

 ダリヤが慌てて言った。

 

「いえ、あなたたちになにかあるわけじゃないわ。勘違いしないで。でも、ここから先は、もともと一対一でやるつもりだったのよ」

 

「おひとりでですか?」

 

「そうよ」

 

 オクタヴィアは床に横たわったままのクラウディアへ視線を落とした。

 

「あの聖女には、まだ心の奥に折れていない芯が残っている。わたしは、それを毀すつもりよ。そして、従順な接待婦に仕上げる」

 

「あたしたちも手伝います」

 

「いらないわ。こういうことは一対一の方がいいのよ」

 

 オクタヴィアは淡々と言った。

 余計な人間も、余計な出来事も必要ない。

 クラウディアの意識から、ほかのすべてを遠ざける。

 この別棟で起きることと、オクタヴィア自身──。それだけがクラウディアの世界になればいい。

 安息を待つのではない。次にオクタヴィアからなにをされるのか、それだけを考えるようになる。

 やがて、苦痛から解放してくれる者と、それを与える者が同じ一人の人間になれば、クラウディアの中に残っているものも崩れていくだろう。

 

「それでも、お手伝いくらいは……」

 

「必要ないと言ったはずよ。去りなさい。アルジェには、わたしから連絡しておくわ」

 

 オクタヴィアはダリヤたちを見た。

 

「……わかりました」

 

 まだ納得しきれてはいない様子だったが、オクタヴィアの意思が強いのを理解したのだろう。

 ダリヤを先頭に、四人の女兵たちは次々と部屋を出ていった。

 扉が閉じる。

 室内が急に静かになった。

 オクタヴィアは、あらかじめ用意していた矯正具の中から四つの金属環を取り出した。

 

 〈荷重環〉と呼ばれる道具だ。本来は兵士の鍛錬に用いる魔道具であり、手首や足首へ装着し、遠隔操作によって環そのものにかかる負荷を変化させる。身につけたまま走らせたり、武器を振らせたりすることで、通常よりも大きな負荷を身体へ与えるための訓練具だった。

 拘束具ではない。

 だが、負荷を大きくすれば、結果として身体の自由を奪うこともできる。

 オクタヴィアは四つの〈荷重環〉をクラウディアの両手首と両足首へ取りつけた。

 環に加わる負荷を成人した男三人分程度に調整する。四個の環それぞれに、である。

 これで、クラウディアは、環を床から動かすことさえもできないだろう。

 

 クラウディアは、まだ目を覚まさない。

 オクタヴィアは懐から小型の通信具を取り出した。

 主任格以上のサロン要員にだけ支給されている魔道通信具である。

 

 まず、アルジェに、借り受けていた女兵四名を、この時点をもって原隊へ復帰させる旨を簡潔に記した。

 

 続いて、カイネウス宛て──。『クラウディアに対する処置には、さらに数日を要する。従って、明日に予定されている元帥の接待には参加させられない』

 そう報告した。

 

 どんな返事が来るかはわからない。

 カイネウスが、この判断を黙って認めるとも限らなかった。

 だが、ここで終わらせるつもりはなかった。

 クラウディアと接してきたからこそわかる。

 

 まだ足りない。

 表面では崩れ始めている。

 身体にも変化は現れている。

 それでも、あの女の奥には、まだ自分がクラウディア=フォルクスであることを手放していない部分が残っている。

 そこまで崩さなければ意味がない。

 

 カイネウスが昨夜から三階の私的区画に籠もっていることは、オクタヴィアも聞いていた。

 あの王太子妃を連れ込んだまま、いまだ下りてきてもいないらしい。

 自分は好きなようにしているくせに……。だったら、こちらも好きにさせてもらえばいい。

 オクタヴィアは二件の通信を、魔道に乗せて送り出した。

 

 クラウディアの顔に水をかける。

 目隠し越しではあるが、彼女がわずかに覚醒するのがわかった。

 伝声具を自分の口に当てる。

 これを使わないと、いまのクラウディアと意思疎通はできない。

 

「ひさしぶりね、クラウディア。丸一日休ませてあげたから、かなり回復したようね」

 

「……丸……一日……?」

 

 クラウディアは当惑している。

 だが、いまの彼女には、外と繋がる感覚は、この伝声具のみだ。周囲の気配さえ遮断されているので、自分が受ける責め苦と、このオクタヴィアの言葉がすべてなのだ。

 実際にどのくらい経っているかなどわかりようもない。

 

「わたしは、外で食事もしたし、身体を洗って睡眠もとってきたわ。お前にも水だけはあげるわ。飲みなさい」

 

 水の入った革袋をクラウディアの口に当てる。

 彼女が躊躇したのは、一瞬だけだ。すぐに貪るように飲んでいく。

 

「じゃあ、今日の連撃を始めるわよ。やり方は覚えているわね?」

 

 オクタヴィアは、天井からさがったままの鎖に新しい堅糸を繋ぐ。先端には〈リング〉とこのサロンで称している喰い込み具を取り付けている。

 肉体のどこであろうとも、穴を開けたように一時的にリングが装着されるというものだ。だが、外せば穴は塞がれる。便利なものだ。

 それをクラウディアのクリトリスに喰い込ませて装着する。

 

「んがああっ」

 

 クラウディアは吠えるように身体を突っ張らせて呻いた。

 しかし、もう言葉はかけない。

 その代わりに、堅糸を吊っている鎖を少し引きあげる。

 クラウディアは悲鳴をあげて、身体を反り上げて股間をあげる。しかし、四肢の荷重環があるので、四肢の手首と足首は、床の位置からぴくりとも動かない。

 クラウディアの裸身がアーチ橋のようになって静止する。

 

 右手には連続電撃の起動具を握る。これを押せば、連続二十回のリングへの連撃が開始される。続けて二回押せば、一回目に戻って二十回の再開だ。

 しかし、すぐには始めない。

 この状態でしばらく待たせる。

 始まってしまえば、数さえ間違わなければ、二十回で必ず終わる。連撃の最中は苦悶ではあるが比較的耐えやすい。だが、こうやって待つ時間──。あるいは、二十回が終わって、次の責めがいつ再開されるのかわからない時間──。それこそが耐えがたい苦悶になっていくのだ。

 

 すでにそうなっている。

 股間をあげて待つクラウディアの股間からは、かなりの愛液がぼたぼたと滴り落ち始めた。

 連撃の開始ボタンを押す。

 

「んぎいっ、いちいいいいっ──」

 

 クラウディアが激しく身体を跳ねあげた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。