サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
アルトは、汗の滲んだ顔を持ちあげて、眼の前のディルドに口を押し被せていた。ディルドは魔道淫具であり、口の中で律動するように抽送の動きをアルトに与え続けている。
天井の低い狭い鉄格子の檻の中だった。
アルトは、その中に跪かされて四つん這いにされていた。相変わらず、性器さえ隠すことのできない全裸である。
正確にいえば、両手を背中側で拘束され、足首のあいだには棒枷を嵌められている。身体を支えているのは、開脚している両膝と、ディルドを咥えている顎だ。
膝と脚、そして顎だけで姿勢を保ち、腹筋と背筋を使って上半身を持ちあげ続けなければならなかった。肩と腹筋、背中から腰にかけてかなりの重圧が襲っていた。
「うっ……く……」
少しでも力を抜けば、顔から石床へ倒れ込んでしまう。
それだけなら、まだ耐えられた。
しかし、アルトのアナルには、昨夜の深夜にも使われた魔道淫具が挿入されているのだ。魔道で固定されてアナルを深々と貫いて勝手に出せないだけでなく、振動し、蠕動し、淫らな刺激をアルトに与え続けている。さらに、口の中の矯正具を口から出せば、アナルの張形に強い電撃が迸り続ける仕掛けである。
「んっ、んくっ……」
アルトは口の中に溜まり続ける唾液を呑み込みながら、またもや小さく呻いた。
アナルに妖しい感覚が拡がっている。
本来、尻穴などで快感を覚えるなどあり得ないことだった。しかし、昨日から繰り返し媚薬を塗られ、魔核で快楽線を太くされ、淫具でアナルを犯されることにより、認めたくはないが、アルトはアナルで快楽を覚える肉体に作り変えられようとしている。
いまも、新たに塗られた媚薬によるむず痒い刺激を、張形で刺激されるのは堪らなかった。じわじわと襲い続ける甘い疼きは、否定したくても否定できない、現実の屈辱として、アルトの心を侵蝕している。
また、口の中のディルドの意味も、ローランから聞かされていた。
午後からリネアに使わせる予定なのは、〈双頭張形〉というもので、アルトが外側へ与えた刺激が、そのままリネアの内側部分の張形を通じて伝わる仕組みなのだという。
だからフェラチオも練習しておけ、とローランは笑っていた。
冗談ではない。
しかし、いまのアルトには怒鳴り返すことすらできない。
午前中いっぱい、ザラとニアに付き合わされ、おそらく十回近く精を放出させられたと思う。身体にはほとんど力が残っていない。何度も限界まで追い込まれたせいで、頭の芯までぼんやりとしている。
それでも休ませてもらえなかった。
昼になると、ローランは、『昼食を済ませてくるわ。お坊ちゃんは、そのまま練習してなさい』と言い残し、ザラとニアまで連れて反省室を出ていった。
それから、どれほど経ったのかわからない。
一刻か、二刻か……それとも、それ以上なのか……。
アルトはただ檻の中で、不自然な姿勢を耐え続けていた。
腹が震える。
背中が痛む。
汗が顎から落ち、石床に小さな染みを作っていく。
なによりも口惜しいのは、こんな状況でしっかりと尻穴で感じている自分自身の肉体の反応だ。
そのときだった。
がちゃり、と扉の錠が鳴った。
アルトは扉に顔を向けるようにディルドを咥えさせられており、顔を扉に向けたままだ。
だが、扉の向こうに最初に見えたのは、ローランではなかった。
市井暮らし風の見知らぬ男だ。その後ろに共和国の軍装の男兵がいる。
そして、さらにその後ろから、ひとりの少女がゆっくりと姿を現した。
アルトは息を止めた。
見間違えるはずがなかった。
リネアだ──。
ずっと会いたかった。いや、会いたくなかったかもしれない。
無事なのか、それだけでも知りたかった。このサロンに囚われているのは知らされていたが、それでも彼らがアルトの心を追い詰めるためについている嘘だと信じたかった。
実際にリネアの姿を見た瞬間、胸の奥を冷たいものが走る。
「ああ、アルト──」
リネアはほぼ全裸だった。縄で後手縛りに緊縛され縄尻を男兵たちに取られていて、アルトに駆け寄ろうとしたのを強引に縄で引き戻されている。
「うんんっ」
アルトも檻の中から呻くような吠え声を漏らしていた。
リネアの顔は赤く、なにも身につけてない乳房から下腹部まで汗にびっしょりと濡れている。
息も荒い。
アルトは、リネアが股間に装着させられている黒い革帯を見て、眼を見開かせてしまった。
リネアの股間に喰い込んでいる革帯の中心部分が外からだけでも、動いているのがわかる。細い革帯の隙間からは、かなりの愛液が外側に滲み出ていた。
アルトは、リネアもまた、なにかに苛まれた苦悶の状態であるのではないかと思った。
リネアは、しばらくのあいだ、衝撃を受けたように檻の中のアルトを見つめたまま動かなかった。
アルトもまた、彼女を見返している。
ほんの数歩しか離れていない。
それなのに、ひどく遠く感じた。
「アルト、ごめんなさい。ごめんなさい……」
リネアの眼から涙が零れ落ち始めた。
「んんぐっ」
アルトは必死に首を横へ振った。
違う──。謝るな──。
そう言いたかった。
だが、ディルドを口に咥えさせられたいまのアルトには言葉を返すことができない。
「ははは、やっと恋人同士がご対面というわけだ。どうだ、兄ちゃん。この嬢ちゃんは綺麗になったろう。ここで毎日、男の相手をさせられているからな」
最初に入ってきた市井風の男が、げらげらと笑った。
「んぐううっ」
アルトは男を睨みつけた。
男は気にも留めず、一緒に来た兵たちへ指示を出す。
兵たちは、天井から鎖をおろして、リネアの後手縛りの縄に繋いだ。さらに、アルトと同じような棒枷を脚のあいだに挟んで両端を足首に嵌めていく。
「ヤン、やめなさい。男というのは、女と違って案外繊細なんだから。恋人がここで受けてきた扱いなんて聞かせたら、肝心なときに使いものにならなくなるかもしれないでしょう」
最後に入ってきたローランが、木箱を載せた台車を押しながら呆れたように言った。
「そのときには、俺たちがまた相手をしてやればいいさ。丁度三人いるぜ」
ヤンが下品そうに笑う。
アルトはかっとなった。
「んぐうっ」
怒鳴りつけたかった。
だが、いまは悪態ひとつ返せない。
「あんたたちがやってどうするのよ。明後日までに、この二人を元帥の前で、最低限の余興ができるように仕上げないとならないのよ」
ローランは呆れたように、ヤンに言葉を返している。
「ところで、この兄ちゃんはどうしたんだい。さっきから、なにを咥えてるんだ?」
リネアを立姿で拘束し終わったヤンが檻の中を覗き込むようにしながら訊ねた。
「フェラ用の訓練具よ。時間がないから、休ませてる暇もないの」
ローランはそう答えながら、リネアの方へ歩いていった。
そのあいだも、リネアはアルトから眼を離さなかった。
アルトも同じだった。
「さて、じゃあ次はお坊ちゃんよ。檻から出すから手伝ってちょうだい」
ローランがヤンたちに声を掛け、アルトの入っている檻の鍵を外した。
出入口はアルトの背後にある。いまの姿勢では、自分から振り返ることさえできない。
ローランは狭い檻の中へ身体を滑り込ませると、口元の訓練具を格子から外し、アルトにディルドを咥えさせたまま、上から布の猿轡で固定してしまう。
「んぐっ……」
続いて後手をまとめている縄尻を掴む。
「ほら、出るわよ」
「んんっ」
アルトは抵抗する間もなく、ヤンたちにも手伝われて檻の外へ引き出された。
そのまま、リネアの真正面まで連れていかれる。檻は兵たちによって隅に運ばれた。
天井から新たな鎖が下ろされ、アルトの後手をまとめている縄へ繋がれる。抵抗などできなかった。足元も固定されている。リネアと向かい合ったまま、アルトもまた開脚で立たされてしまった。
「あっ」
リネアが全裸のアルトを目の当たりにして、さっと顔を赤くして、反射的に眼を逸らす。
「こら、リネア。ちゃんと見なさい──。これから愛し合う相手でしょう。あんたが眼を逸らすたびに、アルトの方へ罰を与えるわよ」
ローランの鋭い声が飛び、彼が手にしていた操作具へ指を走らせたのが見えた。
その途端だった──。
「んごおっ」
アルトのアナルに挿入されたままの張形が強い電撃を放ったのだ。
身体が大きく強張る。
「あっ、アルト、ごめんなさい。ちゃんと見ます。だから、アルトを許して──」
リネアが泣き声をあげた。
「許すかどうかは、あんた次第ね。アルトから眼を離さないのよ」
「ああ、わかりました……。見ます……」
リネアは涙を浮かべながら、それでもアルトの方へ顔を戻した。
アルトもまた、彼女から眼を離さなかった。
ローランはその様子を確認すると、今度はリネアの腰へ手を伸ばした。
まだ幼さが残る腰から、革帯が外される。
アルトは思わず眼を見開いた。
リネアの股間から外された革帯の内側には、濡れ光る張形がついていた。しかも、膣から抜くときに、リネアの股間からはかなりの量の愛液が張形とともにこぼれ出てきた。
それを見ただけで、リネアがここでどのような扱いを受けてきたのか、嫌でも想像できた。
「どうだい、兄ちゃん。かなり太いだろう。もうこの姉ちゃんは、前でも後ろでも、口でもこれ以上のものを咥えられるぜ。兄ちゃんもしっかりと頑張らねえと、満足させられねえぞ」
ヤンが横から口を挟んだ。
「あああ──」
すると、リネアが耐えきれなくなったように慟哭する。
「んんんっ」
アルトは眼の前のリネアを見つめて懸命に首を横に振る。
同時に、怒りが込み上げる。
なんに対しての怒りなのか──。
眼の前のヤンに──、ローランに──。リネアを犯したという大勢のサロンの男たちに──。そして、自分自身に──。
「こら、あんたら──。邪魔するなら、出て行ってもらうわよ。この二人を壊して遊ぶために連れてきたんじゃないんだから」
ローランの声が一変した。
顔を赤くしながら、ヤンへ一歩詰め寄っている。
「なんだよ。ちょっとからかっただけじゃねえかよ」
「そのちょっとが余計なのよ──」
ローランがさらに怒鳴る。
「だけど、その兄ちゃんも怒って興奮したせいか、しっかりと大きくなってんじゃねえか。俺のおかげだぜ。ザラとニアには、昼飯の食堂で聞いたんだ。午前中十発も射精させたって言うじゃねえか。だったら、簡単に勃起したりしねえところだったんだぞ」
ヤンがうそぶくように言う。
ローランがアルトの股間に身を寄せた。そして、眼を見開く。
「まあ、ほんと」
アルトの股間はいつの間にか完全に勃起状態になっていた。
「じゃあ、早速、始めましょうか。勃起薬を使わせようと思ったけど、そのままできるならそれがいいわ……。さて、お嬢ちゃん、待たせたけど、あなたの出番よ。甘い言葉で恋人を誘惑しなさい……」
ローランがヤンたちに目配せする。
すると、ヤンとふたりの男兵は、ローランが運んできた台車の木箱から小壺を取り、壺の中の粘性体を指にとって、リネアの股間に塗り始めた。三人がリネアの前に集まったかたちになる。
「ああっ」
男たちの身体の向こうのリネアが全身を突っ張らせるようにしながら、声をあげた。
「日に日に、いい具合になっていくなあ」
「まったく……。でも、カイネウス様もなにを考えているのか……。ここまで育った嬢ちゃんを、しばらくは、この兄ちゃん専用にするとはねえ」
「まあ、そう言うなよ。どうせ、すぐにまた元に戻るだろうさ」
男兵たちとヤンが小さな声で話しているのが聞こえた。
彼らは眼の前なので話す内容は聞こえる。ヤンたちも隠すつもりもないのだろう。
しかし、その内容にアルトも思わず眼を大きく開く。
一方で、男たちの身体の陰に隠れているリネアの股間では、ねちりねちりと音が響き始める。
それに呼応するように、リネアの口からも喘ぐような、かすかに甘さを帯びた吐息が漏れ出していた。
「もう、その辺りでいいんじゃない」
ローランが声を掛けた。
それを合図にして、ヤンたちがリネアから離れる。
「しばらくは待ちましょうか」
ローランがそう言って、ヤンたちを促す。
四人が壁際に移動していき、リネアとアルトは、裸で向かい合ったまま部屋の真ん中に残された。
リネアが暴れだしたのはすぐだった。
「ううっ、痒いっ──痒いです──」
腰を中心に揺するようにして、リネアが懇願の声を放ち始めた。
「んがあっ」
その姿にアルトは吠えるような声をあげた。
「いよいよね。じゃあ、坊や、あんたの一物で恋人の股間を擦ってあげなさい。中和剤はあげないから、あんたの股間も痒くなるだろうけど、その分、恋人の苦しみも多少は薄れると思うわ」
ローランが近づいてきて、アルトの口から猿轡を外すと、ずっと蠕動を繰り返していたディルドが、大量のアルトの唾液とともに口の中から取り出された。
「ああ、リネア、しっかりしてくれ」
アルトはすぐに叫んだ。
「あああぅ──ごめんなさい──ごめんなさい──アルト、ごめんなさいっ」
すると、リネアがその場で激しく泣き始める。
「僕こそ、ごめん──。不甲斐なくてごめん──。リネア、ごめん──」
アルトも声をあげる。眼の前のリネアが苦しんでいる。でも、なにもできない自分自身に、アルトは口惜しさと苛立ちで、涙がぼろぼろと出てきた。
「ああ、アルト──あ、あたし……もうだめ……。それに痒いの──。痒くて死にそう──」
リネアが裸身を暴れさせながら声をあげる。
股間に塗られたのが強い掻痒剤であることは間違いない。少しもじっとしていられないのだろう。リネアはアルトへの謝罪を繰り返しながら、それでも必死に腰を揺さぶっている。
「僕が──僕がなんとかしてあげる──。僕が──」
アルトは自分の股間を精一杯に突き出して言う。しかし、わずかに届かない。
リネアもまた、だんだんと強くなる股間の痒みに錯乱しているのか、アルトに向かって腰を突き出すようにしている。
もうアルト自身も、どうにかなっているのかもしれない。
汗まみれになって痒みに裸身をのたうたせる眼の前のリネアは、どうしようもなく淫靡で可愛かった。淫魔にとり憑かれたような気分だった。
苦しんでいる恋人から眼を離せない。
卑劣なこのサロンの連中に惨い仕打ちを受け、彼らの思い通りに、他人の前で見世物のようにリネアと愛し合うなど、血も凍るような屈辱だ。
そんなことには耐えられないと思う。
しかし、一方で眼の前のリネアの狂態に、性の疼きが理性を超越して、眼を外すことさえできない。アルトはリネアの全裸を眼の前にして、どうしようもなく興奮もしていた。
そしてはっとなる。
なにを考えているんだ──。リネアは苦しんでいるのだ──。辱められているんだ──。
助けなければならない。それなのに、自分の身体まで彼らの思惑どおりになっている。
その事実が、どうしようもなく口惜しかった。
「リネア──ああリネア──」
「アルト──助けて──痒いの──、お願い、アルト。助けて──」
リネアが必死に叫んでいる。
だめだ──。
もうなにも考えられない──。
しかも、自分自身も自由を奪われたままだ。尻穴にはアルトを苛む淫具を挿入されたまま──。その惨めささえ、いまは甘い熱となって身体の奥へ返ってくる。
どうしようもない興奮が、再びアルトの心を席巻する。
限界まで背中の緊縛に繋がっている鎖を引っ張る。やはり届かない。
「やっと、その気になったかしら? じゃあ、好きなようにしなさい」
いつの間にかローランが横にいた。
天井でがちゃんという金属音が鳴ったのが聞こえた。鎖の固定が解除されたのか、アルトが引けば前へ進めるようになった。
「リネア──」
アルトは、屹立している股間の先でリネアの股間を強く擦る。
「あ、あああっ──ああああ──」
すると、リネアが突然に悲鳴のような声をあげて、がくがくと腰を揺すりだした。