サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「ああ、痒い──痒いのよ、アルト──」
リネアは泣き出さんばかりに錯乱している。
アルトも、このサロンの掻痒剤の洗礼は受けた。あっという間に痒みが襲いかかり、あとは死んだ方がましだと思うほどの苦悶が襲い続ける。
痒み責めがいかに人の尊厳を失わせる残酷な仕打ちなのかというのは痛いほどわかっている。
とにかく、なんとかしてあげようと、懸命に勃起している股間をリネアの股間に擦りつける。
「ひああっ、ひいっ」
アルトの固くなった男根が当たることで、リネアは立姿で開脚されたまま、身体を弓なりにして陶然とした表情を浮かべた。
それは、襲いかかった痒みがいかに苛酷なものであるかを物語っている。リネアにそんなものを使った男たちに怒りが込みあがる。
「ああ、だめっ──もっと──もっと奥まで──」
すると、リネアが叫びながら股間を擦りつけてきた。刺激が僅かすぎるのだろう。全く刺激がなく放置されるのも苦しいが、小さな刺激だけで耐えさせられるのも、もっと苦しい。
アルトもわかっている。しかし、お互いの開脚して立ったままではこれ以上届かないのだ。
リネアは完全に狂乱している。
「ううっ」
性器の先をリネアの股間に擦られ、思わぬ刺激にアルトは下腹部に熱く込みあがるものを感じた。
「こら、まさか、そのまま暴発するんじゃないわよ──。午前中に、あのふたりが散々に教えたんだから、穴の位置くらいわかるでしょう。すぐに出していいから、せめて中に出しなさい」
ローランが操作具に触れると、アルトの足首を拘束していた棒枷が外れた。それだけでなく、背中の縄に繋がっていた鎖の緊張が完全になくなった。目の前のリネアのもだ。
リネアの足枷はそのままだがアルトの足枷はなくなった。
ふたりで縺れるように床に崩れた。
リネアは膝を曲げて脚を開いたまま、先に倒れ、アルトはその上からのしかかるかたちになる。
「ああ、もうリネアはなにも考えられないの──。アルト、お願い──、助けて──」
リネアが拘束された身体を暴れさせながら悲鳴をあげ続ける。
「リネア──」
アルトは身体を起こして、リネアの股間に顔を埋める。
そして、少しでも掻痒剤を取り去ろうと、舌で股間を舐めた。
「ひああ、ひいっ──アルト──アルト──あああっ」
リネアが膝を曲げて開脚したまま、身体をのけ反らせながら腰を浮かせた。
「ほう、やるじゃねえかよ、兄ちゃん──。いきなり、股舐めかい」
「あっという間に出して、終わりかと思ったけどよう」
部屋の隅から揶揄の言葉が聞こえる。
ヤンと男兵たちだろう。
アルトは雑音としてそれを頭から排除する。
「やるわね、坊ちゃん。じゃあ、一度いかせてあげなさい」
ローランが上から声を降らせる。
「あ、ああ、アルト──、アルト──気持ちいい──気持ちいい──。ごめんなさい──ごめんなさい──もっと、もっと奥までお願い──痒いの──あああっ──いいいいっ──」
そのあいだも、アルトはリネアの股間を必死に舐め続けていた。
リネアは、アルトの顔に向かって自ら股間を押しつけてくる。
アルトは必死に舌を差し出した。リネアのふんだんな蜜を吸い取るつもりで、少しでも塗られた媚薬を舐めとってやろうと、舌を奥まで挿入する。
「あっ、あっ、アルト──」
その瞬間、リネアが口を喰いしばった歯のあいだから、むせるような呻きが洩れたかと思うと、開脚している両腿が突っ張った。次いでぶるぶると股間を波打たせたかと思うと、すっと全身から力を失ったようになった。
「ああ、どうした、リネア──?」
アルトは驚いて、リネアの股間から口を離す。
「ほほほ、達したのよ。さすがに恋人が相手だと早いわね。あんたたちも本物にはかなわないんじゃないの」
ローランだ。どうやら、見物を決め込んでいるヤンたちに言ったみたいだ。
彼らの不満そうな舌打ちが聞こえた。
だが、アルトはもうヤンたちのことなど気にならなくなっていた。
それよりも、目の前のリネアだ。
この淫靡な女の姿を示したのは、あの可憐で駒鳥のように薬草屋で忙しなく働いていた少女と同一人物なのか。そう思うと、アルトの心臓は激しく高鳴り、眩暈にも似た感激さえ生じてくる。
「前戯としては十分よ。次は坊ちゃんの一物で貫いてあげなさい。心の抵抗があるなら、掻痒剤をいくらでも塗り足してあげるけど?」
「なにを言う──。リネアにはもう構わないでくれ──」
アルトは気持ちを動乱させて口走った。
体勢を取り直して、腹部と腹部を合わせるように密着させると、媚薬に苛まれて真っ赤になっている茂みの中に、自分の肉塊を擦りつける。
だが、後手縛りで手が使えず、うまくいかない。
「ああ、アルト──どうか──お願い──」
リネアも下から懸命のアルトを受け入れようと腰を動かしてくれる。それが気持ちよくて、思わず精が込みあがってきそうだった。
「ほら、よく的を見定めて繋がらねえかよ」
離れた位置から揶揄の声がする。
アルトは無視した。
必死に怒張をリネアの股間に押しつける。
「あっ、ああっ、アルト──そこ──そこでいいの──思い切り……」
「あ、ああ、わかった──」
やっと先端がリネアの中に入った。
そのまま腰を出して押し入れる。
「ううっ」
「ああっ」
アルトはついに、リネアと繋がることができた。
「よくやったわ。次は律動よ。見物人を愉しませるために、お互いに声を張り上げなさい」
ローランが叱咤のような口調で言う。
アルトは、その言葉に操られるかのように、腰を前後に動かしだした。
「あっ、ああっ、アルト──気持ちいい──気持ちいいの──」
身体の下のリネアはそれだけで狂乱を始める。
アルトを受け入れている腰がぶるぶると震えだす。
リネアのそこがぎゅっと締まった。ぐいぐいと奥に引っ張られるように吸引される、耐えきれないものが込みあがりそうになる。
「言っておくけど、簡単に出さないのよ。見ている者を愉しませるの。午前中にあれだけ出させたんだから、長持ちするでしょう」
ローランが言う。
しかし、もうアルトには、そんな言葉など耳に入らない。口惜しさも、屈辱もいまこの瞬間は消えている。火のように熱くなったリネアとの情念があるだけだ。
リネアもまた、アルトの知る可憐なリネアとは違う、性愛に我を忘れた一面を見せている。さっきまでのような哀しみのようなものはない。彼女もまた、いまこの瞬間にはアルトとの情交以外には、なにも見えないかのようだ。
「あっ、アルト──。いくっ、いっちゃう──」
リネアが進退窮まったかのように、またもや全身を突っ張らせた。
さらに膣が締めつけられる。大きな快感が律動をしていた男根に込みあがる。
「まだよ──。簡単に精を出しちゃだめだからね。許可なく精を出したら、目の前で恋人をヤンたちに陵辱させるからね。それが嫌なら、必死に耐えなさい」
「ふざけるな──。リネアは僕のものだ──。誰にも渡すものか」
驚いて声をあげる。
「えっ、そっちの方が面白いじゃねえかよ。ローラン──早く交代させてくれ。一度、愛し合う恋人の前で、女を寝取るって言うのをしてみたかったんだ」
「うるさいわよ、ヤン──。……ほら、ああ言っているわよ。いやなら、あたしが満足する性愛を演じてみせなさい」
ローランが言った。
アルトは歯を喰いしばって、下腹部に力を入れる。律動を静止させ刺激をやり過ごす。
「ああ、いいわね。でもただ止まるだけじゃあ芸がないわね。間を持たせるなら口づけがいいわ。濃厚なのをしなさい。教わったでしょう」
ローランの言葉に従うというよりは、アルトはリネアに覆い被さると、唇に唇を強く触れ合わせる。同時に、縄で上下を挟まれているリネアの乳房が胸に当たった。
胸も唇も信じられないくらいに柔らかいと思った。
舌を出す。すると、リネアも躊躇することなく自分の舌を絡ませてくる。
しばらくのあいだ、アルトとリネアは夢中になって口づけをした。
口を離す。
お互いの唾液が糸を引いてぱちんと消える。
リネアがまた顔をしかめて苦悶の表情になった。腰を小刻みにもじつかせて歯を喰いしばる。
もしかしたら、繋がった衝撃で忘れていた痒みがぶり返してきたのだろうか。
「……大丈夫……。僕が助けてあげる」
少し落ち着いてきたこともあり、アルトは再びリネアの股間に挿入したままの肉塊を律動する。性急にならないように気をつけ、まんべんなく擦って、少しでも痒みがとれるように気を配る。
横でローランがなにかを喋っていたが、いまはもうリネアしか気に留めていない。
そのとき、ふと思った。
さっきの口づけは、正真正銘、アルトとリネアの初めての口づけだった……。
「あっ、ああっ、あんっ、ああ、アルト──ああっ」
またもやリネアが乱れ出す。
アルトは、リネアを突きあげ、押しあげ、擦りあげる。
視線の下ではリネアの小振りの胸が揺れていた。アルトはなにも考えずに、揺れる双球の頂天にある小さな突起を口に含む。口の中で舌で転がすように舐め回す。
「ああっ、いいいっ」
すると、リネアの乱れがますます激しくなった。
自分の責めでリネアが乱れている。
そう思うと、いつの間にか、アルトは身体の芯まで疼くような甘美感に襲われてしまった。もう、このままなにも考えずに、リネアの中に浸りたいと思った。
アルトは、本能のまま腰を激しく動かしだす。
すると、リネアもそれに合わせるように、下から腰を強く揺すり舞わせる。
「ア、アルト、もう、あたし──」
「あ、ああ、僕もだ──」
二人で腰をうねらせ、必死になって快感をむさぼり合う。
そして、そのまま嵐のように腰を揺さぶり合いながら、アルトはついに射精をした。リネアもまた身体を硬直させて、狂態を示す。
しばらくのあいだ、わずかな余韻の中に浸り、ともに絶頂に達したことを無言で伝え合う。
アルトは精根尽きた心地になり、リネアの柔らかい肌に頭をうずもらせる。リネアもまた下からアルトの肩に顔を載せて、激しい息を繰り返していた。
股間を抜く。
アルトは我を忘れたようになり、呆けたままリネアに身体を委ねた。
だんだんに、悦楽の残り火が落ち着いてくる。
ところが、アルトたちに休ませることを許さずに、苦悶が襲いかかってきた。
「ああ、痒い──」
「痒いわ──」
アルトとリネアは同時に叫んでいた。
おそらく、アルトが掻痒剤を塗られているリネアの膣に男根を挿入したことで、掻痒剤がアルトの股間についてしまったのだと思う。
リネアもまた、痒みに再び我を忘れだす。
「最初にして、一緒に絶頂まで行けたのは素晴らしいわ。予想以上。合格よ。見込みはあるわね。でも、呆けている暇はないわよ。続けているあいだは気が紛れても、止まればまた痒いでしょう。次へ進みなさい」
ローランが淡々と言った。
すぐにヤンたちが近づいてくる。
アルトはまだ息を整えることさえできていなかった。だが、男たちは構わず足元へ屈み込み、先ほど外された棒枷を再び足首のあいだへ嵌めていった。
反対に、リネアの棒枷が外されている。
「な、なにを……?」
アルトが顔を上げた。ヤンたちが笑いながらアルトを押さえる。
身体は膝立ちをして、顔と肩を床につける体勢にされた。
「ただし、坊ちゃん──。あたしの声を聞かずに勝手に終わらせたでしょう。それは減点ね。罰として、お尻の穴に掻痒剤を塗るわね」
「待ってくれ。リネアの前では……」
アルトの顔から血の気が引く。
しかし、押さえつけられている身体を回されて、リネアの顔にアルトのお尻が向くように位置を変えられた。魔道を流したのか、ゆっくりと回転をしながら、アナルの中に潜っていた張形が出ていく。
耐えきれず、変な声が口から漏れてしまう。
「恋人の前だからなんなのよ。しっかりと感じる尻になっているのを見せて、リネアに安心させてあげなさい」
ローランは取り合わなかった。
「ああ、やめてくれ──。せめてリネアの前では許してくれ」
アルトはとうとう泣き声に近い声を漏らした。
しかし、容赦なくヤンたちにより、淫具が抜けたばかりの尻穴に、掻痒の油剤を塗り込められていく。
「ああ、アルト……」
リネアの悲痛そうな声が高尻に押さえられているお尻側から聞こえた。
「……ところで、次は役割を交代するわね。次に犯すのは、リネアよ。恋人の尻を双頭の張形で犯しなさい」
「えっ?」
リネアの強張った声が聞こえた。
「ふふ、今度はあなたが坊ちゃんを助ける番よ」
「い、いやです。そんなこと」
リネアは動顛しているようだ。
アルトは、そうすると聞かされていたが、もしかしたら、リネアは知らされていなかったのかもしれない。
「できません。お願いです。ほかのことなら、なんでもしますから……」
「なんでもするのは当然でしょう。恋人の尻を犯すこともするのよ。そもそも午前中に練習はしてきたでしょう」
「でも、あれは人形にです。アルトにそんなこと……」
「まあ、放置するつもり? もう掻痒剤は塗り終わったようよ」
ローランがリネアを諭すように告げるのが聞こえる。
だが、アルトにはもう一切の余裕がなくなってしまっていた。即効性のあるこのサロンの掻痒剤は、あっという間にアルトを進退窮まったような窮地に追い込んでいた。
恋人のリネアの視線に刺されているのがわかっていながら、襲ってきた痒みのために、腰と二肢を捩らせるのをやめられない。
「あ、ああ、くそおっ」
アルトは屈辱に歯噛みする。
せめて押さえつけられているのをはね除けようとするのだが、男三人がかりで押さえられて、リネアに尻を向けたまま身動きできない。
「どう、痒いわよね、お坊ちゃん」
ローランが揶揄うような口調で指をアルトの尻に置く。しかし、痒みが襲いかかっているぎりぎり外の部分だ。そこをくすぐるように指を動かされる。
「や、やめろおっ」
アルトは身を捩らせて絶叫した。
「痒いかどうか訊いているのよ。答えなさい。それとも、塗り足そうかしら」
今度は、いつの間にか持っていた鳥の羽根のようなもので、お尻の亀裂を上下に動かされる。
痒みがさらに増長する。
「ああああっ──痒いいい──」
アルトは我を忘れて絶叫した。
すきんずきんと腰骨まで突きあげられるような痒さだ。
もうどうなっているのかわからない。
「ほら、こんなに苦しんでいるのよ、お前の痒みだってまだ残っているはずよ。お互いに癒やし合わなければ狂ってしまうわよ」
「お願いです──、そんなことはしないで──。アルトを許して──。あたしが……あたしが代わりに苦しみます──。ですから……」
リネアだ。そして、わっと泣き出す声が聞こえた。
しかし、その声でアルトも我に返る。
「リ、リネア──嫌なら、なにもしなくていい。大丈夫だから──」
アルトは必死に声をあげた。
「まあ、どうやら、痒みが足りないようね。この坊ちゃんが恋人にお強請りができるように、掻痒剤を塗り足してあげてくれない」
「おうよ」
ローランの言葉に、ヤンが陽気に返事をして、アルトの肛門に掻痒剤をさらに詰め始めた。
「ああ、もうやめてくれ」
アルトは悲痛な声をあげてしまった。