サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「ほう……」
ユーリスは,目の前に拡がった光景に思わず声を漏らしてしまった。
その先には、地下とは思えないほど広い空間と、淫靡な性宴が広がっていた。
石造りの大広間である。
共和国が滅ぼした王国の若い令嬢たちがそこにいた……そのなれの果てとでも言うべきか……。ほとんどが全裸だ。そうでなくても、ほんの申し訳程度に、腰の前や胸の前に小さな布を垂らしているかでしかない。
全員の股間が無毛だ。
匂いもすごい。
若い女の香りがむっとするほどに集まっている。その若い娘たちの回りを、矯正役らしい男女が怒鳴ったり、大きな声で指示を出したりしている。
また、確かにどの女囚も五人ずつの集団に分けられていた。
壁際では、五人が横一列に並ばされ、中腰になって太腿に載せた木板を落とさないよう姿勢を保たされていた。その前を三人の矯正官が行ったり来たりし、ときおり柄つきの鳥の羽根で令嬢の裸身をくすぐっている。
別の一角では、五人が一本の鎖で繋がれ、先頭の女囚の動きに合わせて歩かされていた。ひとりでも歩調を乱せば全員の鎖が引かれるため、互いに相手の動きを気にしながら足を運んでいる。五人とも歩き方にぎこちなさがあるのは、もしかしたら股間などに魔道の淫具でも挿入しているのかもしれない。
中央付近では、五人が円を作り、それぞれ口吻などの奉仕課題を数名の男兵相手にこなしていた。
ひとりが男兵に叱咤されると、残る四人から一斉に助言の声が上がる。
その横では台の上に四肢を拡げて縛られている令嬢を、ほかの令嬢が四方からくすぐっている。狂ったような笑い声と苦悶の悲鳴が響き渡っていた。くすぐっているのが四人なので、これもまた五人である。
その五人の近くに女兵がいるので、おそらくやらされているのだろう。
「なるほど。五人一組なんだな」
ユーリスが言った。
「ええ。生活も作業も、基本的にはこの五人組単位よ。ひとりだけ勝手なことをするのを難しくするためでもあるし、互いに監視させる意味もあるわ」
マルティナが答える。
「連帯責任ってわけですか。面白い仕組みですね」
ユーリスはそう言いながら、一番近くにいた床の掃除をしていた令嬢たちへ目を向けた。
とにかく、あちこちに令嬢たちの体液が落ちている。それを掃除しまわっているのである。やはり五人だ。
その全員にその太腿に数字が刻んであること。“6-1”、“6-2”……というように、五人に“6”で始まる“5”番までの数字が刺青で刻まれている。
「あの脚の数字はなんです?」
ユーリスが訊いた。
「五人組の識別番号よ」
マルティナが答えた。
「五人組とは、さっき言っていた?」
「最初の数字が組。後ろの数字が、その組の中での番号。あの五人なら第六組の一番から五番までということね」
「なるほど……。じゃあ、“6-3”なら、第六組の三番目というわけですか」
「そういうことね」
「随分とわかりやすいですね」
「五人組が増えると、顔だけで全部を把握するのは面倒でしょう。だから、見ればすぐに所属がわかるようにしてあるのよ」
「でも、組替えもあるんでしょう?」
「あるわよ。そのときは番号も変えるの。普通の刺青じゃないから、消して入れ直せるのよ。魔道を使った管理用の刺青ね」
今度はソフィアが答えた。
「なるほど」
「確認しやすいし、身体検査の邪魔にもならないもの。数日前から導入したみたいね」
ソフィアがさらりと言った。
ユーリスは頷きながら、改めて広間を見渡した。
確かに、どの女囚の太腿にも、二つの数字が刻まれている。
「一般囚の矯正は、いつもこの広間で?」
「いえ、広間と矯正室に分かれるわね。性感開発はここではなくて矯正室が多いかしら。今日は子宮頸部と、アナル開発の組がいたはずね。十一と十二組だったかな」
マルティナが思い起こすような仕草をしながら言った。
「後で見学させて下さい」
「もちろんよ」
マルティナが頷く。
そのとき、広間の奥まった隅にいる一組がふと目に留まった。
番号の色が違う。ほかの女囚たちの太腿に刻まれている数字は黒いのに、その五人だけは赤だった。
“13-1”から“13-5”まで。
しかも、広間の隅の陰に寄せられるように、横一列に並べられている。
「あの組だけ、太腿の数字だけ赤いな」
ユーリスはそちらへ顎を向けた。
「ああ、今日の懲罰組のようね。赤文字はその印なのよ」
マルティナが答えた。
「懲罰組?」
「なにかの罰則が溜まったんじゃないかしら。それとも、男連中が面白がって、理不尽な意地悪を強要しているかね」
ソフィアが不機嫌な表情になり、その五人の方へ歩き出した。ユーリスはマルティナとともに、その後を追う。
「どうやら、刷毛水車の矯正のようね」
近づくことで、五人が受けている懲罰の仕組みが見えてくると、マルティナが横で言った。
壁際には、腰の高さほどの四角い木桶が五つ、等間隔に並べられている。
五人の女囚たちはその上に跨がるように座らされ、両脚を真横へ一直線に開かされていた。太腿から膝にかけて何本もの革帯が渡され、木桶の縁へきつく固定されている。さらに両腕も頭上へ伸ばされ、横に渡された鉄棒へ手首を繋がれていた。
自力で姿勢を変える余地はほとんどない。
木桶の中には、とろみのある薬液が満たされている。
その中央で、小型の水車が高速で回転していた。
水車の外周には幅広の刷毛が何本も取りつけられている。
車輪が薬液の中へ沈むたび、刷毛がたっぷりと液を含む。そして次の瞬間には勢いよく跳ね上がり、固定された女囚の股間に連続して薬液を塗りつけているのだ。
ぱしゃ、ぱしゃ、と湿った音が一定の間隔で続いていた。
ひとつの刷毛が通り過ぎても、すぐ次の刷毛が迫ってくる。
五人は逃げることも脚を閉じることもできず、ただ激しく身体を震わせながら、悲鳴をあげて、絶え間なく続く刺激に耐えていた。
単純な構造だった。
だが、だからこそ容赦がない。
ばしゃ、ばしゃ、と湿った音が絶え間なく続く。
刷毛が通るたび、液が飛び散り、太腿の内側から下腹部にかけて濡れた筋を何本も残していく。
「ひっ……あっ……あぁ……も、漏れちゃうう──」
「やめ、やめて……っ」
「いや……っ、むりいっ、ひいい……っ」
五人とも顔を真っ赤にし、身体を小刻みに震わせ続けていた。
身をよじろうとしても、脚も腕も固定されているため逃げることができない。
ただ、刷毛が回ってくるたびに腰を引こうとし、背を反らし、喉を震わせて悲鳴を漏らすばかりだった。
しかも、その悲鳴は刷毛の刺激に耐える叫びというより、耐え難いなにかを我慢させられているように見える。
我慢しようとして口を結んでも、次の瞬間には肩を跳ねさせて息を乱し、耐えきれずにまた声をあげてしまうかのようだ。
「なるほど……。これは媚薬液を塗るための仕掛けだな」
ユーリスは目を細めた。跨がっている四角い木桶の中に満たされている粘性体の液剤が媚薬であることは間違いないだろう。
「刷毛で絶え間なく塗り続けることで、効き目を切らさないのよ。しかも五人まとめて並べて処理できるでしょう」
ソフィアが答えた。
「便利なものだな」
「便利というより、見せしめ向きね……。でも、どうやら、それだけじゃないわね」
ソフィアが小さく嘆息するのが聞こえた。
やがて、その五人の矯正が行われている場所に着く。
その五人の前にいるのは、若いふたりの男兵だった。こちらに背を向けているので、ユーリスたちの存在には、まだ気がついてない。
「そらそら、漏らすなよ。漏らせば、自分はいいけど、他の四人は夜の小便も禁止だ。自分は小便して楽になるけどな」
「だが、ひとりが失禁すれば、その時点で水車は終わりにしてやる。誰が、他の四人を裏切るんだろうな」
その二人が五人を見守りながら笑っている。
ふたりとも手に、なにかを握っているので、それで桶の中の水車の速度を操作しているのかもしれない。
五人の身体が揃って跳ねる。
まるで一列に並べられた楽器でも弾いているかのようだった。
そのとき、右端にいた“13-5”の女囚が堪えきれずに大きく身を震わせた。
革帯に拘束された太腿がびくびくと跳ね、頭上の鉄棒に繋がれた両腕まで激しく揺れる。
「ぁあっ……いや、そこ……だめ……っ──。わ、わたしだけ懲罰を……わたしだけが罰を受けます──。だから、お、おしっこをさせてください……。あ、あああ」
涙声になった女囚の訴えなど意に介さず、刷毛のついた水車は容赦なく回り続けた。
どろりとした液を含んだ刷毛が、何度でも何度でも、同じ場所を撫で、打ち、塗りつけていく。
「おう、五番は限界か? じゃあ、小便しな。その時点でほかの四人は、また尿道栓で小便の封印だ」
男兵が笑う。
排尿を訴えた五番は声をあげて泣きだした。結局、まだ必死に耐えている。
「なるほど……。でも、刷毛水車だけが懲罰じゃないんだな」
ユーリスは呟いた。
「……また、おしっこを我慢させるのを懲罰にしているようね……。身体によくないから、やめろって言ってるのに……」
すると、目の前のソフィアが舌打ちをしたのが聞こえた。
【作者より】
鈴蘭岬様からいただいた「刷毛水車」のリクエストをもとにしました。
責め苦のリクエストがあれば、感想欄からお寄せください。必ず採用できるとはお約束できませんが、検討いたします。