サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「ああ、もう、殺して──いっそ殺して──」
セリアは半狂乱になって、前屈に拘束されている裸身をのたうち回らせていた。鎖ががしゃがしゃと鳴り響く。尻の奥深くまで塗り込められた薬液は、凶悪な痒みとなってセリアを内側から襲っていた。とても理性を保てる状態ではない。もう自分がどれほど浅ましい姿を晒しているかを考える余裕もなく、ただ腰を振り動かすだけだった。
しかし、放置され続ける痒みは、刻一刻とその強度を増していく。
「さすがの妙薬よ。これほどに、このセリア妃を狂わせるとはな」
「これを使われて平静でいられる女はいませんよ、市民ヴェルデン。ここにいる二級民の女たちで実験済みです」
ヴェルデンとカイネウスの会話が、すぐ後ろから聞こえてくる。
「もう……許して……な、なんとかしてください──」
セリアは声を絞り出す。だが、その声は自分でも驚くほど弱々しく、途切れ途切れだった。言葉になっているのかすら分からない。
腰が跳ねる。止めようとしても止まらない。拘束に引き戻され、その反動でさらに身体が揺れる。
「だが、面白いのう。まるで尻穴でなにかを喋っているようだ。開いたり、閉じたり忙しいものだ」
「もともと強い媚薬ですからね。発情効果もあります。そのせいでしょう」
背後のふたりは、給仕の女たちに酌をさせながら談笑を続けている。
もう気が狂いそうだった。
呼吸は乱れ、息を吸うことすら苦しい。胸が上下し、視界が揺れる。
どんなに暴れても痒みは消えず、抗おうとするほど、内側からじわじわと広がっていく。
「もう……やめて……お許しを……」
必死に懇願は繰り返すが、誰も応じない。
まるで、セリアの悲鳴など聞こえないかのように、いつまでも放置される。
鎖の音だけが響き続ける。
身体は勝手に動き、思考は途切れ、同じ動作を何度も繰り返す。止めなければならないと分かっているのに、その術が分からない。
「いや……いやああっ……もう、殺して……殺してください……」
セリアは呻く。
もう自分でもなにを口走っているかもわからない。
目の前が霞む。涙なのか、視界そのものが歪んでいるのかもわからない。
ただひとつ確かなのは、もう逃げ場がないという事実だ。
後ろで椅子に座ってセリアの醜態を見物しているふたりに縋らなければ、この苦しみは終わらない。
それだけは、はっきりと理解していた。
「さて、じゃあ、アルジェ、今度は女の急所にも塗ってあげて。たっぷりとね」
カイネウスの淡々とした声が耳に入ってきた。
言葉の意味はすぐに頭には入ってこなかった。
だが、理解した瞬間、セリアは驚愕した。
狂いそうな痒みと闘っているこの状態で、さらに、あのおぞましい油剤を塗り込めようというのか──。
「カ、カイネウス殿──お許しを──。もうこれ以上は耐えられません──。なんでもします──。なんでもしますから──」
セリアは前屈の身体を暴れさせて必死に叫んだ。
「ふふふ、かしこまりました、お館様」
台座の横に侍っていたアルジェが後ろに屈み込んだのがわかった。
その指先がセリアの股間の繊毛をそろりと撫ぜ、女の亀裂を指でまさぐってきた。どろりとした感触に、あのおぞましい油剤が指に大量に載っているのは、見えなくてもわかった。
「ああ、アルジェ──いえ、アルジェ様──。お助けを──。あ、あんまりよ──」
セリアは甲高い声を張り上げて叫んだ。
もう王族の誇りも矜恃もなにもない。この痒みの地獄から解放されるのであれば、なにを売り渡しても構わない。
そう思った。
「ははは、セリア妃よ。仮にもテレオロスの元王族ではないか。その程度の媚薬であれば、平然とせぬか。あまりにみっともないぞ」
ヴェルデンが嘲笑する。
しかし、セリアはもうその言葉は聞こえない。
アルジェは、襞を左右にほぐしながら、指先で薬液を膣の奥深くにまで塗りたてる。油剤を指先に足しながら、何度も繰り返す。
「ああ、ああっ、ああ──」
セリアは全身をびんと硬直させた。
周りのものが足下からがらがらと崩れていくような衝撃に、視界が歪み、眩暈のようなものが襲う。
指は陰核を解きほぐし、恥辱と快感が全身を突き抜ける。
がくがくと身体が痙攣して、頭の中が真っ白いもので包まれる。
「セリア、わかるかい? これが矯正だよ。王族の誇りも気位も砕け散ったかい? そうやって、このサロンで隷属民としての立場を学ぶんだ」
カイネウスがわざとらしい優しげな口調で告げる。
セリアはそのあいだも、アルジェの薬液の塗布を受けながら、獣のような悲鳴をあげる。
「ああ、許して──。学びました──。わたくしは……れ、隷属民です──。もう……お許しを……」
セリアは泣き叫んだ。
「アルジェ、じゃあ、塗り足しは、そのくらいでいいよ。また、しばらく地獄をさまよってもらおう」
カイネウスの声だ。
「かしこまりました」
アルジェが指を引く。
一切の刺激がなくなり、セリアに凄まじいほどの痒みが襲いかかる。
「ああがああっ、もう、殺して──殺してください──」
セリアは狂気のなかで昂ぶった声をあげた。
「忘れたのかい? あなたが死ねば、ケイが酷い目に遭うんだよ。たったひとり、最後まで忠義を尽くした彼女のために、最後まで王族として生き恥を晒さなきゃ」
カイネウスが小さく笑う。
はっとする。
いつの間にか、すぐ横に来ていた。
セリアの横に腰を屈め、諭すようにささやいてきた。
ケイ──。
一緒にこのサロンに囚われ、どこかに連れて行かれた彼女のことを思い出す。
自分は死ぬことは許されない──。
その自由すらない──。
そのことを自覚する。
「ああ、お願い──もうなにをしても構いません──。この痒みだけは、ど、どうか……なんとかしてください──」
セリアは自棄になったように叫んだ。
「なにをしてもね……。なにをして欲しいの?」
すると、カイネウスが前屈に拘束されているセリアの前に回ってきて、しゃがみ込んできた。
顎に手を伸ばされて、無理矢理に顔を正面にあげさせられる。
「そ、そんな……意地悪を……」
セリアはいつの間にかぼろぼろとこぼれている涙を流しながら身体を揺さぶり続ける。
眼は真っ直ぐにカイネウスを見させらている。
顔に斜めに走る酷い傷──。しかし、それを除けば、やっぱり、あのカインに似ている気が……。
「例えば、僕に口づけできる?」
カイネウスが微笑む。
一瞬、身体が硬直したが、それはほんの少しの間だけだ。
すぐに、激しい痒みにじっとできなくなる。
もう見栄も体裁もない。
セリアは、頷いていた
「……く、口づけします……。で、ですから……」
「うん、口づけができたら、痒みを解してあげるよ」
カイネウスが顔をぎりぎりまでセリアの顔に接近させた。
躊躇はほとんどなかった。
この痒みから逃れられるなら、悪魔に魂を売り渡しても構わない。
心からそう思った。
自ら口を伸ばして、カイネウスの唇に自分の唇をわずかに触れさせた。
「……くくっ、それで終わり? 子供のキスだね。そんなものじゃ駄目かな」
カイネウスが小さく笑った。
「ああ、そのように意地悪を言わないで──」
セリアは号泣しながら、もう一度顔を伸ばして口づけをする。
しっかりと唇を当てて、今度は自ら舌をカイネウスの口の中に入れる。舌を絡め、カイネウスの唾液を吸った。しばらくむさぼるようにカイネウスの口を舌で蹂躙して、口を離す。
唾液の糸の橋がかかり、それがぱちんと消えた。
「ああ、やりました──。お願いです。この痒みを──」
セリアは哀願した。
「……可愛いね、セリー……。いつまでも変わらない……」
カイネウスが立ちあがる。
そのとき、彼が小さく呟いた言葉がかすかに聞こえた。
えっ──?
セリー……?
その愛称は……。
「アルジェ──。今日はこれで終わりにしよう。セリアの股間を革帯で封印したら、特別囚用の檻に入れておいて。多分、かなり暴れると思うから、しっかりと拘束してね。舌を噛むかもしれないから、ボールギャグも忘れずに」
カイネウスがアルジェに指示する。
セリアは耳を疑った。
「そ、そんな──これで終わりじゃないですよね──。あ、あんまりです──。お願いいたします──。どうか、痒みをなんとかしてください──。本当に狂ってしまいます」
セリアは必死に叫んだ。
しかし、アルジェたちが集まり、腰に革帯を巻き、その中心から直交している革帯を股間にきつく喰い込ませていく。
セリアは愕然となる。
「大丈夫だよ、セリア。サロンには特別な魔道薬がたくさん揃っている。狂うなんてできないし、実際のところ死ぬことも難しいね。即死以外は甦生できると思うよ」
カイネウスが離れていく。
「ああ、あんまりです──。許してください──。死んでしまいます──」
セリアは泣き喚いた。
「おいおい、これで終わるのか? 犯さないのか?」
ヴェルデンがソファの位置まで戻ったカイネウスに声を掛けているのが聞こえた。
「犯すのが目的じゃあありませんから。目的は矯正です。いまは痒みで一時的に従順になっているだけです。これを心から従うようにさせます。今夜ひと晩は苦しんでもらいます。それで、恐怖が心に刻まれます」
「思ったよりも残酷な男だったのだな、お前は?」
ヴェルデンは呆気にとられている口調だ。
しかし、そのあいだも、セリアには股間とお尻に襲う痒みの苦悶は襲っている。
とてもじゃないが、このまま朝まで放置されて耐えられるとは思えなかった。
鎖が外されて、立ちあがらされる。
再び縄掛けされていくが、もうセリアには抵抗の気力はなかった。痒みのつらさに、激しく泣きじゃくるだけだった。
「こういう矯正を繰り返します。そうすれば、もう逆らうという思考ができなくなります。この扱いを幸せだと感じるようになるんですよ」
カイネウスがヴェルデンに応じている。
「私はそんなに執念深くはなれんな……。まあいい。それよりも、さっきの約束は忘れるな。レイシア──。あの女騎士がサロンに入れられたのなら、矯正は私がしていいのだよな? あの気の強い女を苛め抜けるのであれば、セリア妃は我慢してやる」
「お気に召すままにどうぞ。では引きあげましょうか。明日のセリアの矯正は朝から始めますけど、また、立会なさいます?」
「当たり前だ」
ヴェルデンが言って立ちあがる。
ふたりが広間から引きあげていった。
あのあいだに、セリアは再び両腕を縄でしっかりと後手に緊縛されてしまった。股間には革帯がしっかりと喰い込んでいる。
すきんずきんと痛みにも似た痒みが骨腰を揺さぶるばかりにこみ上げ続けている。
さらに、女兵のひとりがセリアの顎を掴み、無理やり口を開かせた。
表面に小さな穴の開いた革製の球が押し込まれ、奥までねじ込まれる。
「んっ──むぐっ……」
声にならない悲鳴が喉の奥で潰れた。
口の端から唾液が溢れ、顎を伝って滴り落ちる。
「さあ、今日の矯正は終わりみたいよ。よかったわね。早く終わって……。食事は運んでくるから、食べ終わったら明日の朝までゆっくりと寝ていいわ。縄は解けないから、犬みたいに口で食べるのよ」
アルジェが合図をして、女兵たちにセリアの身体を両側から支えさせた。
広間の外に連れ出される。
「……もっとも、多分、一睡もできないとは思うけどね」
すると、歩きながらアルジェがせせら笑った。
「……食事はちゃんと食べるのよ。食べないと、折檻よ」
「その痒み薬、一時間ごとに塗り足してあげるわね」
「妃殿下には、是非とも眠れない夜を過ごしていただかないと。サロンの最初の夜だし」
「これから、愉しみだわ。あたしたち、あんたら、テレオロス人には恨みがある者ばかりだから……」
連行されながら、女兵たちが口々に愉しそうに、セリアに話しかけてくる。
セリアは号泣しながら、腰を震わせて歩く。
口枷の小さな穴から大量の涎をこぼしながら……。