サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「また小便を我慢させてるの? あんたたち、そんな馬鹿みたいな懲罰しか思いつかないわけ? 刷毛水車まで使っておいて、やることがそれ? もっとましな使い方を考えなさいよ──」
ソフィアが男兵ふたりに後ろから一喝した。
「うわっ、ソフィア姐さん」
「マルティナ様も」
ふたりの男兵が慌てて振り返った。
それまで浮かべていた笑みが消え、明らかにたじろいでいる。
だが、すぐに片方の男兵が気まずそうに頭を掻いたあと、少しだけ不貞腐れた顔になる。
「でも、矯正方針については俺たちの専管ですよ。主任医官に叱られる筋合いはないっすよ」
「そうですよ。こいつらだって、罰を受けるだけの理由があったんですから」
「黙りな。鞭打ちと一緒だよ。矯正だろうが懲罰だろうが、身体を壊すような真似はするなって言い渡してあるだろう。そこから先は医官の専管だよ」
ソフィアの声が低くなった。
目の前で男兵ふたりとソフィアが向かい合い、ユーリスとマルティナがソフィアの後ろに立つかたちだ、五人の令嬢たちは、いまだに、木箱に股を開いて跨がって刷毛水車の責めに泣き声をあげて喘いでいる。
「だから、これは懲罰なんですって。小便の権利を取りあげるのが一番、こいつら堪えるんですって。飯や水を我慢させるよりはいいでしょう?」
「馬鹿かい。一緒だと。小便を無理に我慢させ続ければ、膀胱や内臓を傷めることがある。ひどく伸ばせば、あとでまともに縮まらなくなることだってあるし、尿が残れば感染も起こしやすくなる。前にも言っただろう」
「だから、今回は大丈夫なんですって。ちゃんと触手栓を使ってるんですから」
「そうですよ。普通の栓じゃないんです。あれなら膀胱を傷めるようなことにはならないでしょう」
ふたりとも、今度は自分たちに理があると言わんばかりの顔をしている。
「こういう議論はいつものことかい?」
ユーリスは声を掛けた。
「ええっと、どなたっすか?」
男兵のひとりが不審そうな顔を向ける。
「カイちゃんのお客さんよ。困ったこと、男兵隊については、もしかして、情報共有がされてなかったのかしら?」
マルティナがわずかに眉を寄せた。
「わっ、やべ……そうだった」
「もしかして、元帥閣下の随行員のお方ですか?」
男兵たちが、はっとしたように顔をしかめる。
「ユーリス=アルカード少佐よ。少なくとも今日ここに出入りする人間くらいは、きちんと把握しておきなさい」
マルティナは少し呆れたように言った。
「へい。すんません」
男兵は素直に頭を下げた。
「連絡不徹底は、隊長のダンの責任だね。カインには報告しておく、お前らはダンに絞られな」
ソフィアがむっとした顔のまま口を挟む。
「げっ──そりゃあ、勘弁を」
「勘弁してくださいよ」
「やまかしい。懲罰を受けるべきは、お前らだ」
ソフィアが吐き捨てた。
ユーリスはそのやり取りに接しながら、先ほど耳にした聞き慣れない言葉へ意識を戻した。
「ところで、さっき会話に出てきた〈触手栓〉というのは、どういうものなんだ?」
「ああ、それね。人工的に作った小さな触手を使う排尿管理用の魔道具よ。普通の栓みたいに、ただ出口を塞いでしまうものじゃないわ。体内の状態を感知して、膀胱に負担がかかりすぎないよう自動的に調整するの」
マルティナがユーリスへ向き直った。
「調整する?」
「尿が溜まりすぎたり、内側の圧が高くなりすぎたりすれば、少量ずつ逃がすようにできているわ。だから本人には尿意を残したままでも、膀胱が危険なところまで膨らみ続けることはないの」
「なるほど……。我慢している感覚は残るが、身体を傷めるほどには溜めないわけですか」
「そういうことね」
「ほら。だから問題ないでしょう」
男兵のひとりが、少し得意げにソフィアを見た。
「問題がないからなんだっていうんだい。もっとましな懲罰を考えろって言ってんだよ。一度、止めな」
ソフィアが男兵ふたりへ命じた。
「へいへい」
「わかりましたよ」
ふたりは不満そうな顔をしながら、それぞれ手にしていた操作具へ指を掛けた。
直後、それまで激しく回転していた五台の刷毛水車が、揃って勢いを失っていった。
ばしゃばしゃと絶え間なく響いていた水音が次第に間延びし、最後に何度か媚薬を跳ね上げると、五つの車輪は完全に停止する。
「うぅ……」
「あぁ……」
刺激から解放された五人の令嬢たちが、ほとんど同時にがくりと力を抜いた。
両腕を頭上へ繋がれ、脚も木箱へ固定されているため倒れ込むことはできない。それでも、それまで張り詰めていた身体から一斉に力が抜け、五人とも項垂れるように顔を伏せている。
ソフィアは一番手前にいた令嬢の前まで歩み寄った。
「いつから小便を禁止されてるんだい?」
ソフィアは項垂れていた令嬢の髪を掴み、乱暴に顔を持ち上げた。
「う、うう……き、昨日の朝から……です。お願いです。もうお許しを。わたしが昨日も一昨日も姿勢矯正で失敗して……みんなまで懲罰になって……」
令嬢は途切れ途切れに答えながら、ぼろぼろと涙を零した。
残る四人はなにも言わなかった。
責める言葉も、慰める言葉もない。
ただ、それぞれ俯いたまま、しくしくと泣いている。
「ちっ。昨日の朝からだって? つまりは、最後に小便したのは、一昨日の夜かい」
ソフィアが露骨に舌打ちして、男兵を睨みつける。
「……触手栓はさせてますよ。問題ないっす」
「ちっ──。全員許可する。ここで排尿しろ」
ソフィアが五人へ大きな声で命じた。
「え……」
「いいん……ですか……」
五人の令嬢たちが一斉に顔を上げた。
すぐには従わない。
むしろ戸惑ったように互いの顔を見たあと、五人とも揃って男兵ふたりへ視線を向けた。
「主任医官がいいって言ってんだ。好きにしろ」
男兵のひとりが面倒そうに手を振った。
その言葉を聞いた瞬間、五人の表情が崩れた。
ほとんど同時だった。
しゅっと音がしたかと思うと、一斉に激しい放尿を開始した。いまは止まっている刷毛水車に五人の放水が当たって音を立てる。
「あぁ……」
「うぅ……」
安堵の声が重なった。
それまで泣いていた令嬢たちは、今度は別の意味で涙を流しながら肩を震わせている。
ユーリスは、その様子をしばらく眺めてから、横にいるマルティナへちらりと目を向けた。
「よく頑張ったわね。偉いわよ」
マルティナは特に驚いた様子もなく、いつもの落ち着いた顔で五人を見ている。
ソフィアだけは相変わらず機嫌が悪そうだった。
「触手栓があるからって、一日以上も禁止するには、個々の見極めが重要なんだ。お前らにはまだ早いよ」
ソフィアは男兵ふたりを睨みつけた。
「でも、実際に身体には問題ないでしょう」
男兵のひとりがまだ納得できないように口を尖らせた。
「だから、それしか考えられない頭が問題だって言ってんだよ。刷毛水車まであるんだから、もっとましな懲罰の使い方を考えな」
ソフィアは吐き捨てるように言った。
五人の激しい排尿がようやく終わった。
しばらくは余韻のように滴りが続いていたが、それもやがて途切れていく。
「水車の操作具を貸しな。そもそも、お前らは闇雲に回転させすぎなんだよ。せっかく媚薬まで使ってるんだ。もう少し頭を使いな」
ソフィアが男兵から操作具を取りあげ、指を当てる。
止まっていた五つの水車が、再び動き始めた。
だが、先ほどとはまるで違った。
激しく薬液を跳ね上げていた高速回転ではなく、非常にゆっくりだった。
刷毛が薬液を含みながら持ち上がり、時間をかけて女囚たちの尻穴の入口を撫ぜ、股間の亀裂をくすぐり、陰核をねっとりと掃いて弾くように離れていく。しかも、そのときには次の刷毛がお尻に当たっている。
遅いだけに、刷毛が令嬢たちの股間をえげつなく掃くのがはっきりとわかる。
「ああ……いや……」
「あん……あぁ……」
五人から戸惑ったような声が漏れた。
彼女たちは必死に腰を逃がそうとしている。身体を伸ばし、身を捩り、少しでも刷毛から離れようとする。しかし、脚も腰も木箱にがっしりと固定されている。前にも後ろにも、横にも逃げられない。
やがて、五人の表情から先ほどまでの安堵が消えていった。
刷毛がまだ遠くにあるうちから身体を強張らせ、次に何が来るのかわかっているように息を乱している。
ユーリスには、高速で回していたときよりも、むしろ今の方が五人を追い詰めているように見えた。
やがて、五人の令嬢たちの様子が目に見えて変わっていった。
「ああ……もっと……」
「お願い……もう少し……」
ひとりが声を漏らすと、それにつられるように隣の令嬢も身体を震わせる。
それまで刺激から逃れようとしていたはずなのに、今度は逆に、もっと強い刺激を求めるような声が五人のあいだから次々と上がり始めた。
「お、おい……」
「なんだ、こいつら……」
男兵ふたりが呆気に取られたように顔を見合わせた。
「覚えときな。あたしの経験じゃ、女は痛みや生理的な我慢には案外しぶとい。でも、快楽を目の前にぶら下げられて、それを最後まで与えられないのには弱いんだよ。ましてや、このサロンで感覚を散々敏感にされてる連中ならなおさらさ。強く責めることばかり考えるんじゃない。届きそうで届かないところに置いたまま、じっくり焦らすんだ。それが一番堪える」
ソフィアは五人の様子を眺めながら、男兵たちへ言い聞かせた。
「なるほど……。さすが主任医官というわけですか」
ユーリスは感心したように呟いた。
「いやあ……参りました。姐さんには敵わねえっす」
「ほんとっすよ。速く回しゃいいってもんじゃないんですね」
男兵ふたりが、今度ばかりは素直に脱帽したように頭を掻いた。
そのあいだにも、五人の令嬢たちはゆっくりと回る刷毛水車から逃れようと身を捩り続けていた。
「お願いだから……そのまま……」
「あと少しなのに……」
先ほどまで刺激を避けようとしていたのが嘘のように、五人とも切羽詰まった表情を浮かべている。だが、ソフィアは操作具に触れたまま、水車の速度を上げようとはしなかった。
「じゃあ、今度は矯正室の方へ行きましょうか。ちょうど、このサロンに最初から入っている一組がいるはずよ」
マルティナがユーリスを促すように歩き出した。
「最初から?」
「ええ。ここの変化を見るには、ちょうどいい子たちよ」
ユーリスはもう一度だけ、刷毛水車の上で身を捩っている五人を振り返ってから、マルティナの後を追った。
マルティナの案内でやってきたのは、〈第一訓練室〉と書かれた部屋だ。
「ここよ」
マルティナが扉を開ける。
中はそれほど広くない部屋だった。
石床の上には一面に厚いマットが敷き詰められている。
そこには、全裸姿の五人の若い令嬢がいた。
五人とも縄を身体へ亀甲縛りも掛けられている。そのうちふたりだけが、さらに両手を背中側へ回して後手に縛られている。
彼女たちは、三人と二人に分かれて、驚いたことに、互いを相手にした訓練の最中らしい。
少女たちの百合行為という淫靡な光景が目の前にある。
ユーリスは思わず、息を呑んだ。
「ああ、アディ様、ベアト様、狡いですわ。わたくしは手が使えないのに……あっ、あっ」
「ふふ、可愛いですわ、ジュディ様。ここも同じになるのでしょう」
「しっかりとよがってくださいませ」
三人組では、後手に縛られた少女がマットの上へ仰向けにされ、両手が使えるほかのふたりが左右から彼女を翻弄していた。
「あ、ああ、ロ、ローザ様──」
「ヴァイオ様──い、いきそうですわっ」
一方、少し離れた場所では、ローザとヴァイオと呼び合っているふたりが脚を搦め、股間と股間を激しく擦り合わせている。
こちらもひとりが後手縛りで、両手を使える少女が主導するかたちになっている。ふたりとも夢中になっているらしく、周囲を見る余裕などなさそうだった。
「ローザとヴァイオレットは、そろそろ次へ進んでみるかい。ローザ、これを使いな」
二人組へ声を掛けたのは、この部屋にいる三人の女兵のひとりだった。
女兵は訓練用の器具をローザへ差し出す。
五人の令嬢たちは縄掛けを除けばほとんど身につけていなかったが、監督している女兵たちもまた、白い簡素な上下の下着だけという軽装だった。
「あっ、こんな格好で失礼致します。マルティナ様、ソフィア様、そして、こちらは元帥閣下の随行のお方でしょうか。女兵隊アイヤ以下三名、第二組の百合愛訓練の指導中であります」
ようやくユーリスたちの存在に気づいた女兵のひとりが、白い下着姿のまま背筋を伸ばし、ユーリスに敬礼をしてきた。
「ああ、そのままでいい」
ユーリスは敬礼を返しつつも、下着姿の女兵に敬礼をされるおかしさに、思わず吹き出してしまった。