サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
脱衣所を出ると、緩やかな石段が下へと続いていた。
石造りの階段でありながら、足元には冷たさがない。壁の内側に仕込まれた魔道暖房が働いているのだろう。むしろ、降りていくにつれて空気は次第に暖かくなり、湿り気を帯びている。
「おっ」
バルザックは思わず声を漏らした。
そこには、想像していたよりもはるかに広い浴場が広がっていた。
石床を掘り下げるように、大小さまざまな浴槽が五、六槽ほど設けられている。どの浴槽にも湯が満たされ、立ち昇る白い湯気が広場全体を薄く覆っていた。
浴槽のあいだには太い円柱が何本も立っている。
装飾のためだけの柱ではないらしい。
柱のところどころには金具が埋め込まれ、そこから短い鎖が垂れている。女囚たちを繋ぎ止めるためのものなのだろうと、バルザックにはすぐにわかった。
だが、彼の目をもっとも強く引いたのは、それではなかった。
石段を下りた正面に、まるで浴場へ入ってくる者を出迎えるように、大理石でできた二体一対の女性裸身像が据えられていたのだ。
白く透けるような大理石を惜しみなく用い、髪から指先に至るまで精巧に彫り込まれている。顔立ちも身体の線も美しく、彫刻そのものの出来だけを見れば、宮殿や神殿に置かれていても不思議ではないほどだった。
しかし、ただの裸身像ではなかった。
二体とも床へ手と膝をついた姿勢を取っている。
一方の女性像は、その状態から右脚だけを大きく持ち上げていた。優美という言葉とはほど遠い、まるで犬が小便をしているような格好だ。
しかも、割り開かれている股間には、女性器もアヌスも忠実に再現されている。
そして、そのすぐ脇には、もう一体の女性像がさらに低い四つん這いの格好で、相手の内腿に唇を寄せていた。
やはり、背後から露わになっている女性器もアヌスも精巧に表現している。
芸術品というより、悪趣味な戯画を、そのまま最高級の大理石で作り上げたような代物だった。
バルザックはしばらく黙って二体の像を眺めていた。
もう一方の女性像が何者なのかはわからないが、片脚を上げている方はわかる。
その顔には見覚えがある。
テレオロス王国最後の王太子妃──。
王国滅亡後も唯一生き残った王族として、このサロンへ収容されているセリアである。
「王太子妃とレイシアですか。変わった置物ですこと」
イレーヌは彫像を眺めながら掛け湯を済ませると、彫像にもっとも近い湯槽へ身体を沈めた。
「おう、確かに王太子妃とレイシアだな。これはたいした出来映えだ」
ユーリスも感嘆したように言った。
それから幾つかある湯槽を見回し、結局はイレーヌと同じ湯槽へ身体を沈める。
「レイシア……? ああ、王太子妃の護衛隊長だった女か。そういえば、あれもここに捕らえておったな」
バルザックは湯槽には入らず、二体一対の大理石像を正面に望む、小さな大理石の座椅子へ腰を下ろした。
その間にも、ミレーヌとフローラは慌ただしく動いている。
運んできた小箱をその場へ置くと、浴場の隅から湯桶や石鹸、海綿を取り寄せ、そばの湯槽から木桶いっぱいに湯を汲んで並べていく。
バルザックは、とりあえず二人の首環に繋いでいた鎖を外して、床へ落とした。
フローラが木桶を手に取り、バルザックの身体へ湯を掛け始める。ミレーヌは、香りをつけた海綿へ石鹸の泡をたっぷりと載せていた。
「ミレーヌ、海綿はいらん。わしの身体はお前の乳で洗うがよい。フローラも湯はもうよい。それよりも、わしの一物をきれいにせよ。舌でな」
「えっ……乳……。胸でございますか?」
ミレーヌの身体が固まった。
彼女の乳房はクリトリスよりも鋭敏な性感帯に変えられている。しかも、クリトリスよりも大きいだけ受ける快感も巨大なのだ。彼女にとって、その命令が何を意味するのかは明らかだろう。
「なんじゃ。わしの命に逆らうか」
バルザックはわざと声を低くし、ミレーヌを睨んだ。
たちまち隣にいたミレーヌの顔から血の気が引いた。
愉快な反応だ。
「あっ、いえ、大丈夫です。ミレーヌ様、逆らってはなりませんわ」
フローラはすぐに横から声を掛け、そのままバルザックの前へ膝をつく。
そして、「ああっ」と甘えるように鼻を鳴らしながら、バルザックの垂れ下がっている肉塊を口に含む。このフローラもそうだが、バルザックの世話役としてあてがわれた五人のもと令嬢の全員がある程度の口奉仕の訓練を受けていた。
まだぎこちないながらも丁寧な愛撫は、バルザックの征服欲を掻きたてる。
ちゃぷちゃぷと音を鳴らしながら、フローラがバルザックの男根を口腔で出し入れするうちに、みるみると一物が膨らみだす。
「す、すぐにいたします」
そして、ミレーヌも我に返ったらしい。
慌てたように、自分の乳房に石鹸の泡を大量に載せ始める。
バルザックは二人の様子を眺めて満足そうに鼻を鳴らし、改めて正面の大理石像へ目を向けた。
「しかし、妙な組み合わせだのう。王太子妃と、その護衛隊長か」
「二人はもともと主従でしたが、いまでは女同士で性欲をむさぼり合う百合愛に仕立て上げました」
カイネウスだ。
声は、大理石像の向こう側からした。
像を挟んでイレーヌたちとは反対側にある湯槽へ身体を沈め、湯気の向こうからこちらを眺めていた。
「ほう」
バルザックは二体の像を見比べた。
「ええ、元帥閣下には、是非とも、このふたりが主従とは別の形で強く結びつく様子をご鑑賞いただきたいとおもいます」
カイネウスは湯槽の縁へ背を預けた。
「それは楽しみだ」
バルザックはそう答えながら、再び白い大理石のセリアとレイシアへ視線を戻した。
「あっ、ああ……ひあっ……」
背中で柔らかいミレーヌの乳房が前後する。そのたびに快感が全身に響き渡るのか、涙声の混じった喘ぎ声が彼女の口から漏れ出る。
「間違って、乳から精を出すでないぞ。身体を洗わせておるのに、汚されては堪らん。そら、背中はもうよい、腕を擦れ、乳と股の両方でな」
バルザックは笑いながら右腕を真横に伸ばした。
すでに全身を真っ赤にしているミレーヌがふらつきながら、バルザックの腕に跨がり、身体を倒すようにして乳房を肩付近にあてがう。
身体全体で上下に動き出す。
「ひああっ、ああっ、あっ、あっ」
ミレーヌが身体をバルザックの腕になすりつけながら身体を反り返らせるようにしながら硬直する。
「止まるな──。動かんか──」
「は、はいいっ」
ミレーヌがぎりぎりと歯を喰いしばるような音を立てながら、身体を震わせつつ身体を激しく動かす。
早くも達しそうなのだろう。
昨夜ひと晩、たっぷりと可愛がったからわかる。
だが、バルザックは許すつもりはない。とことん追い込みながらも、簡単には絶頂させず、ぎりぎりのところで翻弄してやろうと決めていた。
「まだじゃ。勝手に終わるでないぞ」
「は、はい……」
ミレーヌは震える声で答えた。
それでも命じられた動きを止めることはできない。
「なんじゃ、股で擦るところに、おかしな体液がつき始めたぞ。自重せんか」
バルザックは笑う。ミレーヌの股間からはおびただしい程の愛液が噴き出していた。それが擦らせているバルザックの腕にたっぷりと塗りつけられていくのだ。
「あっ……ああ……。もう……しわけ……んんっ……んんんっ」
それでもミレーヌは懸命に乳房と股間でバルザックの腕を擦り続ける。バルザックは反対の腕を身体で洗うように命じた。ふらふらになりながらも、ミレーヌは身体を移動させて、奉仕を再開する。
すぐに欲情によがり出す。ミレーヌが絶頂を避けるために、何度か動きを乱しかけるたびに、バルザックが強い声で叱咤して奉仕を促す。
「そうじゃ。それでよい」
バルザックは満足そうに頷いた。
一方で股間では、フローラも黙々と役目を続けている。
訓練された動きは使っている。しかし、ときおり見せる躊躇いや、こちらの顔色を窺うような仕草には、もとの令嬢らしい気配が残っている。
それがまた面白かった。
バルザックは片手を伸ばし、フローラの髪の毛を掴む。
「もっと奥まで咥えてみよ」
バルザックはフローラの頭を強引に引っ張り、怒張の先端を彼女の喉に押しつけるようにした。
「んん……んぐうっ」
深い口吻を強要され、フローラが苦しさに腰をくねらせて苦しみ悶える。
喉奥を激しく突きあげられて、フローラが大きく呻く。
だが、その彼女の股間では、むくむくとしっかりと勃起した男根が股間から生えて頭をもたげだした。バルザックはほくそ笑む。
愛撫に快感を覚えて男根が生えてくるだけではない。この娘はこうやって屈辱的に扱うだけで、快楽に酔いはじめて、股間から肉塊が飛び出すのである。
天性の被虐体質なのだろう。
その横では、ミレーヌがとうとう耐えきれなくなったように大きく身を震わせた。
「ひっ……」
「まだじゃと言うたであろう」
バルザックが声を掛けると、ミレーヌは慌てて動きを止めかける。
「止まれとは言っておらん。続けよ」
「は、はい……申し訳ございません」
泣きそうな声で答えながら、ミレーヌは再び命じられた動きを始めた。
バルザックはその様子を眺めながら、喉の奥で笑った。
昨夜からずっと、この二人の反応は見ていて飽きない。
命じれば従う。
しかし、従いながらも表情や声には戸惑いや羞恥が残る。
そこがよい。
完全に感情を失った奴隷など、眺めていても面白くはない。
「よし。今度は交代じゃ」
「え……?」
二人が同時に顔を上げた。
バルザックは座椅子へ深く腰を預けると、面白そうに二人を見比べた。
「ミレーヌ、おぬしは少し休め。フローラ、おぬしがこちらへ来い」
「はい」
フローラがすぐに立ち上がる。
しかし、ミレーヌはようやく解放されたというように大きく息を吐き、その場でぺたんと尻もちをついている。
「休んでよいとは言ったが、座ってよいとは言っておらんぞ。休めるのは身体じゃ。フローラと交代で奉仕せよ」
「は、はいっ……」
ミレーヌは慌てて姿勢を正した。
その横をフローラが通り、今度はバルザックの背後へ回る。乳房に泡をつけ始める。
ミレーヌは、さっきまでフローラがやっていたように、バルザックの怒張へ舌による奉仕を始めた。
「ほう。おぬしはこちらの方がましだな」
「……あ、ありがとうございます」
ミレーヌが一度口を離して頷き、直ぐに咥え直す。
「褒めておるのではない。乳擦りよりはましだといっているだけじゃ。もっと精進せんか」
ミレーヌがバルザックの怒張を咥えたまま頷く。
その様子を見て、バルザックは再び笑った。
「フローラ」
「はい」
「上半身はよい。わしの脚を洗え」
バルザックは両脚を床に投げ出すように伸ばした。
「ただいま」
フローラが床に這いつくばるような姿勢になって、自分の両手で寄せた乳房で、まずはバルザックの右脚を擦りだした。
しばらく見守る。
姿勢が窮屈であり、かなり体力も必要とするのだろう。すぐに息を荒げだす。
石鹸の泡が流れ落ち、大理石の床へ白い筋を作っていく。
二人が黙々と命じられた奉仕を続ける。
フローラは床に低く身を伏せたまま、乳房を使ってバルザックの両脚を足首から太腿にかけて擦る。右脚から左脚に移る頃には、彼女の息は完全に荒くなった。
一方のミレーヌも、バルザックの前に両膝をついたまま、いまは顔全体を使うように必死に愛撫をしている。
浴場に響く湯音に、二人の乱れた息遣いが重なっていく。
バルザックは座椅子に深く腰を預け、左右で懸命に役目を果たす二人を交互に眺めながら、満足して目を細めていた。
「よし、そろそろ、精を出してやろう。ミレーヌの口に出すが、飲むのは半分ずつだ。口移しで移動させるのじゃ」
バルザックは、ミレーヌの口の中に精を迸らせる。
「んんっ、んんっ」
ミレーヌは顔をしかめて、苦しげに顔を歪めた。それでも口を離さずに、必死で口の中に受けとめていく。
「……はあ、はあ、はあ……フ、フローラ様……」
ミレーヌが射精の終わったバルザックの一物から口を離し、フローラに顔を向けて口を開けた。その舌の上にはたっぷりと放たれたバルザックの精液が乗っている。
二人がぎこちなく口づけをして、精液を分け合う。
「いい趣味ですねえ、閣下。王国の令嬢同士の百合愛。悪くないですよ。でも、思わず当てられちまって、このままじゃあ、湯から出るに出られませんよ。そのふたりを貸してもらえませんか」
そのとき、ずっと見守っていたかたちだったユーリスが陽気に声を掛けてきた。
冗談めかしく言っているが、視線を向けるとユーリスの顔は赤い。半分以上、本気なのかもしれない。
「馬鹿を言え。これはわしの玩具だ。ほかを当たれ」
バルザックは笑って返す。
そして、精飲を終えてへたり込むふたりに、湯を持ってきてバルザックの身体にかけるように指示する。ふたりが慌てて動き出す。
「そんなあ……。じゃあ、中佐、代わりに、その柱の前に立って、留め具に両手首を嵌めてもらえません? なあに、直ぐに済みます。それに満更でもないようにしますから」
ユーリスが同じ湯槽に入っているイレーヌに顔を向けた。
「ぶん殴るわよ」
イレーヌが冷たく返した。
「だったら、今日も一般囚に行ってきていいですか、閣下。特別囚については、ガレス殿にお任せしますよ。あいつは、王太子妃をどう扱うかについて、不満がありそうじゃなかったですか。俺はあいつに同調できないし、だから任せます。一般囚のことについては俺が報告書を出しますよ、いい女たちばかりだったって」
ユーリスがわざとらしい情けない声で哀願する。
バルザックは笑いながら了承した。
「ありがとうございます──」
すると、ユーリスがすぐさま湯から飛び出して、あっという間に脱衣所に戻っていく。
バルザックも流石に呆れてしまった。