サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「ああっ」
レイシアはのけぞるようにして、汗まみれの顔をしかめた。
鞍馬に縛りつけられた身体が、びくりと大きく震える。
周りの男たちが、またしても激しい反応を示したレイシアに、大きな歓声をあげた。レイシアは慌てて口を閉ざす。
「……ここも反応が強いね。印をつけておこうか」
カイネウスが〈探針棒〉を操りながら指摘して、さらにそこを刺激する。
目の前には、レイシアとリネアの肛門の中が拡大して投影されているが、快感の場所であることを表す赤い点が、またぽつりとついた。
その場所を、カイネウスが淡々と〈探針棒〉の先で刺激を追加する。
「く、くううっ」
微妙な刺激に、レイシアは上ずった声をあげてしまう。
せめて、そこから逃れようともどかしく腰を振るのだが、甘い疼きが沸き起こって脱力してしまう。投影されている肛門の中の粘膜は生々しく伸縮を繰り返している。
どのくらい、こうして尻を棒状の淫具でなぶられ続けているのか、もうわからなかった。
最初は異物感と嫌悪感しかなかった〈探針棒〉による刺激も、いつの間にかそれだけではなくなっていた。
隣からは、リネアの声が聞こえる。
レイシアは反射的にそちらへ眼を向けた。
妹もまた同じ検査を受け続けている。レイシアには、カイネウスしかついていないのに対して、リネアは尻をなぶるアルジェだけでなく、二人の女兵が鞍馬とリネアの乳房のあいだに手を差し込み、あるいは股のあいだから指を入れて、股間を上下に動かしている。
そのため、リネアの羞恥と苦悩の呻きは、レイシアよりもずっと大きい。
「だめええっ」
リネアの甲高い悲鳴が轟く。
見物の男たちがどっと湧く。
「リネア──」
思わず名前を呼ぶ。
「隣は気にしなくていい。ただ感じることだけを考えればいい。正面から眼を逸らさないようにね」
カイネウスが棒を操る手とは反対側の指で、レイシアの陰核を下からそっと揺さぶる。
「ひいっ」
息も止まるような快美感が貫き、もうそれだけで、レイシアはほかのことなど考えられなくなる。
カイネウスは巧みだった。
魔道を組み込んだ〈探針棒〉を操り、レイシアの身体が強く反応する場所をひとつずつ探り当てていく。わずかでも反応を示せば、すぐにそこを見抜かれた。
必死に耐え、悟られまいと身体を強張らせても無駄だった。
〈探針棒〉は魔核と連動している。
本人がどれほど隠そうとしても、身体の反応そのものまでは誤魔化せない。
そして見つけられた場所には、こうやって必ず微振動や微弱な電撃が加えられる。
すると、抑えようとしても抑えられない昂ぶりが、次第にレイシアの身体を支配していた。
「力を抜くことだよ。そうすれば楽になる。ところで、〈拡張栓〉がまた大きくなる。息を吐け」
カイネウスは、奥側を調べている〈探針棒〉を操作しながら淡々と言った。
その口調も手つきも妙に冷静だった。
まるで人間の身体を調べる施術師か、精密な魔道具を調整する技師のようだった。
「あ、ああ、また開く──」
レイシアは声を漏らした。
魔核が身体の状態を読み取り、それに応じて〈拡張栓〉が少しずつ形を変えているらしい。
いま、どの程度まで拡がっているのか、自分ではもうわからない。
ただ、ぎりぎりと押し拡げられるような圧迫感だけは、はっきりと感じていた。
そして、それすらも、いつしか単なる苦痛ではなくなっている。
そのことに気づいた瞬間、レイシアは唇を噛んだ。
こんなものに身体を慣らされ、与えられる刺激を受け入れ始めている。
その事実が、なによりも惨めだった。
それからも同じような検査が続き、どれほどの時間が過ぎたのか、レイシアにはもうわからなかった。
飽くことがないかのようないたぶりを続けられて、レイシアはいつしか自虐的な心地になっていった。大勢の見物人の前でアナルをいたぶられるという辱めを受け、なぜか口惜しさも苦悩も忘れていき、被虐酔いのようなものが生じ始めているのがわかる。
我に返って、それを追い払おうとするが、続けられるアナルへの愛撫に、レイシアはまたしても、淫らな反応をしてしまうのだった。
やがて、やっとカイネウスの手が止まった。
「……ただ反応させるだけなら、もう十分でしょう。できれば、丸一日こうして尻穴の開発に取り組みたいところですけどね」
カイネウスは、ひどく落ち着いた声で言った。
「なにを言う。もう十分じゃろう。まさか、半刻もそれを続けるとは思わんかったぞ」
元帥の笑い声が聞こえた。
「人間の身体というものは、強い刺激を何度も受ければ、それを学習します。最初は不快でしかなかった刺激でも、脳と神経が繰り返し同じ反応を返すうちに、その刺激へ到達するまでの経路そのものが短くなっていくんです。いわば、感覚の通り道が太くなるわけです」
「通り道だと?」
元帥が面白そうに聞き返した。
「ええ。普通なら、刺激を受けても、それが快と結びつくまでにはいくつもの段階があります。ですが〈魔核〉は、その途中を補助できる。身体がどこで強く反応したかを拾い上げ、そこに同じ反応を何度も返させるのです」
カイネウスは、まるで講義でもするように続けた。
「いちいち、そうやって、女を悦ばせながら矯正をしていくのか。それでは、どっちが奉仕をしているのかわからんではないか」
元帥が声をあげて笑う。
「望まぬ快感を覚える淫女の身体にされてしまう。気位ばかり高い王国の高貴女には、それが効果があるのです。さらに定着が進めば、わずかな接触でも、それまでより大きな反応が返るようになります」
「つまり、身体に淫らな癖を覚え込ませるわけか」
元帥が笑った。
「近いですね。ただし、単純な癖より少し厄介です。〈魔核〉は反応の強さだけではなく、どこで、どの程度、どの順番で感覚が立ち上がったかまで記録します。その情報を利用して、反応の弱い経路を補強し、強い経路はさらに鋭くする。そうやって少しずつ、本人が意識しなくても反応する身体へ変えていく」
「ずいぶん理屈っぽいのね。要するに、何度も繰り返して覚え込ませているだけでしょう」
イレーヌが鼻を鳴らした。
「半分はそうです。ただ、人間だけなら時間がかかる。そこを〈魔核〉で短縮している。通常なら何十日、何百日とかけて形成される反応を、もっと短い期間で定着させられる。それがサロンで使っている方法です」
「念のいったことだな。ところで、正面に投影されておる尻穴の中につけられた赤い点が随分と違うのう。赤い点は快感の場所なのであろう? そういうものなのか?」
元帥が訊ねた。
レイシアははっとした。
正面に投影されている映像から眼をそむければ、レイシアではなくリネアに苦悶が与えられる仕掛けになっているため、いまでもレイシアは真っ直ぐにそれを凝視していた。
「男とは異なり、女はかなり個体差があります。しかし、このふたりは姉妹にしては随分と違う」
カイネウスが正面に投影された二人分の反応記録へ眼を向けながら言った。
言われて、レイシアも改めて正面に並んでいる二つの投影像を見比べた。
さっきまでは、映録球で撮影された実際のアナルの生々しい映像だったが、いつの間にか尻穴の模式図のようなものに変わっていた。
確かに、まるで違う。
レイシアの方は、赤い点の数そのものはそれほど多くない。いくつかの場所にまとまるようにして印がつき、その中でも、とりわけ強く反応した場所には赤い点が重なるように集中している。
それに対して、リネアの方は違った。
ひとつひとつの印がまとまっているというより、赤い点が広い範囲に散らばっている。数も明らかに自分より多い。どこか一か所だけが特別なのではなく、あちらにもこちらにも反応した痕跡が残されていた。
広範囲に分布している一方で、重なっている部分も多いので、リネアの方が赤い色が濃い。
こうして二つを並べて見せられると、その違いは一目瞭然だった。
「……驚いたわね。あんたの尻穴は、すでにしっかりとした感じる穴になっているじゃないのよ。魔核で調整するとはいっても、最初からこんなにはならないわよ。どうなっているのよ。もしかして、ずっとアナルで自慰をしてた?」
意地悪い口調でリネアに詰め寄ったのはアルジェだった。
「じ、自慰なんてしません──」
すると、リネアは引きつった声色で叫んだ。
「……確かに、リネアの反応図は、今日初めてのアナルなぶりとは思えないね。サロンの記録では、リネアにはアナル責めをほとんど施していない。むしろレイシアの方が、全体的な肉体開発と併せて、アナルの矯正も進めていたはずだ。だけど、結果は逆のようだ」
カイネウスはそう言いながら、レイシアの前へ回った。
そのまま傍らに置かれている台車へ歩み寄り、上に載せられていた長細い金属缶を手に取る。
蓋を開け、中から真っ赤な細長いものを取り出した。
それを見た瞬間、レイシアはぎょっとした。
形そのものは、男性器を模した少し太めの張形に見える。
しかし、普通の張形とは明らかに違っていた。表面には無数の小さな触手のようなものが生えており、粘性のある液体に濡れながら、それぞれが生き物のようにうねうねと動いている。
「なんじゃ、それは?」
元帥の声がした。
「〈触手張形〉です。サロンで開発した人工触手です。リネアについては、すでにかなり開発が進んでいるようですが、レイシアはまだ不足している。先ほど〈探針棒〉で調べた反応点を、今度はこれで同時に刺激します。内部からは媚薬成分も放出されますから、一気に開発の最終段階へ進められます」
そう説明すると、カイネウスは先ほどまで使っていた〈探針棒〉を手に取った。
柄の部分を開き、中から小指の先ほどしかない魔核を抜き取る。
そして、それを〈触手張形〉の柄に設けられた窪みへ差し込んだ。
かちり、と小さな音がする。
それまで無秩序に動いていた無数の触手が、一瞬だけ動きを止めた。
次の瞬間、それぞれが異なる間隔でゆっくりと蠢き始める。
「いま入れ替えた魔核には、どういう意味があるの?」
イレーヌが訊ねた。
「〈探針棒〉で採ったレイシアの反応記録が入っています。どの位置で、どの程度の刺激に、どれだけ強く反応したのか。その分布と深さまで記録されている。それをこちらへ移したんです」
カイネウスは〈触手張形〉を軽く掲げた。
「ほう……。そんなものまで、このサロンでは開発をしておるのか」
元帥が感嘆の声をあげている。
「我々は矯正に手を抜きません。つまり、これは決められた動きを繰り返すだけの魔道具ではありません。魔核の記録を基準にして、無数の触手がそれぞれ狙う場所を変える。レイシア専用に調整された状態になったということです」
「なるほど。先ほどの検査が、そのまま次の責めの設計図になるわけね」
イレーヌだ。
「そういうことです。これでレイシアが反応から逃げることは……不可能です」
その言葉を聞いて、レイシアは息を呑んだ。
さっきまで延々と続けられていた検査。
あれは単に自分を辱めるためだけのものではなかったのだ。
どこを刺激されれば耐えられなくなるのか。それをひとつずつ調べ、そのすべてが、いま目の前にある異様な魔道具へ渡されている。
カイネウスが〈触手張形〉を手にしたまま、再びレイシアの後ろへ回った。
「い、いやだ──。そんな得体の知れないものを入れないでくれ」
レイシアは叫んだ。
「心配ないよ、レイシア。〈拡張栓〉と〈探針棒〉で、あれだけ時間をかけて準備したんだ。君のアナルは、十分にこの張形を呑み込むだろう」
背後でカイネウスが言った。
すぐに、アナルの表面に、さっきの張形の表面が当たった。たくさんの細長いものがレイシアの尻穴の表面で動く。
「ひいいっ」
レイシアは思わず悲鳴をあげた。
だが、そのままずぶずぶと張形が侵入していく。
あっという間に、張形はかなり深いところまで潜り入ってきた。
「うああっ」
レイシアは叫んでいた。
お尻に入りこんだ触手張形がなかで形を変えたのだ。
多分、球体──。さっき束の間、垣間見た張形は、触手が集まっているとはいえ、男根そのものの形状だったはずだ。
しかし、いまレイシアの中に入ったまま、張形はいくつもの球体のような形状に変化をしている。それがまるで入口側から奥へ──奥から入口側へ移動していくかのように変形をしている。
しかも、〈探針棒〉で見つけられた快感の場所を念入りに愛撫しながらだ。
「おおおっ」
愛撫が鋭い快感となって、アナルから脳天に向かって突き抜けていく。
「と、とめてえ──。これはいやあっ──」
レイシアは身体を弾かせるようにしながら声をあげた。
「しばらく、それで解すといい、レイシア……」
カイネウスがレイシアから離れて、リネアの方に移動していく。
それよりも、アナルの中の淫らな刺激に、レイシアは必死に気丈になろうとした。歯を喰いしばり、反応をするまいとするが、触手張形の衝撃はどんどんと深くなっていく。
「……ところで、リネア……君はいつ、お尻の処女を失ったの?」
そのとき、カイネウスがリネアになんでもないことのように訊ねるのが聞こえた。