サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
カイネウスは、隣に座るバルザックと並んで酒を飲みながら、少し離れたところで続いている騒ぎを眺めていた。
午前中、レイシアとリネアを並べて見世物にしたのと同じ広間だった。
しかし、夜になったいま、そこにいる顔ぶれも雰囲気もすっかり変わっている。
正面の床には厚手のマットが何枚も敷かれ、その上にはアルトとリネアが転がされていた。ふたりとも腕を背中側で縛られ、脚も自由にならない格好にされている。その周囲を、酒の入った男兵たちが取り囲んでいた。
そもそもの始まりは、夜になって再び連れてこられたリネアをアルトと並べ、皆の前でふたりだけの時間を与えたことだった。
あれは、なかなかの見ものだった。
大勢に取り囲まれているというのに、アルトもリネアも、まるで周囲には誰もいないかのようだった。後手に縛られたままにもかかわらず、熱烈な愛を披露してみせた。カイネウスもあそこまで積極的に動くとは思っていなかったので感嘆するほどだった。
互いしか目に入っていないような様子でふたりは求め合い──いや、むさぼり合い、それがかえって見物していた男たちを煽る結果になった。
公開の余興が終わると、酔った男たちは今度は自分たちが加わりたいと言い出したのだ。美貌のアルトを相手にすることにも抵抗のない者が予想以上に多かったらしく、結局、ふたりは改めて拘束され、互いの姿が見えるところへ並べられた。
ふたりとも、両脚は胡座をかくように深く折り畳まれ、左右の足首と脛、腿が縄でまとめられている。
それだけではない。
背中側へ回された両腕を拘束したうえで、上半身を腰から大きく前へ折り曲げられている。胸が組んだ脚へ覆い被さるほど身体を丸められ、その姿勢が戻らないよう、上半身と胡座に組んだ脚とがさらに縄で結び合わされている。
そのため、下半身は胡座の形に固められたまま、上半身だけが深く前へ折れ、頭は足元近くまで垂れ下がっていた。
胡座縛りに、さらに海老縛りを重ねた格好だった。
前に倒されれば、自力では身体を起こすこともできず、後方に性器だけでなく肛門まで無惨に晒す格好だ。その状態でお互いの顔と顔を接するように倒されて、それぞれ後ろから男たちに輪姦されているのである。
それから、かなりの時間が経っている。
カイネウスもバルザックも、いまはその騒ぎに加わってはいない。
少し離れた場所に椅子を置かせ、酒を飲みながら眺めているだけだ。
もっとも、バルザックの足元だけは別だった。その股のあいだにはノエラの頭が動いている。
ノエラの義手と義足はすべて取り外され、酒瓶や杯を載せたテーブルの隅へ、几帳面なほどきれいに並べられている。そして、両腿の切断部には義足の代わりに、底の丸い特殊な台座が取り付けられているのだ。
さらに首には、天井から垂らされた縄が巻かれている。
丸い台座では身体を安定させることが難しい。大きく均衡を崩せば、そのまま身体が傾き、首の縄が張る仕掛けになっていた。
長いあいだ懸命に身体を起こし続けているノエラは、口に咥えさせられているバルザックの男根だけで、体勢を保持しているのだ。
バルザックはそんなノエラに相手をさせながらも、終わらせることを許していない。射精をさせることなく、かといって萎えさせることのない奉仕を、バルザックはノエラに強要している。
ノエラは姿勢を崩さないことにも気を配りながら、ひたすら命じられた奉仕を必死に続けている。
カイネウスは杯を傾けながら、その様子を横目で見た。
自分たちの周囲にいる人間は少ない。
ノエラを除けば、女兵隊副隊長のアグネスと、接待を補佐する二人の女兵だけだった。
三人ともカイネウスたちの背後に立ち、余計な口を挟むことなく静かに侍っている。ただ、バルザックの盃に酒がなくなれば、女兵のうちの誰かがテーブルの酒瓶をとり、酌をしていた。
カイネウスは、もう一度、正面へ視線を戻した。
さすがに、ふたりとも疲労の色が濃くなっている。
とりわけ、尻だけで男たちの陵辱を受けているアルトは苦しそうだ。だが、潤滑油代わりの媚薬の使用は男たちに強制しているし、魔核による身体の保護もさせている。
苦悶よりも、快感が上回るように脳の快楽線を調整させているが、それでも疲労はリネアを上回るようだった。
男であり、騎士見習いとして鍛えられているはずのアルトが、薬師見習いにすぎないリネアよりも、先に音をあげかけているのは面白い。やはり、身体の芯のところでは、男よりも女の方が丈夫なのだろうか。
興味深い検証資料が出たものだと、カイネウスは見守っていた。
アルトの額から流れた汗で髪が頬に張りつき、息を整える余裕もない。ときおり苦しそうに顔をしかめながら、それでもすぐ目の前にいるリネアから視線を逸らそうとはしなかった。
リネアも同じだった。
ふたりとも、頬を紅潮させて乱れた息を繰り返している。それでも床に横顔を押しつけられながらお互いを見つめ、なにかを確かめるように繰り返し頷いている。
「ははは、どうだ。恋人の前で犯されるのは、気分がいいかい?」
いま、海老縛りで前に倒されているアルトを背後から犯している男兵が揶揄するように嘲笑する。
しかし、アルトは返事をしない。
歯を喰いしばったまま、必死に肛姦に耐えている。
「ちっとは喋らねえかよ。恋人の前だからって、見栄張るんじゃねえ。女みてえな色っぽい声で喘ぎな」
アルトたちを囲んでいる男たちのひとりが、アルトの腰の前に手を差し入れて、アルトのそれをしごき始めた。遠目だが、股間を擦り、さらに玉袋を丸く包むように揉みあげているようだ。
衆道の技巧など、いつの間に身につけていったのだろう。カイネウスは苦笑してしまった。
だが、実のところ、アルトの評判はいいのだ。
クラウディアの弟ということで気紛れで捕獲しただけのことであるが、女囚ばかりでなく、こういう若い男娼候補もサロンの間口を拡げるために、入荷を検討してもいいのかもしれない。
「あ、ああっ」
アルトは後ろを犯されながら、別の男に男根まで刺激されて、全身をのたうち始めた。胡座に開脚されている太腿の筋肉をぶるぶると痙攣させている。
「ああ、アルト──」
リネアが眼の前のアルトの顔に向かって声をあげた。
しかし、リネア自身も、後背位で犯されているのだ。それ以上の言葉は、リネア自身の喘ぎ声に紛れてしまう。
「おっ、こいつ、先走りの涎を先っぽから出し始めたぜ。恋人の前だぞ。みっともなく精を放つところを晒すんじゃねえぞ。必死に耐えてみせろ」
股間を擦っている男がさらにしごきを荒々しくしたのがわかった。
「ああ、そんなに、擦っては……。ああっ」
アルトが泣くような声でさらに喘ぐ。
「ははは、済まんな、リネア。恋人の尻穴をこうやって借りてしまって。お前にとっては、愛しい男であろうに」
背後の男が尻を犯しながら、さらに手を伸ばして、アルトの乳首をくすぐるように弄りだした。
アルトの呻き声がさらに大きくなる。
「ああ、アルト、しっかりして──。あ、ああっ」
リネアは犯されながらも、必死にアルトに声を掛けている。
「よし、せめてもの慈悲だ、精だけは恋人に顔射させてやらあ。その代わり、大人しく精を吐きな」
アルトを玩弄していたふたりが顔を見合わせる。そして、アルトの尻を犯していた男が、アルトの尻を犯したまま、後ろに反り返るようにして、アルトの腰を引きあげさせた。
アルトの股間を擦っていた男が、男根の先を床に突っ伏しているリネアの顔に向け、さらに激しくしごく。
「あああっ」
アルトの男根から精が飛びだした。
それがリネアの顔に見事に降り注ぎ、周りの男たちが歓声をあげる。
「……若い者が元気じゃ。わしも年寄りを気取るわけではないが、日に何度も精は出せん。疲れるのじゃ」
しばらく、アルトたちの様子を見守っていたバルザックが盃の酒をぐびりと口にする。
「十分でしょう。朝風呂で出し、午前中はレイシアの尻に一回。半日時間をあけて、さっき、アルトに一度。いまは、ノエラからの奉仕でしょう。まだ若いですよ」
カイネウスは苦笑した。
実のところ、アルトとリネアの乱交に入る前に、最初にアルトに手を出したのがバルザックだった。むしろ、あのふたりへの輪姦はそれが口火になったと言っていい。
「そうか? まだ若いか」
バルザックが声をあげて笑った。
「ええ、十分にね」
カイネウスも盃を口にする。
少なくなった盃を戻すと、すかさず、アグネスが自らカイネウスの盃に酒を足してくれた。
「予定では、セリアとレイシアの百合愛をみせてくれるはずだったが、この感じでは、その余裕はなかろう」
「まあ、丁度よかったですよ。思ったよりも、レイシアの疲労が激しい。休ませる必要がありますから」
「あそこまで人気があるとは思わんかったな。五人ずつのはずが、レイシアについてはひと回りしたからのう」
「以前から名のある女剣士でしたし、王都戦では敗北したとはいえ、共和国軍を相手に活躍をしたのは有名です。そのレイシアを犯せるのですから、殺到しても仕方がない。実際、サロン内では男兵の性欲解消には解放しておりませんでしたので」
「しかも、そのレイシアが、あれだけ喘ぐのだ。男であれば、誰でも征服欲を刺激されるであろうよ」
バルザックが声をあげて笑った。
そして、思い出したかのように、脚のあいだのノエラの乳房を揉み始めた。
「んんんっ、んんっ」
ノエラの乳房は、クリトリス並みの性感帯に開発処置をしている。ノエラにとっては、乳房を刺激されるのは、クリトリスを刺激される以上の衝撃なのだ。
狼狽するように激しく身悶えだす。
しかし、喘ぎ声を出して、口を開けば体勢を崩して身体がひっくり返るだろう。そのときには、首にかけてある縄が首絞めをすることになる。
ノエラは必死に耐えている。
「これじゃ。わしは、女が苦悶する姿を見るのが好きでなあ。それで、どうしてもけしかけてしまうのよ」
「問題ありません。満足していただけるのであれば、サロンとして嬉しく思います」
カイネウスは軽く頭をさげた。
「……そういえば、イレーヌは夜の部には来なかったのう」
バルザックがふと思い出したように口にした。
ノエラの乳房からは、いつの間にか手を離している。
「夜は閣下にお任せする、との伝言でした。レイシアを休ませると決めたことで、完全に興味を失ったようでしたよ」
「やはり、あの女はレイシアに特別なこだわりを持っておるようじゃな」
「そのようですね」
カイネウスは短く答えて、盃を傾けた。
バルザックはしばらく黙っていたが、やがて何かを思いついたように口元を緩めた。
「例えばじゃ。あの女がそれほど気にかけているレイシアを使って、イレーヌ自身を辱めてみれば、さぞ面白かろうな」
カイネウスは答えなかった。
代わりに、右手をわずかに上げる。
背後に控えていたアグネスがすぐにその意味を察して動く。
アグネスは二人の女兵に目配せする。女兵たちはノエラのところへ進み、目隠しを施した。さらに外の音を遮断するための耳栓まで取り付ける。
ノエラはかなり狼狽した様子だったが、それでも懸命に奉仕を継続している。
その処置が終わるまで、カイネウスもバルザックもなにも言わなかった。
やがてアグネスが元の位置へ戻る。
「……閣下のご命令であれば、僕はやりますよ」
カイネウスは静かに言った。
今度はバルザックが黙った。
手にした盃を眺めながら、しばらくなにかを考えている。
やがて、小さく肩を竦めた。
「……いや。時期尚早じゃ」
「そうですか」
「まだ根回しが足りん」
「わかりました」
カイネウスはそれ以上、理由を訊かなかった。
視線をアルトたちに戻す。
相変わらず、ふたりは後ろから男たちに犯されている。ただ、いつの間にか床に押しつけられている顔と顔を密着させて、口づけを交わしている。
雰囲気からすると、周りから強要されている気配ではあるが、その仕草は濃厚だ。むさぼるような口づけというのは、ああいうものをいうのだろう。
ふたりとも、完全に被虐に酔ったかのように、情欲に染まった顔になっていた。
あれはあれで、幸せそうではある。
そんな錯覚さえ、カイネウスは覚えた。
そのときだった。
バルザックの視線の気配を感じて、横に視線を向け直す。
「……なあ、将軍。根回しの終わっている方については、前倒しをせんか? このサロンへの滞在を延ばそうかと思う」
バルザックの相好は、完全に崩れていた。
「よろしいので?」
そう訊ねると、バルザックが迷う様子もなく頷いた。
「問題ない」