快進撃を続けていたエイリークだが、ヴァルターの周到な罠に嵌まってしまう。
目の前で希望が潰える様を見せつけられ、それでもなお抗う姿勢を見せるエイリークだが……。

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屈辱的な敗北(エイリーク×ヴァルター)

 砂を巻き上げる乾いた風に焦げた匂いが混じっている。

 エイリークの率いる部隊が背にする城はあちこちから煙が上がり、周囲は幾重にもグラド軍の精鋭部隊が包囲していた。

 火に呑まれ全滅するか、多少の犠牲を払ってでも突破口を切り開くか、答えは明白だった。エイリークは覚悟を決めると自ら先陣を切る。

 少し前まで王宮で何不自由ない暮らしをしていたエイリークだったが、いまや整った顔が汗と砂でどろどろになっても気にするそぶりも見せない。流麗な身のこなしで次々と敵を斬り払い、流砂に足を取られながらも一歩先へ駆けた。その姿が味方を鼓舞し、さらに勢いを付けていく。

 敵兵の多くが包囲した時点で油断し、想定外の反攻に腰が引けていたことも幸いした。エイリークたちは快進撃を見せ、包囲の突破が手の届くところまで来ようとしていた。だがそのとき、大きな影が落ちて足取りが止まった。

 包囲の最も外周で成り行きを静観していたグラド軍の飛竜部隊。それを率いる将たるヴァルターが空を駆け、悠々とエイリークの前に立ちふさがっていた。

 

「つれないではないか。私に見向きもせず、戦場から逃げ出そうとはな?」

「新手、ですか……。くっ……」

「……? そうか。私のことは覚えていないようだな」

「どこかで会ったことが? ですが、今は話している時間などありません」

「そう言うな。私はグラド帝国将軍【月長石】のヴァルター、お前を屈服させ、支配する男だ」

 

 将軍という肩書に加えて異常な宣言を聞かされたエイリークは警戒を強める。ヴァルターの昏い瞳の奥に満ちた狂気が、それをただの脅迫ではないと裏付けているようだった。

 

「っ……。退いてください。そうでなければ――」

 

 一縷の望みをかけて説得を試みたエイリークの言葉をヴァルターの槍がブンと唸って遮る。完全な不意打ちだったが、エイリークは青緑の長髪を数本散らすだけで華麗に躱してみせた。

 

「私を殺すとでも? 面白いではないか」

 

 初撃を躱されても鷹揚に嗤うヴァルター。その態度にエイリークは不気味さを感じつつも、そのひと振りの身のこなし、自分の回避を追う目線の動きから十分に勝てる相手だと直感した。兄エフラムの槍捌きに比べれば力任せで隙も大きい。

 

「――あなたを倒し、ここから逃げ切ります!」

 

 エイリークはレイピアを強く握って突進する。鋭い切っ先を鎧の隙間から届かせ、膂力では敵わない相手を倒し続けてきた技。反撃を警戒して様子見の攻撃ではあったが、ヴァルターの鎧をすり抜け、浅く傷を負わせた。

 予想よりも鈍い反応に勝てると、このまま突破口を開けると確信する。だが、ワイバーンを操りすっと浮上したヴァルターが指示し、部下のドラゴンナイトたちが仲間を襲撃し始めると様相は一変した。

 

「空に逃げるなんて……。くっ……、皆さんを守らねば!」

 

 僅かな時間とはいえヴァルターの足止めにより包囲はまた厚みを取り戻そうとしていた。将軍の到来によりグラド兵の士気も上がる。さらには砂に足を取られない飛竜部隊からの容赦ない攻撃。

 倒れていく仲間たちが目に見えて増え、絶望感の増した戦況がエイリークの心身を消耗させていく。ゼトが戦える状態ならばとつい思ってしまう。それでも何とか飛竜部隊を一掃してみせるが、もはや包囲を抜ける体力は残っていなかった。

 肩で息をするエイリークのもとにふたたびヴァルターがゆったりと舞い降りる。

 

「たいしたものだ。だが、お前はここまでだ?」

「こんな、卑怯な戦い方を……。恥を知りなさい!」

 

 無駄に体力を消耗するだけだとわかりながらもエイリークは叫ばずにはいられなかった。

 睨み上げる先でヴァルターが鼻で嗤いワイバーンを駆る。疲労から突進してくる姿がぶれて見え、槍の動きも見切れない。とっさに受け流そうとするも衝撃を逃しきれず、レイピアごと腕を弾かれた。

 無理に反撃へ転じようとしたところで砂に足を取られると、態勢を立て直す瞬発力がもうなかった。

 灼けた砂へと這いつくばったエイリークにヴァルターが悠々と槍を向けた。

 

 ◇◇◇

 

 戦局はすぐに一方的なものとなった。

 戦力、指揮官、旗印。多くの役割を担っていたエイリークの喪失による当然の帰結。

 主を取り戻そうと抗う者、絶望し投降する者、自失し逃げ惑う者。誰もが物言わぬ肉の塊へと成り下がっていくのをエイリークはヴァルターに連れられワイバーンの背中で見せつけられていた。

 

「なぜ……。なぜ、これほど酷いことが……」

 

 上空まで舞い上がる血の匂いにエイリークは身体を打ち震わせながら戦場を凝視し続けた。

 必要以上の殺戮を行うグラド軍への怒り、それを指揮するヴァルターへの憎しみ。それ以上に大きな至らぬ自分自身への憤り。

 敗北が導く結果をルネス城の陥落で知っていたはずだった。骨身に染みたはずだった。

 

「血煙の舞う戦場はやはりいい。お前に敗北を刻んだ後ともなれば、なおさら格別だ」

 

 嘲られエイリークは唇を噛む。

 積み重ねてきた勝利にどこかで選択を誤っていたのだろう。そうでなければ、こんな男に敗北するはずがないと後悔は絶えなかった。そして、こんなときいつも助けてくれた兄エフラムの来援を願わずにはいられなかった。

 切なる願いは、半分だけ叶うことになる。

 

「ほう、あれは……。来たか、エフラム」

 

 喧騒が止み血に染まった大地が夕日を浴びて赤みを増したころ、グラド帝都の方面から新たな一団が姿を現す。エイリークとヴァルターからは遠く、豆粒のような大きさでしか視認できなかったが、軍旗を見ればその中心にいるのがエフラムなことは疑いようがなかった。

 

「兄上! あぁ、来てくれたのですね……。ですが、ですが……。遅すぎです、兄上……」

 

 跳ねた声が尻すぼみに力を失う。すでにグラド軍すら撤収を始めた砂漠には死体が転がるのみ。

 

「期待外れだな。愛しい妹の危機に間に合わないとは」

「違います! 私が、私が情けないだけで、兄上が悪いわけではありません」

「そうか……。そのわりには、ずいぶんと残念そうだが」

「っ……」

 

 僅かにでもエフラムに失望していること、それをヴァルターに看破されたこと。エイリークは自身への不甲斐なさに奥歯を噛みしめるしかなかった。

 眼下ではエフラムたちの部隊が偵察を始めるが、やがて状況を悟ったのか隊列をまとめて撤退し始めた。

 

「退いていくぞ。兄にも見捨てられたか、エイリークよ?」

「違います。兄上は、私に気付かなかっただけです。それに……私は……」

 

 一瞬だけ、エイリークははるか遠くから誰かの目線を感じる。それがエフラムから向けられたものではないかと、淡く期待してしまうことにすら自己嫌悪を抱き、軍旗が引いていくのを唇を噛んで見送るしかできなかった。

 この状況を作ってしまった自分だけが生き残った今、声が届くはずがなくとも助けを叫ぶことすらできるわけがない。

 遺されたのは喪失感と失望だけだった。

 

 ◇◇◇

 

 月が夜を青白い光で包み、空には満天の星が輝く。

 オアシスの穏やかな水面が鏡のようにそれらを映す光景は囚われの身となったエイリークでも素直に美しいと感じられた。

 

「私をどうするつもりですか?」

「知らぬわけではあるまい。戦場で負けた女がどうなるか」

「『屈服させ、支配する』……。私を辱めるつもりですか」

「よく覚えているではないか。ルネスで会ったことも思い出したか? 騎士に抱えられ城から無様に逃げ出したときのことを」

「あのときの……! あのせいでゼトは……。あなたが、あなたのせいでっ……!」

 

 戦いの日々で埋もれていた記憶が鮮明に蘇る。

 陥落しつつある城から逃げ出すことしかできなかった。逃げる途中で飛竜にのった敵兵に襲われ、自分を庇ってゼトが二度と剣を振るえないほど深い傷を負ってしまった。逃げたあとすぐに父王が殺されてしまった。

 どれもこれも悲痛な出来事だった。

 

「あなたのような、人にっ……!」

「思い出したようだな?」

 

 昼間の戦いはもちろん、今日に至るまでの戦いの日々を考えれば、ルネスが陥落して戦いの日が始まったその日から害され続けてきたともいえる。

 仇敵ともいえる相手を目の前にしてエイリークは戦う術を持たなかった。仲間も武器も奪われては、体格差のあるヴァルターと勝負にすらならない。逃げようにも、どこまで退いたかもわからない兄の陣まで逃げ切れる可能性となると絶望的だった。

 

「許しません。あなたは、絶対に……。ヴァルター!」

 

 怨嗟を込めた言葉を吐き、どれだけ辱めを受けても耐え抜くと決意を固める。それができる唯一の抵抗だと信じて。

 

「怒る顔もまたそそるではないか。昼間の戦いで見せた気迫に満ちた表情もな? お前は戦場に映える。私のもとへ辿り着くまでの戦い、どれも見事だった」

 

 言葉から滲む執着心にエイリークは背筋に冷たいものを感じる。

 

「ただの王女ではない。お前こそが私の獲物にふさわしい」

 

 自分の何がヴァルターをそれほどまでに駆り立てるのかわからなかった。異常な妄執に戦場では感じたことのない恐ろしさを感じ、何かを言い返すこともできない。

 

「あのとき見逃した甲斐もあったというものだな?」

 

 ヴァルターが愉悦に口元を歪め、舌先をちろりと覗かせる。そして両手でエイリークの襟元を掴み、引き寄せながら力任せに左右に引きちぎった。

 

「なっ……! あぁっ!」

 

 戦闘で痛んでいた上着はあっさりと布切れになり、はらりと砂の上へ舞い落ちる。

 胸元を覆う純白の下着が露わになっていた。飾り気のないデザインをエイリークは気に入っていたが、それがヴァルターの視線で汚されたように感じる。そして、自信のない身体つきが月明りで浮き彫りになることに僅かな恥じらいを覚えていた。

 

「想像以上に美しい。あれだけの戦いを経て傷一つないとはな」

 

 その言葉にエイリークの心はさざ波を立てる。誉められているとはいえ、その根源が下卑た欲望であれば嬉しいはずもない。こんな男に敗れたのかと屈辱感が膨れ上がるばかりだった。

 

「あなたに言われても、ただ不快なだけです」

「いい気概だ。逃げるしかできなかった小娘が、いまや随分と王族らしくなったではないか」

 

 ヴァルターが感嘆の声を漏らしながらも、エイリークの胸元を守っていた薄布に手をかける。

 軽く押し付けながらずり上げられ、エイリークは僅かに顔を顰めた。持ち上がった乳房が限界を超えると一気に零れ落ちて跳ねあがり、弾みながらやがて整った形へ戻る。

 年頃になってからには誰にも晒したことのない、淡い色の乳首が星空を仰いでいた。動物に見られるようなものだと己に言い聞かせようとするが、さすがに動揺を隠しきれず頬が染まる。

 それでも敢えて背筋を伸ばし胸を張って見せると、ヴァルターが手袋をはめたまま乳房を下から掬い上げて鷲掴みにした。

 

「ん……く……。信じられません。要職に就きながらこのような、下卑たことを……」

 

 乱暴な手つきに痛みを感じながらもエイリークは悲鳴を噛み殺して耐える。一方でヴァルターの手つきはいかにも楽し気で、乳房を捻って歪めたり、乳首を指先であやすように弄りまわしていた。

 乳房への扱いが乳首への優しく繊細な指使いを際立たせ、くすぐったいような違和感が乳首に少しずつ積み重なっていった。やがて、なにかが弾けそうになる。

 思わずヴァルターの腕を掴んでしまうが力で敵うはずもない。変わらぬ様子でヴァルターの指が踊ると、ますます堪えがたくなっていった。

 

「欲情しはじめたのだろう? 哀れに鳴いても構わんのだぞ」

「あなたの力任せな手つきが痛いだけです。欲情など、ありえません」

「その態度がいつまで持つか……。戦い続け私のもとへと辿りついた強さを期待しようではないか」

 

 エイリークは揺らがぬ瞳でなおもヴァルターを射抜くが、身体の変化は明らかだった。

 乳房に浮かびはじめた玉のような汗をヴァルターが地肌に馴染ませていく。革手袋と擦れる甲高い音が響き、指先で乳輪を掠めてから先端をあやすと、淡かった蕾が花開く直前のように色付いた。

 戦場では敵の動きを鋭敏に感じ取っていた肌が、認めがたい刺激に狂わされていく。逆境を切り抜けてきた適応力が、苦痛を曖昧にしていく。エイリークはそれを認めたくなくて唇を噛んだ。

 

「本能に従え。快楽を……狂おしいばかりの悦びを感じているのだろう?」

「快楽……。そのようなものっ……。不快だと、言ったはずです。こんなこと、なんでもありません」

「抵抗するな。気高い王女から、女へと堕ちたことを認めたらどうだ」

「っ、どれだけ侮辱すれば……。私は……皆のためにも、毅然としなければ……」

 

 空虚だと自覚しながらヴァルターに反論し、己にあるべき姿を諭す。ヴァルターが顔を歪ませて喜色を表しているが、もはやそれを気にする余裕すらなかった。

 吐き出す息は熱気を帯び、強めの愛撫を受けるたびにふら付いて砂の軋む音が鳴る。ときおり口を開きかけては、顎を引いて溢れそうになる声を飲み込んでいた。

 

「頃合いだな。お前の雌が目覚めているか、様子見してやろう」

 

 ヴァルターの手が胸から離れると、布の裂ける音が響いた。

 スカートが端切れとなって宙を舞う。それらが地に落ちるよりも早く、純白の守りをすり抜けてヴァルターの指先が割れ目へ沈んだ。

 

「あ……ぅ……!」

「匂うな。女に目覚めようとしている甘く酸い匂い……。それに……」

 

 ヴァルターが入り口へ指を食い込ませると水音が鳴る。エイリークは不快感から逃れようと身体をよじるも、もう一方の手で腰を掴まれ抱き寄せられてしまった。

 

「ここが何のためにあるか、教えてやろう? 私に媚びへつらい慈悲を乞うためだ」

「っ……。その、思い上がり……必ず後悔、させます……」

 

 食い込んだ指に膣内を掻き乱されエイリークは途切れ途切れ、喘ぐようにしか言葉を紡げない。

 ヴァルターを上目遣いで睨むが、後悔させてみろと言わんばかりにヴァルターの指がぬちょりと水音をたてる。止むどころか、より深く入り込んでくる始末だった。

 無機質で温度のない手袋の感触に身体の火照りを自覚し、鎮まれと幾度も念じるが、効果などあるはずがなかった。

 

「指に喰らいつきはじめたな。いい反応だ」

 

 嘲りとともにヴァルターに深いところを抉られ情けなく腰がヒクついてしまう。咄嗟にヴァルターを押しのけようとするが、体格差以上にもう腕には力が入らなかった。

 ただ無力さを改めて突き付けられ、打ちひしがれながらヴァルターに縋りつくような姿のまま弄ばれてしまう。溢れそうになる喘ぎを抑え込むだけで精いっぱいの状態だった。

 

「くく……。指では物足りなさそうだ。だが安心しろ、お前が求めるものを私は持っている」

「っ……!」

 

 膣内から指が抜けていく感覚。その意味、次になにが入ってくるかは初心なエイリークにも察しがついた。ヴァルターの胸板に爪を立てるが、その程度で何かが変わるはずもなかった。

 秘所の守りを脱がされ、片足が大きく持ち上げられる。バランスを崩してよろめき近くの木に手を突くと、無防備に背を見せ尻を突き出した姿勢になってしまった。

 陰唇へ滾った熱塊が押し付けられるともう身動きはとれなかった。恐る恐る振り向くが姿勢のせいでよく見えない。それが余計にこれから起こることへの恐怖を煽り、頬を引きつらせた。

 

「これだけは言っておきます。どれだけ辱めを受けても……。私は……あなたに屈しません」

「それは愉しみだ。歯ごたえのある獲物ほど食いがいがあるな?」

「っ! あなたは、いずれ卑劣さを恥じ、悔やむことになります」

 

 エイリークは啖呵を切った想いとは裏腹に掠れた声に己の弱さを痛感してしまう。

 めり込んで来る先端の大きさ、汗が染みついた歴戦の鎧のような独特の濃い匂い、伝わってくる火傷しそうなほどの熱。何もかもをおぞましく感じながらもヴァルターを必死に睨みつけていた。

 

「よく覚えておけ、エイリーク。お前が私の女になる瞬間だ?」

 

 愉し気な声がして頭を掴まれるとエイリークは歯を食いしばり、絶望の瞬間に備える。やがてヴァルターが体重を乗せてくる感覚がし、侵食が始まった。

 ゆっくりと、誰が奪ったのかをわからせるように。醜悪さが凝縮された動きで熱杭が打ち込まれていく。

 

「ぐっ……ぅ……」

 

 エイリークは瞼を固く閉じ、悲鳴を飲み込み、苦痛を必死に抑え込もうとする。それでも木についた拳が硬く握り込まれて戦慄き、葉がエイリークの心を映すようにざわめいた。

 

「苦しみか、痛みか、屈辱か……。私を感じるだろう。だが、まだ全てではない」

 

 エイリークは耳を疑った。今でも身体が内側から食い破られるような圧迫感だというのに。

 下腹部に力を入れ押し返そうとするが、肉壁をかき分け押しのけられる辛さが増すだけだった。身体が内側から歪められ、内臓が押し上げられ嗚咽が込み上げる。

 ふいに視界が滲みエイリークは自分が涙していることに気付く。せめて零れるのは堪えようとしていると、臀部にヴァルターの体温を感じた。最後に尻肉が潰れる感触がし、一段と深くまで届くとヴァルターの動きが止まる。

 

「まだ固いが、それも今だけの味わいと思えば悪くない。お前はどうだ、エイリークよ。私の女になった気分は?」

「っ……。あなたのものになど、なっていません」

「純潔を失い、ここまで深々と私に穿たれても違うと?」

「当然、です。このようなこと……ただ、槍で突かれたとしか、思えません」

 

 強がって見せるが、白刃で刻まれる冷たい痛みと同じはずがなかった。

 燃え広がるような痛み、ねじ込まれた異物の息が詰まるほどの圧迫感、脈動し絶えずまき散らされる存在感。抱いていたはじめてへの幻想を打ち砕かれ、エイリークは自分の心が軋む音を耳にした。

 

「では私は存分に味わうとしよう。強く、美しく、若い。お前のような女を喰らう愉しみは……殺しでは得られないからな」

「くっ……。このような人に……」

 

 ヴァルター以外であれば誰に奪われても良かったとすら思えた。

 その恥辱を糧にエイリークは己を奮い立たせ、好きにさせまいと腹に力を込めて異物を押し返そうとする。だが、そんな動きそのものがヴァルターを刺激したのだろう。逆らわずに僅かに引いたと思うと己の槍でかき混ぜるように螺旋を描いた。まるで鞘との相性を見定めるように、ねっとりした動きの末に元の位置へと戻っていく。

 

「ひぅっ……!」

 

 エイリークは悲鳴を漏らし、目を白黒させる。

 最初こそ苦しいだけだったが、認めたくない何かが混じり、存在感を強めていくのを確かに感じ取ってしまっていた。敏感な身体が感情を置き去りにしようとしている。

 

「そうか、エイリーク。ただ挿入れられただけでは不満だったわけだ?」

「そんなこと……。違います。急に動かれて……そう、気持ち悪かっただけです!」

「気持ち悪いか……。酷い言われようだ?」

 

 ヴァルターの白々しい態度が、一瞬だけ自分の姿と重なって見えた。

 否定しようとして湧き上がる後ろめたさ。そこへヴァルターが割り込んできた。

 

「どれ、少しはましな思いをさせてやろう」

 

 言い終える前にヴァルターが動き始めていた。

 背骨の側を引っ掻きながら引いていき、ヘソの側を擦りながら這い昇る。小気味のいいリズムが脳髄まで沁みわたり、粘ついた液体が溢れ出して滑りを援け、やがて太ももを滴っていく。はっきり感じる張った先端はまるで逆差のようで、認めたくない何かを奥から引きずり出そうとしてきていた。

 

「戦場での勇ましい姿が形無しだな。どうした。抵抗もここまでか?」

「く……ぁ……。こんなもの……皆の受けた苦しみに比べれば……。欲望のまま……他人を踏みにじるあなたになど……」

 

 まだ終われないとエイリークは仲間のことを思い起こす。

 これ以上無様を晒すわけにはいかないと、口腔に鉄の味が広がるほどに歯を食いしばった。

 

「散っていった皆のためにも、私は負けません……!」

「お前を頼り、守られ、役にも立たず死んでいった連中のためにか?」

「そのような言い方……! それに、あなたがどれだけ私たちを知っているというのです」

「見ていたとも。どの戦場でも、お前の戦いぶりだけが目を惹いた」

「な……、まさか他の戦いも見ていたのですか……」

 

 エイリークは表情を引きつらせた。湧き上がった気持ちが揺らぐ。

 苦しい戦いぶりを知られていたということ以上に、ヴァルターの異常性に戦慄する。自分を見るだけのために他所の戦場へわざわざ足を運ぶ、労力を厭わない執着心に。

 

「必死に剣を振るうお前は美しかったぞ?」

「私は頑張らなければいけないんです。私が王族、だから……。責任があるから……」

「だが、もうお前は独りだ。見栄をはる必要もあるまい? お前は負けたのだ」

 

 狂気に満ちた男は感じたままを口にしただけなのだろう。しかし、その打算を感じさせない言葉ゆえに核心を突かれた気がし、背筋に冷たいものが走った。

 兄エフラムを含めた気心の知れた仲間たちとは別れ、使者として旅立ったエイリークに戦場で背中を預けられる相手はいなかった。責任の重さと孤独に眠れない夜を過ごしたあの日も見られ、苦悩を見抜かれているのではないかと勘繰ってしまう。

 

「それは関係ありません。私は負けては……いけない……。ひとりでも、戦い続けなければ……」

「別の生き方も悪くないと、この私が教えてやろう」

 

 会話の最中も続いていたねっとりした腰使いが止む。風も凪ぎ、互いの鼓動だけが響く。

 息を潜め獲物へ忍び寄る猛獣のようだとエイリークは感じた。その狩りが終末を迎えようとしている予感に唾を飲み込むと、ヴァルターが囁く。

 

「――だが、お前が這いつくばって私に憐みを乞うなら、これで終わりにしてやってもかまわんぞ?」

 

 ヴァルターにその気が微塵もないことをエイリークは理解していた。それでも従って楽になりたいと、もう嫌だと惨めでもいいから泣きわめきたいと思わずにはいられない。

 それでも感情が交錯したのは一瞬だけだった。正義感を貫き、想いを言葉にする。

 

「好きに、しなさい。己の浅ましさに気付けるならば、どうすべきか明らかです」

「……。く……くくっ……。そうか。ならば……存分にやらせて貰おうではないか!」

 

 歯をむき出しにした咆哮が耳に響き、足が力強く握り直される。一段と存在感を増した怒張がゆっくりと引いていき、背骨に沿って先触れの刺激が這い上がってくる。

 それでも、今までより少し激しく、乱暴にされる程度だと侮っていたエイリークはヴァルターの本気を思い知らされることになった。

 最初の一撃が重く響くと息が詰まる。遅れて腹の底からこみ上げる悲鳴が漏れたときには、ヴァルターが腰を引いている。次撃で視界が揺れ、恐怖が湧き上がった。

 獰猛な吐息が耳朶を打つだけではない。鋭くも重いヴァルターの穂先が、捻りを加えて子宮を抉ってくる。苦しさに勝る甘い刺激が広がっていき、湿った喘ぎ声が止まらなくなっていた。

 昼間とは比較にならない巧みな槍捌きが唸り、身体だけでなく心まで薙ぎ払う狂乱に止む気配がない。

 

「んっ……ああっ! 響くぅ……!」

「快楽の味わいはどうだ? もはや抵抗もできまい」

「ちが……う……。私は、負けるわけには……。快楽なんて……。感じる、わけには……」

「ならば今、お前が感じているものはなんだ?」

 

 問われてエイリークは言葉を返せない。答えられないのではなく、答えたくなかった。

 認めたら全てを投げ出してしまいたくなる。抱える使命のためにも、認めるわけにはいかなかった。木の幹を掻き、指に感じる痛みでぎりぎり意識を踏み止まらせる。

 

「絶対に……あなたの思い通りに……なりません」

「活きのいい獲物には褒美を与えなくてはな? 悦べ、私の種を注いでやろう」

 

 種が何を指すのか今のエイリークは理解していた。性行為の行きつく自然な帰結。それでも、そこまではしないだろう、しないで欲しいという甘い考えを捨てきれないでいた。耐えていればヴァルターが満足し、終わりが訪れてくれるのではないかと。

 ヴァルターから漂いはじめる汗とは違った雄々しさに満ちた匂いにエイリークは震えあがった。

 

「っ! まさか……。や、やめてください! それだけは! それだけは……。できてしまったら――」

「――お前の戦いは終わりだ。くくっ……無様に孕むがいい」

 

 女としての全てが奪われようとしている現実を目の前にして、エイリークは目のふちに留めおいていた涙をついに頬へ溢れさせた。

 民を憂い、仲間を想い、己を殺し、王女として気を張り戦い続けるのは限界だった。柔らかな内側を剥き出しにされたエイリークの口からついに嗚咽と懇願が紡がれる。

 

「お願いです。もう存分に私を辱めたはずです……。これ以上は、許してください……」

「そそるではないか。だがまだ足りん。私への媚び方はもう少し学ぶ必要がありそうだ?」

「うくっ……。いや……だめぇ……。頭が痺れ……てぇ……。こんな、こと、で……!」

 

 性欲に駆られた醜い獣のような男に、正面から戦えばまず負けないだろう男に。

 悔しくて、情けなくて仕方がない。それにも関わらずどうすることもできず、何かを言い返す余裕もすでになくなっていた。

 痛みも、異物感も消え失せている。ただ甘い痺れが全身を駆け巡る。もう四肢には力が入らないのに、下腹部だけは活力に満ちていた。

 

「んんっ! んっ、んふっ……。あっ……んっ……あぁっ!」

「いいぞエイリーク! 欲望のまま、快楽に溺れるがいい。そして……私に喰われろ?」

 

 鼻から抜ける甘い喘ぎどころか、大口を開けて喘いでしまう。

 ヴァルターが最奥を抉り肉と肉がぶつかり合う音が耳に響き、よりケダモノじみていくほどにエイリークは湧き上がってくる何かを抑え込めなくなっていく。

 濃い愛液が激しい水音を立てて泡立ち、戦いのために鍛えた足腰がヴァルターを悦ばせるだけの存在へと堕ちていくのを受け入れるしかなかった。

 無力感に打ちひしがれ、仲間への想いを揺るがされ、それでも耐え続けるエイリークはやがて、ヴァルターから絶望的な言葉を投げつけられる。

 

「必死に堪えた末の絶頂は別格だぞ。心して味わうがいい」

 

 耳元で響くヴァルターの熱い吐息、痛いほど強く掴まれた足、鼻孔を突く濃い雄臭。

 手に入れた獲物を絶対に逃がしはしない、遊びの欠片すら感じさせないヴァルターの本気に心まで縛り上げられているような錯覚すら覚える。

 もう駄目だと、ついに認めてしまったエイリークは自然と兄エフラムの顔を思い浮かべた。敢えて思い出さないようにしていた頼もしい姿を。

 『助けて』と胸の奥で通じるはずのない叫びをあげたそのとき、ヴァルターがヘソの裏を貫いた。

 いちばん敏感で、すべてを委ねたくなるような刺激が味わえてしまう危険な場所。僅かな間にそこまで見抜かれていたのだと悟り、心臓がドクンと跳ねた。

 エフラムの姿が掻き消える。エイリークはもう抗う術を持ち合わせていなかった。

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 肺の中にある空気を全て吐き出す絶望の叫びが夜空にこだました。

 それにも関わらず野生の衝動のままヴァルターの剛槍を深々と受け入れている。

 嫌悪の象徴であるはずの種を身体が欲しがってしまっている。

 根元から先端へ絞り上げるような蠕動の末、ついにヴァルターも爆ぜた。

 

「く……出す、ぞ」

 

 どくんと脈打つと、その勢い、熱さ、濃さにエイリークは圧倒された。

 身体の内側が埋め尽くされ、その勢いのまま全身が飲み込まれるようにすら感じた。

 二度目の脈動で深奥に火を植え付けられるのをエイリークは感じた。

 自分と言う存在がヴァルターに侵されている実感が熱波となって全身へと広がっていった。

 エイリークはひととき意識を刈り取られ、また身体を大きく跳ねさせた。

 

「いい締まりだ。見込み通り、お前のここは貪欲だ」

 

 ヴァルターの嘲りはエイリークに届かない。

 絶頂の余韻、膣内に注がれた絶望、刻み込まれた屈辱。それらが入り混じった中でエイリークは焦点の定まらない視線をきらめく星空に向けていた。

 火照った身体に冷たい砂漠の夜風が沁み、敗北したことをエイリークはあらためて意識する。

 

「私は……負けたのですね……」

 

 ヴァルターにも届かないほど小さくエイリークが呟く。そこには清々しさが混じっていた。

 エイリークにとって下腹部に感じる熱は指揮官として敗れ、女として敗れ、いままで大事にしていたものを踏みにじられた象徴だった。亡国の王女として重責を担い、負けられない日々を続けていたエイリークにとって敗北した事実はとても大きかった。

 たとえ今なお責務を放棄する気持ちが微塵もなくとも、無意識の変化が生じるほどに。

 

「ヴァルター。あなたは……」

 

 エイリークは言いかけるが、ヴァルターの勝ち誇った顔を見て口を噤む。

 いつから自分を意識していたのか、特別扱いしていたのか気になるが聞けない。答えを聞いて、それをどう受け止めるつもりなのか考えるのが怖かった。

 その小さく芽生えつつある感情の正体を探ろうとしたとき、またヴァルターが動き出した。

 

「やはり一度ではまるで足りんな。お前もそうだろう? 安心しろ、夜はまだ長い」

 


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