何気ない日常1
転生の日から数日、私は表立って何かをすることなく両親と何気ない日々を過ごしていた。
「淫子、コレを持って行ってちょうだい」
「はーいママ」
私にパンケーキの乗ったお皿を手渡したのが〝東雲紗妃しののめさき〟私の母親になる。男性にも引けを取らない高身長に形の良い美乳とスラッと伸びる腰のライン、出産を経験してよりむっちりと膨らんだ尻が生み出すプロポーションは、高身長と合わさり完璧な曲線美を描いている。
それに加えてつり目の冷たい表情と自他共に厳しい性格は、母を冷徹に印象付けてしまっているらしかった。らしいというのはあくまでも父の談であって、私がその様子を直接見たわけではないからだ。ただ母もこのことは昔から自覚しているらしく、自分のつり目が他人には不機嫌に見えたり、怖い印象を与えることからコンプレックスに感じているようだったが、家ではその片鱗すら見せない。
鼻歌交じりに熱したフライパンへパンケーキの生地を入れる母の横顔からは、それを窺い知ることは出来ない。
「ん? なーにじっと見て」
「ママが綺麗だなって!」
「そう? なら淫子は私の娘だからもっと綺麗になるわよ」
「そうだといいなぁ」
そう言って私の頭を撫でながら目を細める表情は、噂に聞く冷たさなどどこにもなく、私には慈愛という言葉が相応しいと思える。見た目で損をしているだけで、母の性格は冷徹などではなく、その本質は博愛でふとした拍子に勝ち気を見せるギャップがある可愛い性格なのだ。
「それじゃこれはパパの所に持って行って」
「はーい!」
そんな母がつり目を隠すための伊達眼鏡を掛けずに家で素をさらけ出せているのは、やはり父の存在によるところが大きい。
「はいこれ、パパのパンケーキ」
「おいしそうだ。それじゃそろそろ飲み物を用意しよう」
「じゃあ私コップ用意するね!」
「いつもの三つお願いね」
席を立って飲み物を用意し始めたのが私の父、〝東雲直人しののめなおひと〟。眼鏡から覗く目尻の下がった瞳と常に浮かべる優し気な笑みが、父の朗らかな雰囲気を作っている。その見た目通り父の性格は柔和そのもの。母の時折みせるアグレッシブな一面をとは反対に、父はより大きく包み込むような父性を感じさせる。けどそれが必ずしも女々しさを意味しているというわけではない。
のほほんとしているように見えて、父は営業課の主任としてバリバリと現場を引っ張って後輩からも慕われているそうなのだ。そこは本人の談なのでどこまで信用していいのかはさておいて。
母との馴れ初め、出会いから結婚までの経緯を聞けばとても意志薄弱な人だとは思えない。一目ぼれしてからの猛アタック、告白のプロポーズも父からという事実からもここぞといった時の決断力と意志の強さは、母からにしても眼を見張るものがあるとのこと。
そんな父の柔和な性格は、意思の強さに裏打ちされた余裕の表れにも思える。そしてそれ以上に母と同じで人に優しい。私への無償の愛がそれを証明している。
私は収納棚から白、黒、赤のマグカップを取り出して、席に戻る頃には朝食の準備が終えている。
焼きたてのパンケーキを主食にそれぞれへ備え付けられた具材が、母の心遣いを伺わせる。
父は食べ応えを優先してスクランブルエッグにベーコンが付けられている。母のパンケーキはフルーツソースに彩られた生クリームを中心に、クラッシュナッツとベリー系の果物に彩られて甘めに仕上がっている。
そして私はシンプルにメープルシロップとバターが付けられたパンケーキだ。
そんなそれぞれの主食にコーヒー、牛乳といった各種飲み物、ミネストローネが付いたのが朝食の献立になる。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす!」
家長たる父が音頭を取り、いただきますと言って食事が始まる。
テレビの音を背景に三人は食事を始める。朝から手の込んだ食事に母への感謝を伝えながら最初の一口を頬張り、おいしいと率直な感想を伝える。嬉しそうな様子の母も一口食べて、舌鼓を打っている。そのおいしさに食器と皿を叩く音は鳴りやまず、合間に挟まれる会話も和気藹々とした雰囲気で進んでいく。
こうして家で誰かと食事を共にすることにどこか浮ついた気持ちがまだ私にはあった。
前世では、ひとり立ちしてからもう長いこと、誰かが家に居るなんてこともなかった。
家に両親がいて、他愛の無い会話に私が加わっていることが、奇妙でふわふわとした気持ちを抱かせる。そんな落ち着かない、今にも走り出したくなるような感覚は、私の中で過ぎ去って風化したはずの童心を蘇らせてくれる。
まだ私にこんな一面があったんだと気づかせてくれた。
家族という繋がりが、人と人との繋がりにおいてどれだけのしがらみを取り払っているのかを今私は痛感している。両親はただ当たり前のように子供に愛を注ぎ。子供は注がれる親愛を疑うことなく一身に受けて、無心でいることを許されている。言葉に含みなんて無くて、言葉は額面通りの愛を伝える。無償の 愛に返す幼子の無心。家族というしがらみの中、家庭という小さな世界において素の自分をさらけ出せる。そうした心の拠り所とする場所になっているということは、家族の在り方として理想といえるものなのかもしれない。
それもこれも親という存在の成せることなのか。それとも目の前の二人だからなのか。
「どうしたんだいボーっとして」
考えることに集中していたら父が声を掛けてきた。私は首を振り父の心配を取り除いて、考えていたことを心に秘めて言葉を返した。
「んーん、パンケーキ美味しいなって考えてたの」
「ママのパンケーキは絶品だからね。よく味わわなきゃ勿体ない」
「そう言うアナタはもう食べ終わっているようだけど?」
悪戯な笑みを浮かべる母の前で、その健啖家を遺憾なく発揮した父のプレートは既にパンケーキが綺麗さっぱり消え去っていた後だった。
「そ、それは、おいしくてついついかき込んじゃっただけで、ちゃんと味わって食べました!」
「ほんとかな~?」
リビングに三人分の笑い声が木霊する。
必ず家族そろっての朝食、それが今の我が家での日常になる。
「いけないもうこんな時間か」
父はそう呟いて、残っていたコーヒーを流し込み忙しなく動き始める。上着とカバンを手にしたところで、お皿を片していないことを思い出して戻ってくる父。母は笑いながら父へ準備をするように促す。申し訳なさそうに感謝を伝えて出ようとするが、そこで必要な書類を忘れたことに気が付いて部屋に戻る。見かねた母は笑いながら手伝うために席を立って、父のカバンを玄関まで持っていく。
私は皆のお皿をキッチンまで運び、汚れている皿を水に漬け込んでおく。それが終わったら私も見送るために玄関へ向かう。
向かえば丁度、父と母は見送りのキスを交わしている最中だった。
子供を産んで数年たった今でも二人は熱々だ。出勤の前には、必ず父と母はキスをしてお互いを見送っている。
「アナタ……ちゅっ……」
「紗妃さん……んっ……」
啄むようなキスで終らない。物足りないと潤む母の視線に父は応えるようにまたキスをする。今度はより長く、吸い付く水音が断続的に鳴るキス。その音に私のマンコは敏感に反応してしまう。
こっちは禁欲中なのにずるい。こんなに見せつけられたら子宮が疼いちゃう。ガチガチに勃起したチンポで、欲しい欲しいと泣く夜泣きマンコを慰めてほしいのに、私には相手がいないからそれも出来ない。
次第に父のズボンが張っていくのが見える。ズボンの張り具合から相当に大きいことが窺える。想像する大きさに生唾を飲む。今すぐ駆け寄って、いやらしく音を立ててしゃぶりたい。
それが出来る母が羨ましい。母が望めば今すぐにでも熱く勃起したチンポを突っ込んでもらえるのに。ああ……羨ましい、私もソレが欲しい、チンポが欲しくてたまらない。夫という自分だけの専用チンポが欲しい。
私に気が付いたことで二人は弾かれるように身を離す。顔を赤くしながらする咳払いじゃ誤魔化しきれてない。
「んっ、んん……ねえ淫子、いつも言っているけどお皿は洗わないであのままにしてていいのよ?」
露骨な話題の逸らし方だけど私はあえてそれに乗っかって、言葉を返す。
「んーん。学校行くまでにまだ時間あるから、それに私がママ達のお手伝いがしたいの、だめだった?」
「いや淫子は偉いよ……パパとママは本当に助かってる」
大きい、そして暖かい。身長は母よりも低くて華奢なはずなのにどうしてこうも髪を撫でる父の掌から伝わる感覚は、私の胸を暖かくしてしまうのか。
らしくないなんて、そんなことは自分で可笑しくなっちゃうくらい分かっているけれど、存外無償の愛というのは馬鹿にできそうにない。
私の根底にはセックスしかない。私を構成する全てがその上に積み重なって成り立っているように。それが私の根源であり、存在理由でもある。
寝物語の代わりに睦言を囁き合い、愛撫であやされて、愛の代わりに男たちの性欲を注ぎ込まれて育ってきたような女なのだ。
愛にまつわる概念をプレイで使用することはあっても心からそれを抱いたことは無い。今更それを求める年齢でないことも自覚している。
ただ、いざ親からの無償の愛なるものを感じると、それをなんと言えばいいのか、むず痒くて、どこか気恥ずかしくて、けれど暖かくて心地良い。自分の中に得体のしれない感情が芽生えていることに気が付く。
「わかった、でもお皿を棚に戻すのは危ないから、最後まで片付けなくていいからね?」
「うん、キッチンの横に重ねておくね」
知識としては知っていても本質としてそれを理解できていない。
この感情が何なのか分からないのは、きっと私に問題があるからだ。
人は自らが知っていることしか知らない。答えが私に出せないということは、つまりはそういうことなんだろう。
セックスで育ち満たされてきた私が、それ以外のナニカを注がれても感覚器官が備わっていない。感じる心が歪に育ってしまっているんだと思う。
そんなセックス以外はどうでもいいって思う私が、存外家族というのも悪くないと思っている。
「それじゃ淫子行ってくるわね」
「行ってきます淫子」
「気を付けていってらっしゃい! パパ、ママ!」
二人を笑顔で見送り、重々しくドアが閉まった所で私の意識は切り替わる。
無垢な少女の笑顔はもうそこにはない。童心を思い出させてくれた両親が居なくなったことで、淫らな私のもうひとつの一面が表層へと上がってくる。
「ままならないって、こういう状況のことを言うのかしら?」
確かに家族との関係も悪くないと思っている。これは私の紛れもない本心からくる言葉だ。
家族との団欒で私は自分の中にまだ知らない自分があることを知った。新しく芽生えた子供心、いや、 思い出したと言った方が正確なのかもしれない。そんな子供心に私は振り回されてしまっている。それは情動のように湧き上がってくるのだ。ただ両親とテーブルを囲みご飯を食べているだけなのに、他愛の無い会話に花を咲かせいるだけで、何気ない二人の親心を感じる度に私の心は快楽が与えてくれる幸せとは、毛色の異なる幸せを感じてしまう。気恥ずかしいようで、暖かくもあり、我慢しようもないくらいに ムズムズするのだけど、どこまでも心が安らぐような感覚。
子供心故に心地よさを感じるこの関係を良いものだと思ってしまっている。それが本心からくるからこそ、ままならない。
なぜなら淫乱な私こそ私だからだ。
過去は変えられない。それと同じくらい淫欲に満ちた私の本質も変えようがない。今が過去の地続きである以上、私は私以外の何者かに成ることはない。あるのは足し算だけ。知識や経験の積み重ねで私が新しいナニカを見出したのだとしても、本質が変わるわけじゃない。私の中のあらゆる価値観は、その本質の上で成り立っているのだから。優先するは淫欲、あらゆる事柄を性的に消費することに至上の喜びを見出し、快楽を貪る、それが私。
そんな快楽を至上と考えている私が、家族を良いものだと思ってしまっている。
自分でも信じられていない。
今までの私だったらあらゆる事柄が快楽の二の次になっているはずだった。それに則れば家族だって二の次、近くに逞しいチンポがあるのだからと近親相姦を楽しんでいたことだろう。
にも関わらず、そんな私を差し置いて、私の中の子供心は家族を優先して咎めてくる。
家族という関係を壊したくないと思う子供心の感情、これまでと何も変わらないセックスだけを至上とする感情、ふたつの相反する感情の間で私という存在は揺れ動かされて、振り回されている。
「ままならない……けど、不思議と嫌じゃないのよね」
私は見送った玄関に背を向けて、リビングへと戻っていく。
今私が何気ない日常に甘んじているのも、そうした葛藤の末に選択したからだ。けれど、決してエッチなことを捨てたわけじゃない。
もちろんそんな選択をせずとも都合よく両取りできることも私には出来た。ただそうしないことには明確な理由があった。
「はい、はい……っと。これでよし」
手を振り、力を行使すれば見えない力が皿を洗い、水を拭き取り、お皿が元あった正しい場所へと運んでくれる。
この力、これを使えばなんだってできる。今こうしてお皿を片付けているようなことだって、それこそ人の意思を捻じ曲げて、私の望む通りに人を操る事だってできる。
「でも……面白くない」
一瞬で綺麗になった様子を見て、私は雑念を振り払うようにつぶやいた。
力を使うのは楽だ。私がこの力を使えばなんだってできるっていう全能感すらある。
けれどそれじゃダメなのだ。今の一瞬でも私はそう思う。力を使えばお皿の片付けなど労力を掛けずに 一瞬で終わらすことができた。達成感もなければ、湧きあがる情動も何も無い。当たり前だ、私は何かをしたようで何もしていないのだから。ただ凪いだ海岸線のように私の心は波立たず無感動のまま。
それなのにただ家族と共にするだけで無感動な動作にも感情が揺れ動く。皿を洗うのだって、母と共に洗い褒められるだけでまったく異質のものへと変わる。
家族と思い出を共有することがあんなにも楽しいのに、ただ力を使えばそれら全てが楽のもとに消え去ってしまう。
それじゃあ面白くない。
関係性、因縁、そこから生まれるであろう感情、そして過程。手間暇と言い換えてもいい。楽をして手間暇を消して辻褄を合わせようものなら、そこに純然たる快楽はもうない。
人へ附随するあらゆる事柄は、セックスのためにある。人に対して使うということは、そこに手を加え消すことに他ならない。ひとつのジャンルを楽しみたいからと力を多用すれば、待っているのは破綻だ。近親相姦だとして、父親を七人と作り出して毎日日替わりでシたらと考えるだけで興覚めも良いところだ。
それは私が最も嫌う短絡的で、単調で、無感動な快楽にする行為だ。
その人と交わることで生まれたかもしれない純粋な快楽の芽を消し去るかもしれない。私は操り人形や物とセックスがしたいわけじゃない。それと同じくらい、私は自分で生み出した創造物でオナニーをするつもりも無い。
何にでも楽しみ方というものがあるものだ。
子供心の私はあの両親が好きなのであって、力で改変された人を好きになるわけじゃない。力を使って都合よく書き換えた存在なんて、ソレはもはや親などではない。人形だ。
人と人との交わりが最高の快楽を生む。人と人とが交わることで生まれる純粋な関係性、情動、それらを快楽として消費したい。
この力なら全てを予想の範疇に収めることだってできる。けれどそうして全てを思い通りにしようとしたって面白くない。バレないと分かり切った露出じゃ、興奮だって半減してしまうし、つまらないだろう。
力を使わない理由なんて、面白いかつまらないかで十分なのだ。
「ま、私は普通の娘なんかじゃないけどね」
あっけらかんと言い放ちながら登校の準備をする私の顔は、さぞ悪い笑顔をしていることだろう。
もしセックスに不都合なことが起こったりしたら私は迷わずこの力を使う。円満に収まらないのならその要因を消す。面白くなりそうならこの力で背中を押してあげよう。
神がそうしていたように、私もそれに習ってこの力は都合よく使わせてもらう。
そうやって私を中心に広がる淫靡な条理の世界は、徐々に広がっていって多くの人を飲み込み、誰もが犯し犯される最高に淫らな世界が形成されていく。なんて素敵なんだろう。毎日のように淫らな行為があきることなく繰り返されることに、今から胸の高鳴りが抑えきれない。
めくるめく快楽の渦の中心で私は理想の家族を演じながら、誰に憚れることもなく家族団欒の外で淫欲の限りを楽しみ尽くす。
そしていつかは——。
「パパとママと本当の意味で家族になりたいなぁ♡」
いつかそう遠くない未来を夢想しながら、今日も私は二人の娘としての務めを果たすために学校へ登校するのであった。