※この作品はR-18です。

東雲淫子の奇妙なヤり直し   作:ニートン(2)

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何気ない日常5

 あくまでも保健室を訪れるであろう理由を持った子供を装って。瞳を潤ませて、痛みに耐える声色をしながら。

 

 入って直ぐ感じたのは臭いだった。

 

 消毒液が染みついた室内からは、そこかしこから保健室特有と言える臭いを醸し出している。決していい匂いとは言えないのかもしれないけれど、私はそこまで気にするほどじゃない。

 

 綺麗に整頓された真っ白いシーツが目立つ患者用ベッドにこれまた病院でもよく見るリブレールと一緒に設置されているカーテンとのセットが部屋の隅から隅へと四つ置かれていて。その近くには訪れた生徒が座るであろうソファ、窓際に冷蔵庫、入り口近くにある簡素な棚には簡単な応急処置ができる道具一式が揃っているのを見る限り、このソファを中心に保健室を訪れた子供たちは治療を受けるのだと見て取れる。

 

 それらが部屋の半分に置かれていて、その反対側、広くスペースがとられた事務机が置かれている場所に噂のシムラ先生は腰かけて、生徒である私を快く向かい入れてくれた。

 

「いらっしゃい。どこか怪我でもしたのかの?」

 

 椅子から立ち上がり、こちらに歩み寄ってくるその人は、歳の候が良く現れた落ち着いた印象を受ける笑顔を浮かべている。こちらを覗き込む瞳や、口調からも年相応の覇気しか感じさせない、正真正銘のお爺ちゃん。

 

 噂の真相を知らなければ人畜無害な先生としか思わなかったかもしれない。私がそう思うくらい目の前のこの人の擬態は上手いとしか言いようがなかった。

 

 先日のセックスの現場で見せた苛烈さを知る人なら、本当に同じ人物なのかと目の前の人と記憶とのギャップに戸惑ってしまうに違いない。

 

 思い出すのはあの時の情景、男が女を組み敷き女から雌へと堕ちていく一連の流れ。

 

 今にも手折られそうな腰から繰り出される力強いピストンは、一度嵌ったら二度と抜け出すことは出来ない。悲鳴と拒絶は嬌声に変わり、マンコが雌の喜びを知り屈服するまで腰の動きは止まらない。それを成せるだけの体力と性欲をお爺ちゃんは持っていた。

 

 その苛烈さと唾液を吸って腰を動かし続ける姿には、まるで生気を吸って動き続ける妖怪のように見えてしまい、茂みに隠れてオナニーをしてたのに面白くて笑ってしまった。でもそんな笑いも気絶した雌から引き抜いたチンポを見た時、私の笑いは一気に引っ込んでしまった。

 

 それを成すチンポの事と言ったらもう言葉もない。張り、艶、共に良好を超え最高。カリ高で反り返った竿はこれまでのセックスの数を物語るように黒ずみ、身体とは相反して水気を含み若々しさを遺憾なく発揮している。あの逞しいチンポのことを考えるだけで、私の口内には涎がじゅくじゅくとあふれ出てきてしまう。

 

 それが今、ある。あのチンポが白衣に隠れて目の前でぶら下がっている。

 

 シムラ先生に今すぐその猛々しいチンポで犯してほしいと胸の内を明かしたら、喜んで犯してくれるのは間違いない。彼ならそうしてくれる、ここ数日の観察でそう断言できるだけの確信が私にはある。

 

だからこそ私はあえてそうはしない。

 

 確かにセックスは出来るのかもしれない。でもそれじゃ、お互いに心からシたいことが出来ない。私はセックスが出来るなら食わず嫌いなんてしないけど、少なくともシムラ先生は心から満足することは無い。だったらお互いに気持ちよく満足できる形にする方が、お互いに生き甲斐を得られるはずだから。

 

となるとどんな風に交わればお互いに楽しくなれるのか、それを私はまだ決めかねていた。

 

 まずは様子見ってことで私は胸の内を秘めたまま、涙目で先生に語り始めた。

 

「さっきそこで転んじゃって、擦り剝いちゃったの」

 

「擦り傷か。どれ、見せてみなさい」

 

 もちろん私は転んでなどいない。上着を捲り上げた所でそこに傷などないと思うかもしれないが、そこにはれっきとした擦り傷があった。

 

「おおこりゃ痛かったろうに。待っていなさい、薬を取ってくるからの」

 

 やはり保健室と言えば傷や怪我以外ない、そう考えた私は自分の体に擦り傷を作り出したというわけだ。

 

 効果は覿面、まずもって生徒という先入観は絶対に警戒心を抱かせない。ましてや相手が先生という立場にあるのなら抱く理由が無い。そこに加えて怪我人とくれば保健の先生という立場上、役職に沿った動きをするしかない。それは、シムラ先生の中で私に対する疑問を挟み込む余地が無くなったことを意味している。

 

 シムラ先生の中で私という存在は、怪我をした生徒でありそれ以上でもそれ以下でもない。先生がその本性を隠すように私にも隠された本性があるだなんて、思いもしなくなる。

 

 向こうが擬態するのなら私も擬態をする。事実を織り交ぜた擬態の膜は、そうやすやすと看破されることは無い。

 

 現にシムラ先生は傷に一切の疑問を挟むことなく、私をソファへ座る様に促してから、自分は棚の方へ歩いて薬箱を取りに行ったのだから。

 

 ひとまずはこれでいい。今更になってちょっと胸のすぐ下に痛々しい擦り傷があるのってちょっとおかしい、無理があったかな、なんて考え始めているけど。結果オーライだ。

 

「ん~ジクジクする」

 

 ひりつく痛みに表情を歪ませ、痛みが走る傷口へ視線を向ける。俯くとその痛々しい擦り傷が目に入ってくる。胸の少し下ほどに出来た擦り傷からは血が滲み、熱を持って痛みを伝えてくる。もう少し加減すればよかったとも思わなくはない。幼い身体で耐性がないからか、見ているだけでも痛みがより増してくる気すらしてくる。

 

 痛みに顔を顰めれば頬を伝って一筋の涙が零れ落ちたのが分かった。痛みなんてなくとも涙のひとつやふたつは出せるけど、こうしてリアルな反応をしていたほうが演技にも現実味が出て疑われなくなるというもの。痛い事には目を瞑って、図らずも良い結果に繋がったと思っておこう。

 

 棚から薬箱を手にして戻ってきたシムラ先生は、さっそく私の傷口を消毒し始めた。

 

「ちょいと染みるが我慢するんじゃぞ?」

 

 私が何かを言う前にシムラ先生は消毒液がしみ込んだ綿を押し付けてくる。熱を持った場所に冷たい綿が押し付けられると何かの反応が起きたかのように痛みが増すが、今度の痛みは我慢できない程じゃなかった。

 

 それでもあえて、私は突然走った痛みにこらえきれず変な声を出してしまった、という演技をする。ここで痛みに無反応でまじまじと観察なんてしていたらせっかくの擬態が意味を無くしてしまう。

 

「ひぅっ、染みます先生……」

 

「おおすまんのぉ、じゃがここでちゃんとやっておかんと病気になるからの」

 

「そんなこと言われても、先生強くて……あうっ!」

 

 先生と会話をやり取りしつつ私は注意深く先生の観察を続けていく。擬態の内側から覗く私の眼が、シムラ先生の一挙手一投足、そしてシムラ先生が私のどこをどんな風に見ているのかを手に取る様に捉える。

 

 上着を捲り乳房を露出してはいるが、やはりというべきか先生はこの身体の女に反応を示してくれていない。

 

 それならと、私はシムラ先生のピンセットで掴む綿が乳房の近くに触れた時、痛みで呻くのではなく嬌声を発してみた。

 

「——あっ♡」

 

「…………」

 

 喘ぎ声を聞いた先生の変化は表面上無い様に見える。浮かべる笑顔はそのままで黙々と消毒をしているけれど、消毒をしている手付きは変わり始めていた。

 

 さっきまで傷口を的確に消毒していたのに綿が触れる場所はいつしか傷口から逸れて、より上にある乳房へ触れ始める。まるでそこにも傷があったと言わんばかりに傷口を消毒しては、もう一か所とさりげなく撫でていく。

 

 非常に心苦しい話なのだが、湿った綿が乳房に触れても私は気持ちよくはならない。毎日弄り倒しているとはいえ、まだ私のおっぱいは未開発。どんな愛撫でも気持ちよくなるというわけではない。

 

 ただシムラ先生は私の様子から何かを感じ取ったのか、何かを探る様に綿での愛撫を続けていく。まだ本番じゃないから頑張らなくてもいいのに、と思う杞憂も先生が私の性感帯を探し当てたことで消え去ってしまった。

 

「ふぅ、つぅっ……あっ♡」

 

 私の確かな変化を感じ取ったのだろう。演技ではない呻き声に混じって出た喘ぎ声をシムラ先生は聞き逃さなかった。その手は消毒をしている体を装いながら、私が喘いだ個所を重点的に攻め始める。

 

 傷口を少し触ったら、それよりも長い時間シムラ先生の手は執拗に、私の胸を愛撫する。痛みでひりつく神経が感覚を鋭敏にしているようで、綿の触れる感覚がより骨身に染みて感じてしまう。

 

 痛みで呻き、快楽で喘ぐ。そんな私の様子を眺めるシムラ先生は、あの穏やかな印象から、その視線をじっとりと好色家の片鱗を窺わせる目つきへと変えていた。

 

 悶えて何も言わない私の反応をいいことにシムラ先生の手つきはより大胆になっていく。傷口を消毒しながら乳房を少し撫でるだけだった動きが、上へ上へと伸びていき。やがて傷口からは完全に逸れて乳輪を撫でまわすように綿を動かすようになった。

 

「あっ……んぅ♡」

 

 こんなに露骨なことをされたら我慢してる私がバカバカしく思えてきちゃうじゃない。口から吐く息に熱が籠り始める。せっかく我慢しようと思っていたのにシムラ先生の愛撫が私の理性を削り取っていく。恐るべき直感というべきなのか、シムラ先生も完全に理解はしていないのだろう。それでもセックスを通じたこれまでの経験が、このままスれば自分の望む展開になるとある程度分かってやっている節すら感じる。

 

 こんなにも熱烈なお誘いを受けているのに応えられないなんて、申し訳なさで胸が一杯になる。

 

 このままなし崩し的にセックスにもつれ込んでもいいのだけれど、それじゃここまで我慢した意味が無くなっちゃう。空腹が最高のスパイスなように、性欲にとって我慢という抑圧は時に最高の快楽をもたらしてくれる。だからここは我慢するべき、強く自分を持って擬態してる役を演じ切らなければいけない。

 

「そういえばあまり保健室には来ない子じゃの。名前は……なんていうんじゃ?」

 

「東雲淫子、でっ……す♡」

 

「しののめ……しののめいんこ……うんうん、良い名前じゃ。将来はえらいべっぴんさんになるじゃろうな」

 

「なまえ、はぁ♡ だけで、はぁ♡ わ、わかるの?」

 

「名前だけじゃないぞ。伊達に長生きはしとらんからのう、儂が見てビビッと感じた女はみーんなべっぴんさんじゃった。お前さんからも美人になる感じがビビビッと来てるから、絶対に美人になる、儂が保証する」

 

「よくわからない、けど♡ んっ♡ んあ、ありがとうせん、せいっ♡」

 

 理解力の乏しいふりをする私の様子に対して、シムラ先生は満足そうに頷いている。セクハラをしても何も言わない。むしろそれをセクハラだと認識していない節すらある、そう思っているのだろう。警戒心が薄れて、内に秘めている情欲がほんの微かに顔を出しているのがいい証拠だ。

 

 先生が私に興味を持ち始めているのは良い流れだ。けどここまでされて何も言わないのは、それはそれでどこかリアリティがない様にも思える。

 

きっかけは作った、後は向こうの出方を伺うことにする。

 

 私は作った流れを次の段階に進めるために喋り始めた。

 

「先生……♡」

 

「ん? どうかしたかのう?」

 

 急に私が喋り出したことで顔を覗かせていた情欲は奥に引っ込み、警戒心をありありと浮かべた笑顔を張り付けてしまった。

 

 分かっててシムラ先生は惚けている。その言い方はあからさまにこっちの出方を窺う問いかけだった。

 

 こっちがシムラ先生の行為に気が付いているか否か、それを確かめようとしている。もしこっちが気づいている節を少しでも見せたらシムラ先生は、どのような形であれ自分がしていたことを煙に巻いて、私に手を出すことは無くなってしまう。

 

 だんだんとシムラ先生とどんな風に関わって、どんな風に犯されることがお互いに楽しくなれるのか、その方向性が自分の中で定まってきたように感じる。私はその感覚に沿ったロールプレイをすることにした。

 

 私は一秒にも満たない時間で思考を巡らせて、それから問いかけに対して返答した。

 

「まだ終わらないの?」

 

「……いやぁすまんの、最近はめっきり目が見えなくなってきてのう。傷口からずれてしまったようじゃ」

 

 私は惚けることにした。自分が愛撫をされていたなんて知る由もなければ、痛みと快楽をより分ける知識もない、無垢で性知識の無い少女を演じ。

 

 そしてまた先生も惚けた。あくまでも傷口からそれたのは目が悪いからだと、そう言って。警戒心から肩 肘を張っていた体も自然体に戻り、擬態としての温和な先生を演じる。

 

 互いに惚け合ったことでこれまでのことは、ただの傷の消毒という形に収まっていく。

 

「先生ありがとうございました」

 

「それよりも少しいいかの?」

 

 ガーゼを張り終えたシムラ先生はそう言い残して、自分の机から筆記用具と用箋挟を持って戻ってきた。

 

「儂が初めて治療した子にはカルテをかくようにしておるんじゃが、カルテってわかるかのう? 先生が管理しやすいよう、いろいろ書いてまとめてあるものなんじゃが、少し協力してくれんか?」

 

 カルテを書いているだなんて随分突飛な嘘をつくものだと思うが、効果がないわけじゃない。シムラ先生の立場で必要だからと言われれば素直な子なら、それだけでそうなんだと納得してしまう説得力が生まれる。

 

 こちらに何かしらの不利益がない以上、断る理由はないように思える。ただ、その提案を受け入れて、その先で不利益が発生しないとは限らないが。

 

 申し訳なさそうにしながらもこちらを見つめるシムラ先生の瞳は、笑顔の裏で虎視眈々と獲物を狙う野獣の如く眼光を光らせている。

 

 警戒心が取り払われつつある今、巧妙に擬態して隠しているつもりなのだろうが、私から見れば別の意図があるのだと分かってしまう。

 

 シムラ先生が隠す意図を読み取った私は、快くその申し出を受け入れることにして、無邪気に頷いてから答えた。

 

「待っている友達もいないし、いいよ」

 

「なんじゃ東雲は今日、誰かと帰らないのか」

 

 私はほんの少し悲しさを滲ませつつ首を振った。おそらく感情を乗せる意味はあまりないけれど、同情を引いて相手の心象が望む方向にいくのならやっておいて損はない。

 

「友達……いないの……」

 

「そりゃ寂しいのう……儂も一人の時は人肌恋しくて寂しくなるわい」

 

 腕を組んでしみじみと頷き自らの寂しさを語るシムラ先生だが、私はそれが演技であることも見抜いている。シムラ先生の瞳からは、悲しさなんて感じられない。感じられるのは肉欲や情欲といった類いの感情、どうせその時にシていたセックスの事でも考えているのだ。

 

人肌恋しくなるのは本当なのだろう、だがそれ以前にそんなことを思う暇がないくらいに女を抱いているのに寂しいだなんて、僅かにでも感じる瞬間があるはずがないのだ。その点からにしても嘘だとわかってしまう。

 

「友達がいないのなら帰りは一人なんじゃろう?」

 

「うん、でも家でも一人だからいつもと変わらない」

 

「家族は何人なんじゃ?」

 

「パパとママと私の三人」

 

「一人っ子か、そりゃパパママからうんと可愛がられているんじゃろうなあ」

 

「でもちょっとだけ寂しいかな」

 

「それはどうしてじゃ」

 

「パパもママもお仕事で忙しくて、いつも帰ってくるのが遅いの」

 

「ほう、それで家でも一人なのか……淫子ちゃんは偉い子じゃなぁ。なんてったって一人でお留守番ができているんじゃからのう」

 

「そうなのかな?」

 

「そりゃそうじゃ。そこいらの子に鍵なんて持たせた日には、すーぐに無くす。その点、淫子ちゃんはしっかりとした良い子じゃから持たせてもらっとるんじゃのう」

 

「えへへ、ちょっと嬉しい。でね——」

 

 私は相手の意図を汲みとって、先回りするように喋り続ける。不必要にむしろ無警戒に私は自分と自分を取り巻く環境についてシムラ先生へ語っていく。

 

 さながらそれは情報のヌードだった。私は私という存在を構成する情報を一枚、また一枚と脱いで手渡し、最後には無邪気に丸裸となった私という存在をその眼前へとさらけ出す。

 

 どう料理してくれてもかまいません、そう言っているに等しい行為。例えば私が帰り道にどこを何時に歩いているかなんて、それだけでも先生がその気になれば誰に気づかれることなく私を誘拐して、好きに出来てしまうくらいには。

 

 私の身の上話の合間に先生は嘘か本当かもわからない話をしてくれた。それに私は大げさな反応を返す。大げさに楽しみ、本当と嘘が入り交じる話を素直に信じ込み、嘘と言われれば途端に悲しむ。二人だけの秘密の共有もして、気づけばこんな他愛の無い会話で一時間近くも話し込んでしまっていた。

 

 途中からは先生がずっと喋って色々と確かめているようであったが、現時点で先生が知りたいであろうことは喋ったつもりだし、問題ないだろう。

 

シムラ先生も手ごたえを感じていて、もう十分と判断したのか話を切り上げるようだった。

 

「終わったの?」

 

「東雲さんが色々教えてくれたからのう、知りたいこともしれたから感謝しとるよ」

 

 心から感謝をされれば受け入れるのもやぶさかじゃない。

 

 茶番も終わり私は帰ろうとするが、シムラ先生は何かを思い出したかのように喋り出した。

 

「そうじゃ、その傷なんじゃが時間がある時にまた見せに来なさい。もしかしたら膿んでるかもしれんからのう、念には念を入れてじゃ、わかったか?」

 

「はーい先生」

 

 念押しする言葉の裏に隠された意図にあえて気づかないふりをして、私は無邪気にまた来る旨を伝える。私のその言葉にシムラ先生は変わらない笑顔を浮かべて頷く。

 

 私はソファーから立ち上がって、出入口の扉の前で振り返り先生に一礼する。

 

「失礼しましたー」

 

 扉を開けて退出する私は、扉を閉める最後まで手を振るシムラ先生と目が合ったままだった。扉が閉まり、目線が離れたところで私は一息ついた。

 

 そのまま下駄箱へ続く廊下を歩きながら私は保健室での事の顛末を纏めることにした。

 

 当初の目的はシムラ先生がこの身体に興味を示すかどうかを確かめるだけだったのに、シムラ先生の反応は私の想像以上で、事態は私の想定していたものよりも前に進んでしまったように思う。一体何が彼の琴線に触れたのか、どういう動機を抱いて私に興味を持ち始めたのかまではわからない。けれど少なくとも私という存在が、シムラ先生の中で無関心な生徒から興味深い女になっているのは間違いない。いや、むしろそれ以上に獲物として狙いを定められたと言った方がいいかもしれない。

 

 でなければあそこでカルテなどと称して私のことを知ろうとはしないだろう。

 

 私の身の上話はともかく、あの他愛の無い会話で先生は色々と私についての情報を集めているようだった。私自身は相手に対してどんな人間なのかと観察をするが、自分がされたことは無かったからとても新鮮な気持ちだった。なんだが私という存在が丸裸にされていくようで、一種の露出プレイのように感じてしまった。でもその興奮も演技だったために半減してしまった。

 

 でもその陰でシムラ先生にとって都合が良くて、私が演じるべき方向性というのが完全に定まったきがする。性知識が皆無で、鈍感かつ純粋で信じ込みやすい、身体の感度が高くて調教し甲斐のある無知っ子少女。それでいて友達もおらず、両親が家に帰ってくるのは遅くという何をスるにしても時間的猶予がある。

 

 それがシムラ先生との会話で作り上げた都合のよい人物像だった。後は流れに身を任せて、その都度アドリブで修正すればいいだろう。

 

 一応シムラ先生が望む応えを返したつもりだったが、上手くいっていれば次に会った時にもっと露骨な態度を出してくるはずだ。それに乗っかればきっと行くところまで行けるはずだと私は考えた。

 

「もしくはこっちから切っ掛けを作るか、よね」

 

 下駄箱に着いた私は自分の上履きと靴を履き替えながらそう呟いた。

 

 どうせこっちから伺うのだ、それならこっちから何かセックスへの取っ掛かりを作って逆に向こうへ判断を投げるのもいいかもしれない。

 

 となるとやはり保健室といえば怪我や傷なので今日と同じ方法になるのだが。

 

「胸の傷じゃ変わらないし……うーん、やっぱり次はもっと大胆に見せて性欲を煽りたいから。あ、全身に傷を負えば全裸になれる? でもそれだとどう負ったのか説明できないし…………あ~どうしよう——」

 

 私はあーでもないこーでもないと頭を悩ませ続けながら、もうひとつの用事を済ませるために帰路につくのだった。

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