リバーレリオ視点ののイチャラブSSです。
※pixivに掲載した自作品の転載です。

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第1話

 私は対話が生む奇跡を目撃した。

 異なる存在同士でも、相容れない考え方を持っていたとしても。

 対話することで理解し合い、手を差し伸べ合うことができるのだと。

 人間も人間もどきも、ラプチャーもヘレティックもクイーンも、変わることはないと思っていた。……違う、生まれてから今まで、そんなことすら考えたこともない。

 それが、あの人間といたほんのひと時で覆されてしまった。

 あらゆる存在は対話を重ねれば変わることができる。

 それは新たな道だった。

 目障りなものを破壊し続け、耳障りな騒音を響かせながら進んでゆくのだと思っていた私の前に現れた、新しい道。

 衝撃的だった。そして茫然自失となるほどに戸惑った。

 でも、気づけば私はその道に心が奪われていた。なぜなのかは、自分でもよく分からない。

 あの人間もどきは、恋してるようだと言ったわね。

 本当にその通りだと思う。

 あの時以来、あの変な人間が成し得た奇跡に恋焦がれ、その奇跡がもたらす変化の先に想いを馳せ続けている。

「奇跡ね」

 激しい銃声と爆音。

 人間と人間もどきの叫び声と、ラプチャーの唸り声。

 不快な音を響かせるその戦いを空から見下ろす。

 ラプチャーが破壊される。人間もどきの身体が吹き飛ぶ。その繰り返しを私は見続けていた。

 どちらを助けようとも思わない。

 どちらが死のうが生きようが構いはしない。

 ただこの光景を見るたびに、あの不思議な考え方をする人間の顔が浮かび上がってくる。

 生きるために殺し合う者たちの手を取り合わせた、あの人間の顔が。

「人間……」

 変わっていないだろうか。

 死んではいないだろうか。

 お母様を説得するまで、生きているだろうか。

 奇跡を起こすには、対話をしなければならない。

 お母様にはあの人間と話をして欲しい。その手を取り合わせるのは、私の役目。あの人間がしたように。

「ふぁわ〜……」

 あくびが漏れてしまう。眠い……。

 この煩い音が止んだら眠りましょう。

 でも……今日こそは、寝れるかしら。

 うとうとしている間に、次爆発音は収まっていた。どちらが生き残ったのか、興味はなかった。

 結末を見ることなく、私はそのまま廃墟の屋上に降りる。そして鉄柵に背を預けて、目を瞑った。

 眠気に身を預けると、次第に静寂が意識を包み込む。そして暗い深海に潜り込むように私が沈んでゆく。

 暗闇の中で心地よく揺蕩う。

 以前はそうだった。

 なのに……。

「……うるさい」

 今は、決まって頭の中で雑音が響き、暗い海に光が差し込でくる。

 意識を手放そうとするたびに、騒音が私の眠りを妨げる。それはおそらく、私の中でずっと鳴り続けていて、眠ろうとすると際立って聞こえるだけ。

 あの人間の声が。

 そうあの声が、私の中をざわつかせて、眠りを妨げる。

「何なのかしら、あの人間」

 ヘレティックに睡眠が必要なわけではない。

 でも眠りたくても寝れないのは、イライラする。

 この苛立ちを、ここにはいない当人へぶつけることが理不尽であり合理性に欠けていると分かっていても、私の中でうるさく喋る人間に、静かにしてと言いたくなる。

「……あぁそうね。言えばいいのよ」

 それにあの人間の鼓動は、心地いい。あれを聴きながらなら寝られるはず。それくらいの責任は取ってもらいたいわ。

 そう思いながら、地上を見下ろす。

 残骸となった複数のラプチャー。そして壊れた人間もどきの身体が1つ。それ以外の死体はない。

 ということは、ここにいた人間達は生きている。

 少し見渡せば、よたよたと歩く複数の人型を見つけられた。

 その進行を遮るように、私は人間達の前に降り立った。

「人間と人間もどき。協力しましょう」

 蒼白の顔で膝から崩れ落ちる人間達に、私はそう声をかけた。

 

 

 数日前のそんな出来事を思い返しながら、あの時からずっと居座っている廃墟の屋上で空を見上げていた。

 結局あの日からも寝付くことはできていない。

 むしろ私の中の騒音は喧しさが増している気さえする。

「まだかしら」

 耳を澄ませても、聞こえてくるのは風が建物を吹き抜ける音だけ。

 この辺り一帯からラプチャーを退けたので、足音がすればすぐにわかるはず……。

「ふぁわ……んぅ、ちゃんと伝わっていればいいけど。やっぱり脅しておいた方が……?」

 あの時のことを思い返していると、瓦礫が擦れる音がした。それは一定のリズムを取りながら近づいてくる。

 はぁ、ようやく来てくれたわ。

「人間」

 屋上から彼の前に降り立った。

 久しく見るその姿に、私は微かに安堵を感じている。

 だって、この人間に死なれては困るもの。

「リバーレリオ……」

 その声音にも鼓動にも、初めて会った時のような恐怖は感じられない。その代わり、驚きと困惑がその表情から滲み出ているけれど。

「本当にいたのか」

「? 当たり前でしょう。私が呼んだのだから」

「そうなんだが……。まさか人伝に呼び出されるとは思わなかった」

「連絡手段がないのだから仕方ないわ」

 あの時、満身創痍の人間と人間もどきに、この人間を呼び出すよう伝えた。その代わりに、無事にアークに返してあげる見返りを提案して。

 利害の一致。合理的な取り引きにおける協力関係を築いたのだけれど、この人間と違って終始怯えていたわね。

 彼の言葉を借りるなら、互いに理解しようとしなかったからかしら。

「人間もどきは連れてこなかったのね」

「そう指示したのはそっちだろう?」

「ええ、うるさいもの。ちゃんとラプチャーは離しておいたから問題ないでしょう」

「そうだけど」

 まぁ今はそんなこと、どうでもいいわ。

「来なさい」

「お、おい待ってくれ。その前に呼んだ理由を」

 後ろで叫ぶ人間の腕に触手を絡み付けて、廃墟の中へと引っ張ってゆく。

 あぁ確かに理由を伝えていなかったわ。

「私は眠りたいのよ」

「意味が分からない!」

「うるさいわ。そこに座って」

「……?」

 壁に置かれたボロボロの長椅子を指差して、そこに座らせる。私も隣に座った。

「ち、近いんだが」

「人間、鼓動が早いわ。なぜそんなに緊張するの」

「それは……はぁ。とりあえず落ち着けるから、先に理由を聞かせてくれよ」

「私、眠れないのよ」

「なんで?」

「あなたが頭の中でうるさいから」

「意味不明な上に、ひどく理不尽なことを言ってないか?」

 そう理不尽なの。私も理不尽な目に遭ってるのだからおあいこでしょう?

「それで思い出したの。あなたの心臓の音を聴いていたら寝てしまったことを」

 そういえば、あの時もこんな廃墟の中だったわね。

「それで呼んだのか?」

「そうよ。あなたのせいだけど、わざわざ来てくれたのだから見返りは何か考えてあげるわ」

「いや別にいいけど……」

「……そう。相変わらず変な人間ね」

 何も得るつもりもなく、一人で地上まで来るなんて。むしろ何かを要求してくれた方がスッキリするのだけれど。

 この奇妙な関係こそが、変化の結果なのかしら?

「もう落ち着いたみたいね」

「まぁ……でもあんまり密着するのはちょっと」

「なぜ?」

「ん……あー……」

 なぜ言いづらそうなの。

 あぁ……不可解すぎてイライラしてきたわ。

 もういい。

「あっ、おい」

 身体を寄りかからせて、心音を聞くために彼の胸に頭を乗せる。

 とくん、と心地よい音が流れ込んでくる。鼓動が、私の中で深く響く。

 それは静かで、優しく、重い。

 その音が私の意識を深い海の中へ沈めてくれる。

 やっぱり、この人間の側は危ない。

 聴いているだけで、全てを委ねてしまいたくなるような力強さと心地よさ。この鼓動の中で溶けて、二度と今の私に戻れなくなってしまうような危うさを抱かせる。

 そう分かっていても思ってしまう。

 溶けてしまいたい……。

 そんな緩んだ私の頭に何かが触れる。

 温かくて、柔らかくて、優しいものが髪の上を流れ込てゆく。

 途端、意識の沈みかけた海の中で大きな泡が湧き上がった。

「……何をしてるの」

「え? いや、この方が寝られるかなって」

「人間の子どものように扱うのね、ヘレティックを」

「いや子どもというよりは猫……悪かった」

 失礼な物言いに思わず睨みつけしまった。

「しない方が良かったか?」

「…………分からないわ」

 嫌な気分ではないように感じる。むしろ私は、して欲しいとさえ思っているみたい。

 こんな風に自分自身を客観的に読み解かなければならないほどに、私自身のことが分からなくなっていた。

 ただ、手放しで良いと言えない理由は明白だった。

「どうした? 寝るんじゃなかったのか?」

 身体を起こした私に首を傾げる人間。

「寝られそうにないわ」

 頭を撫でられていると分かった途端、私の中が騒々しくなった。

 そして今、遠ざかった鼓動の音を求めるように、さらに煩くなった。

 あぁ、こんなのまるで……。

「そうか……力になれなくて申し訳ないな」

「構わないわ。……もう帰っていいわよ」

 眠れないのなら、この人間に用はない。一緒にいてもらう必要も理由もない。

 そんな合理的帰結を口にすることにすら、私は躊躇いを感じるようになってしまった。

「え? あ、あぁ……」

 唐突な私の言葉に疑問を持ちながらも、人間は素直に立ち上がる。

 そして踏み出した彼の背中が視界に映る。

 この人間がいれば眠れると思ったのに。余計に悪化してしまったわ。

 うるさいのは嫌いなのに……。

「あの……リバーレリオ?」

「なに?」

「離してくれないと、帰れないんだけど……」

 この変な人間は、とうとう私の理解できないことまで話し始めるようになったのかしら。

 ……そう訝しんでいたのだけれど、理解できないのは私の方みたい。

 私の触手は、彼の腕に巻き付いていた。私の意識を無視して。

「どうかしたのか?」

「そうね……どうかしてしまったみたい」

 滑稽すぎる自分に笑ってしまいそうになる。

 本当は理解できないことではなかった。

 私は、この人間が側にいることを望んでいる。

 私の中で騒ぐのはこの人間ではなくて、私自身。頭の中でこの人間の声がするのは、顔が浮かぶのは、私が求めているから。

 ただそれを理解してしまうと、自分がそんな風に変わってしまったのだと自覚しなければならない。だから、受け入れるわけにはいかなかった。

「人間、もう少しここにいて」

「……分かった」

 ああ、そう。もうあの雨の中で……私は変わってしまったね。

 そうやって変化を受け入れてしまえば、煩わしいだけだった私の中の騒音は、意味を持った声に変わる。

 愛しいものを求める渇望の叫びに。

 それはお母様への私の思いに近くて。

 でも、どこか違っている不可解な欲求。

「なんかさっきより上機嫌だな」

「そうね……欲しいものが、手元にあるからかしら」

 目を瞑って、隣から流れてくる心音に意識を向ける。

 深い静けさの中へ引きづり込まれるような拍動。でも以前のような眠気は感じない。

 むしろその音を求めるように、私の奥底から興奮が泡となって湧き上がってくる。

「……それ、しても寝れないんだろう?」

「寝れないわ。でも、聞きたいの」

 私は自然と人間の胸に耳を当てていた。

 さっきよりも大きくはっきりと聞こえて、満たされる。

 でもすぐにそれでは物足りなくなってしまう。

 もっと深くに……。

 いっそ、溶けて一つになるほどに……。

「人間、どうしたらいいのかしら」

「どう、とは……?」

「あなたの音をもっと近くで聞きたくて、たまらないの」

 顔を上げ、訴えるように見つめる。

 目が合った瞬間、目が逸らされた。

「……心臓を抉り出すとか言わないでくれよ」

「死んじゃうでしょ。人間なのだから」

「冗談だ」

「人間でなくともそれくらい分かるわ」

 でもそう。もっと近くで聞きたいのに、心臓に直接耳を触れさせたいのかと問われれば、そうではない。

 私は何がしたいのか。何をして欲しいのか。

 私の中で泡立つその気泡の中には、何が詰まっているの?

「とりあえず、少し離れてくれ」

「どうして?」

「……熱いだろう。そんなにくっついてたら」

「そうかしら」

 戦闘中でもない私の体温は一般的な人間の体温と変わらないはずだけど。それに私は、彼の体温を熱く感じることはない。

 でも……伝わるわ。

 微かだけれど生きた温もりが、肺が膨らむ息遣いが、動脈を流れる血の脈動が。

 落ち着く……。温かくて、心地がいい……。

「人間、さっきみたいに頭を撫でてみて」

 あの時感じた溶けてゆくような感覚。

 私が求めているものは、そういうものなのかとしれない。

 だからもう一度確かめたい。

「いや……」

「? なぜ躊躇うのか分からないわ。敵ではないのだから、危害は与えないと分かっているものだも思っていたのだけれど」

「そんなことは心配していない。ただその、距離感が近すぎるというか……」

「?」

 あぁまただわ。また私の理解できない概念の話をしている。でも、どこか共感できるものはあった。

 変化と危険。

 私は近づくことを求めて、人間は近づくことを恐れている。

 私はなぜ求めるのか、この人間はなぜ離れようとするのか。

 何が危うくて、何が変わってしまうのか。

 知りたい。

 知りたくてたまらない。

 おかしくなりそうなほどに。

「人間、教えて」

 床を打つ音がした。彼を掴んで、地面に押し倒したからだ。

 私の下で、苦悶の表情を浮かべる人間。

 腹の上に跨る私。

 離れようとはさせない。

 逃がさない。

「あなたには分かるのでしょう。私が何を求めているのか。私を見て、答えて」

「睡眠不足でおかしくなったんじゃないか?」

「ふふ、かもしれないわ」

 彼の頬に両手で触れる。肌と肌が触れ合う感覚が、体温と感触でもって伝わってくる。

 あぁこれだわ。

 私が求めるもの……。

「あなたも私に触れて」

 彼の手を取って、私の頬に触れさせる。

 硬くて、大きくて、温かくて、どこか安堵を憶える優しくて危うい、淡い甘美な感覚。

 人間に触れるというのは、こんな感覚なのね。

 人間に触れられるというのは、こんな感覚なのね。

 愛おしい……。

 この愛おしいものに、もっとたくさん、もっと深く触れて触れて触れて、触れられて触れられて触れられて……。

 溶けてしまいたい♡

「教えてくれてありがとう」

「何も言ってないが」

「こうして触れ合うのも対話と言えるのね。あなたの温もりと鼓動と、脈動が教えてくれた」

 頬に添えた手を滑らせ、彼の首筋に触れる。とくとく、と生きるための尊い血の流れが指先に伝う。それが私の脳を優しく揺らす。

 はぁ……気持ちいい。

「あなたは? 私に触れて何を感じてくれたのかしら?」

「何も」

「嘘ね。私に触れた途端、鼓動が大きくなったわ。それに」

 私が触れている首筋。

 そこに顔を寄せる。

「うっ」

 薄らと血管の膨らむ皮膚に舌を這わせた。

 微かな塩辛さと血液の流れが教えてくれる。

「何をそんなに緊張しているの?」

 どうして離れようとするの?

 私はこんなにも気持ちがいいのに、あなたはそうではないの?

 まぁ、でもいいわ。

「ま、待て、何してる?!」

「何って、服を脱がせているのよ」

 ボタンを一つ一つ外してゆく。

 私と人間を隔てるこの布地があまりにも邪魔だった。

「自分が何してるのか分かっているのか?」

「だから服を脱がせていると言っているでしょう? じゃないとあなたに触れられない」

 シャツをはだけさせ、肌着を捲る。

 硬そうな凹凸のある腹部、呼吸に合わせて上下する胸。

 そこへ吸い込まれるように、私は抱きついた。

「はぁ♡ 生きているのね、あなた……♡」

 胸に触れる頬が熱い。

 濃い人間の香りがする。

 聞こえてくる鼓動は、明らかにさっきよりも深くて近い。

 目を瞑れば、彼の中に潜り込んで、その心臓に抱きついているのではないかとさえ思えてしまうほどに。

 あぁ、なんて愛おしいの……。

 

 ちゅっ、ちろ……

 

「ぅ、何で舐めるだよっ」

 なんでかしらね……。身体が勝手にそうしてしまうの。

 だってその方が、あなたにより近づくから。

 舌が素肌を滑るたびに、身体が熱くなって、溶けてゆきそうになるから。

 

 れろ、ちゅっ、ちゅぱっ、ちろ……♡

 

「人間……♡」

 舌先に感じる塩気に頭を痺れて、身体の奥に熱が生まれる。

 止められない……。

 溶けて、一つになるまで止められない。

「ぅ、っあ……リバーレリオ、もうやめろっ」

「ちゅ、ちゅぱっ♡ 人間、どうしてそんなに余裕がないの」

 舌先が、胸の突起を掠める。

「っ゛」

「人間、もしかしてあなたも気持ちいいの?」

 

 ちゅっ、ちゅぅぅっ♡

 

「うぅっ!!」

「ふふ、気持ちいいのね♡」

 彼の乳頭に吸い付くたびに、その身体が震える。

 言葉では私から距離を置こうとしていたのに、こうして舐めて、吸ってあげれば、面白いように私に寄り添おうとしてくるのね♡

「乳首、気持ちいいならそう言って」

「ちがっ」

 

 ちろちろっ、ちゅぅぅっ、ちゅぱっ♡

 

「っ……」

「気持ちいいのでしょう? ぢゅるっ、ちゅっ♡ どうして私を遠ざけるのかしら。私はあなたと一つになりたいの」

「私は人間で、君はヘレティックだろうっ?」

「……あぁそうね。そうだったわ」

 不思議。私こそ、そこに明確な境界を引いていたはずなのに、言われるまで忘れていた。

 でもそこに、違和感を感じることはない。

 だってそれは私が種の壁を越えて、この人間に近づいたということだから。

 この熱が、疼きが、気持ちよさが、私をどんどん溶かして、近づけさせてくれる。

「でもどうでもいい。あなたに触れてるとそう思えるの」

 身体を起こした私は、纏う服を脱ぎ下ろす。

 素肌を晒したその身体に、目を見開いた人間の視線が注がれる。興奮で身体が震え出しそう。

「私に触れて、溶け合いましょう。人間♡」

 彼の手を取って、私の胸に重ねてあげる。

 そして潰れるほどに押し付けた。

「はぁ……熱いわ♡」

 温もりが胸を覆う。

 昂った神経がじくじくと炙られて、吐息が漏れてしまう。

 ああ……あなたも私に触れられて、こんな感覚を得ていたのね。

「人間、私に触れて何を感じるのかしら?」

 その問いかけに、彼の手がピクリと揺れる。

 そして彼の意思がゆっくりと私の身体を味わい始めた。

「……柔らかい」

 そう。

「滑らかで……すごく触り心地がいい」

 そう♡

「気持ちいい?♡」

「ああ」

 胸を揉む手は徐々に躊躇い失ってゆく。

 掴まれて、捏ねて、潰されて、あらゆる手段を持って私を堪能しようとしているのが伝わってくる。

「あぁ……はぁぁっ♡♡」

 身体が熱くて、指が胸に沈むたびにピリピリと痺れが走る。熱が吐息となって漏れてでしまう。

 こんなの知らなかった。

 対話を経て、理解を越えて、触れ合って、溶け合う……。こんな素晴らしいものがあるなんて……っ。

 

 くにっ♡

 

「ひゃっ♡」

 思考の渦に、突然鋭い電流が流れ込んだ。

 人間の太い指が、胸の突起に触れていた。

「に、にんげんっ、それっ♡」

 

 きゅっ、こりこり♡♡

 

「はぁ♡ あぁっ、んっ♡ 」

 摘まれて、転がされて……そのたびに、耐え難い刺激が全身を巡る。それは波紋となって私の中に広がって、私を構成する一つ一つを緩めてゆく。

 私は、この人間に壊される……♡

「はぁはぁ♡ にんげんっ♡」

 胸を触るその手を払いのけ、彼の顔に覆い被さるように倒れた。

 敏感にされた突起にかかる熱い吐息が、期待と興奮を湧かせる。

「舐めなさい♡」

 私がしてあげたように、舐めて、吸って、食んで……♡

 

 ちゅっ♡

 

「あぁ♡」

 

 ちゅっ、ちゅぱっ、ちろ、ちろ……♡♡

 

「はぁっ♡そう、いい、いいわ♡ もっと……♡」

 

 れろ、こりこり、ちゅぅぅっ、ちゅぱっ♡

 

「ん゛っ♡♡」

 舌先が私の乳首を弄ぶように弾く。

 感触を楽しむように押しつぶす。

 そして、求めるようにしゃぶり続ける。

 その度に私が揺らぐ。熱とともに流れ込む甘い毒が、私を蝕んでくれている。

 その愛おしい感覚を求めるように、私は彼の頭を抱きしめた。

「にんげん♡」

 必死に吸い付いて……まるで赤子みたい。

 でも、分かるわ。溶けるの気持ちいいもの♡

「おいしい?」

 そう、私は彼の耳元で囁いていた。

「っ」

 人間の身体がピクリと揺れる。

 それと同時に、胸の先っぽが強く吸引された。

 

 ちゅぱっ、ぢゅるっ、ぢゅぅぅぅっ♡♡

 

「ゔぅぅぅっ♡♡ にんげんっ、吸いすぎっ♡♡」

 強い刺激に思わず彼の頭にギュッとしがみついてしまう。

 

 ちゅぅぅっ、ちゅぷんっ♡♡

 

「ん゛ぁっ♡♡」

 吸引から解放されると同時に、視界が一瞬だけ真っ白に塗り潰された。

 今、消えかけた……。

 この甘美な感覚の中に溶けて、消えかけてしまった。

 私が欲しい、色も音も、私自身さえも存在しない果ての静けさ。

 それをこの人間がもたらしてくれるのね……。

「……リバーレリオ」

 荒い呼吸で私を見つめる人間。

 今の今まで、私の胸を夢中で堪能していた人間。

 私に静寂をもたらしてくれる人間……♡

「………」

 その顔に微かな引力を感じる。

 それは細波に背を押されるような、取るに足らないささやかなもの。

 でも、今の私には抗い難い力。

 惹かれる、吸い込まれる……。

 

 ちゅ……

 

 唇を重ねるこの行為に何の意味があるのか分からない。

 分からないのに、私は必然性を感じている。

 

 ちゅ……ちゅぱっ、れろ……

 

 人間の舌が口の中に入って、私の舌に絡まろうとする。

「ちゅ、れろっ、に、にんへん……ぢゅる♡」

 気持ちいい……舌が擦れるたびに頭がピリピリ痺れて、感覚があやふやになって、まるでふわふわ浮いているみたい。

 粘膜同士が触れているから?

 皮膚すらも邪魔なものなの?

 私たちはどこまで深く触れ合えるの?

「ちゅ……はぁ♡ ……教えて、人間。んっちゅ♡」

「っん……なにを」

「もっとあなたと深く触れ合う方法を」

 私の問いかけに、人間は興奮を抑えながら答えを教えてくれた。

 正気とは思えないその言葉は、私の思考を止めて、深く深くに沈んでゆく。

 そして私の奥底で昂る本能が歓喜に震えた。

 ……そうなのね。だからお母様への愛おしさとは違って……。私が、人間と……。

「いいの? 私はヘレティックなのよ」

「……そんなこと、どうでもいい」

「……ええ、そうね♡」

 今の私たちに種の壁なんてものはない。

 その何の意味もない、生産性皆無の、非合理的な行為を頭の中で思い描いただけで、お腹の奥底が疼いてしまうのだから。

 立ち上がって、私はスーツを脱ぎ捨てる。

 人間に私の全てを晒す。

「あなたも」

 私の身体を惚けて見つめる人間に、早くしろと促す。

「あ、ああ」

 立ち上がった人間も、躊躇いながら衣服を脱ぎ出す。

 そうして私も、彼と同じようにその裸体を見つめてしまっていた。

「……リバーレリオ?」

「……男性器というものを初めてみたの」

 人間の股から伸びる、赤黒くて太いモノ。

 血管の浮き出たそれは、私を見上げながらピクピクと震えている。

 生物が生殖行為に使う器官。女性器と交わることで新たな生命を生み出すもの……。

 これが私の中に……。

「っ」

 目が離せない。脳が沸騰し出す。お腹の疼きが激しくなる。

 あれが、欲しい。叫ぶ、本能が、欲しい、欲しい、欲しい欲しい欲しいっ。

「はやく、して……♡ しましょう、どうすればいいのっ、言って、はやく、お願いよっ」

 耐え難い疼きが、私に懇願させる。

 品のなく、はしたない、理性の欠いた言葉。

 でもそれが今の私の、雑音の混ざらない純粋な声。

 その声に応えるためなら、何だってできてしまう。

「こう?」

 私は人間に言われた通り、彼に背を向けて床に這いつくばる。

 膝だけを立たせ、臀部を突き出すように私の性器を彼の性器へ向けた。

「ああ」

 後ろから人間の声がする。

 顔が見えなくのが、触れられないのが、少し不満。

 でもそんな不満も、一瞬にして吹き飛んでしまった。

「ひっ♡♡?!」

 背筋を駆け抜けた一片の快感が、私を分からせる。

 これに抗うことはできないということを。

 指先が入り口をなぞる、ただそれだけのことで。

「すごく濡れてるぞ」

 

 くちゅ、ちゅ、ぬち、くちゅくちゅ♡♡

 

「っ゛〜〜!! あ゛ぁぁぁ♡ 」

 絶え間ない荒波に揉まれ、思考は形をなせない。

 五感は溺れ、私の性器がいじり回される感覚だけを鮮明に伝えてくる。

「リバーレリオ、[[rb:膣内 > なか]]からどんどん垂れ落ちてくる」

「ひぁぁっ♡♡」

 は、入ってくる。指が、私の中へ潜り込んでくる♡

 

 ぐちゅぐちゅ、ぐちゅぐちゅっ♡♡

 

「お゛っ?!んぉ゛ぉ゛っ♡♡」

 胎内から何かを掻き出すように、内側を刺激し出す。

 そのたびに身体が震えて、声が搾り出されてしまう。

「そんな声、出せるんだな」

「だまっ、てっ、ひぅ゛ぅ♡♡」

 まるで獣のような聞くに耐えない声。そんな音を私が発しているという事実が受け入れ難い。

 でも私の喉は、彼の指の動きに合わせて忠実に鳴り続ける。

「すごく聴き心地がいいよ」

「っ♡」

 こんな音のどこがいいというの。

 何で私は、そんな言葉に悦びを感じているの。

 分からない。分からないけど、あなたが求めるなら私はその声を奏でてあげる。

「下、びしょびしょだ」

 絶えず鳴り続ける水音。私の膣分泌液が掻き出され、床を濡らすはしたない音。私の性器が、人間の性器を受け入れるための準備を整える愛しい音♡

 その音に、人間が吸い付いた。

 

 ぢゅるっ、ぢゅぞぞぞぞっ♡♡

 

「なにしてっ♡!  んぉ゛ぉ?! ど、どうして吸ってっ?!♡♡」

「おいしそう、だからかな」

 

 れろ、ぢゅるっ、れろ、れろ……♡

 

 舌が膣内へ入ってくる。

 それは指よりも柔軟な動きで、私の中を這い回っていた。

 縦横無尽に舐め回す舌が与える刺激は、あまりにも情報過多で快感の処理が追いつかない。

 脳内がパンクする。

 お腹の奥に快感が溜まり続ける。

 溢れる。溢れる溢れる溢れる溢れる溢れーー

「っ゛ーー!!」

 

 ぷしっ

 

 まるで風船が破裂するように、何かが割れた。溢れたそれが私の中の一切を押し流す。

 真っ白い波。目も耳も思考も何もかもを奪われて、刹那の破滅的な静寂がもたらされた。

 ああ、これよ……。これが欲しいの……。

「……大丈夫か?」

「はぁ♡ ええ……とても、素晴らしい気分。私、また消えそうになったわ」

 さっきよりも深い余韻を残して、白い波が引いてゆく。足の震えが止まらない。

「そうか。……じゃあ、もっと、徹底的に消してあげよう」

「あぁ……♡ ええ、消して。あなたのソレで、私をどろどろに溶かして」

 そしてあの波に全てを流されて、消えてしまいましょう♡

「あなたも消えたいでしょう?♡」

 手を後ろに回す。

 きっと視線を注いでいるであろう、私の膣を自分の指で広げてみせる。

「私の中で、あなたも消えちゃいなさい♡」

 興奮が彼の鼓動に乗って伝わってくる。

 膣に熱いものが触れた。

 たったそれだけで、お腹の奥がぐにゅりと蠢く。

 今、あんな熱くて太いモノを入れられたら……きっと取り返しがつかない。そんな変化がもたらされてしまうでしょう……♡

 

 ぬち、ぬぷぷ……

 

「はぁぁ♡ 入って、くるっ」

 指とは比較にならないほど太いものが、お腹の中をこじ開けて挿入ろうとしてくる。

 私の腰を掴んで、より深くへと至ろうとしてくる。

 その強引な侵入に、内側が強く擦れて意識が強く揺さぶられる。

 そして、

 

 どちゅっ♡

 

「おぷっ♡」

 ゾクゾクとした快感が腹奥から背筋を駆け抜けて、脳を震わせる。

 彼の性器が、私の奥底を突いた。

 その小さな振動が、私のコアに届く。

 鳥肌が立つほどの実感を持って、私という存在が書き換えられ始める。

 この愛しい人間と交われる存在へと。

 

 ずぷぷぷっ、

 

「あぁぁぁ♡♡」

 私の膣内を削りながら、陰茎が引き抜かれてゆく。あの傘のような先端がぷちぷちと引っかかって、燃えるような刺激を与えてくる。

 それは私の疼きを満たしたあと、一層強い渇望を残す。

 私の中からいなくなった彼を求めて、膣が激しくうねった。

 はやく、はやくはやくはやくはやくはやくっ。

 

 ずぷちゅっ♡

 

「っ゛♡ ぉおお゛ぉっ?!♡♡」

 さっきよりも強い……。

 私を求めて、私のことを壊そうとしてるのね……。

 うれしい……♡

 だからもっと。もっとよ♡

「ふぅふぅ♡ に、にんげん♡♡ 足りないわ、もっと激しくしなさい♡」

 ええそう。私のこと、しっかり掴んで。

 そして叩き込みなさい。

 あなたが思う一番気持ちいいことをすればいいのだから♡

 遠慮なんて──

 

 ドチュッ!!

 

「あぃ゛っ♡」

 

 バチュ、バチュ、バチュ、バチュッ!!

 

「お゛っお゛っ?! ん゛っ、あ゛っあ゛ぁっ!!! そ、そう。そうやって、私を壊して♡」

 叩きつけられる人間の本能に、私の身体が叫んでいる。甲高いその声が悲鳴なのか嬌声なのか、もはや私には判断がつかない。

 奥底を打たれるたびに、意識が飛びかけ、生み出される快感が強くなる。

 膣は私の意思を置いて、乱暴に出入りする彼の性器にしがみつこうと収縮を繰り返す。

 私は、応えようとしている。この人間の生殖本能に……。

 ヘレティックなのに、生み出せるわけのない人間の子孫を残そうと……。

 

 バチュバチュバチュバチュバチュバチュッ!!

 

「っ゛ん゛! んぎぃっ♡♡ ほ゛ぉぉ゛っ♡♡ ふ、ふふふっ♡♡」

 無意味で、救いようがない。私もこの人間もなんて滑稽な存在なのかしら。

 でももうどうしようもないの。

 もう壊れてしまったから。あとはバラバラになって、この愛しい人間と共に溶けて消えるだけ。

「にん、げんっ、顔が見たいわ」

 そう、消えるなら一緒によ。

「はぁ、はぁ……身体をこっちに向けてくれ」

 性器が引き抜かれたあと、私は身体を上に向ける。

 そして彼の身体が覆い被さり、再び膣へ性器が挿入される。

「ん……、ふふ、酷い顔ね。とても愛おしいわ♡」

「そっちこそ」

「人間、もっと近くに来なさい」

 腕を背中に回して、彼に抱きついた。

 身体が折り重なって、頬が触れ合う。

「ねぇ人間、おかしくなってしまうくらい、あなたが愛おしいの」

 体温が伝わる。呼吸が聞こえる。

 そして彼の鼓動が、陰茎の脈動が私のコアに伝わってくる。

 心地よすぎて、おかしくなる……♡

 

 パチュパチュパチュパチュパチュ♡♡

 

「あぁ♡ 私の奥深くにあなたを感じるっ。あなたは、私を感じているの?♡ 」

「感じるよ。リバーレリオの膣内、火傷しそうなほど熱くて、突くたびに絡みついてくるから」

「気持ちいい?♡」

「すごく」

「溶けてしまいそう?♡」

「今にも」

 ええそうよね。伝わってくるわ。

 あなたの鼓動が、脈動が私に叫んでいるもの。

「はぁはぁ♡ 安心しなさい、あなたの全てを受け入れてあげるわ」

 

 バチュッ!!

 

「っ゛あ♡♡」

 

 バチュッバチュッバチュッバチュッ!!!

 

「あ゛ぁ゛っ!! あっあっ!! そうっ、もっと壊してっ、溶かしてっ♡♡」

 神経が焦げつくほどの激しい抽送に脳が焼き切れそう。

 この人間は、私の中に子孫を残そうと必死になっている。

 そして私も、何も産み出せないのに彼の全てが欲しくて身体を昂らせている。

 その欲求がお腹の中で溢れている。

 これまでとは比較のならないくらい、大きく。

 彼が私の中に育んでくれた、愛しい静寂をもたらしてくれる破滅。

「に、にんげんっ、わ、わたしっ、も、ももうっ♡♡」

 潮が引いてゆく。予兆が、四肢を歓喜に震わせる。

 きっと……今度こそ絶対に、私は無くなってしまう……♡♡

「オレも、もうっ」

「っ、ええ♡ 一緒に、おわりましょう♡」

 

 バチュッ、バチュッ、パンパンパンパンッ!!

 

「ふっ、ぉ゛っ、ぉお゛ほっ♡♡ ん゛ぁあっ♡ き、きてっ、くぁっ♡♡♡」

「っあ゛、締めつけがっ。もぅ、っでるっ」

 搾り出すような声がふやけた鼓膜に届く。

 お腹の中の陰茎が一層膨らんだ気がした。

 そして、

 

 どぴゅっ♡

 

「ひっ♡」

 

 びゅるるるるるっ!!!!

 

「あ゛っ!? な、なに、あついっ?!!」

 膣の奥深くに灼熱が流れ込む。

 私の困惑を無視して、陰茎は膣の中で嬉しそうに跳ねながら精液を吐き出し続けていた。

 私を孕まそうとする、遺伝子の詰まった分泌液。

 この私(ヘレティック)を……っ♡

「っ゛♡♡」

 ぷちん、とお腹の中で致命的な何かが破裂した。

「ま゛っ、とまって!! く、くるっ♡ ダメッ♡♡ 壊れるっ、こ、こぁっ、あ゛ぁぁぁっ♡♡!!!」

 言葉にもならない何かを叫びながら、なけなしの力で彼にしがみつく。

 白い波濤は一瞬にして私を飲み込んだ。

「ッ゛ーーーーー!!???」

 絶叫したはずの声は出なかった。

 暴れたいのに手足は硬直して動かない。

 視界は光に潰されて、何も見えない。

 私の全てが波に攫われて、意識は無垢で静かな海の中に沈んでゆく。

 何もない感じない、何も聞こえない。

 ええ、だからこそ……。

「にん、げん……♡♡」

 静かな海の……私の中で、あなたの心音だけが響く。

 どく、どく、どく、どく……って。

 ああ……なんて心地いいの……。

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 

 身体が重い……。

 手も足も動かない……。

 どうして……?

 いいえ。そもそも、私は……。

「起きたか?」

 声がする。とても安心する声音。

 意識を向けると、聞き慣れ心音が鼓膜を揺らす。

 私は瞼をゆっくり開けた。

「気分は?」

「……よくないわ」

 身体には彼の衣服が掛けられていた。

 ああ、そういえば服を着ていないのね……。

 でも身体が怠すぎて、動く気にならないわ。

「そうか。でも、よく眠っていたぞ?」

「……そう」

 身体は重いけれど、言われてみれば私の中の雑音は消えていた。

 耳をすませて聞こえるのは、彼の鼓動だけ。

「ふぁわ〜……」

 眠い……。

「寝るわ」

「はいはい」

「頭を撫でて」

「……はいはい」

 私の意識は再び、温かな海の中へと落ちてゆく。


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