目を覚ますと、自分は見知らぬホテルの個室にいた。
両手が後ろ手で縛られており、項垂れるような姿勢でダブルベッドの上に座り込んでいる状態。身ぐるみを剥がされたのか筋肉質の上半身が敢え無く露出しており、下半身には素朴な材質のズボンのみが身に着けられている。このような状況に置かれた経緯について皆目見当もつかず、自分はただ困惑のままに顔を上げるしかなかったものだ。
見上げた視線の先に居た人物。それは、ヤンチャな印象を与える一人の女性だった。165cmほどの背丈である彼女は、ミルクティー色の長髪と強気な黒色の瞳、白色のへそ出しタンクトップにカーキ色のボトムスという姿で振り向いてきた。こちらの目覚めを今か今かと待ち続けていたのだろう、縛り上げた男を前に彼女はようやくといった具合にうんざりとした顔を仰いでいくと、次にもプライドに満ち足りた声音でこちらに言葉を投げ掛けてきた。
「おう、寝坊助。随分と呑気に眠りこけていたな。目覚めの気分はどうだ? 他人を散々と待たせ続けた爆睡は、さぞ気持ち良かっただろうなぁ?」
皮肉をたっぷり詰め込んだセリフと共に、こちらへ歩み寄ってくる女性。ゆらりとした足取りからはなめられまいとする意気込みを感じさせ、彼女が放つオーラには相手に己が立場を解らせる静寂な威圧が含まれていた。だが怒りと呼ぶには軽快である声音が愉快げに響き渡ると、彼女はニヤリと口角を上げながら生意気な調子で言葉を続けてきた。
「それで? おまえは覚えているのか? どうして自分がこんな無様な醜態を晒し上げられているのか。今こうして目覚める前の記憶があるのか、ないのか。嘘偽りなく、ハッキリと聞かせてもらおうじゃねぇか」
「記憶……」
ない。思い出せない。どうして自分がこんな状況に置かれているのか、心当たりがない。
それどころか、過去の出来事すら思い出せなかった。自分は今までどうやって生きてきたのか、その断片と思われる光景が一部分たりとも脳裏に浮かんでこない。まるで最初から無かったかのように空っぽである脳内を必死な思いで巡っていると、その様子を見ていた女性はダブルベッドに片足を乗せ、持ち上げた膝に肘をつきながら強気な調子で喋り出してきた。
「まぁ、思い出せないだろうな。別に変な事じゃねぇよ、あまり気にすんな。今ここで重要なのは、なにもおまえの記憶なんかじゃねぇ。おまえがあたしの傍にいること。それこそに意味があるってもんだ」
「それって、どういう……?」
「あたしの名前は“ヒイロ”だ。すぐにもあたしの名前を使うことになるだろうから、しっかり覚えておけよ。いいな?」
こちらに指を差して言い聞かせたヒイロは、直後にも卑しい眼差しを向けながら話題を変えてきた。
「それにしてもおまえ、いい身体してるよな。ちょうどいい、少しツラ貸せよ」
そう言ってヒイロはダブルベッドの上にどっしり乗りかかると、ズルズルとこちらに這い寄るなり彼女は何の躊躇いもなく口付けを行ってきた。
拘束された両手に力が入り、ヒヤッとした感覚と、ドキッとした感覚、その二つの意味で強張った全身に緊張が迸る。最初こそは肝を冷やしたが、次第と巡ってきたのはヒイロの唇という人肌の温もり。間近に迫ることで初めて気付いた、ヤンチャな風貌に隠された端整な顔立ち。粗暴な振る舞いから垣間見る女性的な要素の数々は、瞬く間にこちらの緊張を解きほぐした。
こちらの後頭部を手で押さえ込み、自身の唇を押し付けるように交わす熱いキス。彼女は片膝を立てた男勝りの座り込みで貪るようにキスすると、直にもヒイロは顔を離し、強気で軽快な笑みを浮かべながら言葉を口にしてくる。
「あたしも悪くねぇもんだろ? もっといい思いさせてやるよ」
ヒイロは自身のタンクトップに手を掛けると、一切の躊躇いもなく思い切り脱ぎ捨てた。現れたのは平均的なサイズの乳房であり、ささやかに揺れるそれをこちらに見せびらかしながら得意げな表情を見せてくる。自分はヒイロの乳を凝視していると、彼女はおもむろに立ち上がるなり、自身の履いているボトムスとショーツも脱いでベッドの上に投げ捨てた。
一瞬にして全裸になったヒイロは、顔色を変えることなく強気な様子で佇んだ。股間には黒色の陰毛が生えており、適度に整えられている。彼女は全裸になって間もなくこちらの前に立ち塞がると、自身の股間をこちらの目線の高さに合わせ、小陰唇を指で広げて目いっぱい見せ付けてきた。彼女の秘部が隅々まで伺える光景の中、ヒイロは得意げな調子でそれを口にしてくる。
「舐めろよ。清潔にはしてんだ、汚くなんかねぇよ」
自分は言われるまま顔を近付けた。そして舌を出し、ヒイロの秘部に触れていく。陰毛が鼻先をくすぐり、特有のフェロモンが香ってくる。指で広げられた彼女の秘部を丁寧に舐め上げていく中で、ヒイロは僅かに息を切らしながら目先の快感に神経を集中させていた。
自分が舌を離していくと、彼女は小陰唇を閉じながら見下ろしてくる。
「期待以上だ、おまえなら上手くやっていけるだろうな。さて、そろそろ“実践”といこうじゃねぇか」
ヒイロはその場で男勝りに屈み、こちらのズボンに手を掛けてきた。ふと巡ってきた予感には一種の期待が混じっていた。それを叶えるかの如く、彼女はこちらのズボンをずり下ろすと露わになった股間をまじまじと眺め遣ってきたものだ。
既に勃起していたペニスは、天井へと向かってそそり立つ。制御できない生理現象に自分は羞恥からなる焦燥を抱いていく手前で、ヒイロは怖気づくこともなくペニスに跨ると自身の秘部を擦り合わせながら言い聞かせるように喋り出してきた。
「いいか? この世界ではな、セックスに大きな意味が出てくるんだ」
「大きな、意味?」
「“魔力供給”だ。魔法や異能力を扱うためには魔力が必要になるが、そいつを回復する手段が主に食事や休息とされている。その中で最も効率が良いとされている回復方法が、性的快感。それも、精子を体内で吸収する行為が魔力の回復に一番有効だと実証されているんだ」
ヒイロは説明を交えながら、平然とした様子でペニスを膣に挿入した。敏感な部位を包み込む温もりに自分が声を漏らしながら快感を覚えていく最中、ヒイロはペニスを膣に馴染ませながらも少しずつ上下に動き、言葉を続けていく。
「精子に含まれている成分が、魔力の増幅を助けるらしい。精子を摂取する方法は、口から飲み込むか、子宮で受け止めるかの二つ。効率こそ落ちるが、皮膚や大腸に付着した精子も吸収できるみたいだから、ぶっかけとかアナルセックスとかでもいい。とにかく、精子を吸収することが魔力の回復に繋がるし、それを魔力供給と呼んでいる。特に、おまえの場合は……」
ヒイロは上下の運動を速めた。それにつれて増した鋭い快感が自分の意識を支配し、到達した絶頂と共に抑制できない快楽の噴射を彼女の中へと繰り出した。
痙攣する全身。神経は股間の先端へと注がれて、生成された命の源を流し込む。脈打つそれが一段落を迎えると、ヒイロは膝で立ち上がり、股間から精液を垂らしながら確信めいた笑みを浮かべていく。
「ビンゴ。おまえの精子は、他の連中とワケが違う」
「それって、どういう……?」
「おまえは精子が枯渇しない。無限に精子を生み出せる体質の持ち主だ。あたしらはそういう人間のことを、“パワースポット”と呼んでいる」
「パワースポット……」
「名前の通り、力が湧いて出る領域のことさ。オスは誰しも出せる精子の量に限度がある。だが、おまえは無から精子を生み出せるんだ。それが何を意味するのか、分かるか?」
「無限に、魔力供給ができる?」
「そういうことだ。おまえは無限の魔力を溜め込んだ、生ける聖域だ。おまえがいる限り、魔力が枯渇しない。おまえという存在を経由して、無限に魔力を回復できる。実力主義のこのご時世において、すごく貴重な体質だぜ。パワースポットのデメリットとして、その体質では子を成せないという制約が付き纏っているもんだが、この現実とどう向かい合っていくかはおまえ次第だ」
ヒイロはこちらの後頭部に手を回し、熱烈なキスを再び行ってきた。触れる唇の温もりと背徳的な唾液が絡み合い、自分も脳内に溢れたドーパミンに全てを任せていく。
先程よりも密着したお互いの口。快楽を通じたコミュニケーションが、二人だけの世界を生み出していく。不意に捻じ込まれた舌が新たな刺激を呼び込む中、ふと口内に転がった固形に違和感を覚え、自分はヒイロを見遣っていく。だが、彼女のキスは止まらない。その勢いに押されるまま謎の固形を喉まで押し込まれて思わず飲み込むと、ヒイロは唇を離してこちらの目を真っ直ぐと捉えながら、真剣な様子でそれを告げてきたのだ。
「これで“チュートリアル”はおしまいだ。すぐにでもおまえは解放される。ただ、世界の命運とかいう重荷を背負わされた状態を自由と呼ぶのかどうかは、あたしには分からないところだが」
「世界の、命運?」
「旅立つ前に、もう少しだけ寝ていけよ。あたしを抱いた幸福感を味わいながら、今の内に夢を見ておけばいい。夢の中であたしが必要になったら、いつでも呼べよ。その時は、おまえが満足するまで存分に相手してやるから。じゃあな、寝坊助。健闘を祈る」
途端にして意識が遠のき始めた。今もこちらを見つめるヒイロの眼差しは強気でありながらも、どこか慈愛に満ちた優しい意志を感じ取れた。
間もなくして、自分は目を閉じる。手放した感覚の中で、最後に唇を伝った人肌の温もりを仄かに悟りながら…………。