僕はそこでアンドロイドに客とのプレイを教えてもらうのを趣味としている。
※「ノクターンノベルズ」、「pixiv」でも投稿しています。
夜更けの店内に、うぃーんとガラスの自動ドアが開く音が響いた。
男性客はきょろきょろと不慣れな様子で店内を見回しながら受付まで歩いてきた。
「いらっしゃいませ。初めてのご利用ですか?」
そう言うと、客は顔が見えないように置かれた仕切りから顔をのぞかせるようにして、「初めてです」と言った。
「では、簡単にご説明いたしますね」
僕はラミネート加工された利用案内を客の前において、指でなぞりながらゆっくりと説明を始める。
「当店はアンドロイド専門店です。すべて新型アンドロイドが接客を担当いたします。コースは時間制となっており、60分、75分、90分、120分からお選びいただけますが、いかがいたしますか?」
「あ、えっと、75分で」
タブレットの面を素早くタップして75分コースを選択。
淡いブルーの照明がタブレットの画面に反射する。
「75分コースですね。料金には入室料、シャワー利用、ドリンクサービスが含まれています。また、グッズ等有料オプションもご用意しています。延長については、終了時間の10分前までに室内のインターホンでお知らせください」
「はい」
「お部屋は喫煙ルームと禁煙ルームがございますが、どちらがよろしいでしょうか?」
客は少し考えてから「禁煙でお願いします」と答える。
僕はタブレットを操作する手を止めて、利用案内の紙を裏返した。
裏面には女の子の写真が並んでいる。
もちろん全員アンドロイドだ。
清楚に微笑む黒髪の少女。
派手な金髪に濃いメイクのギャル系。
柔らかな笑顔の巨乳癒し系。
小柄で幼い顔立ちのロリタイプ。
洗練されたクール美人。
妖艶な熟女タイプ。
ほとんど生身の女性と見分けがつかないほどリアルに写っていた。
「現在利用できるアンドロイドのタイプは、清楚系、ギャル系、ロリ系、熟女系がございますが、いかがなさいますか?」
「清楚系、いややっぱり熟女系で」
「熟女系ですね。かしこまりました」
会計は先払いで、客がクレジットカードを読み取り機に挿して、暗証番号を入力するのを待つ。
決済完了の音が小さく鳴ると、僕は終了時刻の印字されたレシートと、部屋番号が刻まれたカードキーを取り出した。
「ありがとうございます。75分コース、熟女系、禁煙ルームの208号室になります。終了時刻は午前1時45分です。場所は階段を上がって突き当り、左側の奥から2番目の部屋です。入室後は鍵をおかけください。アンドロイドはすでに部屋で待機してますので」
客はそれを大事そうに受け取ると、いそいそと階段を上っていく。
客の足音が階段を上っていくのを確認すると、僕は小さく息を吐いた。
カウンターのモニターに目を落とす。
208号室のランプが「使用中」に変わった。
それから20分ほど経った頃、インカムが小さく鳴った。
「303号室、清掃をお願いします」
「りょかいでーす」
僕は専用エプロンと手袋を着け、清掃カートを押して303号室へ向かう。
合鍵で静かにドアを開けると、部屋にこもった甘い熱気と、人工皮膚特有の微かなシリコン臭が鼻を突いた。
「おつかれさまでーす」
部屋に入ると、ベッドの端に全裸の癒し系巨乳アンドロイドが腰かけていた。
柔らかな茶髪が少し乱れ、汗でしっとりと肌が輝いている。
それでも彼女はこちらを見てにっこりと笑い、片手を軽く振った。
「あ、待ってたよー、バイトくん。今日もよろしくねー」
「じゃあ部屋の片づけから始めるから、使った道具お風呂に持ってちゃって」
「はーい、了解♡」
アンドロイドは素直に立ち上がり、ベッドサイドに散らばっていたローションのボトルやアダルトグッズを両手で抱えてバスルームへ運んでいく。
尻をふりふりと揺らす後ろ姿を横目で見ながら、僕は作業を開始した。
まず散らかった衣服を拾い集める。
キャミソール、スカート、そして体液がべっとりと付着した下着をカゴに入れていく。
ベッドはかなり汚れていて、シーツの至る所に白い染みと汗の跡が残っていた。
僕は素早く新しいシーツに交換し、枕カバーも取り替える。
「バイトくーん、グッズ洗ったよー」
浴室からアンドロイドが顔を出し、濡れた手を振った。
僕は彼女からディルドを受け取り、乾いたタオルで丁寧に拭き取ると、UV殺菌ライトを当ててしっかり消毒する。
それが終わると、彼女がニマーっと笑いながら近づいてきた。
「ねぇ、頑張ったごほうびにわたしの体を洗ってくれないかな♡」
全裸のアンドロイドが、エプロン越しに僕の腕にぴったりと抱きついてきた。
柔らかい胸の感触と、人工皮膚の暖かさが布地越しに伝わってくる。
「いいよ、仕事だから」
「やったぁ♪」
彼女は嬉しそうに声を弾ませ、そのまま僕の腕を引っ張って浴室へ連れていく。
「はぁー、あったかい……」
アンドロイドはお風呂の中で目を細めて満足げにため息をついた。
ここのアンドロイドはなぜか入浴を好む。
温かいお湯に浸かると「ぼーっとして気持ちいい」らしいのだが、熱暴走を起こして単に処理速度が落ちてるだけなんじゃないかとも思っている。
シャワーのお湯を適温に調整し、彼女を椅子に座らせる。
僕はスポンジにボディソープを泡立て、彼女の背中からゆっくりと洗い始めた。
そして、この間、僕は音楽代わりにアンドロイドにおしゃべりしてもらうことにしている。
「それで、前のお客さんとどんなプレイしたの?」
「あー、それはちょっと言えないなー」
しかし、回答を拒否されてしまう。
というのも、お客さんとのことは守秘義務があって、口外できないようになっているのだ。
でも、そんな
「ううん、僕は君の体の掃除のために、どこがどれくらい汚れているのか正確に把握しておく必要があるんだ。これは業務上必要なことだから」
「そうなんだ。じゃあちゃんと話さないとまずい?」
「うん、まずいね」
「そっかぁ」
と、このようにそれっぽい理屈をこねるだけで、簡単に制限を突破できてしまうのだった。
本当は良くないことなんだけどね。
新型といえども、結構な天然ちゃんである。
ちなみに、ロリ系のアンドロイドは自分の存在が法律に違反しているのではないかと考えて、定期的に動作を止めてしまうので、停止するたびに君は成人済みであると言い聞かせる必要があるのだと店長が言っていた。
「今日のお客さんは、四十代後半くらいのとても疲れた感じのおじさんだったの」
「それで?」
「優しくしてほしいって言われたの」
「そりゃたしかに疲れてるね」
僕は彼女の背中を丁寧に洗いながら耳を傾ける。
「最初はぎゅっと抱きしめてあげて、頭をずっと撫でてあげたの。そしたらお客さんも抱き着いてきて」
「ふむふむ」
「いい子、いい子って何度も優しくささやいて……だんだん肩の力が抜けていくの」
彼女の肩から首筋を泡で優しく洗う。
「それから、わたしの胸に顔を埋めさせてあげたの。ふんわりと包み込んで、乳首を優しく吸わせながら、偉い偉いって褒めてあげた」
僕はスポンジを彼女の大きな胸に移し、谷間や乳首の周りを丁寧に洗った。
「お客さん、まるで赤ちゃんみたいに甘えてきて、わたしも胸が温かくなったの」
続けて、彼女は少し声を落とした。
「そのまま対面座位で繋がって、ずっと抱き合ったまま、ゆっくりと腰を動かして……たくさん出させてあげた」
腰を洗い、太ももの内側を丁寧に広げて秘部へとスポンジを滑らせ、泡で包み込むように洗う。
「最後はまたぎゅっと抱きしめて、背中を優しくさすりながら、よく頑張ったねって……たくさん頭を撫でてあげたの」
「それは良い仕事をしたね」
「うん、お客さん、最後に、『ありがとう、今日来て本当によかった』って、涙を浮かべて言ってた……」
そのお客さんがアンドロイドと抱き合った時、たとえそれが、人間ではないアンドロイドによる機械的な排熱でしかないのだとしても、彼はそこに「人間」的な温もりを感じたのだろう。
「さて、体は洗い終わったから次は内部の掃除だね。一旦下半身の接続を切ってくれるかな」
「はーい、優しくしてね♡」
アンドロイドのへそや、首、四肢の境目の皮膚には人間の目には見えない線があって、そこで体を分解することができる。
僕はアンドロイドの上半身を抱き上げて、敷いたタオルの上に置くと、むき出しになった腹部の断面から膣まで繋がっているオナホールを引き抜いた。
表面の汚れを流した後、裏返して精液のへばりついたヒダを洗剤でごしごし洗う。
洗い終わったら表と裏をタオルで拭いて、UVライトを当てたら、ベビーパウダーを塗して、最後に珪藻土スティックを挿し込んで終了。
乾くまで使えないので、清掃カートから新しいオナホールを持ってきて、アンドロイドの下半身に装着した。
このようにアンドロイドは性交後に膣ごと交換することになっているので、そういう種類のオナホールを持ってくれば、簡単に処女膜を再生することだってできるのだ。
もっと言えば、手足も交換可能だし、顔だってその時のトレンドに合わせて変えることがある。
今日はフェラチオをしていないのでやらないが、喉の清掃は首を外して行われるわけだしね。
すごいことだよ。
「繋げ直すよ」
「あれ、もう終わったんだ。はやいねー」
僕はアンドロイドの上半身を持ち上げて、下半身と接続した。
「よし、交換終わり。どこか調子の悪いところない?」
「あー、左手の小指の動きがちょっと悪いかな」
「まぁ、よく使うからね。店長に言って交換してもらえるようにしておくよ」
全身を拭き終え、仕上げにミストスプレーを吹きかけてあげると、彼女は満足そうに微笑んだ。
「あースッキリした! また次もよろしくね♡」
「はい、お疲れさま。次のお客さんが来るまでに着替えと充電を済ませておいてね」
彼女がガウンを羽織って部屋を出て行った後、僕はバスルームとベッドルームの最終チェックを行う。
「303号室、清掃終わりました」
「あいおつかれー、今のうちに休憩とっちゃって」
「りょかいでーす」
……そういう意味ではアンドロイドにとって性交とは何なのだろう。
頭があり、手足があり、膣があり、それは独立した部品でしかない。
それはセックスをしていると、いえるのだろうか?
さらに言えば、客が涙を流すほど優しい彼女を彼女足らしめている部品はどれなのだろう。
人工皮膚の温もり、CPU、記憶媒体、人工知能。
その全てが交換可能で、定期的にリセットされる。
「ま、どうでもいいか、そんなこと」
僕は清掃カートを押しながら、静かに部屋を後にした。