私、ずっと見てるから。
「な、なぁ…、葵ちゃん?ホンマに一人暮らししてまうん?」
「…なぁに今更言ってんのさ。大学も地味に遠かったから仕方ないってお父さん達説得してくれたのはお姉ちゃんでしょ?そりゃ、少しは寂しさもあるけどさ…」
「ぐ、ぐぬぬ…。で、でも寂しかったらいつでも帰ってきてくれていいからな!?うちもオトンもオカンもいつでも歓迎するから!」
「…ふふっ。そんな、地方どころか県も跨がないんだからいつでも帰って来るって。まぁ、一人暮らしが楽しすぎたらわからないけど、それでも多分ちょくちょく帰ってくるからさ。あ、でも寂しいからって勝手に私の部屋に入り込まないでよ?」
「う、うん!頑張る!」
「頑張るって…。まぁ、いいや。じゃ、行ってきます」
「うん、気をつけてな?」
その言葉を残して私は家を出る。お姉ちゃんは相変わらず心配性な上にシスコンで困ってしまうけど、相変わらず可愛らしいものだ。そんなお姉ちゃんを残して家を出るというのも気が引けてしまうけれど、どうかお姉ちゃんには許してもらいたい。いや、許されないかもしれないから、せめて気付かないでほしい。私の浅ましい欲望になど。
「…ふぅ。買い物って結構大変なんだな…」
引っ越しの準備は昨日に終わらせていたから、今日は食材の買い足しぐらいで済んでしまった。とはいっても、駅までのバスと新幹線を一つだけで辿り着いた駅近くの好立地のマンションは、その代わりに近場のスーパーはお高いところが多くて少々困ってしまった。少し迷って足を伸ばした安さが売りのスーパーで買い物を済まして階段を上る。一番上の階を選んだのは失敗だったかもしれないと思ったところで、廊下から見えた景色に少し心を奪われた。
「へぇ…。選んだ理由の割には、結構いいとこじゃん」
家を早く出てしまいたくて部屋自体に特に頓着しなかった私よりもずっと熱心に不動産情報を眺めていたお姉ちゃんに改めて感謝する。明日からは大学に行く時間もそれほど考えなくて済むし本当にお姉ちゃん様様だ。そんなお姉ちゃんを今日からじっくり“愛せる”のだから本当に引っ越ししてきてよかったな。
「…お、開いた。じゃ、お邪魔します?じゃないか、ただいまー?…うん、まだ慣れないね」
初めて一人で入った私の新居は、埃一つない昨日見たままの景色で出迎えてくれた。そんな彼らを労りたくて挨拶を何か考えるけどあまりいい物は浮かばなかった。まぁ、明日から考えればいいか。そう考えながら、入ってすぐの玄関兼用のキッチンで冷蔵庫に買ったものを入れると、私はすぐにパソコンに向かう。入学祝に買ってもらったちょっとお高めのパソコンは、一昨日ぶりに軽快な起動音で私を迎えてくれた。おはよう相棒、この新居でもよろしく頼むよ。そうして起き上った彼の開いたウィンドウの中から今までも、そして今日から恐らくもっと多く開くことになるフォルダをクリックして、その中から“お気に入り”のアプリを開く。
『…んあー、オカン。葵ちゃん、いつ帰って来るやろ?』
『今日行ったんやからそんなすぐ帰ってくるわけないやろ…。さっさと夕飯の準備手伝わんかい』
『うーい』
映し出されたのは自宅のリビングキッチンの様子。お姉ちゃんへの愛が抑えきれなくなってついでに期間バイトでお金に余裕もあった昨年の年末から実家暮らししていた昨日までに至るまで、そしてこれからもお世話になるだろう隠しカメラに映った景色に心躍りそうになる。これからは私という異物も入り込まないし、よりお姉ちゃんフォルダを潤わせてくれることだろう。
そわそわとしながらスマートフォンを弄るのをお母さんに咎められるお姉ちゃんの姿に思わず苦笑が漏れる。相変わらず気分に流されやすいんだから。でもその気分の要因が自分だと思うと、途端にその気分屋で流されやすいお姉ちゃんの弱点が愛しいものに見えてくるから不思議だ。まぁ、そんなピンポイントで可愛いことされなくても、お姉ちゃんは全てが愛おしいのだけれど。
『んぁー…、オトンも帰ってきてないしなぁ。夕飯寂しいわぁ…』
『んなこと言われても、これから毎日こうなんやで?早う慣れぇや』
『なんで、オカンはそんなに平気なん…?葵ちゃんいないんやで?』
『オトンが単身赴任してるときに嫌でも慣れたわ。それに、どうせ近いうちに寂しくなって帰って来るやろ。それまで少し寂しいだけや』
『うぅ、オカンが薄情や…』
『それに、そもそもいつまでも面倒見るんも大変なんやで?あんたも早く役所でいい人見つけて寿退社でもしたらどうや?』
『せやかて、ウチには葵ちゃんおるもん…。結婚するって約束したもん…』
『いつの話してんの!ほら、さっさと食べぇや!』
『うーい…』
相変わらず食事の時間だとか関係なく賑やかな家族だ。その中に自分がいないことに少しの寂しさを覚えるけれど、未だに私にご執心なお姉ちゃんに仄暗い悦びが湧き上がるのを感じる。あ、下着に違和感。一人暮らしになった途端これか。我ながら、盛りの付いた犬じゃないんだから。でも、欲情は私の理性を紙ぺらのお馬鹿さんにしてしまうから、私は誰にも見られない一人きりの聖域で初めての行為に移行してしまう。
「んっ…。あは…、もうびしょびしょだ…」
防音設備もちゃんとしているらしいこの部屋を選んでくれたのも、お姉ちゃんのナイス采配だと今更ながらに思う。多分、安っぽいAVの嘘っぽい大きな喘ぎ声ほど叫ばなければ自慰行為もそれほど咎められはしないだろう。これからはお楽しみの時間だ。
「はぁ…、おねえ、ちゃん…」
それにしても、だ。私がお姉ちゃんのことを大好きなのは自覚していたけれど、その好意の大きさは私の想像を優に超えていたらしい。誰にも見られない、我慢しなくていいと分かった瞬間に、私のお姉ちゃんへの欲求は爆発してこうも私の身体を昂らせているのだから。それとも、お姉ちゃんの声を聞くだけでここまで暴走してしまうほどの欲望を支配していた私の理性が余程強靭だったのだろうか。でも、なんにせよ。私はこの昂奮を乗りこなせるほど卓越した乗り手ではないのだ。今はこの波に吞まれながら快楽の海に溺れよう。
「んっ…、ふ、ぅ、うう…っ!」
いつの間にか上半身に身に纏っていた若干時季外れの重苦しいパーカーや特に誰にも見られないからと愛用しているスポーツブラ、果ては愛用のパンツやショーツに至るまでを床に放り去ってほぼほぼ全裸の私は、ご飯も食べ終えてお風呂の準備に取り掛かる、脱衣所でその滑らかな肌を見せつけるように気だるげに衣服を脱いでいくお姉ちゃんの様子を見て気を昂らせながら、その身体に手を這わせる。なぜか双子の筈のお姉ちゃんより幾分か小さな胸を揉みしだきその中心を弾く。
「ひゃぅん…っ!?」
口から零れ出そうになる嬌声を気持ち我慢しながらも私の手は止まることを知らない。胸に回していない方の手は気付けば脚の付け根に伸ばされていて、既に濡れそぼっていた私の秘孔に滑り入り、抉り、差し貫く。純潔などお姉ちゃんを思って毎日猿のように盛っていた高校生時代に破ってしまったから今更どうという心配はない。思うままに指を暴れさせて、私の膣内を削り取っていく。そうすれば、限界などすぐに訪れた。
「おねえ、ちゃ…!ん、ぅ、うぅぅぅうっ!!」
辛うじて抑えた声が部屋に虚しく響き、私のこの部屋で初めての絶頂はあっけなく終わりを迎えた。はぁはぁと零れる吐息はいつもよりは大きいが、それほど実家暮らしをしているときとは代わり映えしない。それよりも、この絶頂をいつでも自由に堪能できると幸せを噛み締めようとしたところで、
「…あ、掃除…」
ふと現実に戻れば、辛うじてパソコンにはかかっていないもののテーブルに雫が乗るまで噴いてしまった愛汁。当然そこまで濡れていれば椅子など流れ落ちた露で座布団までぐっしょりで。明日の講義が午後からで本当によかった。どれ程防音設備がしっかりしていても、この時間からの洗濯機は許されないだろうから。こういうところの面倒さは一人暮らしならではだなぁとよく分からない感慨を覚えて、椅子やデスクの掃除に洗濯機に放り込む前の下洗い、その後に自分の身体を洗い終える頃には、意識の殆どが心地よい虚脱感に襲われた。雑に開いた本当はまだ少し飲むには早い缶チューハイも飲み終えぬまま、夕飯など一口も食べぬままにその思考を彼方まで飛ばして私はベッドに沈んでしまった。
***
「んぁ…。あら、寝ちゃってた…?」
起き上った私を出迎えたのは、一瞬私のものでないと誤認してしまいそうになるまだまだ見慣れない部屋。パソコンは暗い画面に蛍のような青白い光の粒がふよふよと浮いていて、まだパソコンが電源から解放されておらずただ寝ているだけであるを知らせていた。ヘッドボードに置いた缶チューハイも中身が入ったままで、早速自堕落を決め込んでいる自分に思わず苦笑してしまう。それはそれとして、今やるべきことがあるではないかと私の頭は身体をパソコンの前に連れていく。さてさて、昨日のお姉ちゃんはどう一夜を過ごしたのだろうか。私を恋しく思って自分を慰めたりなどしていないだろうか。そんな淡い期待を抱きながらパソコンを起こして画面を開く。既に八時を少し過ぎた辺り、当然役場勤めのお姉ちゃんは既に出勤済みでその姿は見えない。そういうわけで一旦撮影をストップして昨晩の録画データの時間の映像を遡っていく。そこで違和感を覚える。昨日お風呂に入ったはずなのに朝シャワーを浴びるお姉ちゃんの姿。焦ったようにどこからか部屋に戻ってきて着替えを取る姿。何より、本来のお姉ちゃんの部屋に寝ているはずのお姉ちゃんがいないことが私のもしかしてを加速させる。そうして、何かの間違いという甘い期待を抱きながらカメラを仕掛けた自分の部屋を映し出す。そこに映っていたものに私は思わず言葉を失った。
『んぁ…っ!ふ…っ、あ、あおい、ちゃぁ…、んっ!ぁ、あおいちゃぁ…!』
「…っ!」
私の部屋、昨日まで私の寝ていた、私の匂いで充満されているはずのベッドに身体を預けて、私の頭をずっと受け止めてくれていたベッドに顔を沈めて呼吸を荒くしながら、自分の濡れそぼった秘所に指を埋めて切ない声を漏らすお姉ちゃんの姿。これまでも何度かお姉ちゃんが私の名前を呼びながらシている姿は見ていたけれど、まさか私がいなくなった途端にこんなに我慢できなくなっちゃったの?ここで問いたい。この世界で一番好きな人が自分を想いながら自慰行為に勤しむ姿を見て、欲求を抑えられる人間がこの世界にどれほどいるだろうか。少なくとも、私はそんなこと出来るはずもない。
『い、イ、てまう…!イってまうよ、イってまうの、あおいちゃ…!』
「…うん、大丈夫だよね」
辛うじて残った理性的な部分が今日の私の予定を組み立てる。今はまだ八時三十分の少し前。今から一回二回欲望に溺れたところで、シャワーから洗濯、昼ご飯の時間まで確保できるだろう。…確保できるはずだ、うん。何かあれば、未来の私に丸投げしてしまおう。そう決めて、充電を求めるスマートフォンへの給電と汚れ防止兼掃除用のタオルを取りに行くために椅子から立ち上がった。
***
『ん…っ!は、ぁ…!お、おねえちゃ…っ!』
髪で隠れながら片耳を支配するワイヤレスホンから聞こえてくる葵ちゃんの嬌声はその声を響かせていくばかりで収まる気配を知らない。幾ら初めての引っ越しで気分が乗っているところに餌を与え過ぎたといっても、ここまで乱れるとは予想外過ぎてウチの熱は高まるばかりだ。新卒から1年そこらしか経っていないひよっこの立場はこういう時に不便である。適当な言い訳をしてトイレに駆け込めないかときょろきょろと視線を彷徨わせて、
「あ、琴葉くん?今手が空いてるんやったら書類持ってってくれへん?結構あるから申し訳ないんやけれどさ」
「あ、ええですよ?ついでにトイレ行きたいと思ってたんで、一緒に済ませてきてもええですか?」
「んぅ?腹調子悪いんか?そなら、この量は少し多いから別の誰かと一緒に…」
「あ、じゃあ私が手伝いますよ?」
「おぉ、結月くん。それじゃ、二人でよろしく」
「はーい」
「分かりました」
渡りに船とばかりに、頼みを受け入れて課長の座席の上に乗っかていたそれなりに高い書類を抱えて、一年先輩のゆかりさんと並んで目的の総務課を目指す。零れそうな蜜を堪えるために隠すように脚を閉じて歩く様子は、多少は腹痛の言い訳に使えるのではないだろうか、と今更ながら思った。本当は腹痛などではなくて自分を慰めるためなのだけれど。我ながらとんだ不良公務員である。
「…その様子だと、上手くいったみたいじゃないですか。スマートフォン、ちらちらどころじゃなく見ちゃってまぁ」
「んぇ?何の話?」
「こんな話、耳を貸す人なんて誰もいないですよ。隠す必要ないでしょう?」
「はは、やっぱりゆかりさんにはお見通しかぁ」
水音に気を付けて歩いているとゆかりさんが隣から冷え切った調子で話しかけてくる。それをいつもの様に受け流せば呆れたような溜息を付いた。自分達の姉妹関係を面倒くさいものに変えた上に自分達よりよっぽど拗れた偏愛をあかりちゃんに向けている癖に。
「…誰が監視カメラの件教えたと思ってるんですか。姉妹揃って、相変わらず盛ってるんですか?」
「言い方ぁ。…まぁ、仕方ないんやけどさ。葵はうちが寂しくしてると思っただけでおっ始めよったし、寂しくなって自慰してるって餌撒いたらあっさり引っかかって今もお盛んしてるところやよ」
「それで姉の方は、そんな妹をオカズに勤務中に一発、ですか…。全く、とんだ姉妹ですね」
「はは、すまんな」
「まぁ、半分くらいは私の責任なのでいいですよ。しかし、葵ちゃんの部屋にカメラなんていつ仕掛けたんですか?」
「そんなん大家さんとこに挨拶行ってる最中にさらっとよ。十分もあれば葵ちゃんの部屋に、脱衣所とお風呂場くらいには余裕よ。ほら、ウチ器用やし」
「…はぁ。そんなとこで無駄に長所活かさなくてもいいのに」
「まぁええやん。あ、すんませーん。総務課の高橋課長に書類を持ってきましたー」
関心半分呆れ半分といった調子のゆかりさんの視線を受け止めながら、それを華麗に躱して総務課に入っていく。用事は一分かかるかかからないか程の時間で終わり、後はウチはトイレに行って事を済ませるだけだった。
「そんなら、ウチはささっとお楽しみ済ましてくるさかい適当に誤魔化してくれへん?葵ちゃん経由であかりちゃんの可愛い写真とか用意するからさ。それも隠し撮りとかでは見られへんようなやつも沢山な?」
「…仕方ないですね。沢山お願いしますよ?」
「ははっ。分かっとるって」
“仕事や勉学第一で少し冷たい印象があるけど、ぶっきらぼうなだけで本当は優しく思慮深い先輩”というあかりちゃんの理想像を演じきった手前、気軽にあかりちゃんと遊べなくなってしまった少し情けない努力の仕方を間違えがちな先輩の背を見送って、ウチは書類を運ぶ最中も耳を犯し続ける世界で一番可愛い妹のせいで轟轟と燃え盛った淫熱を治めるべく女子トイレに向かうのだった。