元教え子の「俺」が慧音先生を性的に見て、自己嫌悪する話です。
注意①エロくないです
注意②口汚いです
注意③エロくないです

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音読

ヘロドトスとかいう大昔の歴史家が書いた本を携えて上白沢慧音の自宅兼寺子屋へ向かった。

夏だ。言うまでもなく、天気はきちがいのように晴れていて、遠くの方の青臭そうな山々もくっきりと見える。

本の内容は分からない。数ページだけ読んだが、飽きてしまい、覚えてすらいない。そりゃ当然だ。俺が本を借りた理由は知識欲を満たすためではなく、あの慧音とかいう女と未だに関わるためなのだから。

 

慧音は俺の先生だった。8年くらい前までは、あのガキ臭い教室で授業を受けていたってんだから驚くよ。いまは二十歳だが、なんだか俺の人生は狂っちまっている気がする。上機嫌なお天道様をきちがいだの言うなんて罰当たりだ。そんなことを考えて顕界じゃなくって冥界に片足を突っ込んだような気分でいるといつの間にか寺子屋の前についていた。

 

ああ、苦手な女が居た。いや、俺は女なんてもんはみんな苦手だが。寺子屋の前の花壇に水をやっていた藤原妹紅が、俺に気付いた。

「こんにちは。また不要なものを借りて返す無為なことをしているのかい?」

「不要なもの? 言っている意味が分かりかねる。これは必要だから借りたに過ぎない」

「そうかい。なら慧音に感想を問われたって問題ないだろう。私もその場面を見物したいねぇ」

「別に構わない」

妹紅はなんだか得体の知れないところのある女だ。俺は妹紅に対して割に砕けた口調で話していたが、それはきっと慧音の寺子屋を卒業した人間ならみんなそうだろう。数年間掛けてじっくりと親しくなるのだから。とは言え、俺はずっと前から妹紅が苦手だった。女だからだ。

 

妹紅と肩を並べて屋内に入ると、なんだか妹紅に親しみを覚えそうになったが、それは明白なる勘違いだ。彼女の白い長髪から薫るほのかなお香の匂いに欲情しかけた。性欲が有り余っているな。馬鹿者め。

ほとんどの筆子たちは帰っていたが、一人だけ、いがぐり頭の小僧が残っていて、慧音が小僧の背丈に合わせてかがみ、何かを話していた。小僧が、慧音の作成した悪問まみれの試験をねじ伏せたようだ。それを見事だと言っている。慧音は小僧の頭を撫でていた。それを見てクソッタレの記憶を引き出されてしまった。

 

* *

 

まだここに通っていた頃に、奇怪な出来事が起こって、博麗の巫女と白黒の魔女が来たことがある。

その二人の女ははっきり言って俺の初恋を奪ったといってよかった。凛とした声、色白の肌、整然とした衣装。それらだけじゃない。俺の人生とはおよそかけ離れていそうな、妖怪の世界と関わっていそうなにおいがきっと脳を、心を犯したのだろう。俺は物陰に隠れて、二人がクソガキどもに話を聞いているのを見ていた。すると、俺に意地悪ばっかりしてくるクソッタレのクソガキが、あの博麗の女に頭を撫でられているのが見えた。俺は、あんなクソガキとは違って心底優しいのに。慧音先生だって俺の優しさを褒めてくれたことがあるのに。なんであんなクソガキが。俺はなんだってあの輪に混じれないのか。

 

* *

 

そんな糞みそのことを思い出しながら、かがんだことで強調された慧音の臀部の曲線にふと目が行っている自分に気付き、隣の胡散臭い女に気付かれる前にわざとそらした。すると、そのそらし方が如何にも不自然だったようで、妹紅は「どうかしたのか」ときつい視線を向けてきた。

 

慧音は小僧を思う存分にほめそやして帰し、俺は慧音に本を返した。妹紅が「慧音、こいつに本の感想は聞かなくていいのか」と言うので、俺は慧音の口が動く前に「感想って言うとね、古典は素晴らしいなというのが全てだ」と最低レベルの言葉を並べて牽制した。慧音は、「ああ、そうだな。だが、もっと具体的に言ってくれると先生は嬉しいなあ」と困り眉をしていた。俺はこの困り眉を目に焼き付け、帰宅した。

 

* *

 

手淫だった。小汚く勃起した陰茎を利き手ではないほうの手で握って、ぎこちなく上下にしごく。脳内の慧音は、「しょうがないなあ。今回だけだぞ」とあの困り眉をしながら俺のことを気持ちよくしてくれていた。今回だけが、何回も続いていた。

 

* *

 

クソッタレの円環構造を繰り返す中で、さすがに俺にも罪悪感が湧いてきた。あの善良な女を自慰行為のネタにするためだけに本を読むふりをし続けるなど、どう考えたって、俺が慧音で自慰して打ち棄てる精液未満の糞だ。話は簡単だ。読んで理解すればいいのである。が、はっきり言って俺には読解力というものが無いし、理解力にも乏しいようだ。最悪の知性だ。

糞詰まりが堪らぬ。便秘ってわけじゃない。精神的な糞詰まりだ。しょうがないから、すべての下らない誇りを一瞬だけ捨て去って、誠実に、上白沢慧音に真実を打ち明けてしまおうではないかと決心し、寺子屋へ向かった。

そんな風に考えていたが、結局、口から出たのはこんな言葉だった。

 

* *

 

「私は今まで先生から何冊もの本を借りてきたが、実はそれらのうちほとんどを読めていなかった。これは興味がないというわけではないんです。本当に興味が無かったら、借りすらしないと思いますから。でも私は読めなかったんです。理解できなかったし、知らないことも多かったし、全然ダメだったんです。だから先生、今まで読めもしなかったのに借りて申し訳なかったです。本当に読みたいとは思うんです。どうすればいいですか、お願いします、先生」

 

* *

 

話を聞き終えると、慧音は「わかりました」と向き直り、「では、音読から始めましょう」と言った。

 

寺子屋は休み時間で、筆子たちが庭で遊んでいる。縁側の向こうで何人かの童が花を摘むか、虫でも捕まえているようだった。

 

筆子たちの声は聞こえてくるが、部屋の中は静かだった。慧音の可憐な声に続いて、鈍重な私の声がそれを反復する。一節を声に出して読み終えると、意味がすんなりと理解できて驚いた。「声に出してみれば案外簡単なんですよ」と慧音が優しい声で言った。私は慧音に「ありがとうございます。これでやっと本当に本が読める気がしてきました」とお礼を述べた。

 

そのとき、ちょうど、縁側に女児が駆け寄ってくると、「慧音先生、お花あげる」と言って、綺麗な黄色の花を慧音に差し出した。慧音は「ありがとう」と言って笑った。それを見ている私に、不意に男児が「おにーさん、これ見て」と、手の甲にくっついた赤いテントウムシを見せてきた。私は男児のいがぐり頭を撫でた。こんなに子供の頭は小さいのかと思った。右手に感じた、とがった短髪の感触を、私は忘れられずにいる。

 

* *

 

だから俺は、今でも左手でシコるようにしているのだ。


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