俺の性癖のせいで淫魔が支配する貞操逆転異世界で、自分をボコボコにした強い女たちが奴隷になるチートスキルでハーレムができてた 作:ショムカオルコ
「俺が死んだら、いかなる状況だろうと必ず自害しろ。この命令は二度と解くことはない」
俺の言葉が森に静かに響く。
ミレイは地面に頬をつけたまま、俺をにらみつけていた。
ケルビナさんは一瞬、眉をひそめたが静観したまま。
そして、この場でももっとも大きな反応を示したのは、意外なことにセルフィアだった。
彼女は目を見開き、ミレイを食い入るように観察していた。
◆
セルフィアがこの森に現着したことが判明した後、俺はミレイにプランを説明した。
『超ざっくり言うと、ダーリンの魔術で私が完全に制御下にあるってことを、実演して見せつけるってこと?』
『そう。これならミレイは俺がいる限り無力であるということ、俺の淫魔に対する有用性を同時に示すことができる』
ミレイの頭の回転が回転が速いのか、対セルフィアのプランは思った以上にスムーズに決まった。
『ただ一個、問題がある』
ミレイが黙って先を促す。
『実は俺は自分の魔術のことを正確には分かってない。なんなら完全に使いこなせてない』
ミレイが露骨にうんざりした顔を作る。
『今、知りたい情報じゃなかったね。じゃあもしかすると事故があるかもしれないってこと?』
『そうだ。命令の術は、オンオフの切り替えが正確にできない時がある』
マオとの行為中も、本当に命令が解除できたか分からない瞬間があったし、実際に俺の意思とは関係なく『絶対命令』が発動してしまう時があった。
場合によっては俺の思惑とズレて発動することさえある。
『一歩間違ったらダーリンの命令が、私を一生縛る呪いになっちゃうってわけね』
先ほどまでは鳴りを潜めていた魔物たちの気配が、少しずつ強くなるのを感じた。
ミレイの言うことはこの場合、大げさではない。
しかも相手の出方が分からない以上、現状の俺が考えられる最上の計画も崩れる可能性がある。
『でも、セルフィアには私を助ける理由はなんて説明するつもり?』
『いずれは旅に出るつもりだから、その時に用心棒として仕えるパートナーが欲しい、とでも言うさ』
『相手がその理由で納得しなかったら?』
『その時に考える。現時点ではこれが俺に浮かぶ最上のアイディアだ』
『本当にぶっつけ本番ってわけだ。でも、いいわけ?』
『なにが?』
『それ、場合によってはそっちも綱渡りになるかもよ』
ミレイの言いたいことは、俺にも理解できた。
一個人が淫魔の能力を私利私欲で使おうとしていること。
俺にそれを実行する力があること。
何より、それらの事実が相手にバレること。
この世界で淫魔を倒せる俺がどんな扱いを受けるのか、それは未知のことだった。
俺は俺でリスクがないわけじゃない。
『それでお前が助かるならいいさ』
『あっそ。まっ、それじゃあ面白おかしく最後まで行こっか、ダーリン』
俺はこの時、ミレイには説明していないことがあった。
というより、説明するかどうか迷った末、伝えない方がいいと判断した。
俺の『絶対命令』には呆れるほど単純な抜け道がある。
しかし、これから俺が相対するのはこのミレイが戦うことを放棄するほどの存在だ。
生半可な覚悟で挑めば確実に足元をすくわれる。
腹の奥が冷えるような暗い感情を抱えながら、それを悟られないように俺はことさら大きな声で答えた。
『そうこなくっちゃな、ハニー』
◆
「以上です。他に何か試してほしいことはありますか?」
俺はその場にいたケルビナさんとセルフィアの二人を改めて見据えた。
俺の質問に対し、誰も何も言わなかった。
自害しろ、という命令を下されたミレイさえ相変わらず黙ったままだ。
心臓の鼓動がうるさく感じる。
こめかみを伝う汗の音さえ聞こえてきそうな静寂。
耳が疼くほどに静かな森の中で、口を開きたくなる誘惑に必死に抗い、息を殺してセルフィアの返答を待つ。
「分かりました」
長い沈黙のあと、やっとセルフィアが薄い唇を開いた。
「あなたの力を本物と認めます。条件付き、それも話し合いの場を設け、より細かい調整をした上であれば、あなたの要求を呑んでもいい」
即座に切り返そうとして、口の中が干からびたように乾いていることに気づく。
「ミレイの安全性は保障された。そう解釈して良いですか?」
「この淫魔が浅ましい企みをしなければ、あなたの不安も杞憂に終わるでしょう」
セルフィアの黄金の瞳には、すでに感情の色は微塵もなかった。
やっとセルフィアから聞きたかった言葉を引き出せた。
だが、俺の鼓動はむしろ速くなる一方だった。
ましてこの女を前にして一息つくことなど、今の俺には到底無理だった。
「アキト。遠からず、またあなたとは顔を合わせることになるでしょう」
普段の俺なら何かしらの返答をするが、脳が軋んだかのように言葉を弾きだしてくれないせいで、ただ頷くことしかできなかった。
それだけ言うと、セルフィアは黄金の髪を翻して森の出口へと一人で向かった。
現れた時とは打って変わり、あまりにも味気ない退場だった。
「ただ、この場ですぐ解放ってわけにはいかないけどね。確認しなければいけないこともあるし、ミレイちゃんの身柄は一時的に拘束させてもらうわ」
しばらくしてケルビナさんが淡々とそう付け加えて、まだ地面で寝そべっているミレイを一瞥した。
「当然だと思います。俺としてもそのほうが二つの意味で安心です」
額をぐっしょりと濡らす汗を拭って、俺はやっとそう答えた。
浅く乱れた呼吸を無理やり整える。
俺はただ喋っていただけなのに、かつてないほどの疲労を覚えていた。
「私にも色々と言いたいことや聞きたいことがあるだろうけど、先に一個聞いてもいいかしら?」
「答えられることでしたら」
「どうして私が今回、キミにこの仕事を頼んだか分かる?」
「あの酒場であなたに俺を雇うメリットを聞かれた時、俺が真っ先に淫魔を倒せるってことを話さなかったからでしょ? 違いますか?」
俺がそう言うと、ケルビナさんは首を横に振った。
「アキトさんなら答えにはたどり着けるだろうとは思ってたけど、即答されるとは思ってなかったわ」
彼女に最初にメリットを聞かれた時、俺は淫魔を倒せることは伏せた。
べつに出し惜しみしたわけじゃない。
ただチートスキルがあっても、淫魔を100%倒せる保証はない。
何より深堀りされた時、マオが淫魔化していたという事実を漏らす可能性も0ではないと思ったのだ。
なんてことはない。俺には覚悟がなかった――ケルビナさんにあの言葉を言われるまでは。
『私が聞いてるのはアキトさん——あなたという一個人を雇うメリットよ』
あの言葉が俺に気づかせてくれた。俺に覚悟をくれた。
ケルビナさんは引きつれていた部下に席を外させてから、俺に頭を下げた。
「ごめんなさい。アキトさんからしたら何を言っても言い訳にしかならないけど、危険な目に合わせて」
「べつに。もう済んだことですし」
んなわけあるか、ボケがぁ!!
冷静に考えたら裁判沙汰どころの騒ぎじゃねえぞ!!
……と、内心では思っていたが、俺は男として、一人の人間としてカッコつけるためにあえて大人の対応をした。
「じゃあもしよかったら今度何かご馳走してくださいよ、美味しいお酒が飲める店で」
俺が笑って言うと、ケルビナさんは嬉しそうに目を細めた。
「やっぱりキミはすごくイイ男ね」
以前よりもずっとその声に感情がこもっているような気がして、俺は一瞬で頬が緩むのを感じた。
「アキトさんがイイ男でよかったわね」
ケルビナさんがそう呼びかけると、ミレイはようやく身体を起こして立ち上がった。
ミレイは頬に着いた土を拭って、俺にだけ分かるようにウインクしてみせた。
そう、コイツはこの場にいる誰よりもタフで――誰よりも頭も回った。
俺はセルフィアとケルビナさんを信用させるため、そして、真実味を演出するため、あえてミレイには説明していないことがあった。
俺の絶対命令には実に簡単な抜け道がある。
それは発動には相手の名前を呼ぶ必要がある、ということだ。
『俺が死んだら、いかなる状況だろうと必ず自害しろ。この命令は二度と解くことはない』
ミレイに命令をした時、俺はコイツの名前を口にしなかった。
これこそが俺にとってもミレイにとっても最大の綱渡りだった。
そして、ミレイは全てを見抜いた上で全力で道化を演じみせた。
俺はミレイが自分の意図を汲み取っていたことに安堵しつつも、それをケルビナさんに悟られてはいけないと唇を引き締めようとして、結果的に変な顔になってしまった。
「そんなことは言われなくても知ってるって」
そんなマヌケな俺の腕に自分のそれを絡めて、ミレイは勝ち誇るように笑った。
それは今日見た中で、一番自然体で、一番魅力的な笑顔だった。
「最高なんだから——私のダーリンは」
◆
「ミレイ」
その後、ミレイはセルフィアの部下と思わしき人たちに連れられ、馬車のような乗り物に乗ろうとしていた。
しばらくミレイはセルフィアが所属する組織で預かることになった。
詳細は何も教えてもらってないが、ケルビナさんが『安心して。セルフィアは約束を違えることはないわ』とだけ忠告してくれた。
そんなミレイの背中に俺は声をかけた。
ミレイが背を向けたまま立ち止まる。
しかし、俺は呼び止めておいて続きの言葉を考えていなかった。
何かを言わなきゃいけないという思いだけが先行しすぎていた。
ミレイが一言二言、自分の両脇にいた女性たちに何かを言ってから、俺を振り返った。
さっきと違い、ミレイは笑っていなかった。
「……私、ダーリンのせいで死ぬかもしれないんだよね」
急に何を言い出すんだ、と思ったらミレイは絶対命令のことを言っているようだ。
いや、まあたしかに俺のスキルは不安定なので、俺が死んだら本当にミレイも一緒に死ぬ、という可能性は0とは言い切れないが。
なぜここにきてお互いに不安になることを言うのだろうか?
やっぱりミレイは性格が悪いのか?
「私、自分以外の誰かのせいで死ぬなんてまっぴらごめん」
ミレイが俺の目をまっすぐ見据えて宣言した。
「だから——死んだら絶対に許さないから」
俺は少しだけポカンとしてから、ようやくその言葉の意図に気づいて思わず口元を緩めた。
つくづく思い知らされる。ミレイは俺よりもよっぽど覚悟が決まっていたのだと。
「……お前こそ、せいぜいイイ子で待ってろよ」
俺がそう言い返すとミレイは深くうなずいた。
「今度はベッドの上で抱かれてあげるねぇ、ダーリン♡」
ぶりっ子モードでそんなことを言って、その場の空気をぶち壊すのだった。
まったく、コイツは……!
ミレイは最後にしたり顔を浮かべると、俺に背を向けた。
彼女はもう振り返らなかった。
◆
「帰って来てたのね」
死ぬほどしんどい思いをして依頼を終えた頃には、すっかり空も暗くなっていた。
宿に戻るとちょうどララが、俺とマオが借りている部屋から出て来るところだった。
「……なにやってんだよ?」
「換気よ。2人が帰ってくるのが遅かったから」
「そうか」
「……ずいぶん疲れた顔してるわね」
そりゃ疲れるに決まってんだろ、と今日あった出来事を一から百億まで説明したいところだったが、ケルビナさんから口止めされているため「初めての労働だったからな」とだけ返した。
しかし、なんとも気の抜けた会話である。
全身の力が抜けていくようだった。
まだあの森を抜けてそこまで時間が経過してないというのに、既になんだか遠い昔のことのようだった。
そこで俺はララに言うべき言葉を思い出した。
「あ、そうだ。ありがとな、ララの杖のおかげで本当に助かったよ」
実際、ララの杖がなかったら、俺はあの森でミレイに敗北していただろう。
仮にそうなっていたら、果たして今俺はこの場にいたんだろうか。
「そう、私の作品の理解者であるあなたの役に立ったのなら、それは重畳ね」
いや、俺はお前の作品の理解者ではないぞ、と普段なら突っ込むところだったが、今はそんな気力も湧かなかった。
「わるい、少し寝るわ」
俺はそのまま部屋に戻ってベッドについた。
シーツはほんのりと温かくて、身体が海水に浸ったように重くなった。
しかし、疲労で指一本動かすのも億劫なのに、なぜか眠ることができない。
死ぬほど疲れているのに眠れない夜ほどしんどいものはなかったが、こういう時にやれることは何もない。
俺はただ瞼を閉じ、眠気が来るのを待った。
「寝てんの?」
暗いままの部屋にマオの声が小さく響く。
俺は起きようとしたが、あえて眠ったふりをした。理由は特になかった。
マオが俺が眠っているベッドに腰かける。
「もうっ。今度こそ初仕事を祝おうと思ったのに」
瞼を閉じたままの俺には、マオの顔はもちろん見えなかったが、それでもどんな表情をしているかは容易に想像がついた。
少しの沈黙。窓から入ってくる風がまだ火照りの抜けない頬には気持よかった。
「……お疲れさま、アキト」
俺の頭を撫でる手はとても優しくて、酷く心地よかった。
ああ、ようやく帰ってきたんだな、と俺は思った。
この先、俺が行きつく先がどうなるかは分からない。
それでもこの世界で俺の人生は続いていく。
明日も、これから先もずっと。
そんなことを思いながら、俺はようやく眠りに落ちた。