『86―エイティシックス―』 慰霊碑で再会した夜に催された歓迎会でシンとレーナが抜け出しちゃうお話です(´艸`*) 7/18 ライデン目線のおまけ話『四人の追跡者』を追加しました♪

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これからは一緒に With You from Now On

 

 

 

「では、積もる話もあるでしょうから、今日この後は歓迎会を兼ねた食事会と洒落込む事にしましょう。レストランを予約してあります」

再会を喜び、決意を新たにする俺たちに、エルンストが嬉しさを隠しきれないような笑顔で声を掛ける。

「君たちは一度家に戻って着替えなさい。私が送る」

頷く俺たちを見てから、エルンストは彼女に向き直った。

「ミリーゼ大佐は今晩泊まるホテルへ私の部下がご案内させていただきます」

「分かりました」

「では18時にレストランで」

 

 

 

シンたちと別れてから、ヴェンツェル大佐の案内で宿泊先へと車で向かう。

「ミリーゼ大佐。今夜のレストラン、ドレスコードがあるのですが、そういうお召し物はお持ちですか?」

「そうですね……黒のワンピースならありますが」

志願した身ではあるが、軍服以外に必要になる事もあるかと一応ワンピースも荷物に詰め込んであった。ただ戦時下という時世に浮かれた気分にもなれず、色は黒だ。

「黒、ですか……」

ヴェンツェル大佐は頭の中で私に黒いワンピースを着せるように目をすがめてから、「よくない」と呟いた。

「え?」

「せっかくの再会なんですから、少し華やかにしてもよいのではありませんか? ホテル内の商業施設に衣料品を扱う店舗も入っていますから、今から選びに行きましょう。大丈夫、時間ならあります!」

「いえ、私は――」

タジタジとなりながらも断ろうとする私の言葉など耳に届かない様子で、目を輝かせたヴェンツェル大佐が運転している部下にテキパキと指示を飛ばす。

「ホテルに着いたら私とミリーゼ大佐は商業施設に向かいます。チェックインと荷物は任せますので後はお願いします」

 

 

 

「……なあ、シン。さすがにちょっと見過ぎじゃね?」

新たに編成された独立機動部隊に迎えた指揮官と親睦を深める為の食事会。

貸し切られたレストランに今日の主役であるミリーゼ大佐に俺たち五人、エルンスト、部隊に配置される数名が集まり、思い思いに談笑している。

あの日別れてから互いの身に起きた事を聞かせ合う女性陣の話に、聞くともなく耳を傾けていると、ライデンがコソッと声を掛けてきた。

「?」

何を言われているのか分からず、視線で疑問を投げる。

ライデンは「おいおい、まさかの無自覚かよ?」と苦笑した。

「大佐、だよ」

「ミリーゼ大佐がどうかしたのか?」

「さすがに見つめ過ぎだって言ってんだ」

「別に見つめてなんて――」

そう言いながら視線を戻した先に彼女がいて、さっきからずっと視界に捉えていた事にようやく気付く。

深紅のワンピースを纏った彼女から目を離す事ができなかった。

さっきから胸の中がふわふわとして身体が熱いのは、ステーキのソースに使われていたマデラ酒が利き過ぎていただけではないようだ。

「お前、ここに着いてからずっとだぞ」

呆れたようなライデンは、けれどなぜか少し嬉しそうだった。

そういえば時折ちらりとこちらを見たライデンとセオとアンジュがニヤニヤしたり、クレナがふくれっ面をしたりしていたが、どうやら俺の様子がおかしかったせいらしい。

ライデンがこちらに身体を寄せて、耳打ちした。

「……よし、シン。この店を出る時、俺がクレナたちを引き付けててやるから、お前、大佐を連れて抜け出せ」

「え、いや……」

「二人だけで話したい事があるんだろ」

「別に……」

「それとな、これは俺とセオからだ。さっきじゃんけんで負けたセオが抜け出して買ってきた」

押し付けられた紙袋を反射的に受け取ってしまい、突き返す事もできずに戸惑う。

中身は小さな箱のようで、軽い。

開けて中を確認しようとすると、慌てて止められた。

「バッカ、お前、こんなところで開けんな! いいか、中を見るのは一人の時――大佐と二人きりになった後、必ず一人で開けるんだぞ」

ライデンは念を押すと話の輪に戻っていき、俺は小さく息を吐いてグラスを空けた。

 

 

 

――さすがに疲れた……

何しろ今日ここに到着してその足で慰霊碑へ向かい、シンたちと再会したのだ。体力だけでなく感情が追い付いていない。

それでも彼らに再会できた事は、胸に明るい炎のような希望を灯してくれた。

食事会も滞りなく終わり、店を出たところで全員が出てくるのを待ちながら少しぼんやりとしていると、後ろから声を掛けられる。

「……大佐」

「シン? どうしました?」

そういえばシンとはあまり話せなかったと気付くと、彼に腕を引かれた。

「少しでいいので、話せませんか?」

「え? ですが――」

「あら、いいじゃない」

いつの間にか傍にいたヴェンツェル大佐が、両手を合わせる。酔っているのか目の縁が赤い。

「ノウゼン大尉、ホテルまでミリーゼ大佐のエスコートを命じます! ……さあ、二件目行くわよ!」

大佐がエーレンフリート准将他数名を引き連れて夜の街へと消えるのを見送り、二人で顔を見合わせてから、笑った。

シンが手を差し出す。

「上官から任されましたので、ホテルまでの道をエスコートさせていただきます」

「は、はい。お願いします」

私は手を取られるままに、レストランを後にした。

 

 

 

ミリーゼ大佐がここに来ると決まってからずっと、夢の中にいるようなどこか現実感のない日々だった。

会いたい。もうすぐ会える。そんな期待と同時に湧き上がる、“会うのが怖い”という相反する感情。

俺は本当に、彼女が追いかけてくれるような人間だろうか?

彼女は実際の俺を知って、幻滅したりしないだろうか?

そんな不安を潰すように過去と向き合い、準備してきた。

胸を張って、彼女と会う為に。

 

「……話がしたかったんです。二人だけで」

キョトンとした彼女が、ふふ、と笑う。

「そんなに焦らなくても、これからいくらでも時間は作れますよ?」

「いえ。誰か他の人間の口から聞かされる前に、俺から話したかったので」

 

 

「――ええ!? ではあの機体に乗っていたのは、あなただったのですか!?」

素直に驚く大佐に、つい笑みがこぼれそうになる。

「はい。助けてくださりありがとうございました」

ホテルまでの道を辿りながら、並んで歩く彼女にモルフォ討滅作戦時、すでに再会を果たしていた事を話した。

「それであの時、私を“少佐”と呼んだのですね」

得心いったという表情で頷く彼女の、月から静かに射す光のような髪が夜風に揺れる。

街の明かりを受けてキラキラと輝く銀色の髪と整った顔立ちの大佐にすれ違う誰もが見惚れて振り返ったが、中には不埒な視線もあり“隠してしまいたい”という自分でも説明のつかない感情が湧き上がった。

「……大佐、寒くはありませんか?」

「そうですね、昼間と比べるとやはり少し冷えますね」

「こちらを」

ジャケットを脱ぎ、彼女の肩に掛ける。

「シン?」

「あなたは少し目立ちますので」

「ああ、そうですね。このドレス、派手ですものね。“今日の主役だから、このくらい華やかな方がいい”とヴェンツェル大佐に薦められなければ自分では絶対に選ばないです」

自分の美しさに無自覚な彼女が、掛けられたジャケットをキュッと掴んではにかむように笑った。

「ありがとうございます、シン。とても温かいです」

ヴェンツェル大佐が何を考えてこのドレスを薦めたのか、イヤでも分かる。

あの再会の時、咲き乱れていた花々の色。

紅い絨毯のように辺りを覆い、初めて目にした彼女の姿と共に目に焼き付けられた色だ。

そしてあの時、俺は確かに彼女に救われた。

死地に追いやられた仲間たちの無念を背負い、生き切ったと自分を騙して心のどこかで死に場所を求めていた俺に、「これまで戦い、生き抜いた自分を誇っていい」と彼女は微笑んでくれた。

その言葉は、戦いの度に仲間を失い、置いていかれ残される事に疲弊し、その瞬間まで“死”こそが救いだった俺に、初めて“生きていてよかった”と思わせてくれた。

レギオンの襲来がなければ、きっと俺はあのままハッチを開け、熱情に任せて彼女を抱き締めていただろう。

「ですが、どうして名乗ってくれなかったのですか?」

「タイミングを逃してしまったので」

嘘ではないが、全てでもない。

けれど彼女は疑う事を知らないのか、「そうでしたね。レギオンが来て、すぐに連邦軍も来ましたし」と納得し、そんな様子に少し心配になった。

「……大佐、少しは人を疑ってください」

「え!? 私だってこれまで人間の醜い面をたくさん見てきているので、疑う事もありますよ!?」

「たった今、俺の言葉を鵜呑みにしたようでしたので」

「それはあなたの言葉だから――」

「……俺の、言葉だから……?」

思わず立ち止まってしまい、数歩進んでから気付いた大佐が振り返る。

「シン? どうしました?」

「大佐――…」

先程から感じていた熱っぽい気持ちのままに彼女の手を取ろうとした瞬間、物陰からこちらを伺う人影に気付いた。

「ッ!」

――三人……いや四人か

尾行の目的は不明だが、早いうちに撒いておいた方がいいだろう。

小さく溜め息を吐いてから、こちらが気付いていると気取られないよう、さりげなく歩き出す。

前を向いたまま彼女に話しかけた。

「大佐、振り返らずに聞いてください。尾行されています。いつでも走り出せるよう心構えしておいてください」

「え!? わ、分かりました。ですがヒールなので軍靴のようには走れませんよ?」

「ではどこか建物に入ってやり過ごしましょう。……次の角を左へ」

「ええ」

 

 

 

「あの……シン……」

道を曲がるとすぐに、尾行を撒く為に裏路地へと腕を引かれて物陰に身を隠した。

見つからないよう壁に押し付けられ、被さるようにシンの身体が密着する。

シンの――男のひとの匂いに、こんな時だというのに鼓動が速まるのを感じていると、「いない!?」「どこ行った!」と数人の人影が道を行き過ぎた。

「……行ったみたい、ですね」

すぐにシンは身体を離すと思ったのに、むしろ腕に力を込めて抱き締められ、戸惑う。

「シン……?」

「すみませんでした」

突然謝られ、更に困惑する。

「どうしたのですか? どうして謝るのですか?」

シンはしばらく答えなかったが、やがて小さくこぼした。

「俺はあの時あなたに、何の為に戦うのだと、死に急いでいるのか、それならいっそ戦わなければよかったのに、などと失礼を言いました」

「それは――」

「あれはあなたに向けるような言葉ではなかった――自分への嘲りの言葉だった」

彼の声がほんの少しだけ震える。

私が誰よりも優しくて強いと信じて疑わなかったひとがこぼした本音に、今、話をしなければいけないと感じた。

「シン、ゆっくりとでいい、話してください。ちゃんと聞きますから」

ポンポン、と背中に回した手で子供にしてあげるように優しく叩く。

「ライデンからも“あなたを頼む”と言われていますし」

 

 

それからホテルまでタクシーを使い、シンを部屋へと入れた。

身体が温まれば気持ちも少しは緩むかと思い、お茶を淹れて彼に飲ませる。

「落ち着きました?」

「……はい。すみません、部屋にまで上がってしまって」

「構いません」

「でもお疲れでは?」

「あなたたちに会えた高揚感で、今夜は眠れそうにありませんから」

向かいのソファに座り、急かさずに待っていると、やがてポツリとシンが話し始めた。

「……俺はずっと、本当は死に場所を求めていました。ついてきてくれる仲間の手前、“最後の瞬間まで諦めずに戦い抜こう”なんて格好をつけながら、その先に待っている“終わり”をずっと待ち望んでいた」

彼の話を静かに聞く。

これは懺悔だ。一緒に戦ってきたライデンたちには話す事ができない、心の内。

今、私にできるのは、彼の吐露する気持ちをただ受け止めてあげる事だ。

「あの時、俺は“死人を相手に何の義理が?”と聞きました」

「ええ」

「そしてあなたは、俺が欲しかった答えを示してくれた」

「答え?」

「そうです。終わりではなく“先”を――未来を」

微笑む彼の瞳がわずかに潤む。

「ありがとうございます。俺たちの言葉を信じ、折れずに戦い、そして生き抜いてくれて。あなたがこれまでずっと俺たちを忘れずにいてくれた事。いつか追いつき、共に戦いたいと、その先に俺たちを連れていきたいと追いかけてくれていた事。誇ってもいいのだと言ってくれた事。それがどれだけの救いだったか、言葉にできないくらい感謝しています」

「それを言うなら、私だって感謝しています。今、こうして生きてここにいられるのはあなたのおかげで、戦い抜く強さをくれたのもあなたなのですから」

彼も私も、悩み、葛藤し、背負い、戦ってきた。

シンはその能力と優しさのせいで、他よりもたくさんのものを背負ってきたのだ。

きっとライデンやセオ、クレナにアンジュたちはその重荷を少しでも軽くしてあげたいと、共に戦ってきたのだろう。

立ち上がり、彼の隣りに座った。

「これからは私も一緒に戦います。私も一緒に背負います」

共にありたいと心から思っている事を伝えたくて、瞳の奥を覗くようにしっかりと目線を合わせる――“一緒に”という言葉をようやく胸を張って言える今を、噛み締めながら。

「――――…」

シンが腕を伸ばし、私を抱き寄せた。

「シ、シン?」

今夜二度目の抱擁に、異性と部屋に二人きりなのだという事実に今更ながら気付いて、心臓が音を立て始める。

熱い――見つめられているだけでこちらにまでその熱が伝わってくるような、熱さを帯びた眼差し。

――綺麗な赤い瞳――…

目が離せずにいると、いつの間にか彼の顔がとても近くなっていた。

息がかかるほど近づき、そっと頬に手を添えられて、そのまま唇が重ねられる。

「あ、あの――シ―んっ――…」

まるで少しでも乱暴にすれば壊れてしまうと思っているような、優しいキス。

触れていないと消えてしまうと思っているように、何度も何度も確かめるように組み替える、想いの溢れるキス。

「……ん………」

――溶けてしまいそう……

お互いの息が溶け合う長くて甘い口づけと、彼の柔らかい唇の熱で身体から力が抜け、シンの胸に顔を預けてしまった。

彼は私を受け止めると、小さく謝る。

「……急にすみませんでした、大佐」

自分でも不思議だけれど、突然のキスに驚きはしても、嫌ではなかった。

むしろ嬉しいと――もっとして欲しいと思った。

こんなにふわふわとした気持ちと同時に心臓がギュッと痛むのは初めてだった。

パラレイドで交わした会話。落ち着いた話し方。穏やかな声。彼にもらった言葉を胸に、これまで戦ってきた。戦ってこられた。

思いと思い出が再会の瞬間に喜びと共に胸に焼き付き、写真でしか見た事がなかった彼が目の前に存在している事に胸が高鳴った。

正直に言えば、一目惚れだった。

「触れたいという気持ちが、抑えられませんでした」

それは嘘ではないだろうけど、さっきのキスは、どこかすがるような切なさがあったように思う。彼のこれまでを思えば、それは当然だ。

私は顔を上げて、彼の首に腕を回す。

“私はここにいる”と感じてほしくて、強く強く、彼を抱き締めた。

「――シン、大丈夫です。あなたをひとりになんてしません。置いていったりもしません」

 

 

 

綺麗な銀髪の揺れる首元に顔をうずめるように抱き締められると、直に感じる彼女の温もりと香りで頭が痺れる。

「あなたが背負うものを、これからは私も背負います。一緒に戦います。だからどうか、ひとりで抱え込まないでください」

「ッ――…」

耳元から流し込まれる言葉に、ブワッと身体の奥から理性を飛ばす何かが湧き上がった。

パラレイド越しではない、生の声。甘い彼女の声が直接鼓膜を震わせて、腰が痺れていく。

今夜そこまでするつもりはなかったのに、身体の奥から気持ちと共に湧き上がってくる衝動に抗えずに、彼女をソファに押し倒した。

「シ、シン?」

「――あなたの声、腰にクる」

首筋に口づけをし、そのままたくさんのキスで彼女の肌に愛おしさを刻み付けていく。

「ぁ……んっ――ん……♡」

跡を残すたび、甘く息を乱す彼女をもっと乱れさせたくてドレスの肩を脱がせようとすると、急に慌てたように彼女はグイッとこちらの肩を押した。

「あ、あの、せめてシャワーを……」

顔を赤くして胸元を押さえる彼女に、性急過ぎたと反省する。

「すみません」

身体を離すと、彼女は逃げるようにバスルームへと駆け込んだ。

戻ってきてくれるだろうかと不安になりながら、拒絶ではなかった彼女の態度を信じて待つ事にする。

ふと、彼女に貸したジャケットがソファの背に掛けられているのに気付き、ライデンに渡された包みがポケットに入れっぱなしだった事を思い出した。

――確か、“中を見るのは大佐と二人きりになった後に一人で”だったか……

今がその時だろうと袋を開けて箱を取り出す。

「!」

思いがけない中身に、さすがに狼狽した。

「……あいつら」

 

 

 

――どうしよう、どうしよう、どうしよう…!!

心臓がバクバクと音を立てて、思わずバスルームの床に座り込んでしまう。

再会した当日にこんな事になるなんて思いもしなかった為、心も身体も準備ができていない。

シンの事は素敵だと思うし、押し倒されても触れられても嫌ではなかったけれど、だからって急過ぎる。

そう思うのに頭のどこかで冷静に、あまり彼を待たせたら熱が冷めてしまうかもしれないとドレスを脱ぎ、髪をまとめてシャワーを浴びる自分がいた。

「…………」

石鹸を泡立て、大切な部分をしつこいくらい丁寧に洗う。

手早く身体を流し、バスローブを羽織って部屋に戻ると、シンが手持ち無沙汰な様子で小さな箱を弄んでいた。

「あ、あの、お待たせしました……」

「いえ……」

パッと隠すように小箱をジャケットのポケットに入れ、そのままソファの背に掛けてから、シンもバスルームへと入っていく。

その背中を見送ってから、そわそわと鏡でおかしなところはないか確認したり、ベッドに腰かけたり、窓から外を眺めたりして彼を待ちながら、ジャケットに目を留めた。

――そうだ、ハンガーに掛けておかないと……

クローゼットを開け、ハンガーに彼のジャケットを掛けようと持ち上げた途端、持つ場所が悪かったのか、小箱が滑り落ちる。

シンプルなパッケージには“0.01ミリ”“たっぷり潤滑剤”“ゴム臭なし”などと書かれていて、それが避妊具だと分かった瞬間 頬に血が上り、慌てて箱をポケットに戻してクローゼットの扉を閉めた。

――え? ええ!? いくらなんでも準備が良過ぎませんか!?

まさかいつも持ち歩いているとは思えないから、ホテルの下のお店で急いで買ってきたのだろうか、それとも最初からそのつもりで準備して――?

ぐるぐると考えていると、シンがバスルームから出てきた。

「……あの」

「はい!」

いやに緊張した面持ちで声を掛けられ、つられて緊張してしまう。

彼は目の前に立つと意外な事を言い出した。

「ヴラディレーナの愛称を教えてもらえますか?」

「え?」

「以前伺ったかと思いますが、レーナでよかったでしょうか?」

「そうです。親しいひとは皆、そう呼びます」

「俺も、そう呼んでも?」

「ええ、もちろん」

「では」とシンは咳払いをすると、真剣な瞳で私を見つめる。

「愛しています……レーナ」

 

 

 

本当はずっと前から惹かれていた。

あの頃、顔も知らないヴラディレーナ・ミリーゼ少佐と言葉を交わす事は秘かな楽しみだった。

純粋で真っ直ぐで真面目で、優しく聡明な彼女はそれまでのハンドラーとは全く違っていた。

どんなに冷たくあしらわれてもへこたれずにこちらと関わろうとし、使い捨ての道具としてではなく対等な人間として接しようとしていた。俺たちの為に本気で怒り、本気で泣いてくれた。最後まで俺たちを諦めなかった。

彼女だけは、生き延びてほしいと願っていた。

託されてばかりの自分を初めて預ける事ができた彼女が生きていてくれた事、俺たちを追いかけ、預けた思いをここまで連れてきてくれた事、何気なく言った“忘れないでいてくれますか”という言葉をずっと胸に抱いて戦っていてくれた事が、どんなに嬉しかったか、どれだけ救われたか、伝える言葉が見つからない。

あんなにたくさんの本を読んできたのに、たった一言しか、伝えられる言葉を俺は知らなかった。

「愛しています、レーナ――心から、あなたを」

レイドデバイスを通じて、この愛おしさも伝わればいいのにと思う。

耳まで真っ赤になった彼女は、その綺麗な瞳にいっぱいの涙を浮かべて微笑んだ。

「シンの気持ち、とても嬉しいです。私もあなたが好き――いえ……」

こちらの手を取り、俺を見上げる彼女の頬に涙が滑り落ちていく。

「今、あなたを愛しました」

「―――――…」

想いの通じた喜びのままに、口づけを――深く繋がる口づけをした。

初めは驚いた様子のレーナだったが、次第に俺を受け入れ、舌を絡ませる。

「……んっ――ん……♡」

ぬるぬるとした感触と甘い唾液を味わいながら、彼女をベッドへゆっくりと押し倒した。

ローブを脱がせると、真っ白な肌と滑らかな曲線を描く肢体が露わになる。

「綺麗です、とても」

「あ、あまり見ないでください」

恥ずかしそうにキュッと身を寄せる様が可愛くて、気付かないうちに微笑んでしまっていた。

「言いそびれていましたが、今夜のドレスもよく似合っていて綺麗でした」

「シン!? あなたそういう事を口にする性格でした?」

「そうですね、いつになく高揚しているかもしれません。それに伝えられる時に言っておかないと、後悔する事になるかもしれませんし」

「それは――…」

戦時下の軍人である以上、いつ死ぬか分からない。

痛いほど分かり過ぎている彼女が眉をひそめてしまった為、場を和ませるのに敢えて言葉を重ねた。

「それに、昼間の泣き顔も可愛かったです」

「なっ」

彼女はカアッと頬を染めて両手で顔を隠してしまう。

「それは忘れて――忘れてください!」

「なぜ?」

「私きっと、ひどい顔で泣いて――…」

「そんな事はありません、とても可愛かったですよ。それに再会をあんなにも喜んでくれて嬉しかったです」

誰からも惜しまれる事のない命だった。

誰にも知られずに散っていくはずだった。

俺たちが生きていたと知って、涙をこぼして喜んでくれた彼女を愛おしいと感じないはずがない。

「もし他の人間の目がなければ、あの場で抱き締めていました」

「も、もう! あまり恥ずかしい事を言うと部屋の明かり、全部消してしまいますよ!」

「それは困ります。あなたのどんな表情も見たいし、憶えていたい」

 

セオに初めて見た彼女の容貌を聞かれた時、それを知っているのは自分だけにしたくて「よく見えなかった」と嘘を吐いたが、本当は今まで出会った誰よりも綺麗だと思った。

凛と立つその姿も、燃えるような視線も、真っ直ぐな信念も、姿かたちだけでなく全てが美しいと、そして愛おしいと感じた。

 

その彼女が今自分の腕の中に一糸纏わぬ姿でいる事実に、言いようのない喜びで身体中の血が沸き立ち、熱を持ったその肌に手と唇でまんべんなく触れていく。

彼女の全てに触れたかった。

滑らかな肌はどこに触れても柔らかく、細い腰に薄い腹、長い手脚、指が沈むほど柔らかいくせ弾むように押し返す乳房に手を滑らせる。

初めは恐る恐る触れていた手は次第にその肉感を思う存分堪能し、綺麗な形の乳房の中心にツンと尖る、つぼみのような乳首を優しく摘まみ、弾き、指先で押し潰した。

「っあ……シン――シン……んっ♡」

フルフルと身体を震わせながらすがるように名前を呼ばれ、頭が痺れて下半身に血が集中していく。

乳首に舌を這わせると、彼女は「っああ♡」と甘い声を上げた。

小刻みに吸ったり、舌と唾液を擦りつけるように舐めたり、口に含んで強弱をつけて吸いながら舌先で転がしてみたり、どうすれば彼女が一番悦んでくれるのかを探りながら、色々と試してみる。

「……どれが一番好きですか?」

「好き? 一番……? 選ばなければいけませんか? 全部気持ちいいのに――♡」

「っ――ああ、もう――本当にあなたは――」

色素の薄い乳首は絶え間ない愛撫で今や真っ赤に勃起して、彼女はそわそわと膝を合わせていた。

手を伸ばし、彼女の脚の間へと滑り込ませると、クチュ、と音を立てて指に柔らかな秘肉と愛液が絡みついてくる。

「やぁっ――ああぁ♡」

自分の愛撫でこんなにも感じてくれている事に興奮しながら入り口を探っていくと、小さな穴が指に引っかかった。

ゆっくりと指先を挿し入れると、指一本でも硬い穴に飲み込まれて溢れる愛液が手の平にまでトロトロと滴る。

――彼女の身体が、俺を欲しいと言っている――…

ゾクゾクと喜びで震えながら、少し強引に彼女の脚を広げた。

「やっ――ダ、ダメです、シン! 恥ずかしい――」

隠そうとする手を取り、性器に顔をうずめる。

甘酸っぱい香りの愛液に溺れるように秘肉を舐め回し、皮を被るクリトリスを剥き出した。

ツルンとした突起を舌で撫でると、途端に彼女が仰け反る。

「ひゃんっ!? ダメダメダメダメ! そんなところ――そこは――敏感過ぎて、本当に――っ♡」

「よさそうですね」

 

 

 

シンの舌が、自分でも見た事のない場所を広げて這い回る。

人前で脚を広げるはしたないポーズで性器を晒し、よく洗ったと分かっていても恥ずかしくて逃げ出したいのに、彼の愛おしそうな舌遣いに拒む事ができない。

剥き出しにされた神経を直接触れられているような陰核への刺激に、涙をこぼして身を捩ってしまう。

「あぅっ――あぁっ♡ 止めて、シン――んぅ♡ そこ舐められると変な感じが込み上げて――…」

「我慢しないでいいですよ」

「ですが……っ」

シンは舐め回すだけでは飽き足らず、指まで挿入して膣の内側を愛撫し始めた。

漏らしてしまいそうな感覚を必死にこらえているのに、膣内で曲げた指で突き上げられるように裏側からも陰核を刺激され、オーガズムへと高まっていく。

「んうぅぅっ♡ それ――ダメ♡ 舐めながら中弄られるのダメぇ♡」

「……気付いていますか、レーナ? もう指が三本も入っている事。それにこんなにいやらしく乱れて――本当に可愛い♡」

敏感な部分を同時に、執拗に愛撫されて理性は溶かされ、いつしか私は悦びの声を上げていた。

「あぁ、シン♡ シンんっ♡ 出ちゃう♡ もう出ちゃうぅぅ♡♡♡」

必死に止めていたものがとうとう勢いよく噴き出してしまい、シンに掛かった。

「あ、ご、ごめんなさい……!」

「いえ……」

潮を頭から浴びたシンはローブの肩で顔を拭い、前髪を掻き上げる。

――あ……おでこ……

オーガズム直後の荒い息を吐きながら、こんな時なのに彼のおでこが可愛いなんて埒もない事にキュンとしていると、シンがソファを振り返ってから、部屋を見回した。

「レーナ、俺のジャケットは?」

「あ、避妊具ですか? ――ぁっ!」

言ってしまってから慌てて口を押えると、目を見開いたシンが片手で顔を覆い赤面する。

「……見たのですね」

「す、すみません、ハンガーに掛けてクローゼットにしまおうと持ち上げたらポケットから滑り落ちてしまって――」

シンは黙ってクローゼットに立っていくと、ジャケットを探り、小さな箱を取り出して戻ってきた。

少々気まずく二人で箱を見つめる。

「……言い訳を、させてください」

「は、はい」

「これは、その、ライデンたちが用意してくれたもので、だからその、決して初めから下心があってあなたを誘った訳ではなく……!」

猫の目のように変わる戦況にも いつだって冷静だったあのシンが、慌てている――…。

愛おしさで痛いくらいに胸が高鳴り、衝動のままに彼の着ているローブを脱がせた。

「レーナ!? 何を――」

さっきまで布地を突き破らんばかりに突き上げていたはずの陰茎は、今は少し元気がなくなっている。

初めて見る男性器に怯みつつも、そっと手の平を這わせると途端にビクッと脈打って、クン、と起き上がった。

「私にだって、このくらいの知識はあります」

顔を近づけ、根元からじっくりと舌を這わせて、全体を舐め上げる。

「っあ……ぁっ……うぁっ」

何度か繰り返すと、中心から亀頭にかけて、それに上側よりも裏側の方が、反応がいい事に気が付いた。

――シンの気持ちいいところ、憶えてしまいました……♡

不思議な満足感を覚えながら、彼を気持ちよくしているはずなのに自分のお腹の奥までズクン、ズクン、と疼く。

――知らなかった……舌って性感帯なんだ……

深いキスの時もそうだったけれど、舌で肌を感じる感触は気持ちよく、こちらまで感じてしまう。

「はぁっ――レーナっ、そこ――っうぁ――…っ♡」

息を乱して喘ぐシンをもっともっと気持ちよく――背負うものを一瞬でも忘れさせてあげたくて、彼の男性器を余すところなく舐め、吸い、擦り、舌先でつつき、口いっぱいに頬張って唇と舌で甘やかしてあげると、いつしか彼の陰茎は硬く勃ち上がって、先から先走りを溢れさせていた。

「んむっ♡ ――んん♡ ……ん♡」

ビクビクと震える硬い肉棒にゾクゾクしながら亀頭を咥えて舐め回していると、シンが私の肩を掴む。

「も、もう出るので口を離して――」

その言葉にむしろ私は彼の腰に腕を回してしっかりと抱きつき、口に含んだ亀頭を強く吸い絞ると、ダメ押しで先っぽの穴に舌先を捻じ込むようにした。

「ぁグッ! ――ック!」

シンが息を詰めた瞬間、ビュク、ビュクッと口の中に温かい粘液が吐き出される。

――これが――精液……♡

舌の上でぷるぷると揺れるそれは、聞いた事があるような嫌な感じはなく、むしろ愛おしいと感じた。

全力疾走の後のように喘いでいたシンが濡れた瞳で私を見つめるので、目を合わせたままコクンと精液を飲み下す。

シンがブルッと身体を震わせたのが分かった。

 

 

 

『――忘れません――忘れません――忘れません――…』

戦う事を強制され、それでも最後まで誇りを持って戦い抜いた戦隊員たちを悼み、何もできなかった無力な自分への悔しさで焼け付くような胸の痛みと共に誓う、“戦おう”という燃えるような強い意志。

 

――今のは――…

 

オーガズムの瞬間、一瞬だけ見えた――いや、感じたビジョンはきっと彼女のものだ。

強い快楽で頭が真っ白になった瞬間、どうやら意識が彼女の記憶に繋がってしまったらしい。

信じられないほどの多幸感で心が満たされる。

彼女のこれまで――彼女の心の一端に触れる事ができた気がした。

偶然が重なる事で背負う事になった俺に対し、自ら背負おうとする彼女が眩しいほど尊く、彼女の全てが一層愛おしく感じた。

「ッハァ――ハァッ――ハっ――ッ――♡」

綺麗な顔が歪んでしまうのも構わずに一生懸命に陰茎を舐め回されて、導かれたオーガズムは下半身がとろけそうなほど気持ちがよく、なかなか息が整わない。

口の中へと射精してしまった罪悪感と共に背徳感でゾクゾクとしながら彼女を見下ろすと、目が合った彼女は少し微笑んでから咥えていた口を外し、「ん……♡」と頷くように喉を鳴らした。

精液を飲んだのだと理解した瞬間、背中に震えが走り、愛おしさに任せて彼女を抱き締める。

「シン?」

俺の様子がおかしいと気付いたのか、彼女は耳元で小さく名前を呼んだ。

「……もっと、呼んで」

戸惑うように微かに身じろぎした彼女は、それでも何も聞かずに背中に手を回して俺を受け止めると、何度も俺の名を呼んでくれた。

「シン――シン――大丈夫です、シン――決してあなたをひとりにはしませんから……」

――彼女の声が聞こえている限り、俺は正気でいられる――生きたいと思える――…

そっと深呼吸してから、彼女の首筋に顔をうずめたまま、俺はさっき見たビジョンの話をする。

「……あなたのこれまでを、見ました」

オーガズムの一瞬、深く繋がった事、記憶や思いを感じた事――嫌悪され拒絶される可能性もあったが、言わないまま続ける事はできなかった。

黙って聞いていた彼女は身体を少し離して俺を見ると、困ったように微笑んで頬に手を置く。

「そんなに不安そうな顔をしないでください、シン」

そう言って真っ直ぐに俺の瞳を覗き込んだ。

「あなたに見られて恥ずかしい事をしてきたつもりはありません。私は平気です。それともあなたこそ、私を知る事が怖いですか?」

「いいえ」

反射的に、強い口調で否定した。

「知れば知るほど、俺はあなたが愛おしくてたまらない――もっともっと知りたい――今すぐこの熱を治めないとおかしくなりそうなくらい、あなたが欲しい」

俺の言葉に、彼女はむしろ挑むような目をして、笑う。

「では私だけを見ていてください。死者の声も今夜だけは聞かせません。今夜のあなたは私だけのものです」

 

 

 

好きなひとが自分に欲情して、こんなにも硬く熱く滾らせて貪られる事が、幸せで気持ちがいいなんて知らなかった。

「っああ♡ シン――奥そんなに突いちゃダメっ♡ イッちゃう♡ またイッちゃうぅッ♡♡♡」

破瓜の痛みは初めだけで、愛され、満たされ、求められる悦びに身体の奥から指先まで痺れる。

オーガズムのたびに息を切らせて私を見る彼の瞳に愛おしさが溢れていくのが、泥臭くあがいて、もがいて、戦ってきた日々を、思いを、まるごと受け入れてもらえたようで嬉しい。

――少し――ほんの少しだけ、恥ずかしいですが……

パラレイドでシンと話すのが楽しかった事も、顔も見た事のない彼を異性として意識してしまっていた事も、全部知られてしまうのだと思うとやはり恥ずかしい。

それでもシンが熱っぽい瞳で「愛している」と囁きながら必死に腰を振るのも、絶頂の後に柔らかい表情で微笑むのも、嬉しかった。

何度目かも分からないオーガズムの後、クタリとベッドに身体を投げ出して枕を抱き締めると、ふと空の箱が目に留まる。

「……避妊具、もうないのですか?」

「今ので最後です」

「意外とあまり入っていないのですね」

他意なく言うと、シンがなぜか少し慌てたように視線を泳がせた。

「え!? あ、色々な個数入りがあると思います」

「そうなのですか……シンはまだ、その――シたいですか?」

「あと一度くらいなら」

頭の中で日にちを数え、提案してみる。

「では……最後に着けずにシてみますか?」

「えっ、いや、でも――」

思わず口元を押さえて赤くなったシンは、伺うように小さく聞く。

「……大丈夫なのですか?」

「ええ。終わったばかりなので……」

 

 

 

彼女の言う“終わった”は生理の事だろう。

枕越しに上目遣いで恥ずかしそうに誘う彼女が愛おしく、断るなんて考えられなかった。

オーガズムのたびに彼女と深く繋がり、彼女のこれまで見てきたもの、感じてきた事が同調され、知れば知るほど愛情が深まっていく。

あまり感情の起伏がない自分が今、こんなにも誰かを愛し、溺れているのが意外でもあり、嬉しくもあった。

「――入れますね」

「はい♡ ……――んっ♡」

すでにこちらの形をしっかりと憶えた彼女の膣に迎え入れられ、直に感じる熱さも潤いも、包み込む肉壁の圧迫感も痙攣も鮮烈で、ゾワゾワと背筋を震わせる。

挿入しただけで果てそうになるのをグッとこらえて、ゆっくりと抽送を始めた。

「っあぁ♡ 凄い♡ さっきまでと全然違う♡ シンを直接感じます♡ ゴリ、ゴリってカリが抉るのが分かりますっ♡」

「……ここ、反応いいですね。擦るたびに腰をビクつかせて――♡」

薄い避妊具がないだけでこんなにも違う快楽に、俺も――それにたぶん彼女も、興奮している。

少しでも彼女の奥を知りたくて深く抉っていると、不意に柔らかな肉壁が亀頭に吸い付いた。

「んああぁぁっ♡」

彼女がシーツを掴んで仰け反る。

――彼女の子宮が俺にキスをしてくれている――

精液をねだるように吸い付いてくる子宮口と綺麗な唇から甘く漏れる濡れた声に頭が痺れ、外に出そうと考えていた決心が揺らいだ。

「レーナ、あなたの一番深いところに、俺を刻み付けさせてください」

子宮口に亀頭を嵌め込んだまま腰を擦り付け、グリグリと彼女の弱いところを責める。

「それは、でも――あぁっ♡」

迷う様子の彼女を抱き締めて耳元に囁いた。

「あなたが誘っているのではありませんか? こんなにも亀頭に吸い付いてきて、奥に注いでほしいって♡」

「そんな事――」

「では、抜きますか?」

そう言ってゆっくりと腰を引いたが、膣全体がぴったりと吸い付いて、ついてくる。

「こちらは素直ですね。離したくないと言っています♡ それにさっきからずっと奥へと誘うように痙攣して、熱い愛液を溢れさせて――あなたも俺を直に感じて興奮していますよね?」

「も、もう……シンの意地悪……♡」

彼女の少し拗ねたような表情が、恥ずかしそうな微笑みに変わった。

「分かりました、いいですよ♡ 私も、あなたにそんな風に求められる事に、悪い気はしません♡」

「ん、ありがとうございます」

ベッドに横たわる彼女の膝裏に手を入れて脚を広げる。

「この体位が一番いいですね。あなたの気持ちよさそうに悶える顔も、綺麗な乳房がいやらしく揺れるのもよく見えるし、それにピストンするとわずかに下腹部が上下して、あなたの中にいるんだって目でも確認できる。何より、繋がったままキスできるのも、いい」

「私も♡ 顔が見えると安心できます♡」

――安心……

「……すみません、レーナ。最後は体力全部使い切るつもりで動きます」

「へ?」

驚く表情も可愛いと思いながら、一気に腰を叩きつけた。

「ひゃうっ!?」

さっきまでは様子を見ながら強くしていた抽送を、今回は最初から全力にする。

「シ、シン!? いきなり激しっ――んああぁ♡ 強いっ♡ 強過ぎますっ♡」

逃げようとする彼女の手を取り、指を絡めて繋ぎベッドに押し付けた。

「逃げないで」

「待って……ああっ♡ 待って、こんなの――すぐイッちゃうっ! イく♡ イクぅッ♡♡♡」

ガクガクと身体を震わせて絶頂する彼女に密着し、止めずに腰を振り続ける。

「んやぁぁ!? イッてる! イッてるの! シン! シンんんんっ♡♡♡」

痙攣の止まらない膣を深く抉り、子宮を突き上げ続けると、プシャッと彼女が潮を噴いた。

彼女は一突きごとに漏らしてでもいるように潮を噴き、「や♡ ああ♡ 無理っ――んあっ♡ 無理ですっ――ひんぅ♡ ひぅ♡ 許し……もう許してっシン♡」と懇願する。

「許す? 何をです?」

「もうイけないっ……これ以上もうイけませんっ!」

「嘘」

「嘘じゃないですっ……さっきから目がチカチカしてるの止まらないっ――身体の奥からゾクゾクが止まらなくて――オーガズムから降りられないっ! これ以上は気持ち良過ぎて壊れるっ――壊れちゃうぅ♡」

そう口にしながらも、きつく締め付ける膣は奥へと引き込むように痙攣し、迎えにくる子宮口が吸い付いてくる。

「中はこんなに愛してるって言ってくれているのに?」

喘ぐ口を塞いで、舌を絡める。

上も下も繋がったまま激しく腰を振っていると、締め付けが更に強くなってきた。

「やあぁ♡ ――深いのが来る――あぁ♡ またイク♡ ィく♡ クぅんんんんぅッ♡♡♡」

ギュン、と締まって痙攣する膣に搾り取られそうになるのをこらえ、亀頭で子宮口をグリグリと探る。

「やぁ!? シンっ、シン! まだイってるのっ――奥搔き混ぜるないでぇ!」

やがてピタリと子宮口に亀頭が嵌り込み、限界まで止めていた精液を昇ってくるまま放出した。

「ッく――グウぅぅッ!」

全てを出し尽くす長い射精。

「あぁ♡ ……ぁ♡ シンの――熱いの、奥にいっぱい出てる――…♡」

ドク、ドク、と音を立てて彼女の最奥に精液を流し込み、腰が抜けてベッドに倒れ込む。

真っ白な頭に火花が散るようなオーガズムの瞬間に見えた、懐かしい顔を脳裏に焼き付けながら、俺は気を失うように眠りに落ちていった。

「――兄…さん――…」

 

 

 

 

無防備に眠るシンの寝顔を眺め、口元が勝手に緩んでくる。

――寝顔、可愛い……♡

朝の光が窓から射し込み、静かな部屋を照らしていた。

剥き出しの肩と腕が意外に筋肉質で、なんだかドキドキしてしまう。

好きなひとと裸で同じベッドで目覚める事が、こんなにも幸せだなんて思ってもみなかった。

彼を起こさないようそっと起き上がると、シンの上半身が露わになり、これまで負った傷痕が目に入る。昨晩はここまで痛々しく感じなかったのに、朝の光の中で改めて見るたくさんの傷痕に胸が痛んだ。

今も残る首の傷にそっと触れてシンのこれまでの苦しみを思い、首筋に唇を優しく押し付け、身体中に残る傷痕にも口づけをしていく。

――こんな事をしても傷が癒える訳ではありませんが……

分かっていても、そうせずにはいられなかった。

 

 

 

――こんなにもよく眠れたのは、いつ以来だろう……

まだ空が白み始めたばかりの時間に目が覚め、一瞬ここはどこだろうと考える。

目覚めて目に入る天井が頻繁に変わる事には慣れているつもりだったが、エルンストの家でも、まして基地の宿舎でもない。

戸惑いながら隣を見ると、レーナが寝息を立てていた。

――そうだ、彼女と昨日――…

幸せな気持ちが一気に心を満たす。

互いの気持ちを伝え合い、それを確かめるように愛し合った。

最後には愛おしさを一方的にぶつけるように彼女を貪り、膣内射精までねだってしまった事を思い出して、ひとり赤面する。

さすがにやり過ぎたと反省しつつも、次にまた彼女を愛する時に冷静な判断ができる自信がない。

やりたい事も望むものも何もないはずだった自分に、こんなにも求めるものができた事が嬉しかった。

オーガズムの際には繋がっている相手の記憶を見る能力まで発現してしまったが、きっとそれは、レーナが自分にとってあまりに特別な存在だからだろう。

兄との記憶を持ち、俺たちを忘れないでいてくれた愛おしい彼女をもっと知りたい、もっと深く繋がりたいという気持ちが起こした奇跡と言ってもいい。

昨夜最後の行為で見た、チョコレートを差し出して微笑んだ兄さんの姿を思い出し、“昔 確かにあんな風に兄さんは俺に甘いものをくれた”と忘れていた自分の記憶までが蘇り、懐かしさに涙が出そうになった。

レーナの静かな寝息を聞きながら、幸せを噛み締めるように昨日あった事を反芻していると、カーテンの隙間から朝の光がゆっくりと射し始める。薄暗い部屋に浮かび上がる彼女の白い肌も、繊細な線を描く顔も、シーツに流れるように広がる銀髪も、何もかもが触れたら消えてしまいそうに儚げで急に不安になり、そっと頬に触れると、指先から伝わる体温と微かに掛かる息が彼女は夢ではなく確かに自分の隣にいるのだと思わせてくれた。

「ん……」

彼女が小さく息を吐く。

目を覚ましそうな気配に、なぜか俺は反射的に目を閉じ、眠っているふりをしてしまった。

――馬鹿だな。起きていたって別に問題ないだろ

そう思ってから、気恥ずかしさ以上に愛しいひととまどろむ、静かで幸せな朝をもう少し感じていたかったのだと気付き、改めて心に決める。

――戦おう、この穏やかな時間を守る為に、これからも――

溢れる気持ちを顔に出さないよう眠ったふりをし、レーナが見つめているのを感じながら起きるタイミングを計っていると、しばらくしてから彼女が上半身を起こした。

「…………」

彼女の指が首に触れ、キシ、と小さくベッドが軋んだと思うと、柔らかく温かい感触が押し付けられる。

傷痕にキスをされたのだと理解した瞬間、胸の中に温かいものが流れ込むのを感じた。

不意に、いつか誰かが言ったセリフが木霊する。

“――女神様だよ、女神様!”

そう言ったのは、ダイヤだっただろうか。

――お前の言う通り、女神だったよ

彼女はその外見だけでなく内面も美しく、強く、そして優しかった。

今もきっと、俺の傷を見て心を痛めてくれているのだろう――…ぅん!?

「ふっ――」

彼女が唇を離して頭を上げるとスルリと髪が胸を滑っていき、その感触に思わず声が出そうになる。傷痕に口づけをする度に髪が肌を滑り、くすぐったい感触に耐え切れず、とうとう俺は眠っているふりを諦めた。

 

 

 

不意にシンが身じろぎしたと思うと、困ったような嬉しそうなような、何とも言えない声が囁く。

「あの……くすぐったいです、レーナ」

「シン! ごめんなさい、起こしてしまいました?」

「いえ……実を言うとあなたが目を覚ます前から起きていました」

「え!?」

お互いに照れくさく笑うと、シンは優しい瞳をして私の髪を撫でた。

「あなたのおかげで兄さんに――幼い頃の思い出のままの優しかった兄さんに会う事ができました」

そのまま身体を起こした彼に抱き締められる。

「ありがとう、レーナ」

それはシンが私の記憶――お兄様のショーレイに助けられた記憶を見た、という事だろう。

極限の状況下で起きたすれ違いの末、戦うしかなかった二人を思い、彼の運命の過酷さに胸が押し潰されそうになる。それでも。

「私がお兄様に救われたのは、あなたに会わせてあげる為だったのかもしれませんね」

そんな風に考えれば、私の運命を決定づけたあの出会いが、更に意味のあるものになる気がした。

私の言葉を聞いたシンの瞳に微かな光が走り、優しく微笑む。

「そうかもしれません」

その微笑みは、シンが本当の意味で過去と向き合い、乗り越えられた証だった。

 

 

シャワーを浴び、朝の身支度をして朝食を取りに部屋を出た私たちは、廊下を歩いていて偶然触れた指をそのまま絡めて手を繋ぎ、そのくすぐったい感触に胸が温かいものでいっぱいになりながら他愛のない話をする。

ふと、昨日の夜、尾行された事を思い出した。

「そういえば、昨日の尾行者は何者だったのでしょうか? やはり報告した方がよいのでしょうね」

「その必要はないと思います」

「そうなのですか?」

「あれはライデンたちです」

「……へ?」

「俺とあなたがどうにかなるとでも期待して、面白がってついてきたのでしょう。まあ、実際どうにかなったのですが……レーナ? 何をそんな顔をしているのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ  四人の追跡者 Quartet Chaser

 

 

「ちょっ、押さないでよ!」

「クレナが頭出し過ぎてて見えないからでしょ」

「おいお前ら、あんま騒いでっとシンに気付かれんぞ」

尾行している自覚がないのか、静かにするという事ができないクレナとセオをたしなめ、シンとミリーゼ大佐から目を離さずに見守っているアンジュをチラリと見る。

こいつも案外、野次馬根性――いや、好奇心が旺盛だ。

 

食事会中、あまりに真剣にシンが大佐を見つめているのをからかい半分、応援半分で焚きつけるようなものを渡してしまった為、本当は俺とセオだけで見届けるつもりだったのだが――。

シンが大佐を誘うまでの時間稼ぎで、会場に引き止めようとしている事を勘の鋭いアンジュに気付かれ、芋づる式にクレナもついてきてしまった。

――すまねえ、シン

心の中で謝りながら、どうか俺たちの目の前で大佐をラブホテルやモーテルに連れ込んでくれるなよ、と祈る。もちろん最初はむしろそうなる事を期待していたのだが、こいつらがついてきてしまった時点でそれはちょっとマズイ。

エルンストのおっさんには適当な事を言って誤魔化しておいたが、あれはあれで狸だ。おそらく騙されたふりをしてくれてるんだろう。

 

「シッ、三人とも! あれ見て!」

アンジュの視線を追うと、シンが脱いだジャケットをミリーゼ大佐の肩に掛けている。

「おおー」

「げ」

「なななっ……!?」

「あらあら♡」

四人四様の声を上げると、通りすがった人がジロジロとこちらを見た。

「やるなあ、あいつ」

「よくできるよね、あんな恥ずかしい真似、人前で」

「なんであんな女に―― !」

「きっとこれ以上、大佐を他の人の目に触れさせたくなかったんでしょ」

口を尖らせるクレナをなだめるアンジュの横で、セオが「まあ確かに、ちょっとは美人だって認めてあげてもいいかな」となんだか少し悔しそうに呟いた。

「それにしても絵になるわね」

姉のような目で見守っていたアンジュが、溜め息を吐く。

美男美女の二人は歩けば誰もが振り返り、立っているだけでも人目を引き、それぞれに異性の視線を集めていた。

86区を出てから――兄貴を弔ってやってからこの国に保護されるまでの間、シンはよく笑うようになり表情も柔らかくはなったが、その奥に空虚さが見え隠れする事を心配もしていた。

だからあんなに幸せそうに優しく笑うシンを俺たちが見るのは初めてで、おそらく昼間も、俺たちには見えなかったがこんな表情をしていたのだろう。

「……あいつ――あんな顔もできるんだな」

傍目からは恋人同士にしか見えないシンと大佐に、セオが道に置かれた看板に頬杖をついた。

「あれはもう確定でしょ。いやまあ、こうなるだろうって分かりきってたけど」

そうだ。とっくの昔に、俺たちは大佐を受け入れちまっている。

シンに惚れてるクレナですら、なんだかんだ憎まれ口を叩きながらも大佐を認めている。

もし二人が会う事ができたら、きっとこうなるだろうと全員が分かっていた。

黒羊の声を聞いて尚、俺たちに同調してきた初めてのハンドラー。

特別偵察任務に本気で憤り、自分の身体も地位も顧みずに視覚共有し、迎撃砲を無許可でぶっ放すような本物の大馬鹿。

大佐の真面目さと信念の強さには幾度となく呆れさせられたが、お人好しの死神にはあのくらい純粋な馬鹿がちょうどいいのかもしれない。

 

「……あ、角曲がった」

「早く早く! 見失ちゃう!」

急いで曲がり角を曲がると、もう二人の姿は見えなかった。

「いない!?」

「どこ行った!?」

一応探すふりをしながら、心の中で応援する。

――ま、上手くやれよ、シン

 

 

後日。

「そういや、セオ。シンの奴、あの夜 全部使い切ったらしいんたが、一体何個入り買ってきたんだ?」

「は?」

自分の聞いたものが信じられないという顔でセオが聞き返す。

「使い切った? 今、使い切ったって言った? 嘘でしょ?」

周囲を見回したセオが耳に顔を寄せたので、軽く屈むと、囁かれた数に思わず噴き出し、むせてしまった。

「……マジか」

 

 

 

 

 




この二人、有能で真面目なだけに日常(戦場)に戻ったらそんな場合ではなくなってしまいそうなので、アニメ最終話の、再会した高揚感のままくっつく二人を描いてみました(´艸`*)

戦闘シーンはかっこいいし、イメージと心象風景の挿入が上手くて、だからこそ残酷で絶望感も凄くて心をえぐられるので、実は観直すまでに時間が掛かってしまいました。(メンタル的に)
でも改めて観直すと、やっぱりかっこいいし、深いし、考えさせられるし、何度観ても22話と23話で涙止まらないしで、結ばれる二人を描きたくなってしまいました。
絶頂時に同調するのはやり過ぎだったかな……でも弟に会いたがっている兄の姿を見せてあげたかったし、ひとりで頑張ってきたレーナの姿も見て欲しかったので……
(; ・`д・´)ヨケイナオセワ!
そして全力で”最高の再会”を演出する大人たち……いい ٩( ''ω'' )وモットヤレ

何気に、口は悪いけど優しさの透けてみえるライデンも好きです (#^^#)

階級ですが、中尉だったシンが最後レーナに名乗る時に大尉だったので、モルフォ討滅戦で皆昇進した設定です。

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