「……は?」
頭が真っ白になった。
嘘だ、そんなことはない。何度も自分を納得させるように、その言葉を脳内で繰り返す。
だって、その為に女として産まれてきたんだ。今までは運が、そう、致命的に運が悪かっただけで。今度こそ、皆を守れると。救えると、そう思っていた。
この物語を変えるのは、自分なのだと。
……目の前の紙には、「早発卵巣不全」の文字が淡々と刻まれていた。
自分も馬鹿では無い。この言葉の意味など、とうに理解している。
僕は二度と、子供を望めない身体になってしまったのだ。
このままの史実を辿れば、ヨルは望まぬ子を孕むだろう。そしてその事に絶望し、この世の全てを憎むだろう。
自由だった頃を惜しみ、不自由を呪うだろう。
そんな未来を回避するために、自分が女として生まれたのだと。彼女の露払いとして塩見家に転がり込めたのだろうと。
思っていた。
そもそも、期間が不定期だった。
促進を行わないと3ヶ月以上排卵しない事もザラで、自分はそれを便利だと思っていた。
別に普通だと、そう思っていた。
何度も流産を繰り返し、何度も不妊を味わい。ただ運が悪いのだと、ただ間が悪かったのだと。
そう考えながら、ようやくそこで違和感に気がついた。
その結果が、これだ。
指令は、都市の意思は。これを分かった上で、僕が邪魔をしないように、これを差し向けたのだ。
それを理解した瞬間、僕の脳裏に過ぎったもの。
僕の父親の顔。
あの、白痴で、傲慢で、人の心を理解しない、自分の興味関心以外無いものとして扱う、次元の魔王。
全てこれも、想定通りだと。そう嘲笑うあの顔が浮かんで、僕は、
「……どうか」
唇から零れたのは、自分でも情けないと思う声だった。
「どうか、妹には」
視界が下に下がっていく。温度のない畳の感覚が膝につく。
「妹には、手を出さないでくれ」
そこで自分が、床にへたりこんでいることに気が付いた。
「お願いだ」
体から熱が引けていく。視界がモノクロになっていく。
「お願い、お願いなんだ」
力が保てなくなって、視野がどんどん狭くなっていく。
「……お願い、します」
……そうして、自分は。
床に頭を擦り付けていた。
懇願していた。自分の尊厳はとうに無くなっていた。
そんなものより、守りたいものがあった。
過去の追憶が頭に浮かぶ。昔むかしの話だった。
不器用に笑う横顔。
笑うと目が糸のように細くなって、それが可愛くないと拗ねる声。
花冠を戴せてやった時の手の温度。
そして。
……そんなものが、いまさら、
どうしようもなかった。
「どうか」
あの子には、幸せな人生を歩ませてやってくださ