「F1・ピットクルー」:0.1秒を削る究極のピット作業 作:坂本太郎
ゴゴゴゴ……と地響きのような重低音を立てて、ピットガレージの油圧式シャッターが僅かに、路面から数十センチほど持ち上がった。
夜明け前の凍てつくような冷たい空気(フレッシュ・エア)が、一晩中ガレージを支配していた高粘度オイルと焦げ付いたチタン、そして私の生体液が混ざり合った芳香の空間へと一気に流れ込んでくる。
最終インスペクションの宣告
「全ての定常・動的負荷セッションを完遂。これより、本日の最終工程である『出力特性の最終確認(ファイナル・チェックアウト)』を行います」
チーフ・エンジニアの、一晩の激務を微塵も感じさせない冷徹な声が響く。彼女は私の頽れた顔を覗き込み、ラバーグローブの指先で私の顎を強引に、かつ力任せに持ち上げた。その瞳には、レースを終えた愛車を労うような優しさは欠片もない。ただ、出荷前の製品の最終テストに臨む職人の、厳格な光が宿っているだけだった。
彼女の手には、ピットの配管から伸びる、高圧洗浄ガンを模した細いステンレス製のノズルが握られていた。その先端は、針のように細く、冷ややかに非常灯の光を反射している。
「これより、燃料ライン(尿道および精管)のフラッシングを実行します。内部に残留した全エネルギーおよび不純物の強制排出(パージ)。……ライン、オールクリア」
「な……っ!? やめ、そこは……もう、何も出ない……っ!」
私の懇願など、マシンの排気音のノイズと同義。彼女は私のペニスの先端を容赦なく二本の指で固定し、その極細のノズルを、過敏になりきった尿道の奥深くへと躊躇なく、一気に挿入した。
高圧フラッシング(強制洗浄)
「フラッシング圧、1.5barに設定。生理食塩水の温度、生体適応値の36.5度。……注入開始」
スイッチが押された瞬間、私の尿道内へと、高圧に加圧された生理食塩水が容赦なく送り込まれた。
「あ、が、あああああああッ!!!!」
肉体の自然な排出方向とは完全に逆流する、圧倒的な流体の衝撃。
液体は私の細い尿道を強引に押し広げながら、括約筋の弁を突き破り、精管の分岐点、そして空っぽになっていたはずの膀胱の最深部へと怒涛の勢いで流れ込んでいく。内臓の奥底が瞬時に未知の水分でパンパンに膨れ上がり、下腹部を丸ごと引き裂かれるような強烈な圧迫感が私を襲った。
「腹筋の痙攣(ノッキング)を確認。ですが、ラインの気密性は保たれています。そのまま一気にパージ(逆噴射)させてください」
ノズルが電撃的に引き抜かれた瞬間、逃げ場を失い、限界まで内圧を高められていた液体が、私の意志とは無関係に、猛烈な勢いで前方へと噴出された。
ドクドクドクッ、と激しい脈動とともに、私の腹筋が波打つように痙攣する。
完全に空っぽになり、一滴の潤滑すら残っていなかったはずの精管と膀胱から、送り込まれた洗浄液が、内部の壁にこびりついていた微量な「最後の残留物」を余すことなく巻き込んで、ピットの床へと激しく撒き散らされていく。
長期保管(シャットダウン)の儀式
それは、過酷なシーズンを終えたマシンの燃料タンクを完全に空にし、内部の腐食を防ぐために防錆処理を施す、完璧にして冷酷な「長期保管(シャットダウン)」の儀式そのものであった。
「残留物の排出、完全に完了。液体特性の濁度(タービディティ)、ゼロ。ライン内部の洗浄率は100%です」
一人のエンジニアが、床に飛び散った液体をセンサーで測定しながら、チーフへと淡々と報告する。
私は、胃の中のものをすべて吐き出されたかのような、内臓を丸ごと削り取られたような圧倒的な「空虚」のなかに突き落とされ、ハーネスに吊るされたまま、ただハァハァと白い息を吐き出すことしかできなかった。肉体の芯まで完全に清められ、管理され尽くしたその状態は、人間としての生存活動すらも彼女たちの工学的なコントロール下に置かれたことの、何よりの証明であった。