※この作品はR-18です。

「F1・ピットクルー」:0.1秒を削る究極のピット作業   作:坂本太郎

22 / 29
第22章:パワー・ユニットの「慣らし」(ブレイク・イン)

無潤滑での過酷な往復駆動(ドライ・ラン)が続く中、エンジニアはその手を決して止めようとはしない。むしろ、摩擦によって発生した焼き付き寸前の高熱を巧みに維持したまま、ストロークの速度を狂いなく「一定」のピッチに保ち続けていた。

 

それは、限界までボアアップされ、新しいピストンとシリンダーを組み付けたばかりのパワーユニットに行う、最も過酷で、かつ寸分の狂いも許されない精密な「慣らし運転(ブレイク・イン)」そのものであった。金属の角を落とし、微小な接触面を互いに完璧に馴染ませるための、非情なる調律。

 

ブロー寸前の定常キープ

「これより定常回転数の維持フェーズに入ります。システム、絶頂シークエンスへの移行を全面禁止(ロック)。……常に『ブロー(エンジン破壊)寸前』のレブリミット領域をキープしてください」

 

チーフ・エンジニアの容赦ないコマンドが下される。

私の意識は、剥き出しの粘膜が削られる激痛と、神経の根元をダイレクトに強打する工学的快楽との壮絶なデッドヒート(死闘)に完全に翻弄されていた。痛みが快感を追い越し、快感が痛みをさらに研ぎ澄ます。

 

脳内のテレメトリー画面では、限界を超えて往復するピストンがシリンダー壁を激しく叩く、あのカンカンという金属的な打音(ノッキング)が、私自身の爆発的な心拍数と完全に同調して鳴り響いていた。

 

15,000……17,000rpm……。

 

熱膨張と固体の証明

「各駆動部の熱膨張によるクリアランスの完全減少(ゼロ化)を確認。金属と金属が、肉と肉が、一切の隙間なく完全に噛み合っています。……今、あなたの肉体は、我々の意図した通り、最も密度の高い『純粋な固体(パーツ)』へと近づいている」

 

エンジニアは冷淡にその変化を数値として読み上げる。

高圧の血流と強烈な摩擦熱によって、私のペニスは一分の歪みも隙間もなくガチガチに凝固し、生身の肉であることをやめ、一本の熱いチタンのシャフトへと変貌を遂げていた。

 

その極限の硬度へと達した瞬間、アクチュエーター役のエンジニアの親指が、私のペニスの先端――最も敏感な尿道口(エキゾースト・ポート)へあてがわれ、そこを容赦のない力で強固に押し塞いだ。

 

ギ、チ……、と肉壁の鳴るような鈍い衝撃。

 

「インテーク、エキゾースト、全てのバルブを完全閉鎖(フル・クローズ)。内圧の強制蓄積を開始」

 

内部封じ込めの過給圧

逃げ場を完全に失った内圧と血液の波動が、私の楔を内部から破壊せんばかりに膨張させ、内側からメキメキと組織を押し広げていく。

 

「くっ、あ……っ! 壊れる、内部のバルブが……中から、爆発する……ッ!」

 

私は拘束ベルトを千切り出さんばかりに腰を浮かせ、肺に残るすべての空気を吐き出しながら絶叫した。頭の芯が沸騰し、視界が真っ白な光のノイズで埋め尽くされていく。今すぐすべてをパージ(排出)して解放されなければ、本当に精神の回路ごと破綻してしまう。

 

「爆発させなさい。ただし、我々開発チームが許可する『その一瞬』が訪れるまで、発生するすべての生体エネルギーを内部に封じ込めるのです。圧力を逃がすことは万死に値します。シャシーの耐久性を見せなさい」

 

エンジニアたちの氷のような視線が、限界を超えて膨張し、熱を帯びて微かに震える私の肉体を冷酷に見つめていた。私は、爆発寸前の圧力を内部に完璧に封じ込めたまま、彼女たちの手のひらが刻む終わりのない一定のストロークの中で、ただただ限界の限界まで焼き付けられ、調律され続けるしかなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。