「F1・ピットクルー」:0.1秒を削る究極のピット作業 作:坂本太郎
「テスト時間終了まで、残り15秒。……自動制御(オートマチック)を解除、これより全タスクをマニュアル操作(手動介入)に切り替えます。……各員、リミッターを完全に無視し、全力で『搾取』せよ」
チーフ・エンジニアの、冷酷極まる最後の號令がピットガレージの壁に劈くように響き渡った。その瞬間、私の周囲を囲んでいた三人のエンジニアたちが、まるで獲物に群がる飢えた獣のように、だがその実、極めて機械的で容赦のない手際で私の肉体へと同時に群がった。
三位一体の限界搾取
一人は私の髪を力任せに掴んで顔を固定し、耳元にマイクを押し当ててシミュレーターの最大出力であるV12エンジンの鼓動――鼓膜を震わせ、脳を物理的に揺さぶるほどの爆音を直接叩き込み続ける。
もう一人は、私の両胸に装着されたクランプを強引に掴み、プライヤーのような冷徹で強固な指先で、過敏に尖りきった乳頭を肉ごと捩じ切らんばかりのトルクでギリギリと締め上げ、引き絞った。
「フロント・センサー、最大過負荷(オーバーロード)に到達!」
そして最後の一人が、尿道口を塞いでいた親指を一瞬だけ緩めると同時に、一切の潤滑(オイル)を持たない極限の脱脂状態のまま、私のガチガチに凝固したシャフトの根元から先端までを、文字通り火花が散るほどの速度と力任せの手つきで激しく扱き上げ始めた。
キュ、キュルルルルッ――!
肉と、ザラついたカーボンペーパー調のグローブが擦れ合う、鈍く、かつ凄絶な摩擦音がピットの暗闇に激しく鳴り響く。
「ぎ、あ、がああああ……っ、あああああああーーーーーーッッ!!!」
私の口から飛び出した叫びは、もはや人間の声を完全に超越していた。
それは、時速 350km/h の超高速領域で制御を失い、コンクリートの防護壁へと激突する直前のレーシングマシンが発する、金属の引き裂かれる断末魔のような高周波の絶叫そのものだった。
激痛、恍惚、恐怖、そして圧倒的な服従。すべての感覚が、脳内のECUの中で一本の巨大な濁流となり、私の自我を粉々に粉砕していく。
全バルブ開放(リリース)
「カウントダウン、3、2、1……チェッカーフラッグ! ……全バルブ、一斉に開放(リリース)!!」
タイミングを見計らっていたエンジニアの手が一気に解放された。
尿道口を強固に塞いでいた親指が弾かれるように退けられたその刹那、限界まで内圧を高められ、内部で激しく沸騰していた生体エネルギーの波動が、逃げ場を得て一気に前方へと噴射された。
ドクドクドクドクッッ――!!!
「ひ、ぐ、あぁぁぁぁぁぁーーーッッ!!」
私の肉体の最深部から、まるで過熱しすぎて破裂したラジエーターから噴き出す沸騰した冷却水のような、熱く、激しい飛沫が、ピットのコンクリート床へと勢いよく、かつ広範囲に飛散した。
潤滑を一切持たない「ドライ」な過酷極まる摩擦の果てに、細胞の隙間から無理やり絞り出されたその液体の一滴一滴は、白濁した燃料ですらなく、私の魂そのものを細かく削り出したかのような、どこまでも透明で、そして残酷なまでの輝きを放ちながら、冷たい床の上に飛び散っていく。
四肢は硬直したまま激しくノッキングを起こし、視界は完全な白に染まった。すべての出力を吐き出し、文字通り完全にエンジンブロー(全損)を遂げたマシンのように、私はただ、激しい耳鳴りの中で虚脱していく肉体の重みだけに包まれていった。