※この作品はR-18です。

「F1・ピットクルー」:0.1秒を削る究極のピット作業   作:坂本太郎

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第25章:コールド・ソーク(極低温環境下の機能保持)

「メイン・ユニットの深刻な熱害を緊急排除。摩擦熱による構造破綻を防ぐため、これより液体窒素を用いた『コールド・ソーク(極低温環境テスト)』フェーズへと移行します」

 

シャットダウンを告げられたはずの空間に、突如として高圧シリンダーからガスが噴出する強烈な排気音が鳴り響いた。チーフ・エンジニアの冷徹なコマンドと同時に、私の肉体を固定する処置台の周囲に配置された特殊ノズルから、超低温の冷却ガスが容赦なく噴霧された。

 

急速冷却(サーマル・ショック)

激しい無潤滑摩擦テストによって赤熱し、皮膚の限界まで熱を持っていた私の肉体に、微細な霧状の冷却材が襲いかかる。

 

ジュウ……ッ! という、生体組織が急速に熱を奪われる際の架空の蒸発音が脳裏に直接聞こえるほどの圧倒的なサーマル・ショック(熱衝撃)。

さっきまで沸騰せんばかりの勢いで全身を駆け巡っていた血液が瞬時に収縮し、過給圧に晒されていた血管が、今度は一転してカーボンモノコックの表面に細かく描かれた導電回路図のように、青白く、不気味な鮮明さで皮膚の下に浮き上がっていく。

 

「あ、が……っ、冷た、い……! 身体の……指の先が、動か……ない……っ!」

 

あまりの激甚な寒冷刺激に、私の神経系は悲鳴を上げる。全身の筋肉がガタガタと激しく痙攣(シバリング)を起こし、処置台の金属フレームに当たっている背中から体温が急速に吸い取られていく。

 

「末端の能動的な制御(アクティブ・コントロール)は一切不要です。デバイスは静止状態を維持しなさい。今はただ、中枢の『絶対感度』だけを、劣化させないよう氷点下の環境で凍結保存するのです」

 

凍結する内部コア

エンジニアの一人が、防寒・防静電仕様の厚手のグローブを嵌めた手で、二本の鈍く輝くロッドを取り出した。それは、超低温管理された熱伝導率の極めて高い特殊金属製のロッドであった。表面にはうっすらと白い霜が降りており、触れた空気すらも凍らせるような冷気を放っている。

 

彼女は、私の顎を力任せに割り開くと、その氷結した金属ロッドの一本を口腔(インテーク)へと躊躇なく突き刺した。

 

「ん、ぐ、うぅぅぅっ……!?」

 

口腔内のあらゆる水分が、ロッドの表面に一瞬で凍りつき、張り付くような激痛が喉を襲う。だが、容赦の硬質な手技はそれだけでは終わらない。もう一人のエンジニアが、私の完全に脱脂され、パージし尽くされた後背の排気口(アヌス)へと、もう一本の氷結ロッドを同時に、最深部に向けて一直線に挿入した。

 

「ひ、あ、伝導……っ、芯が、凍る……ッ!!」

 

上下のゲートから同時に侵入した極低温のベクトルは、私の内臓壁を介して、体内の中心温度(コア・テンパラチャー)を無慈悲に奪い去っていく。前立腺の周辺、そして脊髄の末端に向かって、ジワジワと感覚の伝達速度が凍結によって遅延し、完全にフリーズしていくのが分かった。

 

それは、過酷な熱負荷試験を終えた精密部品を、組織の歪み(応力)を完全に除去し、分子構造を均一に固定するために超低温の保管庫へ投入する、工学的な「クライオ処理(深冷処理)」そのものであった。私の内臓は、生身の肉であることを強硬に否定され、冷たく研ぎ澄まされた「凍結した精密部品」へと変質させられていった。

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