「F1・ピットクルー」:0.1秒を削る究極のピット作業 作:坂本太郎
「熱収縮による内部クリアランスの最小化を確認。生体パーツは完全に硬質化(ソリッド化)しています。……この限界凍結状態で、外部からの入力に対する物理的な『曲げ剛性(シャシー強度)』をテストします」
チーフ・エンジニアの冷徹な声が、凍りついたピットガレージの空気を切り裂く。彼女たちのオペレーションには、一時の中断も、肉体への慈悲も存在しない。これより始まるのは、極低温下におけるマテリアルの構造強度試験だった。
横荷重(サイドロード)の印加
左右に控えるエンジニアたちが機械的な手際でコンソールを操作すると、私の腰回りと骨盤が、ガチリと重々しい音を立てて油圧式プレスのアームで処置台へと完璧に圧着された。骨が軋むほどの圧力が加わり、文字通り1ミリの逃げ場もなく完全に固定される。
そして、その完全にロックされ、極低温ロッドによって内部から凍りつき、限界まで硬質化した私の楔(ペニス)のシャフトに対し、機械式の加圧治具が側面からダイレクトにあてがわれた。
「治具のアライメント調整、完了。これより垂直方向に対する横荷重(サイドロード)の印加を開始します。初期負荷、100N(ニュートン)からスイープ」
ウィィィィン……という油圧モーターの不気味な低鳴りとともに、私のシャフトに対して、真横から強烈な物理的圧力がじわじわと加えられ始める。
極低温のクライオ処理によってカチカチに凝固した私の海綿体は、もはや生身の肉というよりは、限界まで焼き固められた高密度のセラミック、あるいはカーボンコンポジットの硬質なロッドに近い状態にあった。それゆえに、逃げ場のない側方からの応力が、ダイレクトにその根元(結合部)へと集中していく。
「荷重、200……300Nへ到達。……歪みゲージの数値、サスペンションマウント(骨盤結合部)の許容応力内を推移。……さらに負荷を加算します」
「折れる……っ! 結合部が、中が、ミシミシと音を立てて千切れる……ッ!!」
クロムモリブデン鋼の調律
私は口腔内に挿入された凍結ロッドを噛み締め、凍りついた喉の奥から悲鳴を絞り出した。側方から強引にへし折られるような、構造そのものがミシミシと崩壊していく凄絶な破壊音が、自分の骨を伝って脳裏に直接響き渡る。肉の柔軟性を完全に奪われた状態での物理負荷は、ただの拷問でしかなかった。
「折れません。我々の構造計算を侮らないでください。あなたの芯材(骨格)には、我々開発チームが独自の焼き入れを施した『クロムモリブデン鋼』の如き強固な意志が通っているはずです。この程度の曲げモーメントで座屈するようでは、次戦のハイダウンフォースには耐えられません」
チーフ・エンジニアは私の苦悶の表情を冷たく見下ろし、言い放つと同時に、私の背後(排気口)に挿入されていた氷結ロッドを、さらに容赦のない力で奥深くのコアへと突き立てた。
ズブ、と内部の最も過敏な前立腺の壁が極低温で直接圧迫され、完全に氷点下の闇へと突き落とされる。
神経の超電導(超純度恍惚)
その瞬間、私の脳内で何かが完全に臨界点を突破した。
極寒の激痛と、真横からへし折られるような強大な構造ストレス。それら生体の許容量を遥かに超えた絶対的な破壊のエネルギーが、ある一定の閾値を跨いだ瞬間、脳の防衛システムを完全にショートさせ、工学的な「超電導」のような純粋極まる恍惚へと180度反転した。
電気抵抗が完全にゼロになった私の神経網(ニューラル・ネットワーク)を、かつてない超高純度の快楽パルスが、熱を一切持たない光の速度で縦横無尽に駆け巡る。
「あ、が……あ、は……っ!! 脳が、透き通る……っ、あ、あ体の中が……っ!!」
「ターゲットの脳波波形、異常転換を検知。抵抗値の消失に伴う、過渡的なシグナルバースト(感覚飽和)が起きています」
「よろしい。ひずみ特性のデータ回収を継続。そのまま最大荷重を維持(キープ)しなさい」
視界は青白い極低温のノイズで埋め尽くされ、私はただ、曲げ剛性を極限まで試される一本の硬質なセラミック・シャフトとして、その超電導の恍惚の深淵へと、果てしなく沈められ、調律され続けていった。