「F1・ピットクルー」:0.1秒を削る究極のピット作業 作:坂本太郎
「全気筒、リミッターを完全遮断。テレメトリーの計測限界値を突破します。……回転数、22,000rpm をクリア!」
チーフ・エンジニアの宣告と同時に、ピットガレージ内に現実のF1マシンすら到達し得ない、鼓膜を物理的に引き裂くような超高周波の金属悲鳴(スクリーム)が鳴り響いた。空気そのものが激しく振動し、処置台の金属フレームが共鳴してキィィィンと甲高い音を立てる。
全工学的アプローチの収束
「これより、最終ベンチマークの全負荷試験(マックス・ロード)を実行。全アクチュエーター、最大同期」
その合図とともに、周囲を囲むエンジニアたちが私の全身に配置された「ツボ」という名の主要な神経接点(ノード)へ、同時に高電圧のパッチを容赦なく叩きつけた。
バチチチッ!!! と青白い火花が皮膚の表面で弾ける。
電気、振動、熱、冷却、そして剥き出しのドライ摩擦――。
これまで章を追って私の肉体に刻み込まれてきた全ての工学的アプローチが、この瞬間に一つの方程式へと収束し、私の肉体という名のパワーユニットを、生体物理法則の向こう側へと強引に突き動かしていく。
背骨を貫く高電圧パルスが全細胞を強制点火させ、口腔とアヌスに再び突き立てられた電子プローブが内部のコアを激しく振動(キャビテーション)させる。同時に、局所を襲う凍りつくような冷感と、カーボンペーパー調グローブによる灼熱の超高速ストロークが、私の楔を限界を超えて引き絞っていった。
「あ、が……あ、あああああああああーーーーーーッッ!!! 脳が、千切れる、消える、システムが、破綻、するううううっ!!」
私の叫びは、もはや生物の排気音ですらなかった。絶頂の境界線(レブリミット)を遥か後方に置き去りにし、ただひたすらに過給圧を高められ、シリンダーブロックが内部から自己崩壊を起こしていく金属マシンの悲鳴そのものだった。
プラズマ・パージ(純粋エネルギーの放射)
「生体テレメトリー、全項目でエラーアラート(レッドライン)を感知! ですが、最大出力を維持しています!」
「……エネルギーの全量放出(デプロイ)、開始!!」
チーフの冷酷なゴーサインが下された瞬間、私の視界からすべての極彩色が瞬時に消滅した。
赤も青も緑のデジタルノイズもすべてが一本の線となり、ただ真っ白な、終わりのない「光のストレート」だけが脳裏を真っ直ぐに貫いていく。
ドクンッ!!!
肉体が最後の、そして最大の痙攣(ノッキング)を起こして跳ね上がった。
次の瞬間、私の楔の先端から放たれたのは、もはや精液という名の白濁した燃料ですらなかった。過熱されつくした内部組織から蒸発したかのような白い水蒸気、あるいは、強烈な過電流によってイオン化された高輝度のプラズマそのものの形をした「純粋な生体エネルギー」が、圧倒的な内圧を伴ってピットの床へと激しく放射された。
「エネルギーのパージを確認! システム、完全燃焼(バーン・アウト)しました」
完全停止(ストール)
ビクン、ビクンと、数回大きく、不自然な角度で腰が跳ね上がったのを最後に、私の肉体はついに完全な機能停止(ストール)を迎えた。
すべての回路が焼き切れ、熱を失い、完全にエネルギーを絞り尽くされた肉体。
ハーネスに吊り下げられたまま、私はピクリとも動かなくなった。心拍数は急激にゼロに近い領域へと急降下し、ガレージ内には、排気口から立ち上る微かな熱気と、完全に使い果たされたスクラップのような絶対的な静寂だけが、重々しく、そして美しく漂っていた。