顔がいい、なんて言い回しがあるが、俺がそれを実感として初めて理解したのは、顕現した彼女と顔を合わせたときだった。
その彼女、夢幻崩界イヴリースはカードの精霊と呼ばれる不可思議な存在である。
カードの精霊とは、デュエリストの間でまことしやかに囁かれている都市伝説のようなもので、彼らのことは現れた精霊それぞれがマスターとして認めているデュエリストのみが認識できるらしい。そうやって認められたマスターは、それぞれの精霊と言葉を交わしたり触れ合ったりすることができるのだとか。
大雑把にまとめたが、これらはあくまで後に調べて知ったことだ。
イヴリースと出会った直後の俺が知っているはずもなく、そのときの俺は、カードから抜け出てきたとしか思えない存在が、突然現れたことにただただ驚くばかりだった。
夜空を写し取ったような綺麗なロングヘア、黒色を基調としながら露出の激しい衣装、整った顔と暗闇を滲ませた瞳、そして小柄な身体から発せられている本来の持ち主では絶対にあり得ない邪悪な気配。
カードに描かれている通りの姿の推しが、周囲に浮かんでいる六つのコアによる六色の照明に照らされながら、目の前のベッドの上に確かに立っている。
そんな奇跡としか言いようのない出来事に遭遇して、どうして驚かないなんてことがあり得るだろうか。むしろ、驚きが圧倒的に勝っているから呆然としているだけで済んでいるが、次の瞬間に突然狂喜乱舞し始めたとしても何らおかしくはなかった。
その一方で、突然現れた彼女が夢や幻の類である可能性も脳裏をよぎっていたが、相対しているからこそ感じ取れる確かな存在感がそれらをはっきりと否定していた。だからこそ、驚きと歓喜がない交ぜになってしまって、俺は口をぱくぱくさせながら推しを見上げていることしかできなくなっていたのだが。
イヴリースは俺が驚いている間も室内をゆっくりと見回していたが、それも終えたようで、混乱の渦中から脱しきれずにいる俺を見下ろすようにその瞳に映した。
「名乗る必要はないと思うけれど、私はリース。妖精の姿や再び目覚めた後の姿ではなく、この姿の私をご所望だなんて。
私のマスターはずいぶんといい趣味をお持ちのようね?」
鈴を転がすようでありながら毒を含んだ声を響かせ、彼女が傲然と微笑む。
その微笑を見上げて、俺は初めて心の奥底から理解するのと同時に思ったのだ。
ああ、俺の推しは顔がよすぎる――と。
*
古めかしい扇風機が、羽根を回転させながら、首を周期的に動かしている音が響く。
大学での講義がない平日の日中、送られてくる涼やかな風を感じつつも、暑さをじわじわと感じ始めた頃だった。
とはいえ、夏が到来したというには、まだ少しばかり早い時期だろう。
今朝確認した天気予報でも、そんなことを言っていたような気がする。
いまよりも深刻な暑さが近い内にやってくると思うと、いまから憂鬱な気持ちが……と考えたところで、俺は自分自身が二重の意味で現実逃避していたことに気づいた。
気まずさを誤魔化すように溜め息を一度吐き、ローテーブル上のフィールドをあらためて見下ろす。
これ以上できることがないことを確認し、ターンの終了を宣言すると、テーブルを挟んで向かい側に座っているイヴリースが邪悪な笑みを浮かべた。
「了解よ、マスター。それじゃあ、私のターンね? ドロー」
俺とイヴリースは実際のカードを用いてのデュエルの最中だった。
イヴリース――というか、かつてのリースが情報工学の権威として知られた科学者だったというのは、明らかになっていることだ。そんな彼女がカードゲームを嗜んでいたのかは分からないが、少なくともカードの精霊として顕現した彼女は、ルールなどをまったく知らなかった。
それでも興味や関心は持ってくれていたようだったので、俺が一から手取り足取り教え、いまではこうやってデュエルをするようになっていた。
「それにしても、妨害も明白で、攻めやすい盤面ね。マスターったら、初心者である私に合わせて手加減してくれたのかしら?」
そうではないことをよく分かっているというのに、イヴリースはそんなことを白々しく口にしながら、手札からカードをフィールド上に置いて展開を進めていく。
俺のフィールドが、理想とされる盤面から遠くかけ離れているのは、彼女の的確な妨害の成果に他ならない。
そう、イヴリースは手札誘発などによる妨害のタイミングがとにかく的確だった。
彼女は、いわゆるマストカウンターを外さないのはもちろんとして、俺が一番嫌だと思うタイミングで妨害を挟んでくる。
もちろん、デュエル開始時の引きは絡むので必ずそうなるというわけではないが、まるで思考を見透かしたかのような立ち回りに、手も足も出ず敗れてしまうのが最近の俺だった。
(俺って、考えていることとかがそんなに顔に出やすいんだろうか)
そんなことを考えながら、イヴリースの進める展開に対して妨害を適宜挟んでいると、彼女がかぶりを振った。
「別にマスターが特別顔に出やすいわけではなくて、私が観察することに慣れていて、積み重ねた結果を活用するための方法もよく理解しているというだけよ」
平然とした調子で答える一方で、イヴリースは動かしている手は一切止めず、展開を粛々と進めていく。
つまり、彼女は俺の一挙手一投足などを観察して、その際にどのように考えていたのかを分析し、デュエルでの判断に活用しているということだろうか?
そして、その観察と分析は、まるで思考を見透かされているかのように感じていたのだから、おおむね当たっているのだろう。
俺は明かされた真相に驚くのと同時に、イヴリースの凄さにあらためて感嘆せずにはいられなかった。
世界に名を轟かせていた、とまで言われたのも頷ける。平凡な大学生にすぎない俺では、どうやったってできそうにないことだった。
「マスター。できることがすでにないとはいえ、デュエルの最中に考えごとだなんて、ずいぶんと余裕ね? それとも、負け犬仕草が板についてきたって言うべき?」
我に返って顔を上げれば、イヴリースが唇を微かに歪めた微笑を浮かべていた。嘲りを滲ませたようなそれは、本来の身体の持ち主は絶対に見せることがないだろう。
しかし、そういうギャップこそ、イヴリースという特殊な存在の魅力なのではないかと俺は思うのだが、それは惚れた欲目というか贔屓目がすぎるだろうか?
そんなことを思いながら、顔のよさをあらためて真正面から見せつけられて、二の句が継げなくなってしまっていたのだが、イヴリースがその程度のことで今更動揺したりするはずもない。
見事な手際で詰めきられ、デュエルは今日も俺の敗北で幕を閉じた。
*
イヴリースが頭脳明晰であることは理解しているが、デュエルで負けたことを素直に受け入れられるかどうかは、また別の話である。
デュエルが終わった後も、俺はフィールドを眺めて、うなだれていた。
イヴリースはそんな俺をしばらく見つめていたが、間もなく立ち上がって、ローテーブルのすぐ隣にある安物のベッドの縁に腰かけた。
すらりと伸びた足が悠然と組まれ、むにぃ♥と程よい肉づきをしている太ももが潰れるように広がる。敷くようにして座っている夜空のような色合いの衣装に、彼女の太ももの健康的な色つやがとても映えていて、色気が匂い立つかのようだった。
「……青は藍より出でて藍より青し、なんて言うそうじゃない? ましてや、私がその青なんだから、マスターが落ち込む必要なんてないんじゃないかしら。
まあ、でも――」
イヴリースは出し惜しむように発言を途中で区切り、組んでいる方の足をこちらに向かって伸ばす。
普段の彼女はロングブーツのような靴を履いているが、いまはそれを着用していない。だからこそ、ショートパンツから伸びている健康的な脚線美がより美しく見え、俺は思わず息を呑んでいた。
そのまま目を奪われていると、すぅっと伸びてきた彼女の足はあぐらを組んでいる俺の足の間に横から潜り込み、股間の辺りを撫でるように軽く踏んだ。
その瞬間、気持ちよさを伴った痺れが身体を貫くように駆け抜け、呻くような声が口を衝いて出る。
彼女はそんな俺を見下ろしながら、足を動かしつつ、悩ましそうな表情を浮かべて続けた。
「確かに、デュエルの勝率という観点で見たら、マスターのことをマスターと呼び続けていいのかを悩んでしまうところね。マスターにはそれらしい威厳というものをそろそろ見せてもらわないと――って、あら?」
さするように動かしてた足の動きを止め、イヴリースが口の端を吊り上げた嗜虐的な微笑を浮かべる。彼女が視線を向けている先では、ズボンの布地が押し上げられており、愚息がその姿をうっすらと浮かびあがらせていた。
暑さから布地が薄めのズボンを穿いていたため、股座を撫でるように動いていたイヴリースの足の感触が極めて鋭敏に感じ取れてしまい、一気に勃起してしまったのだ。
「足で踏まれてるのに、ナニをこんなにおっきくしてしまうだなんて。それがマスターの考える威厳ということかしら?
だとしたら、私もそれにふさわしい形で応えてあげないとねぇ♥」
イヴリースの足の指がワキワキと動き、膨らんで硬さを帯びた竿をぎゅっと掴んだ。
ズボンの布地を押し上げている肉棒を俺の腹部の辺りに押しつけるように押さえ、足全体が根元から亀頭の方に向かってゆっくりと動き始める。
肉棒が反発するように更に硬くなって膨らむが、ふみぃ♥とイヴリースの足に難なく踏まれ、そのまま扱かれてしまう。こしゅっ♥ しゅくっ♥と布地の擦れる音が、やたらはっきりと耳に届いた。
体勢が不安定であることによる絶妙に覚束ない足の動きと、間に挟まっている布地が引っ張られるように擦れることによって、もどかしいような痺れが生じ、下半身からじんわりと広がっていく。
全身が熱くなるのを感じつつも、俺は堪えるように息を荒く吐くことしかできなかった。
「あはっ♥ マスターってば必死に堪えちゃって♥ いいのよ、我慢なんてしないで。マスターだって、気持ちいい射精をしたいでしょ?♥ だったら、簡単。マスターは、デュエルだけじゃなくて、私の足にさえ勝つことができないって認めてしまえばいいだけ♥」
イヴリースの足の裏が亀頭を布地越しに包み込むように上から握り、ふみぃ♥と表面を軽く踏みながら、きゅっ♥ きゅっ♥と亀頭全体を捻るように動く。
痺れるような気持ちよさが一気に駆け抜けて、俺は思わず腰を引きたくなったが、背後の辺りに両手を突いて辛うじて踏み止まった。
「――大丈夫よ。私は、マスターがどんなに雑魚で負け犬だったとしても、決して見捨てたりなんてしないから♥
ね?♥ ね?♥ だから、早く気持ちよくなっちゃいましょ?♥ 私の、雑魚雑魚マスター♥♥」
イヴリースが囁く誘惑の言葉が溶け込んでいくのと同時に、肉棒を扱いている足の速度が速まっていく。
その緩急のつけ方は、ぐつぐつと煮えつつあった熱を一気に掻き回されたかのようで、急速に膨らんだそれが身体の奥底から猛烈な勢いで込み上げてくるのが分かった。
頭が沸騰したように熱くなるのと同時に、顔面が燃え上がったように上気しているのを感じ――、俺は弾かれたようにその場で立ち上がっていた。
「えっ、あっ……マ、マスター?」
予期せぬ展開だったようで、イヴリースが驚いているように見えたが、実を言えば俺自身も同様だった。
それくらいに衝動的な行動だったのだが、その一方で俺は自分自身がこれから何をしようとしているのかを理解しつつあった。自分の行動に対する理解が遅れてやってきたのである。
(……俺って、思っていた以上に負けず嫌いだったんだな)
どうやら、このまま何もせず負けを受け入れるというのは、俺の性分ではなかったらしい。
俺は、イヴリースに一矢報いたく――いや、あまりにも煽ってくる彼女を、わからせたくなっていたようだ。あるいは、頭に血が上ったなどと言った方が正確なのかもしれないが、そこら辺は些細な違いでしかないだろう。
どちらだったとしても、次の行動に違いはないのだから。
「きゃっ♥」
俺はイヴリースをベッドの上に押し倒し、服を脱ぎ捨てて彼女に覆い被さる。
イヴリースは、いつの間にか一糸まとわぬ姿になっていた。
*
横たえられた彼女の華奢な身体は、ゆるやかな曲線を描きながら、見惚れるような柔らかさを宿している。
微かな膨らみが、胸が上下するのに合わせて、ぷるぷる♥とわずかに揺れる。その先端では乳輪と乳首が綺麗な桜色を見せていた。
ついに完全に露わになった彼女の肌は、健康的な色つやを誇りながら透き通っていて、ベッドの上に広がったロングヘアが、その美しさをより際立たせている。それでいて、引き込まれてしまうような妖しい色香さえも醸し出していた。
彼女の裸身は息を呑んでしまうくらいに綺麗だ。
見る度に、初めて目にしたときの感動も鮮明に蘇って、見惚れてしまわずにはいられない。
だが、それも今日ばかりは例外だった。
「っんン、あっ……んぅ、ゃんっ!♥ っあ……んんぅ、これヤっバぁ♥ マスターのおちんぽ、さっきまでよりずっとおっきくなってぇ♥ あっ、ァん……ッあ、そんなすごいのでぇ、こんなに激しく犯されたらぁ、あぁん……んっ!♥ 私っ、わたしぃ……あアっあッッ、んっ、あぁんっっ!♥」
俺はイヴリースの裸身には目もくれず、大きく開けた彼女の両足を押し上げるように覆い被さり、挿入していた。
ずぷっ♥ ぬぷぷぅ♥と肉棒がすでに濡れそぼっていた秘裂に受け入れられていくのを感じながら、イヴリースの華奢な身体を真上から押し潰すように抱き、腰を押し進めていく。しかし、膣ひだが絡みつくように激しく締めつけられ、さすがに動くのを一度止めずにはいられなかった。
足でだったとはいえ、愚息をしっかり扱かれたため、余裕はほとんど残っていないようだ。止まっていなかったら、早々に射精してしまっていただろう。
それでも逸る気持ちを抑えられず、早々に腰を振り始めれば、イヴリースの口から甲高い嬌声が聞こえ、安物のベッドが軋むような音を立てながら激しく揺れる。
あまりの揺れっぷりに、ベッドが壊れるのではないかという不安がさすがに脳裏をよぎったが、興奮しきっている頭で加減なんてできるはずもない。いまの俺にできるのは、イヴリースをわからせるために、このまま駆け抜けることだけだ。
叩きつけるように腰を振る度、身体同士のぶつかり合う湿った音が室内に響き渡り、泡立った結合部の辺りから、ぴゅっ♥ ぴゅっ♥と混ざり合った体液がシーツに向かって飛び散る。枕を抱えているために露わになっているイヴリースの脇の表面でも、透明な滴が線を描きながら次々と流れ落ちていくのが見えた。
その一方で、子宮口が降りてきて、ちゅぅ♥とキスするように亀頭に吸いつく。
俺はそれを貫き、そのままナカまで掻き回すように腰を深く鋭く打ちつけ、抽送を更に速めていく。
「おっ……、おぉっ、ォッ!!♥♥ っっ、っ……んンっ、あんっ♥ っあ、アぁ……マスター、むりムリ、私もうムリぃっ♥ イくっ、イっちゃうからぁ♥ っあん、アっ……だからっ、だからぁ……このまま私のナカにぃ♥ マスターのザーメン、一滴残らず注ぎ込んでぇ!!♥♥」
イヴリースが上気した顔に蕩けた表情を浮かべ、ビクビク♥と熱くなっている身体を悶えさせるように震わせる。
彼女の口から、普段では絶対に聞けない唸るような低い声が一瞬漏れ出たのを聞き、煽られて落ち込んでいた俺の中の自尊心が一気に回復していく。
ねだるような言葉を聞けたというのもそれを更に後押ししたようで、身体の奥底から膨らんだ熱がうねりのように急速に込み上げてくる。
瞼の裏で光が白く明滅するのを感じながら、階段を一気に駆け上がるように、俺はピストンを速める。
大きく脈打っている肉棒が、イヴリースの膣内で更に膨らむのが分かり、最奥まで貫くように腰を彼女の身体に思い切り押しつけた。
「マスター……、ますたー、マスターぁっっ♥♥ あっ、ああアッ……あアっ、ああア゙ぁアあ゙―――っっっ!!!♥♥♥」
びゅるっ、びゅっびゅっ、びゅぶぶぶぶううううっっっっ!!!♥♥♥ びゅるびゅるっ、びゅっびゅぶぅ、びゅくびゅくびゅく、びゅうううううううっっっっ!!!♥♥♥
限界を超えて膨らんだ肉棒が弾け、壊れた蛇口のように、白濁液を荒々しい勢いで吐き出す。
イヴリースは、叫ぶように一際甲高い嬌声を上げながら、俺の下で小柄な身体をびくんびくんと跳ねさせていた。
*
射精をようやく終えて落ち着いた肉棒を引き抜き、重くなった身体を引き摺るようにベッドに倒れ込む。
そのままイヴリースと抱き合っていたのだが、時間が経って理性が戻ってくるにつれて、俺はじわじわと自己嫌悪に陥りつつあった。
(さ、さすがに謝った方がいいよなぁ……)
自己嫌悪とは言ったが、イヴリースとセックスすることに対して、後悔や申し訳なさといった類の感情を抱いているわけではない。
しかしながら、勢いに任せてヤってしまうというのは何か違うのではないかと思えてならなかった。
もちろん、時と場合によっては勢いも大事だとは思うが、さすがに怒った勢いというのは――
(イヴリースには気にする必要はないって言われるかもしれないけど、ちゃんと一度謝ろう。じゃないと、俺が俺自身のことを許せなくなりそうだ)
腕の中に抱いているイヴリースを見下ろし、口を開こうとして、俺は彼女がすごく満足そうな笑みを浮かべていることに気づいた。何故かは分からないが、妙につやつやしているようにさえ見える。
彼女のそんな様子を疑問に思って見つめていると、イヴリースの方も向けられている視線に気づいたようで、こちらを見上げながら首を軽く傾げた。
「マスター、どうかした?」
俺はイヴリースにあらためて見惚れつつ、彼女がデュエルの最中に言っていたことを、ふと思い出していた。
――『別にマスターが特別顔に出やすいわけではなくて、私が観察することに慣れていて、積み重ねた結果を活用するための方法もよく理解しているというだけよ』
イヴリースが、俺の言動から考えていることなどをかなりの精度で読み解けるというのは、デュエルで散々味わったことなので疑いようがない。それは裏を返せば、言われたときはそこまで思い至らなかったけれども、イヴリースが俺の行動を彼女自身の望んでいる方向に誘導できるとも言えるだろう。
だとすると、疑問がひとつ浮かぶ。
そんな彼女が、先ほどのように、俺を怒らせる振る舞いをしてしまうことなんて起こり得るのだろうか。
降って湧いたような疑問に思わず考え込まずにいられなかったが、先ほどのイヴリースの様子を思い出したとき、答えと呼べそうなものが脳裏をよぎった。
(他ならぬイヴリース自身が、そんな状況を望んでいたとしたら?)
荒唐無稽な推測ではあるが、そのように考えれば、俺が抱いた疑問に対する答えには一応なっていると思う。そして、俺はそういう言動を取ってしまうような嗜好にも心当たりがあった。
明確な根拠には欠けているものの、そうだと仮定してみると、彼女の言動には納得できる部分も多い。
つまり、こういうことではないだろうか。
もしかして、イヴリースって誘い――
「まっ、マママッ、マスター!? 気づいたとしても、そういうことは深くは考えないのが男女の機微というものではないの?! まったく、いっつも呆れるくらいに鈍感なのに、どうしてそういうときだけ鋭いのよぉ!」
胸の辺りにささやかな痛みを感じて見下ろせば、顔を果実のように真っ赤に染めたイヴリースが、俺の身体に抱きつきながら胸板をポカポカと叩いていた。
恥ずかしそうに威嚇するような声も上げていて、その姿はまるで身体の通りの少女のようだ。
(か、可愛すぎんだろ……ッ!!)
大好きな女の子の、こんなにも可愛らしい一面を突然見せられて、どうして我慢なんてできるだろうか。
俺はイヴリースの身体を更に抱き寄せ、可憐な唇に顔を寄せる。
彼女は驚いたように小さく声を漏らしたが、すぐに目を閉じてキスを受け入れてくれる。
「んふぅ、っ……ちゅっ♥ マスター……、好き♥ んちゅ、ちゅぅ……大好きよ♥ ちゅぱっ……ちゅっ、んちぅ♥」
静かな情熱を秘めた囁きが耳から染入って、心と身体のすべてを温かく満たしていく。
俺たちはそのまま抱き合いながら、お互いの唇を啄むような口づけを繰り返し続ける。
唇同士の軽やかに触れ合う音は、周期的に動いている扇風機の音に混じって、しばらくの間止むことなく聞こえ続けていた。