魔女の旅々のイレイナのクロスオーバー
ライ×イレイナ
イチャラブ
skeb作品です。
晴天、草木が少ない渓谷の中、まるで一凛の花びらのように空を舞う一人の麗しい魔法少女。
「助けて!」
容姿端麗にして知勇兼備、そして見知らぬ美少年の必死の助けにも慈愛の心をもって救助にあたる彼女は一体、誰なのか。
(そう、私です)
「ケガはありませんか? 荷物がないようですけれど、下に落としてしまったのでしょうか?」
黒のローブに三角帽子、箒に座ったままの美女イレイナは、崖に捕まっている銀色の髪の少年を魔法で浮かび上がらせた。
浮遊魔法で浮かんだ少年は崖上の道に降ろされたが、呆然としている。
少年は命が助かった驚きよりも、とんでもないモノを見たような顔でイレイナを凝視していた。
「え……箒? 浮いてる? それにここは……ギアスの遺跡にいたはずじゃ……?」
「もしもーし。荷物は下にありませんか? 私に見惚れている場合じゃありませんよ。助けてもらった相手に一言いうべきことがあるのではないですか?」
「あ……そうか。助けてくれてありがとう。今のは、君がやったのか?」
「はい?」
「僕を浮かせたのは……」
イレイナは後に知り合いの魔女にこう語る。
「最初は魔法を見たことが無い世間知らずの少年を助けてしまったのだと思い、ほんの少しだけ助けたのをこうか……ゴホン、いえ、本当に苦労をしました。
なぜなら彼は、街まで何日もかかる旧道の真ん中で、一切の仲間も荷物ももたずにいたのです。
崖から落ちたショックによる記憶障害の可能性も考えましたが、意識ははっきりしていますし、彼は自身の身分や記憶もすらすらと答えました。
ですが、その内容はまるで夢物語。やれナイトメア・フレームなど、ブリタニアなど、にっぽんぽんなどと、よくわからないことを口にしていて、妄想に取り付かれた作家かなにかと判断せざるを得ませんでした。助けた手前、身一つで旧道に残す訳にもいかず、そのまま箒の後ろに乗せて次の街に向かったのです。本来ならばそこで彼の知り合いを探して、別れるつもりでしたが――ええ、それが私と、魔導士ライさんとの出会いでした」
ライにとってこの状況は絶望といっていいのか。ファンタジー小説の世界に迷い込んでしまったかのように、ライはこの世界で場違いだった。
ギアスの遺跡で光に包まれ目が覚めたら、崖から落ちる寸前で必死に捕まり、絵本でしか見たことが無いような魔女に助けられた。
箒で彼女の後ろに乗り、未体験の浮遊による恐怖で魔女イレイナのお腹に手を回して掴まったが、彼女に手ひどくはたかれて距離をとられてしまい、逆に幾分落ち着きを取り戻すことができた。男女間のデリカシーは共通のようだ。
ライはこの世界の文字は全く読めず、歴史、国家、魔法、何もかもを知らない。当然ライは寄る辺もない。
数日後、街に着いてとりあえず宿屋に連れて来てくれたイレイナに、ライは頼み込むしかなかった。
「頼む。僕は文字も読めないし、知り合いもいないし、お金もなにもない。イレイナさんの助けをするから、どうか僕が自立するまで面倒を見てくれないだろうか? どうか、助けてほしい」
「はあ、私の旅にあなたの助けは無用です。あなたの境遇を理解はしますが――」
『助けて』
「――仕方ありませんね。あなたに寄る辺が無いのは事実のようですし、せめて文字の読み書きと、働き手の目途くらいはつけましょうか。ただ、私にもこの街でやるべきことがあります。その合間にだけですよ」
「かまわない。ありがとうイレイナさん」
「どういたしまして」
「ちなみにイレイナさんのやることって?」
「この街に盗賊団が潜伏しているという情報がありまして、その調査依頼です。この街は人の往来もそこそこありますし、自称異世界人の方は宿屋から出ないようにしてください」
「盗賊団? イレイナさん一人で大丈夫なの?」
「……私は灰の魔女です。盗賊団の心配をする方が、この世界の常識なのですよ」
「それがイレイナさんの仕事なんだね」
「たまにですけどね。旅に収入は必要ですから」
「手伝わせてくれ」
「はあ?」
「こう見えて、元居た場所では荒事や情報収集が得意だったんだ。恩返しをさせてほしい」
イレイナはあからさまに呆れ顔をする。
「あなたに何ができるんですか? 盗賊団を甘く見ているのかもしれませんが、下手にあなたに動かれる方が迷惑ですし邪魔です。宿で大人しくしていてください」
「う……でも」
「でもも何もありません。夜には帰ってきますから。それでは」
イレイナは出かけ、宿で一人ライは考える。この世界でどう生きるか、そしてどう彼女の助けになるかを考えていた。
(街の門を通る時、イレイナさんだけ門番から敬意を払われていた。僕があっさりと門を通れたのも、彼女が地位ある立場でかつ、荒事にも得意な実力者だからだろう。この世界には魔法という力がある。ただ、僕にはギアスがある)
ライは彼女の助けになりたい。その想いの根幹は、後ろめたさだった。
(とっさのこととはいえ、あの崖で僕はイレイナさんにギアスを使ってしまった。『助けて』と。今彼女が僕を保護してくれているのは、ギアスによるものだろう。しばらくは仕方ないが、このままだと彼女は、すっと僕のことの面倒をみることになりかねない。命の恩人に対してそれはダメだ。早く僕が自立して、助けがいらないくらいの男だと彼女に認めてもらわないと)
ライには力がある。宿屋の主人に歩み寄り、ライは片目を紅く光らせた。
「ご主人、質問に答えて欲しい」
盗賊団について知っていることは無いか。噂は? 知り合いは? 直近の事件は? 気になった街の変化は? 犯罪行為を秘密にしていないか?
ライはギアスから得た情報を数珠つなぎのようにして人から人へギアスをかけていき、盗賊団の情報を集めていく。
盗賊団を捕縛すれば、街とイレイナの助けになる。そう考えたライは迷いなくギアスを使っていく。
ライの予想通り、ギアスをかけた5人目にして盗賊団関係者をみつけ捕縛した。とある酒場の主人だった。
ライは体術で主人を押さえつけ、公衆の面前で白状させていく。
「盗賊団の位置と人数は!?」
「ここから裏通りの十字路にある、白い屋根の2階だ! 今10人いる……!」
「魔法を使えるのは?」
「魔導士が2人……!」
(よし、十分だろう)
ガチャガチャと治安隊が駆けつけてくる音がしたのでライは足早に盗賊団のアジトへ向かい、ギアスと体術を持って一人一人制圧し、残りの盗賊魔導士は一人となった。
場所は屋内、部屋の奥に盗賊魔導士は隠れている。ライは身長に家具の影に身を隠しながら近づいていくと、窓の外から浮遊したイレイナがやってきた。
「ライさん!? あなたこんなところで何をしているのですか? ここは盗賊の」
「危ないっ! イレイナさん!」
「っ!」
魔導士の最後の男が姿を現し、光弾の魔法を準備する。その姿をイレイナも視認した。
(これぐらいなら)
イレイナは相手が格下の魔導士と即断し、迎撃の魔法を準備する。
しかしイレイナの目に飛び込んできたのは、部屋の壁を走り盗賊の魔導士に飛び蹴りを命中させるライの姿だった。
最後の盗賊は頭を強かに打たれて昏倒した。
ライがすぐに盗賊を縛り上げる中、驚嘆した顔でイレイナが歩み寄ってくる。
「今、あなた壁を走っていませんでしたか? どんな身体能力を……」
「言ったでしょ。荒事は得意だって。全員もう捕まえてあるから、治安隊の人を呼んでもらっていいかな?」
「かまいませんが……あなたが一人で、魔導士も含めた盗賊を10人制圧したのですか?」
「うん。イレイナさんの助けになれたかな?」
(え何この人怖。崖で落ちそうになった美少年を助けたら自称異世界人で文字も読めないのに、魔導士もいる盗賊団を身一つで制圧してるし、そもそも最後の一撃も壁走ってるのがかろうじて見えたぐらいで蹴りとか全然見えませんでしたが、この男はどれだけ設定を盛っているんですか? どうやって情報収集したかも謎ですし、私と関係を持ちたいがためにどこかの国が手配した工作員の可能性も考慮した方が、ですが今はとりあえず)
「ええ。なりましたよ」
イレイナは美少女スマイル100%を返し、ライは喜んだ。
翌日、報酬を受け取りほくほくのイレイナだったが、ライの扱いには困った。
日中、ライとイレイナはカフェで二人。約束通り今はイレイナが基本的な文字を教えており、ライは真剣に聞いて読み書きを練習している。
イレイナから見てライの様子は演技に見えず、勉強にはいたって真剣。テストをしてみても、教えていないところはしっかりと不正解だった。
(異世界云々はおいておいて、本当になんの知識もないのでしょう。記憶障害、異国から誘拐されたケースも考えられますか。身分照会を方々に出すべきでしょうね。ライさんの顔はとても良いですから、見覚えのある人がいればすぐに見つかるでしょう)
イレイナのライの顔面評価は高い。ライはカフェで勉強している時でも、他の客から何度も話かけられていた。
「ありがとうな兄ちゃん。盗賊団の場所つきとめたの、あんただって?」
「酒場の主人を捕まえた方ですよね。あのよかったら、私とこのあと……♡」
「いい筋肉だ」
その中にはうら若い乙女モブの黄色い声も混じっていた。ライは応対しながらも、勉強のためにやんわりと会話をそこそこで打ち切っている。
イレイナは紅茶に口をつけつつ、
「一日ですっかり街の人気者のようですね。それだけのことができるなら、私の助けはもういらないのではないでしょうか? この街で十分、あなたはやっていけそうですよ」
「え? ああでも、街に定住するつもりはないんだ。収入はもちろん見つけるけど、イレイナさんみたいに旅を続けて、手がかりを探したい。元の世界に帰る方法が見つかるかもしれないしね」
「元の世界……」
「そういえば、僕にも魔法って使えるようになるのかな?」
「試していませんでしたね。可能性はありますが、基本的に魔法の才能は女性の方が優位です。魔力を使ってみてはどうでしょう」
「魔力……?」
結論から言うと、ライには魔法の才能があった。そよ風程度だが風魔法の素養があり、盗賊団捕縛の礼として、イレイナに選んでもらい杖を購入してもらった。
元の世界でライが魔法を使えたはずもなく、この世界特有の摂理が関係しているのだろうとライは予測しつつ、わくわくと期待の目でイレイナを見ている。
「イレイナさん。よかったら僕に魔法を教え」
「ええ、面倒くさい……」
「お願いイレイナさん。必ずイレイナさんの役に立つから、ね?」
「知りませんでしたか? 私こと灰の魔女イレイナは、14歳で魔女見習いの資格を取得し、15歳で魔法使いの最高位『魔女』の称号を取った天才なのですよ。そんな魔女を教師として雇うのならば、相応の報酬をいただかなければなりません」
「う、そうなのか……」
かつてサヤを教えたことはもちろんイレイナは言わない。
そもそもイレイナからすれば、ライを崖から助けて街まで運び、さらには宿代も出して文字の読み書きや、この世界の常識まで教えている。自分でも不思議なくらいライの世話を焼いていた。
盗賊団の捕縛についても、ライはイレイナの言いつけを守らず勝手に行動していたし、報酬を一部彼に分けている。まあ、イレイナが盗賊団に行った時には全て終わっていたのだが。
総合して、イレイナはライにこれ以上なにかする理由はなかった。ライからの見返りも別に期待していない。魔女は旅を続けたいのである。
強いて言うならば、ライが様々な街の娘から声をかけられるたびに、
「ごめんなさい。今は彼女(恋人という意味ではない)といるので」
とイレイナを見ながら断りを入れ、イレイナは街の娘たちからのうらめしそうな視線に、多少の優越感を得るくらいだった。
ライは美形だったし、勉学も真面目、性格も多少暴走しがちなところはあるが、素直で人当たりがいい。そしておそらくは、その辺の魔導士は相手にならないぐらい強い。
自称異世界人の美少年。イレイナは旅の中で様々な出会いをしてきたが、彼の正体を暴く過程でもしかしたら、想像だにしない経験ができるかもしれない予感はあった。
それに何より、思い悩むライが、『助け』を求めているように見えてならない。
「……仕方ありませんね。出世払いとしましょう」
「イレイナさん!」
「ただし、条件があります。昨日のような勝手な行動は慎んでください。私の言いつけをよく聞き、生活の中で多少の雑用もやってもらいます。あなたが置かれた立場は理解していますが、相応の見返りが必要です。それでもいいのでしたら、魔法を教えましょう」
「もちろん。よろしくお願いします」
「よろしい」
イレイナには珍しい、期限未定の同行者が決まった。
街から街への箒は二人乗り、ただしライが尻一つ分距離を取り、体が触れ合うことはない。
傍からみれば、美少女が自分より背が上の美少年をこきつかう二人旅。修行と称して宿のベッドメイクや料理はもちろんのこと、荷物持ちは全てライ。
ライは素直に従い奉仕した。イレイナも珍しい事をしていると自覚しながらライに勉学を教え、存分にこきつかった。一応ライの人相、名前などの調査依頼もしつつ、弟子に全てを任せる楽を堪能していた。
「買い物をしてきてください。文字はならったのですから看板は読めるでしょう。これも修行ですよ、ライさん」
「はい、イレイナさん」
「きのこは全て食べなさい。これも修行ですよライさん」
「いいんですか? 美味しいですよ?」
「ヤモリを10匹ほど捕まえてきてください」
「食べるんですか?」
「肩が凝りましたねえ。揉んでください」
「はい、イレイナさん」
「お腹が空きました。何か作ってくださいライさん」
「料理はあまりしたことないですけど……」
「きのこが入ってるじゃないですか。作り直しです」
「のけますから。もったいないから食べてください」
「ライさん、ご飯はまだですか?」
「すぐできますからねー」
「師匠より遅く目覚める弟子がどこにいるのでしょう。師のために綺麗な水を用意しておくのが当たり前です」
「了解……」
(ちなみに私は決して意地悪ではありません。どこぞの師匠とは違い、彼のためにやるべきことは、きちんとしているのですから)
「仰せのままに、イレイナさん」
ライに不満はなかった。むしろ、まだ楽しかったころの妹との記憶を思いだしていた。
(あの頃も、散々お願いされてたっけ)
とはいえ数か月が経ち、ライとイレイナの関係に変化はあった。ライはすっかりこの世界の一般常識を覚え、魔法も順調に上達している。箒による飛行はまだ教えてもらえないものの、スラッシュハーケンを元にした風魔法制御のロープ付き投げナイフの腕前は、模擬戦をしてくれたイレイナが感嘆の声を漏らすほどだった。
ちなみに対戦結果は、ライがイレイナの浮遊魔法によって逆さ吊りになって終わっている。
「今日はここまでにしましょう。明日は人さらいの魔女の調査に向かいますから、お弁当を用意しておいてください」
「了解です。イレイナさん、好き嫌いはダメですよ」
「きのこは食べなくても死にません」
寝食を共にし、二人の連携で行く先々の依頼やトラブルを解決する。
人さらいの魔女を捕縛し、街に報告すると、盛大な歓迎パーティーで二人は迎えられた。
夜にもかかわらずたくさんのかかり火と料理、ハイテンションの人々にライとイレイナは迎えられている。
「灰の魔女万歳! イレイナ様万歳!」
「娘が無事帰ってきたのはあなた達のおかげだ!」
「いえいえ。それほどでもありますが。報酬もたっぷりといただきましたし。むっ」
懐が重くなったイレイナの目線がきつくなる。その視線の先には、数多の若い娘たちに囲まれているライがいる。
「魔導士様、今夜はぜひわたくしの部屋に……♡」
「あ、ずるい! ねえねえ私の部屋に来てよ!」
「待ちなさい、困っているでしょう。魔導士様、いいお酒がありまして……♡」
(随分と人気のようですね。まあ私に若い男たちが言い寄ってこないところを見ると、ここの人々は美醜に関しては少々世間とズレがあるようですし、好きにさせておきましょうか)
イレイナは自分自身に言い訳しつつ、不機嫌な表情でパンを頬張った。そんなイレイナの隣にライが座る。ライに言い寄っていた娘たちはライとイレイナのツーショットを見ると、ため息をついて距離を取った。
「あら、現地妻を作るいい機会のようでしたが。相手も一夜限りの関係と理解しているでしょうし、楽しんでくればよかったのでは? 魔導士様」
「イレイナさんを放ってはおけないよ。ほら、頬っぺにソースがついてる」
「ちょっと、やめてください。人前ですよ」
「あ、つい。飲み物持ってくる。葡萄ジュースでいい?」
「ええ。甘いのをお願いします」
イレイナがちらりと街娘たちを見ると、イレイナに恨めしそうな視線を向けている。
(ふふ)
ライが隣に戻ってくると、イレイナはそっと頭を傾けてライの肩に触れ、
「ああー今日はちょっと飲み過ぎてしまいましたねー」
「イレイナさん? ああ……」
ライはイレイナの意図を理解した。先ほど言い寄ってきた娘たちから不満の視線を感じる。
「そんなことしなくても、別に彼女たちのとこには行かないよ」
「別に行ってもいいですが、ただ彼女たちの反応は面白いものでして。そうだ。あーんをしてみてください。どんな反応をしてくれるでしょう」
「あれ酔ってます? アルコール混じってたのかな……あーん」
「え? あ、本当に? あ、あーん……」
差し出されたじゃがバターを頬ばるイレイナ。頬が赤いのはアルコールとかがり火のせいだろう。結局イレイナは問題が起きてもライがなんとかしてくれるだろうという甘えから、はたまたお酒が思ったより強かったからか、机に突っ伏して熟睡し、ライがお姫様抱っこでベッドへ運ぶことになった。
あくる日、イレイナは少し頭がくらくらして箒飛行がスリリングになり、イレイナは何も言葉をいうことなく、自身の額を抑えながら、ライを背もたれにしていた。
とある温泉の国にて。
「硫黄ガスによって飛行不能……旅の経路を変更する必要がありますね」
「ちょうどよかったんじゃない? ほら温泉宿によって効能が違うみたいだし、はしごしてもいいかも」
「まあ観光にはうってつけかもしれませんが……」
旧火山の温泉街は山坂の傾斜にそって創られており、紅葉の季節もあいまって景観が美しい。ライからしてもキョウトの観光地を思いだすほどだった。
いつもはイレイナの好き放題の旅路にライがついて行く形だが、今日はライが積極的に温泉宿の情報を集めている。
「随分とテンションが高いようですけど、温泉が好きだったんですか?」
「うん、故郷を思いだしてね。街並みが似ているんだ」
「そうなんですか。ここは東国出身者の方が多いようですから、ライさんも案外そちらの出身なのかもしれませんね」
「東国か……手がかりがあるかも」
(サヤさんに相談……いえ、ライさんと出会うと色々かなり面倒くさそうですし、黙っておきましょう)
男と二人旅をしているイレイナを見たサヤが暴走するのは予想しやすい。
ともかく、宿は宣伝文句が多種多様だった。
「どこにしようか。傷の湯、心臓の湯、痛風。一番人気は美肌の湯……」
「まずは美肌の湯にしましょう」
「え、でも」
「美肌です」
「はい」
と、さっそく美肌を謳う温泉宿に入ったのだが、問題があった。受付の女将はポジティブな声色で告げる。
「ちょうどよかった。空いているのは二人用の部屋が一つでして。さっそくお取りしますね」
「え、ちょっと待ってくださいっ」
イレイナが珍しく慌てた声を出す。今までの旅路、野宿を極力避け、宿の部屋もできる限り別にしてきた。当初ライを使い魔のごとくこきつかって、朝起こしにこさせることもあるイレイナだったが、次第にライが自立し始めてからは雑用が減っていた。
特に先の人さらい魔女捕縛のパーティー以来は、妙にライと距離を取ろうとしている。
(意識されているのだろうか。まあそりゃそうか)
ライとイレイナも年頃である。ライが自立してイレイナと対等に近づくにつれ、イレイナの行動も変化しはじめている。
とはいえ、男女の仲になったことはないし、ライからしてもその予定はない。
女将を前にしてイレイナは考え込んでいる。女将は続ける。
「現在空き室は二人用のここだけでして、明日以降は全室半年先まで予約でいっぱいでして……」
「半年先まで……仕方ありませんね」
イレイナがライをじっと見つめる。
「変な気をおこさないでくださいね。逆さ吊りではすみませんから」
「しないよ。ていうか意識するなら朝起こしにこさせないでよ」
「それは指導ですから。二人用の部屋一つでお願いいたします」
ここは魔法の世界。二人部屋に男女が入れば、温泉の効能に余計な気を利かせる職員もいる。
逆にそれが良くてリピートする客もいるが、イレイナとライは知る由もない。
ともかく部屋に入ると、東国風の旅館部屋は落ち着くものだった。
入室後に靴を脱いだ先、部屋内部は掃除が行き届いて至って清潔。温泉はテラスに備えついた専用の露天風呂、同室の者以外の視線を気にする必要はない。
行く先々であくの強い人間からトラブルに巻き込まれるイレイナからすれば、久々に慰安旅行に来たかのよう。さっそく温泉に直行し、湯から上がると着崩した浴衣で完全にだらけきっていた。
今は布団の上にうつ伏せになり、ライに髪を乾かしてもらったあと、背中をマッサージしてもらっている。
「ふう……かなりうまくなりましたね。これなら旅のマッサージ師として生計を立てるのも難しくないでしょう。指導に感謝してくださいね」
「どうも。全く。変な気は起こさないでと言いながら、無防備すぎじゃない?」
「ライさんがその気を起こした場合は、簀巻きになった男が一人温泉の底で永遠に沈むことになるだけですから。警戒する必要もありません」
「温泉街の人に迷惑だからそれ以外にしてね。これでよろしいですか、お客様」
イレイナの背中から腰にかけての指圧を終え、ライが離れる。
「上々の仕上がりです。お風呂入ってきていいですよ」
「覗かないでねイレイナさん。あいたっ」
イレイナが杖を振るとビュっと風が起こり、ライの額を軽くたたく。
ライが露店風呂に入りに行く中、イレイナは頬を紅くしていた。温泉に入ったせいだろう。
(まったく。なんなんですかあの男は。この輝くような銀髪と美貌を持つ私と二人旅をしておいて、まるで意識する素振りを見せないなんて。まあ、私との関係を尊重してくれているのは認めましょう)
ゴロンと寝返りを打ち、曇りガラスの向こうの男性の影を見つめる。着慣れない浴衣の胸元が露出していたが、イレイナは気づいていない。
(結局自称異世界人はそのまま。彼がいた崖周辺の国では手がかりがなく、距離を伸ばしたこの国でも同様でした。本当に突然この世界にあらわれたかのよう。ただ、字の読み書きはもう教える必要はありませんし、魔法の腕も上々。まだ箒は指導していませんが、時間の問題でしょう。彼が箒に乗れるようになれば、もう、私の助けも必要ない)
イレイナは目を細め、唇を引き絞る。
『相手も一夜限りの関係と理解しているでしょうし、楽しんでくればよかったのでは? 魔導士様』
『イレイナさんを放ってはおけないよ』
(放っておかないなら、どうしてベッドに運ぶだけだったんですか? 私の初めてのお姫様抱っこを奪っておいて。いえ……彼がお酒に潰れた女性に手を出すような人でないのは理解しています)
旅先で異性問わず言い寄られることもあるイレイナだったが、ライはそれ以上だった。だがライがそれになびくことはない。その理由はイレイナがいるからに他ならず、イレイナもそれは理解していた。
(男の人なのですから、そういう処理も必要であるはずです。なのに全く彼はそんな素振りは……)
もしかして、彼にとって自分は魅力的な女性ではないのだろうか。プライドが高いイレイナは、決して思考として言語化しなかった。
だが、感情は沸き起こった。温泉宿が気を利かせた効能のせいだったかもしれない。
『イレイナさん、いつもありがとう』
『イレイナさん、ここは僕に任せて』
『安心して、イレイナさんの傍にいるから』
「馬鹿……ん……」
誰に対しての罵倒だったのか。イレイナは目をつむり、太ももをすり合わせる。自身の浴衣が乱れているのに気づいたが、乳房が零れ落ちない程度に直すのにとどめた。仰向けへと寝返りを打ち、ライが出てくるのを待つ。
ライが戻ってきた。イレイナと違い浴衣をきっちりと着込みながら、くすんだ銀色の髪が乾ききっておらず艶があり、つい髪から首筋へと流れる一滴を、イレイナは目で追ってしまった。
状況の一番の変化は、そのあとに訪れた。
「ちょ、ちょっとイレイナさんっ。胸元、なおして……!」
「……!」
イレイナが目を見開いた。ライが自身を見つめたあと目を背け、頬を赤らめている。こんなライは見たことが無い。
(ふーん♪ ほっほう♪)
イレイナは口角を上げながら、胸元を寄せて上げるよう抑える。
「あらあらあ? どうやら温泉街の人に迷惑がかからない別の方法を、真剣に考えなければいけないようですね。はてさて、何がいいでしょう? 首に看板を掛けて街の入り口に立ってもらいましょうか。私は灰の魔女イレイナ様によこしまな目をむけました、というのも悪くありませんね」
「手出してないでしょう。むこう向いてますから、早く」
(むう)
「そういえばマッサージが終わっていませんでしたね。背中だけでなく前もお願いします。もし私の弟子が誠実な男性であるならば、たやすくこなすことができるでしょうね」
(この人は……)
イレイナの挑発はさすがにライにも理解できた。肩や背中を揉んでマッサージすることはあっても、対面してイレイナの前面を揉んだことは一切ない。もしライが理性的であったら、この挑発には決して乗らなかっただろう。
だが、ライも温泉に入ってしまっていた。
「後悔するなよ、イレイナさん」
「え? あの、ちょっとっ?」
仰向けで寝ころんでいたイレイナの頬が一気に赤みを増す。ライはイレイナの体を跨ぎこそしなかったが、仰向けのイレイナの横に座り、イレイナの視界を覆うように位置取ると、わき腹に手を這わせてマッサージを開始した。
「そのっ、あっ!? はぁああ……! ああっ! あんっ。んんぅっ」
マッサージ自体は痛気持ちいい、ちょうどいい加減だった。脇腹、腰、太ももと流れていくが、手つきは決していやらしくない。しかし、
(ライさんの顔……良い……)
間近に迫るライの上気した頬。いやらしい声を出してしまっている自覚。イレイナが揉まれ鳴くたびに、ライが唾を飲み込んでいる。
イレイナはますます太ももをすり合わせ、思わず予感した。今、この場所で、ライがのしかかってきたら、
(私、は……!)
ライが手を止める。けれど距離は決して離れない。イレイナはドキドキと胸の動悸が止まらず、唾を飲み込んだ。
ライは興奮したような表情から、真剣な目つきに変わる。
ライが囁くように口を開く。
「イレイナさん……聞いてほしい事がある」
「な、なんですか……?」
イレイナの緊張。だがライから発せられるその言葉は、期待していたものではなかった。
「僕は……イレイナさんに超能力をかけてしまったんだ」
「はい?」
「僕には超常の力があるんだ。魔法とは違う、声で、相手に一度だけ命令できる力だ。あの崖でつかまっていた時、僕は思わず、イレイナさんにかけてしまっていた。『助けて』と。イレイナさんがここまで僕の面倒を見てくれたのは、そのせいだ。本当に、ごめんなさい。今まで黙ってて」
空気の熱が一気に冷めていくのを、二人は感じた。
「冗談にしては質が悪いですね。私に自覚症状はありません。なぜ今話したのですか?」
「こんなに長い付き合いになるとは、思わなかったんだ。元の世界に帰る手段もすぐ見つかるだろうと思っていた。実際、あの時僕には助けが必要だったから。今まで話さなかったのは……ごめん、言うタイミングなかったのと、伝える勇気がなかったんだ」
「つまり、異世界人のあなたに私が懇切丁寧にガイドをしていたのは、あなたの洗脳魔法によるもの、ということなのですね」
「……魔法と分類していいかはわからないけど、そうだ。僕が助けを求めれば、イレイナさんは助けざるを得ない」
ライが今言った理由はもう一つある。
(イレイナさん……)
今浴衣を着崩した彼女は可憐で美しく、性欲をくすぐった。もしライに後ろめたいことが何もなかったら、勢いに身を任せていたかもしれないほどに。
だが、それほどまでの相手だからこそ、言わずにはいられなかった。
イレイナは呆れたように思考する。
(言われてみれば確かに……最初から私は彼に親切すぎました。ただそんなやりたい放題ができるのなら、他人のことを思いはからない生き方もできたでしょうに。このタイミングで言うという事は、私にずっと後ろめたい気持ちがあったのでしょう。同情の余地はありませんが)
「その魔法、解除する方法はあるのでしょうか?」
「僕が知る限り、この世界にはない。洗脳魔法をとくようなものがあれば、できるかもしれないけど」
「そうですか。直接的に洗脳するような魔法はありませんし、多少心を乱すような魔法なら、そもそも私は魔法で防御できるので効かないはずです。にわかには信じがたいですが、まあ、一応信じましょうか」
「命令できるのは一人に一度だけだから、これ以上イレイナさんをどうこうできることは、決してないよ」
「そうですか。まったく……こんな時に。ムードがぶち壊しじゃないですか」
「本当にごめん」
イレイナは怒るよりも苦笑する思いだった。まさか魔法を教えた弟子にまた騙されることになるとは。
(はあ、どうも私は脇が甘いところがありますね。気をつけないと)
「その魔法の超常の力の詳細を教えてください」
「ギアスと呼ばれている。僕のギアスは声で相手に命令できるんだ。命令は一人につき一回で、効果は、永続だ」
「なるほど。その力を使って、盗賊の情報を集めたり、武装した相手を一瞬で無力化することができたわけですね」
(考えれば考えるほど、とんでもない力です。言われなければ私も気づきませんでしたし、やろうと思えば努力一つせず、一国の王になることもたやすいでしょう。なのにこの男は、よく学び、よく実践している。こんな人もいるのですね)
ライはイレイナから体を離すが、「待ってください」とイレイナの言葉で止まった。
イレイナの体はほぐれて火照っている。心はライの告白で冷めたはずだったが、まだ燻っている熱があった。
(ここで体を離そうとするライさんなのですから、その力があったとしても、私が持っているあなたへの認識は、それほどずれていないのでしょう。それなら、あなたがこれからすることも予測できます)
「私の前から、消えるつもりですか?」
「うん。ずいぶんと、助けてもらっちゃったから」
「無責任なのですね。人一人の一生を変える術をかけておいて、ネタ晴らししたら放っておくのですか?」
「イ、イレイナさん!? ちょっ!?」
温泉の効能のせいだろう。立ち上がったイレイナは浴衣の胸元がはだけるのもいとわず、膝立ちのライの頭を抱きしめた。かつて最初の弟子にそうしたように。
「本当に、ずるい力ですね。行動がねじまげられているはずなのに、少しも嫌悪感がわかないのですから。そんな助けを求めているような顔をしている弟子を、放っておけるわけないじゃないですか」
「い、イレイナさん、胸がっ」
「当ててるんです。絶世の美女にこんなことをされて、男ならば嬉しさでむせび泣くほどの幸せですよ」
ライ。美形、並外れた身体能力、そこそこのお世話スキル、その全てがイレイナの元にあった。
「簡単に逃げれるなんて、思わない事です。決めました。師匠として命じます。私にかけたその、ギアスでしたか? 解除する方法を、一生をかけて探求することです。逃げる事は許しません。復唱してください」
「……解除する方法を、一生をかけて探求します」
そう聞きつつ、イレイナは後で解除方法を自身でも探すつもりではある。
「よろしい。ところで」
イレイナが抱擁を解いた、ライも立ち上がり、イレイナと視線を合わせる。
が、イレイナの視線は下に向いていた。イレイナの体に一度こすれていた。ライの浴衣の下半身で反り立つその場所が。ライは気持ち腰を引いていたが、風呂上り用の薄い浴衣では無駄だった。
「少し安心しました。てっきり正常に機能しない方なのか思っていましたが」
「ひどすぎない……?」
「ふふ、あなたのここもずいぶん、助けが必要のようですけど?」
イレイナのその一言で空気がまた変わった。ライの視線に獰猛なものが一部宿り、イレイナは目を見開いて、
(言ってしまいました)
と一部後悔する。
師匠と弟子、洗脳者と被洗脳者。
将来を誓ったわけでもない。恋人でもない。
だが、先ほど風呂上りのライを見て、イレイナが期待してしまったのは事実だった。その事実の延長の道に、ころがり落ちようとしている。
「イレイナさん」
「は、はいっ」
ライがいたわるように、イレイナを抱擁していく。イレイナは抱き返さないが、抵抗もしなかった。
イレイナはかわいい。透き通るような声に守りたくなるような華奢な体。しかし自信家で皮肉屋にして結構な腹黒、しかしやるべきことはやってくれるうえ、ライからすれば多大な恩があると同時に、今腕の中で艶やかな表情を浮かべる彼女は、日常とのギャップが強く、ライの支配欲を煽る。
二人はそのままゆっくりと、布団へと倒れていく。
「イレイナさん……あなたのことが」
「それはやめてください。これは、一夜の……過ちです」
「……わかった」
(そう、これは一夜の過ちです。決して記録に残さない、彼のギアスによってねじまげられた心と、温泉で火照った体がもたらした、一夜の過ちだったのです)
誰にするでもないモノローグが消えていき、同じ温泉の香りを漂わせながら、唇がゆっくりと重なり合った。
(本当に、なんでそんなに顔がいいんですか。まつげも長くて……)
柔らかい感触に浸る中、ライは目をつむり、イレイナは薄く目を開けた。ライが上、イレイナが下で抱き合い口づけているが、ライが膝と肘で空間を作り、イレイナはほどよい温もりと圧力に包まれている。
一度ライから唇を離すと、イレイナは物欲しそうに唇を尖らせてライの唇を追ってしまった。はっとしたイレイナが表情で平静を装うと、ライが慈愛のこもった微笑みを向ける。イレイナの頬が再び紅潮すると、すぐにまたライから口づけた。
「んっ……んぅ……!」
今度はイレイナが目を引き絞り、ライが薄く目を開けてイレイナの反応を見た。庇護欲をそそるようなイレイナの仕草を見て、ライは彼女の頭をさすりならが、彼女の唇を舌でノックした。
「あっちょっあふっ! んちゅる、あぁっんんっ」
驚いたイレイナだったが、その驚きで唇を空けたイレイナの口内へライの舌が侵入する。ライも初めての経験だったが、ライがもたらす行為によっていちいち愛らしい反応を返すイレイナに見惚れ、止まらなくなっていく。
呼吸のため小休止する。ライはあえてイレイナを煽るように、
「イレイナさん、もう降参?」
「なっ!? ふぅ、ふぅ……貞淑を美徳としているものでして。あなたこそ、こちらはまだまだ練度が足りないようですね。先ほどから固いモノをすりつけていますし、先に『助けて』さしあげましょうか?」
イレイナは挑発的な笑みを浮かべながら、おずおずと震える指先で、チョンチョンとライの股間をつつく。
ライも微笑み返すと、イレイナの下半身、浴衣の奥へと隠されたその場所へ指を伸ばした。
「あぁっ!」
「イレイナさんだってビショビショじゃない。マッサージの時から期待してたでしょ。下着履いてないし」
「ち、違います! 浴衣は下着を履かないものだと本にありましたので、作法に従っただけです。あっ、あぁっ」
ゆっくりとライの人差し指がイレイナの女陰の入り口をさすり、徐々に力を込めていく。
「痛くない?」
「え!? あっ、そ、そのっ! あっあっ!」
(な、なんでこんなに、気持ちいいのですか!? 一人でした時とは違い過ぎて……ご無沙汰だから? ライさんだから、なのですか? ライさん、実は経験豊富で……)
温泉か、それともイレイナ自身が感情の高ぶりを意識しないようにしているのか。ともかくイレイナは、自慰とは比べものにならない心地よさと、早すぎる絶頂への近づきように、思考と抵抗を失い始めていた。
ライの手淫をやめさせるようなことは思いつきもせず、ただライの背を掻き抱く。ライはそのままイレイナの唇を奪いながら手淫を続行して、泡立った水音をイレイナの二つの口から奏で始める。
「んちゅっ、ちゅぱっ、あぁっ! ライさっ、んちゅ」
ライのキスと手淫によってイレイナは感情に熱を持ち、イレイナの意に反して体がくねりはじめる。
(ち、違います! キスしているのは、ただ耐えているだけ、発情したライさんに付き合っているだけです。決してこの行為に流されているわけでは……!)
舌が絡み合い、荒く呼吸を吹きかけ合い、唇が形を変えるほどに密着させながら、コクンと交じり合った唾液を飲み込む。
ライの指先の第一関節が女陰に侵入すると、イレイナはライの舌を甘噛みし、目を空けてトロンとした瞳でライを見つめながら、「ちゅうちゅう」と音を立ててライの唇と舌、唾液を吸い込んだ。
「ぷはっ、イレイナさん、キス好きですね」
「え? は、はぁっ!?」
イレイナはますます顔を真っ赤にして口をわなわなと震わせた。小気味よい返しができないイレイナを見てライはくすりと笑い、すぐにキスを再開する。
「んむちゅっ!? んんぅっ! ぺろちゅるれろちゅるちゅる」
イレイナは一瞬不満そうに頬を膨らませたあと、復讐なのか口内にライの舌を引き込んで、何度も円を描くように舐めまわす。
クチュクチュと音を立てるキス、愛撫されるイレイナの女陰。イレイナが再びおずおずとライの股間へと手を伸ばし、何度も指先で浴衣ごしにライの男根の裏部位をさすった。
もう十分、そう判断したライが指を抜く。唇を離すと、二人をつなぐ銀色の糸が、イレイナの唇、顎、首へと落ちていく。
イレイナの浴衣を、帯を残したまま広げる。つつましくもツンと立つ、イレイナの二つの桜色の乳首。そしてトロトロと涎を垂らし続ける秘所。
ライも自身の浴衣をはだけさせ、ついに反り立つ男根を晒す。
ライの顔と胸板をうっとりと眺めていたイレイナだったが、彼の下半身に目を移すとギョッとして体を強張らせる。
「ちょっと待ってください。それを本当に入れるのですか? 普通に痛そうなんですけど。これが生殖行動とか進化過程のミスではないのですか?」
「……力を抜いて、痛かったら我慢せずに言ってね。すぐ止めるから」
イレイナが聞いたことがないようなライの優しい声色。そのままライはイレイナの額、鼻、頬と、慈しむように唇を落とす。
イレイナはライに口づけされるたびに「はうっ」と吐息をもらし、体の強張りを解いた。
ライはそのままイレイナに密着しながら彼女の股を開き、濡れそぼる入り口に亀頭をあてがい、腰を押し進めていく。
イレイナはライの背中を掻き抱く力を一層強め、ライの頬に頬を密着させ、異物の侵入感覚に耐えていく。
イレイナの中は熱く狭く、侵入をこばむかのようでありながら、一度入り込んだら二度と離さないかのように激しく締め付けてくる。ペニスを包み込むあまりの快楽に、ライが初めて顔を歪ませた。
「くっ……!」
「あっ、あぁんっ! はぁああ! ああぁんっ!!」
グチュグチュと熱をもった交合。ライのものがゆっくりと侵入していく過程で、イレイナの声が甲高く響き、正常位の抱擁が隙間なく密着する。
「全部、入ったよ。痛くない?」
「あっぁあっ……う、うご、かないで……!」
「うん……」
ライが優しくイレイナの唇に何度も口づけると、またイレイナは瞳をとろんとさせて目をつぶり、イレイナから舌を絡ませていく。
数十秒とキスを続けていくと、イレイナが腰をゆするように動かす頻度が増えていった。ライが「大丈夫?」と聞きなおすと、キスの合間にイレイナは目を反らし、コクンと浅くうなずいた。
浅くゆっくりと、ライは動きはじめる。奥を突き、引き抜き、イレイナの声と体の反応を見ながら、時に角度をつけ、浅くキスを続けながら、性器交合の快楽に酔っていく。
「んちゅ、ちゅう、あぁあんっ! あっぁああ! んなぁっ、あああぁんっ!」
(指じゃ、絶対、届かないところ、抉られてっ!? こんなの、知らなっ)
快楽で弾けるイレイナの表情と嬌声。灰の魔女が舌先から唾を飛ばし、ライの股間を濡らしつづけている。
「イレイナさん、凄い声……」
「えっ!? あっ、こ、これはっ雰囲気作りです。あっ、あーん、あぁーん、気持ちいいーっ」
……ぱちゅんっぱちゅん。
「あああぁん! だめえぇっ!」
リズミカルな音が鳴り始め、ライが徐々に体重をかけていきイレイナと舌と舌を絡ませる。
生意気な美少女をわからせているような優越感をひしひしと感じながら、ライはさらなる変化を求めた。こんなイレイナは見たことが無い。この顔をもっと快楽に歪ませたい。
「……んっ好きだっ、イレイナさん」
「なっ!? そ、そんな、や、やめっ! んんぅう!? ちゅぱっちゅる♡」
(私はまだ、旅を、続けっ)
ライの言葉でイレイナに戻る砂粒ほどの理性。しかし子宮から脳髄へ送られる快楽信号と、イレイナを包む異性の圧力が、再び理性を消し去っていく。
ライは強め始めていた腰の動きをあえて弱め、イレイナに返答を迫る。
「教えて、イレイナさんの気持ちをっ」
(ず、ずるいですっ。こんな、こんなことをしながら、そんなこと……!)
イレイナの体と本能は、もどかしいと言っていた。今自分を支配しているこの男ならば、いつでもたやすく女を絶頂へと導くことができるだろう。それをしないのは、イレイナの最後の防衛線の崩壊を待っているから。
再びライから深い口づけ。ひどい水音を立てながらイレイナはコクコクと唾液を飲み干し、ライの唇が離れても、言葉を紡ぐことができない。ライはそれでもイレイナをつつく。
「一夜の過ちでいい。イレイナさんは旅を続けて。それでも聞きたいんだ。お願い」
「……あっ、ああっ! わ、わかりました。こたえ、ますから、腰を止めて……! はぁ、はぁ…………ええ、そうです。好き、ですよ。じゃないと体を許すわけないじゃないですかっ」
歓喜したライはすぐさま深く口づけてイレイナの唇と舌を蹂躙し、一切容赦のない抽送を開始する。
「んんむちゅう!? んんちゅっ、ちゅるちゅぱっ、んんちゅうううぅぅ♡♡♡」
イレイナの視界がバチバチと弾け、快楽で混乱状態に陥り、できることといえばライに手足でしがみついて、唇に唇で吸いつき、舌と舌でべろべろと舐め合うだけ。魔女の姿はなく、動物的本能に支配された雌の姿があった。
ライも限界が近い。完全な言質を得てあとはもう、彼女と共に果てるだけ。
「ぷはっ好きだっ、好きだイレイナさんっ! んんっ」
(だめっ、こんなの、こんなので、幸せなのは、私じゃっ)
イレイナの膣内が収縮して痙攣し、奥の奥までライのペニスを飲み込み、そして、
「んちゅる、ちゅぱ♡ わらひっ、じゃあ♡ ライさっん、ライさっんちゅうううぅぅぅ♡♡♡」
ドビュルルルルル!!! ビュルルルルル!!! ブビュウウウ!!
キュウウウウウ!! ビクビクビク! プシャアアアァ……!
限界まで密着し震える体。ライとイレイナの密着した唇と、腰と腰の中にある性器の結合部から、ゴポゴポと泡立った二人の混合液が布団に染みを作っていく。
イレイナの初めての激しい潮吹きが数秒続いたあとは、チョロチョロと壊れた蛇口のように漏れ出していく。
イレイナは視界をバチバチと点滅させながら、刻み込まれた絶頂体験と、好意をもった男性からの被支配感、決定的な変化をしてしまった自身の価値観を咀嚼するのに、時間を要していた。
(ああ……もう、戻れませんね……これは……)
絶頂の波が引いていき、互いの体とキスの感触を再度知覚し始める。
「ちゅぷ……はぁ……ライ、さん……」
「イレイナさん……」
「ん……ちゅ……ちゅうぅぅ……」
性交の焦燥感から離れた確かな口づけを交わし、ライはイレイナにかけていた全身の圧力を弱める。ペニスを引き抜こうすると、イレイナの足がライの腰に回り、拒否した。
(いいえ、まだ、戻れるはずです。私は旅人。これはただの、一夜の過ち……♡ ライさんのことくらい、手玉にとってみせましょう♡)
イレイナはライの耳元に唇をよせ、囁く。
「まだ、一夜は明けていませんよ。あなたのここはまだ、固く腫れあがって、『助け』を求めているようですけど……♡」
「!! い、イレイナさんっ!!!」
「きゃっあんっ♡♡ んむちゅうぅぅ♡♡♡」
テラスの露天風呂の水音は、朝陽が昇るまでの間、部屋内部から響く激しい肉の水音と嬌声でかき消された。
イレイナ達が一体いくつ温泉をはしごしたのか、『魔女の旅々』には何も記されていない。前後の国のスケジュールと合わせれば、日数的には結構な空白があった。
その事実を知っている二人は、空を飛ぶ一つの箒に乗っている。
温泉の国を出てからイレイナは意識を切り替えたのか、まともにライと目を合わせていない。
少し風で箒が揺れると、ライは反射的にイレイナの腰に手を回した。
「おっと」
「しれっとセクハラはやめてください。訴えますよ。一度体を重ねた相手ならば日常的に触れていいとでも?」
「ちょっとバランス崩しただけだって。この先、出発前に見た地図の地形と変わってるみたい」
「本当ですね……地図を出してください」
ライは最適な角度に調整されたイレイナの背もたれと化しながら、イレイナの前へ地図を広げる。
「方角はあっていますし、川の形も一部あっています。古い地図ですから、天災でもあったのでしょう。このまま進みます」
ライは地図をしまいながら、
「そろそろ箒の魔法を教えてよ。イレイナさんと並走してみたい」
「……あなたにはまだ早いです。あ、ちょっと離れないでください」
「え?」
ライが距離を取ろうとすると、イレイナは頬を赤らめて視線を反らす。
「この先、少し寒くなりますから。魔力を温存するためにも、湯たんぽとして役に立ってもらいます」
「セクハラ呼ばわりしといて」
「私の同意なしに触れるからです」
「もしかして、それで箒の魔法は後回しにしてる?」
「決して他意はありませーん。ほら、早くしてください」
今度はライがしっかりとイレイナを抱きしめ固定する。イレイナは一瞬綻んだ口元を、ライに気づかれないようすぐに戻した。