今回、カリンにした理由として、任務や学園交流会で起用している最中、「カリンってあの重い銃を持つからには指にタコができてそうだなぁ」と思ったからです。もし、その手のタコがコツコツ当たったら、と思ったときには既に書き始めていました……。プロシュート兄貴の言葉は一理あるみたいですね。
 次作ではホシノを書きたいですね……。

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第1話

「お、セイジ。今回は初めてちゃんのご指名か?羨ましいねぇ」

 タケオさんが僕にそう、話しかけた。遅番ということもあってか、吐息からはミントの香りがする。いつでも出られるようにするための、彼なりのルーティンらしい。

「ハイ。仰る通りです」

「場所はどこだ?」

「今回はミレニアム自治区。日時は3日後の祝日、午前からですよ」

「そうかぁ……。……日中に俺たちを指名するなんて変わった客だねぇ。ミレニアムのことだし、何かの要職の子じゃあないのか?」

「……かもしれませんね。セミナーか、はたまた、C&Cか」

「ヴェリタスは夜に仕事をするらしいから、そいつらかもしんないな。ハッハッハ」

 朗々とした、低く、雄々しい声で笑っている。タケオさんは僕のお店では珍しい、ガテン系のキャストだ。キヴォトスではその手の専門店があるけれど、指名をよくする客による争いが激しいため、タケオさんはこのお店で勤務している。服越しでも分かるくらいに鍛えられた筋肉、体毛一つないまっさらな肌がよく目立つ。

「それで、SPオプションとかはどんなのを申請してるんだ?」

「SPはですね……、S着だそうです。困りますよ」

「ハッハッハ、マジか。大方、ホラを吹き込まれたんだろうな。ともかく、コンドームは大目に持っていきな」

「お気遣い、ありがとうございます」

「さてと、これから万魔殿の議長殿の所へ伺おうかな」

「本日、ご指名なんですか」

「あぁ、その通り。どうやら彼女は俺のことをいたくお気に召してるようでねぇ。ま、話術が楽しいからそれを期待して向かおうかな」

「はぁ……、口コミを見るに、例の議長の評判は散々ですよ。「議長の自分語り3000円」とか、「美大落ちみたいに喋るのが肝」とか、ボロクソそのものじゃあないですか」

「なぁに、そういうのも年頃の乙女らしくて愛らしいじゃないか。たまにはノッてあげるのもいいものだぜ」

 流石、父親の余裕がある……。息子の生活費を稼ぐためにこの仕事を選んだこともあって、癖のあるお客さんの対応がとても上手い。トントン拍子で人気キャストになった僕にはできない芸当だ。

「んじゃ、仕事にいってくるぜ」

「はい、いってらっしゃいませ」

 タケオさんは荷物をまとめて部屋を出た。部屋にいる人は僕だけだ。空気清浄機の音だけがする。

 ……かくいう僕は、セイアのためにしっかりと働けているだろうか?

 そう、考えてしまった。いつの間にか、ミントの香りは消えて、部屋はただの無臭となった。

 

 そうして3日後、僕はミレニアム自治区に向かった。今回はいつもの送迎はできないとのことなので特急列車に乗っている。セイアから借りたままの小説をだらだら読んでいると、給仕の人がやってきた。

「ご注文は何になさいますか?」

 肩から提げているライフルを見るに、ハイランダーの生徒であるようだ。血の気の多い彼女たちのことだ。ここは穏便に行かなくては。

「そうですね、……リンゴジュースとビスケット、手拭きシートを」

「かしこまりました、どうぞ。……では、ごゆっくり」

――危なかった。

 ここは残りの多い食べ物、手拭きシートを選んで正解だった。電車の管理をする彼女たちにとって食べ残しや汚れは迷惑そのものだ。見る限りでは、彼女の顔には蔑みの気配は感じられない。

「……おっと、お客様。随分と素敵なお顔ですね。爪も短いですし、ご職業は何をされてますか?」

 ……まずい。答えたくないことを訊かれた。ここは上手く乗り越えなくては。

「僕の仕事、ですか?まぁ、デザイナーをしてます。今日は地元にいる彼女へ会いに行くところです」

「あらまぁ、素敵ですね。お幸せに」

 給仕は軽く会釈をして、楽しそうにその場を去った。何とか、乗り切れた……。彼女は「素敵だ」と言ったが、僕の仕事は世の少女たちに愛を鬻ぐ仕事だ。素敵なことなんてない。ゲヘナの議長のように酷い客に当たるときもあれば、百鬼夜行の陰陽部部長のように禁止行為スレスレの煽りを喰らうときだもある。悩みの尽きない仕事だ。

 この嫌な気持ちを忘れてしまいたい。

 僕は片手に持ったままの小説を読む。小説はいいものだ。現実の嫌な出来事から自分を離してくれる。でも、所詮は創作。読了すればそれまで。終わってしまえば背けたくなる現実が待っている。それが好きな作品なら名残惜しくなってしまう。

 喉が渇いた。

 簡易式テーブルに置いたコップのリンゴジュースを喉へ流し込む。口の中がさっぱりとした甘さに満ちたとき、アナウンスが流れた。どうやら次の駅でミレニアム自治区に着くみたいだ。

 ……果たして、新規のお客さんはどんな人なのやら。

 

 指定されたホテルに着いた。

「あらあら、こんにちは。ヘルスの方ですね?では、こちらで拳銃をお預かりします」

 入口に立とうとしたとき、いきなり巡回の男に声を掛けられた。お世辞にも品のいい感じのしない顔立ちだ。普段の僕なら手を払いのけたくなるが、今日は仕事だ。耐え忍ばなくては。

「ハイ、こちらに」

「へっへへ、ご協力、ありがとうございます。では、お気をつけて……」

 バネ仕掛けか何かのようにわざとらしく男は扉に向かい、ドアを開けて入ってしまった。話し方もそうだが、じんわりと広がる生臭さ、奇っ怪な歩き方がやたらと目を引く。いつか僕も老いたらああなってしまうのかもしれないと思うと、何だか辛くなってきた。

 ともあれ、ホテルには着いたのでDMで連絡してみよう。

「おはようございます、セイジです。ただ今、ホテルに着きました。部屋番号を教えてください」

 すぐに既読がつき、返信が来る。

「こちらコールサインゼロツー。202号室にて待機している。物資の準備は完了した。迅速に来てくれ」

 か、堅苦しい……。「コールサイン」とか、「物資の準備」とか、戦闘訓練であるかのような言い回しだ。今は戦闘ではないのに……。まぁ、あまりチャットはしてこなかったのだろうな。ともあれ、今でも202号室で待機しているのだろう。僕は躓かないよう、狭い螺旋階段を一段一段踏みしめながら部屋へ向かった。

 

 僕は部屋の前に立った。目の前に扉がある。いつものように、3回ノックした。

「今、よろしいですか」

 すぐに返事が返ってくる。淡々としていながら、寡黙そうな声だ。

「いつでもいい。入ってくれ」

 僕はドアノブをつかむ。扉を開けようとしたそのとき。

 ……一切の服を身にまとわない、褐色の少女がそこにいた。

 大体のお客さんは衣服を着て待機しているのがほとんどだ。脱がせ合ったり、裸になっていく様を眺めるのが好きだったりと要望があるけれど、……だからって最初から服を脱いで待っているなんて初めてのことだ。

「……え」

 思わず声が出てしまう。

「どうした?どうせ脱ぐのだからこちらも脱がないと失礼だろう?」

 それはそうかもしれない。でも、だ、だからといって脱いでから待つのは気が早すぎる。

「ハ、はいはい。承知しました。これから精算と要望を聞くから、そこのベッドに座って」

「そうか、トキの教えはおかしかったのか……。まぁいい、了解した」

 トキ?一体どんな人物だろう?彼女の知り合いか?

 そうして、僕は彼女から料金をもらい、SPオプションの要望、ご利用状況、利用を考えた理由をじっくりと聞いた。彼女の名前はタケオさんの読み通り、彼女はミレニアムサイエンススクールの生徒、それも精鋭ぞろいのC&Cのメンバーだった。左腕にはその証である「02」の刻印が見える。……いや、そうだった。どうしても気になったことがあったんだった。

「その、さっきの独り言で出てきたトキって、どんな人かな?君の知り合い?」

「知り合い、というよりは数週間前、仲間になった新入りだ。いつもホラや大口を叩いてはリーダーから難なく逃げている。随分と変わったヤツだ」

「変わってる、か……。その子からヘルスについて色々と学んだの?」

「あぁ、そうだ。彼女は「リオ様直伝・ROAD TO CALL BOYS」とか言っていたような……。ともかく、ヘルスの利用方法や望ましいとされる作法は学んだ、はずなんだ。でも……、何がよくなかったんだ?」

 ……そういうケース、か。

 僕たち性産業の仕事は偏見や勝手な知識が広がりやすく、正しい知識は簡単には広がらないことが多い。保健の教科書でよく見る「ネットの情報を鵜呑みにしない」との説明があるくらいには、エロは大変な世界だ。大方、彼女は偏った知識を「正しい知識」として知ってしまったのだろう。

「この手のヘルスを利用するのは初めて?」

「あぁ、初めてだ。それにしても、愛銃を預ける前提だったとは知らなかった」

 やはりそういうことか。

「まぁ、初めての利用者は皆そう言うよ。どんな銃?」

「スナイパーライフルだ。私はチームでは狙撃手を任されているからな」

 狙撃手、か。所作からくるイメージによく合っている。

「なるほどね……。了解しました。それでは、予約の通り、浴室から出て100分、SPオプションのS着はなし。これでいいかな?」

「どうしてS着はダメなんだ?」

「ホラ、S着は誤ってつけると妊娠してしまう可能性があるからね。それと、条例でそういう行為は暗に禁止されているんだ」

「そうなのか……。トキの教えは違っていたのか」

「多分、そうかもしれないね。とにかく、今日はそれを守ってくれるかな?」

 褐色の少女は少しも動かさなかった口角をほんの少し上にして答えた。

「もちろんだ、……今日は、よろしく頼む」

 

「そうか、セックスする前にシャワーを浴びなくてはいけないのか」

 プレイをする前にシャワーを浴びる。これは僕たちの仕事では当たり前のことだ。陰部の垢や皮膚の雑菌、口膣の菌、どれをとっても命取りになる。どんな意図があろうと、それは必ず守らせている。まぁ、少し前にそれを守ろうとしなかった戦車長には困ったけれど。

「そうだよ。僕はもう浴びたから行ってください」

「分かった」

 部屋に備えられたバスタオルを片手に、彼女、カリンは浴室へ向かった。ドアを開けようとしたとき、僕に向かって話しかける。

「その、……浴びている様子を見ててくれないか?貴方も男だし、少しは興奮するだろう?」

 恐らく、彼女なりに考えた魅惑の方法なのだろうな。褐色の肌は穢れを知らないバスタオルの白さによって、その乳房も腕周りの肉づきも一層目立つ。これまで対応してきたお客さんの中でも指折りの艶めかしさだ。……何を考えているんだ、僕は。

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 僕はバスローブを脱いで裸になった。背中も軽くなった上に腰から下がる尻尾も動かしやすい。

 扉の前に立ち、僕は彼女の近くに立った。全開となった扉の先には、明るめの内装に不釣り合いな肌を照らされた少女がいた。女性にしてはかなり大柄な背には程よく垂れた乳房、無駄な肉のない背中、そして、古代の芸術家が崇めそうな小綺麗な尻が連なっている。しかも、それらがシャワーの飛沫を浴びることで装飾品のようにキラキラと輝く。昔、世界史で学んだ「大奥」や「後宮」にいる女たちもこうして色気に満ちた姿を男たちに見せていたのだろう。シャワーだけではない。シャンプーやボディーソープで身体の隅を洗おうとして、両腕を掻き上げて項を露わにしたり、陰部を洗おうとして恥じらいもなく足を広げたりする様も美しい。……こんなに美しい彼女を愛撫しようとすることが、とても恥ずかしくなってしまう。

「待たせてすまない。身体も拭き終えたことだし、始めよう」

 バスタオルで身体の隅々を拭いたカリンは、一切恥ずかしがることもなく、僕に向かってきた。

「じゃ、始めようか」

 今日もまた、お仕事の時間が始まる。

 

 いつものようにハグやキスをしていたときだ。

「そ、それにしても、セイジさんはすごいな……。こんなに大きくなる性器を身体に持っていて、辛くないのか?」

 カリンの視線が下に向かう。どうやら、僕のペニスに興味津々のようだ。

「もしかして、男の裸を見るのは初めて?」

 彼女は好きなことに興味津々な女児のように頷く。

「あぁ。さっきまではあんなに萎れていたのに、ペッティングだけで骨が入ったようにこんなに硬くなっている。女の私にはこんなものはないから不思議だ。ちょっとしたことでこうなってしまったらどうするんだ?」

 これは答えづらいことを言われてしまった……。仕方ない。共感しにくいかもしれないが、ここは素直に答えよう。

「そのときはそのときかな。朝起きてこうなったときは落ち着くまで待つし、日常生活でなってしまったときは人目を避けられる場所で安静にするよ。まぁ、薬局では蒸れの痒みを止める薬もあるし、僕たちにも専用の薬があるんだ」

 カリンは驚きとも喜びともつかない顔になっている。

「そう、だったんだな……。男の人も男の人で困っていることがたくさんあるのか。これからはそういうことにも配慮できるようにする」

「は、配慮って……。そこまでしなくても」

 まぁ、事実は事実だ。女性の生理と違って抑えようと思えば抑えられる。あくまでもその人本人がどうするかの問題だ。

「じゃあ、手伝わせてくれ。リーダーの恩人の本で学んだ知識をここで使いたい!」

「え?わ、ちょ、ちょっとま」

 僕の声を気にすることなく、彼女は僕のペニスをつかみ、優しく扱いた。褐色色の肌では、どこまでが僕のなのか、どこまでが彼女のなのか全く分からない。

 突然、脳天を叩かれたような衝撃が迫ってきた。

 思わず尻餅をついてしまった。身体が崩れると、ベッドの重々しい音が部屋中に鳴り響く。

「す、すまない。何か悪いことをしてしまったか?」

「い、いや、その、気持ちよくて倒れた、だけ、だよ。アハハ……」

「笑い事じゃあないだろ!何か無理をしたのなら、他のことを」

 あぁ、無理をしているのがあっさりとバレたか。でも、こういうことは承知の上だ。

「そこまでしなくても、いいよ。と、とりあえず、続けて」

 お客さんがそうしたいならその意思を尊重する。それもまた僕の仕事だ。ここは彼女のしたいことに付き合ってあげないと。

「分かった。無理だと思ったらいつでも言ってくれ」

 彼女はさっきと同じように僕のペニスを扱いた。不思議と、さっきと違って快感が少しずつ和らいできた。僕は倒れた身体を少し上げて、行為に夢中な彼女を見た。一定周期でやってくる快感、その正体は人差し指にできたタコがカリに当たったときの感触だったのだ。

 彼女、カリンはチームの中では狙撃手を担っていると言ったのを思い出す。大方、長時間の任務で銃を持つことでできたのだろう。そのタコによって今にも僕の股間は暴発してしまいそうだ。

「ご、ごめん。そろそろアレが出そうに、な、なる、ウッ、ん、んん……」

 カリンはすぐさま反応する。

「で、出そうなのか?早く見たいな、射精がどうやって起きるのか、楽しみだ」

 理科の実験を見る子どものような顔になる。いつもの僕なら「ありがた迷惑」と思うだろう。けれども、ペニスから伝わってくる快感が洒落にならない。

 出したい。

 出したい出したい!

 出したい出したい出したい!

「あ、そうだ!確か、出そうになったときはこうして谷間で受け止めて……」

 いやいや!どこから仕入れたのその知識⁈

 僕の身体は呆気なく暴発した。あの快感を生み出したタコのある右手ではなく、少しひんやりとした乳房の谷間で果ててしまった。正直、あの右手でイきたかったけれど、それを言う余力は全くなかった。

「こ、これが射精で出てくる精液、か……。思っていたよりも量は少ないな。それに、粘っこいし、臭い。しかも生温かい。……これを嬉々として呑み込む人間の心理が分からないな」

 カリンは谷間に出てしまったザーメンを冷静に分析している。他の子たちでは中々目立たない白濁の体液が、褐色の肌ではより悍ましく、惨たらしく彼女の谷間にこびりついていた。ティッシュを取りたいけれど、今いる位置からは難しい。

「ん?こういうときはティッシュで拭く、で合ってるだろうか?そこのティッシュを使って欲しいのか、分かった。そうしよう」

 彼女は備え付けのティッシュを乱暴にむしり取り、谷間のザーメンを残らずごっそりと拭き取った。僕は何も言わずに、ただ見ていることしかできない。

 

 使ったティッシュをゴミ箱に捨てると、カリンは自分の胸を嗅ぎ始めた。これから何をするのだろう……?

 何と彼女は、僕の隣で横になった。それも、丁度顔が僕の顔の前に来るように。

 そして、僕の項に腕を回したと思うと、自分の乳房へと引き寄せた。僕の視界は一瞬にして真っ暗になった。視界が見えなくなった代わりに、ほんのりと汗やハーブの香りが鼻に入ってくる。

「その、さっきはすまなかった。私は、……普通のエッチを知りたくて貴方を指名したんだ。周りの子たちは恋人を見つけて仲睦まじく毎日を送っている。なのに私はそういうことすら叶わない毎日ばかりで……。だから、その、さっきはやりたいことばかりを叶えようとして貴方の思いを無下にしてしまった。だから責めて、気が済むまで貴方を休ませてあげたい。こんなことしかできない、自分が、悔しい……」

 カリンはどこか臆病に、そして穏やかそうに僕に話した。彼女もまた、他の子たちと同じように、普通の女子生徒だ。エッチをしたいとの思いだって他の子たちと同じように持っていても何らおかしくない。

 僕は自由に動く左手で彼女の身体をなぞった。背骨、肩甲骨、項、そして、頭頂部。何度か頭頂部を撫でてあげると、恥じらいと感嘆の声を上げる。

「な、悪かったのは、わ、私だ……!何で、撫でるんだ?」

「悪いなんてことないよ。普通の人のような幸せなんて簡単には見つからないよ。僕も「優秀な妹の兄」として見られていたから気持ちは分かるよ。だから、今は自分のやりたいことやしてほしいことをここで僕と一緒に叶えようね」

 僕には妹がいる。とびきり賢くて、未来を見通す特技を持つ、特別な妹だ。妹が何かをする度に凡庸な僕はいつも比べ物にされては揚げ足を取られてばかりだった。そんな僕を妹はいつも慰めてくれた。あのとき、セイアから言われたことの受け売りであるが、あのときの惨めな僕が彼女に重なって見えてしまい、こう言わずにはいられなかった。カリンはというと、少し鼻をすすってからこう答えた。

「……感謝す、あ、い、いや!……ありがとう、セイジさん」

 カリンと僕は息が合ったかのように、一緒に身体を起こした。

「じゃあ、さっきとは反対に、今度はセイジさんが私を責めてくれないか?どうやって愛撫されるのか、気になっていたから……」

「了解です。愛撫はもちろん、オナニーの相談にも乗るよ」

「そ、それもいいのか?よ、よろしく、頼む」

 そうして、僕たちは時間一杯、互いの身体を堪能しあった。この数週間の仕事の中でもとてもやりがいのある指名だった。

 

「おいトキ。てめぇ、カリンに変なことを仕込んだそうじゃねぇの、えぇ?」

 今、目の前には怒気を発しているリーダー、そして拗ねているトキ。トキは硬いフローリングに正座している。

「何を仰るのですか、ネル先輩。私は知っている限りの知識をカリン先輩に教えたまでです」

「だーかーらぁ!その知識がどこから来たって聞いてんだアタシはよぉ!」

 こうしてトキは今に至るまで、先日の件でリーダーに詰められている。正直、被害者ともいえる私はかなり気まずい。トキは悪気があって話したわけではないだろうけれど、リーダーの気持ちも分かるだけに苦しくなる。まぁ、いつものように揶揄うつもりだったのだろうな。

「情報のソースですか。ハイ、リオ様からです。生前からお集めになっていた源一郎さんのゴシップや週刊誌のデータから知りました」

「ったく、あいつもあいつだろ!エロオヤジのいうことを何でもマジになって受け取りやがってよぉ……」

「そういうネル先輩はデリヘルに興味はありませんか?ちょっとお高いですが、お金を払えば夢の時間が手に入れられますよ」

「ケッ!誰が指名するかよ。病気になっちまったらどーすんだよ?アタシは指名しねーからな!」

「ヒマリ先輩、ユウカ、リオ様、ゲヘナの残念議長殿、陰陽部部長殿とキヴォトスの実力者は皆利用しています。……つまりネル先輩はひ弱な臆病者であったのですね。私は哀しいです、シクシク」

「なんつった今、あ゛ぁ゛ん⁈興味ねぇっつってんのが分かんねーのか?って、逃げるなぁ!待ちやがれぇ!!」

 ……トキはいつものように部屋からササッと逃げてしまった。リーダーはそれを追いかけたことで、部室は私だけになり、静けさに包まれる。エアコンの音だけが部屋によく響く。

 セイジさんのあの言葉をふと、思い出した。あの人も普通の幸せを求めていたんだ。私もいつか、普通の幸せを叶えたい。そうして、小さなカフェの店主に……。

「フフッ……。ありがとう……」

 一人だけの部屋で、私はほんのちょっと微笑んだ。


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