※この作品はR-18です。

かっこいいボクの、かっこわるくて淫らな秘密   作:斑目朔

26 / 26
王子様のブザービーターと僕だけに向けた笑顔(後編)

 試合は順調に進み、二年B組は圧倒的な強さで予選リーグから準決勝までを突破した。

 

 もちろん、その原動力は志穂(しほ)のワンマンプレイと言っても過言ではなかったが、西園寺(さいおんじ)さんの的確な指示や、他の女子生徒たちの献身的なサポートも見事に機能していた。

 

 そして迎えた、午後三時。

 

 体育館のボルテージが最高潮に達する中、いよいよ女子バスケットボールの決勝戦のホイッスルが鳴り響いた。

 

 対戦相手は、三年A組。

 

 現役の女子バスケ部員を三人も擁する、今大会の大本命であり絶対王者だ。

 

 これまでの相手とは、体格も、スピードも、そして戦術の完成度もまるで違っていた。

 

「くっ……!」

 

 試合開始早々、志穂(しほ)が初めて苦悶の表情を浮かべた。

 

 ボールを持った彼女に対し、三年生のバスケ部員二人がかりの厳しいダブルチームが仕掛けられる。

 

 いくら志穂(しほ)の運動神経がずば抜けていようとも、バスケットボールの専門的な訓練を積んできた上級生二人の連携を前にしては、思うようにパスコースを見つけることができない。

 

(ひいらぎ)! 無理するな、回せ!」

 

 味方の声に反応してパスを出そうとした瞬間、死角から飛び出してきたもう一人の部員にボールをパスカットされる。

 

 そのまま速攻を許し、あっという間に先制点を奪われてしまった。

 

「やっぱ三年生ハンパねえな。いくら(ひいらぎ)でも、バスケ部三人相手はキツいだろ」

 

「体力も削られてるだろうしな……」

 

 ギャラリーの(れん)たち男子生徒が心配そうに声をこぼす。

 

 その言葉通り、試合は序盤から三年A組のペースで進んでいった。

 

 志穂(しほ)へのマークは徹底されていた。

 

 彼女がボールを持つたびに、必ず二人がかりでプレッシャーをかけ、時には身体を激しくぶつけてくる。

 

「ああっ!」

 

 リバウンドを競り合った際、空中で三年生と激しく接触した志穂(しほ)が、バランスを崩して床に転倒した。

 

 体育館に「ドンッ!」という鈍い音が響き、女子たちの悲鳴が上がる。

 

(ひいらぎ)くんっ‼」

 

「大丈夫⁉ (ひいらぎ)様‼」

 

 審判がファウルを取り、試合が一時中断する。

 

 僕は手すりを握る手にギリッと力を込めた。

 

 今すぐコートに飛び降りて、彼女にぶつかった三年生を睨みつけてやりたい衝動に駆られるが、グッと堪える。

 

 ここは僕が介入するべき場所ではない。

 

「……大丈夫。なんでもないよ」

 

 志穂(しほ)はすぐに床から立ち上がり、ジャージの埃を払いながら味方に笑顔を向けた。

 

 しかし、その顔には、先ほどまでの涼しげな『王子様』の余裕は完全に消え去っていた。

 

 前髪は汗でべったりと額に張り付き、肩は大きく上下して激しく息をしている。

 

 膝には少し擦りむいた跡があり、赤く血が滲んでいた。

 

(ひいらぎ)様、一度ベンチに下がって……」

 

「ダメだ、麗香(れいか)。ボクが抜けたら、一気に点差を広げられちゃう。……それに」

 

 志穂(しほ)は、コートの床を見つめながら、低く、しかし熱を帯びた声で言った。

 

「負けたくないんだ。……絶対に、勝ちたい」

 

 それは、周囲の期待に応えるための「王子様」としての言葉ではなかった。

 

 純粋な、一人のアスリートとしての、剥き出しの闘争心だった。

 

 彼女の黒曜石のような瞳が、ギラギラとした強い光を放っている。

 

 僕は、その表情を見た瞬間、不覚にも心臓が大きく跳ねるのを感じた。

 

 美しい、と思った。

 

 僕の部屋で無防備に喘いでいる彼女も最高に愛おしいけれど。

 

 こうして、泥臭く汗を流し、息を切らし、勝利という一つの目標に向かってなりふり構わず牙を剥く彼女の姿は、どうしようもないほどに僕の胸を打ち、魂を揺さぶった。

 

「……いけ、志穂(しほ)。お前の力を見せつけてやれ」

 

 僕は誰にも聞こえない声で、そっと呟いた。

 

 試合が再開される。

 

 転倒したことで、志穂(しほ)の中の何かのスイッチが切り替わったようだった。

 

 プレイスタイルが、優雅なものから、よりアグレッシブで野性的なものへと変化したのだ。

 

「甘いっ!」

 

 自分よりも長身の三年生ディフェンダーに対し、志穂(しほ)はスピードを緩めることなく真っ直ぐに突っ込んでいく。

 

 そして、ぶつかる寸前で信じられないほどの急ブレーキをかけ、体をスピンさせて相手を置き去りにした。

 

 そのままゴール下へ侵入し、ダブルクラッチで空中のディフェンダーを躱してレイアップシュートを決める。

 

「うおおおおおっ‼ なんだ今の動き‼」

 

(ひいらぎ)! いけええええっ‼」

 

 ギャラリーの歓声が、怒号のような地鳴りに変わる。

 

 志穂(しほ)は自陣に戻りながら、拳を強く握りしめて小さくガッツポーズを作った。

 

 そこからは、まさに死闘だった。

 

 三年生チームが組織力で着実に点を重ねれば、二年B組は志穂(しほ)の個人技と、彼女に触発されたクラスメイトたちの気迫のディフェンスで食らいついていく。

 

 点差は離れては縮まり、また離れるという、息の詰まるようなシーソーゲームが展開された。

 

 体育館の空気は薄くなり、サウナのような熱気が全員を包み込んでいる。

 

 志穂(しほ)の体力は、とうの昔に限界を迎えているはずだった。

 

 昨夜の疲労に加え、この極限のプレッシャーの中でのフル出場。

 

 それでも、彼女の足が止まることはなかった。

 

 汗が顎から滴り落ち、体操服の背中が完全に汗で色を変えても、彼女の瞳の奥の炎だけは消えることなく燃え続けている。

 

 そして、運命の第四クォーター、残り時間三十秒。

 

 スコアは『58対57』。

 

 三年A組が一点をリードした状態で、二年B組のボールから試合が再開される、タイムアウトの時間がやってきた。

 

 ◇◇◇

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 ベンチに戻ってきた志穂(しほ)は、膝に手をつき、タオルを頭から被って激しく肩で息をしていた。

 

 西園寺(さいおんじ)さんが必死にうちわで風を送り、他の女子たちがスポーツドリンクを差し出している。

 

「みんな、聞いて」

 

 志穂(しほ)はタオルを取り、血走ったような目でありながらも、落ち着いた声でチームメイトに語りかけた。

 

「次のオフェンスが、最後のチャンスになると思う。相手は絶対にボクを徹底マークしてくる。だから、ボール運びは麗香(れいか)たちに任せる。ボクは囮になって走るから、最後に……最後に必ず、一番いいタイミングでボクにパスを回して」

 

 全員が、無言で力強く頷いた。

 

 彼女たちもまた、志穂(しほ)の気迫に引っ張られ、限界を超えて戦っていた。

 

『ビ──ーッ‼』

 

 タイムアウト終了のブザーが鳴る。

 

 選手たちがコートに戻っていく中、志穂(しほ)はふと足を止め、ゆっくりと顔を上げた。

 

 何百人という生徒が詰めかけ、熱狂の渦となっている二階のギャラリー席。

 

 その無数の顔の中から、彼女は迷うことなく、一直線に僕の姿を見つけ出した。

 

 視線が交差する。

 

 喧騒の体育館の中で、まるで僕と彼女の周囲だけ、音が消え、時間が止まったかのような錯覚に陥った。

 

 彼女の汗に濡れた瞳は、言葉よりも雄弁に僕に語りかけていた。

 

『──見ててね、(かける)くん』

 

 僕はポケットに突っ込んでいた両手を出し、ギャラリーの手すりを強く握りしめた。

 

 そして、無言のまま、彼女のその決意を真正面から受け止め、深く、力強く頷いた。

 

『──ああ』

 

 志穂(しほ)は僕の頷きを見ると、ふっと柔らかく、今までで一番美しい微笑みを浮かべた。

 

 そして、鋭い眼光を取り戻し、コートの中央へと駆け出していった。

 

「ディフェンス! 一本守るぞ‼」

 

 三年生チームのキャプテンが声を張り上げる。

 

 二年B組のスローインから、最後の十秒が始まった。

 

 9秒。

 

 西園寺(さいおんじ)さんがボールを受け取り、ゆっくりとフロントコートへ運ぶ。

 

 三年生チームのプレッシャーが異常なまでに高まる。

 

 7秒。

 

 志穂(しほ)がボールをもらうために動くが、三年生チーム二人のディフェンダーがぴったりと張り付いてパスコースを塞ぐ。

 

 5秒。

 

 ボールを持った西園寺(さいおんじ)さんが追い詰められ、ドリブルを止めてしまう。

 

「くっ……!」

 

 パスが出せない。

 

 このままでは時間が切れる。

 

 三秒。

 

 その瞬間、志穂(しほ)が動いた。

 

 ゴール下へ向かうと見せかけて、急激に方向を転換。

 

 トップ・オブ・ザ・キー。

 

 スリーポイントラインのさらに一メートル後方へと、バックステップで大きく下がる。

 

 一瞬だけ、ディフェンダーとの間に空間が生まれた。

 

(ひいらぎ)様っ‼」

 

 西園寺(さいおんじ)さんの悲鳴のような声とともに、苦し紛れのパスが志穂(しほ)に向かって飛ぶ。

 

 二秒。

 

 志穂(しほ)はそのパスを、スリーポイントラインの遥か外側でキャッチした。

 

 すぐさま、三年生のディフェンダー二人が、ブロックのために高く跳び上がってくる。

 

 一秒。

 

 志穂(しほ)はボールを持ったまま、沈み込んでいた膝のバネを開放し、ふわりと、誰よりも高く宙へと舞い上がった。

 

 汗の滴る腕が伸び、手首がスナップする。

 

 長身のディフェンダーたちの指先の、さらにその上を越えて。

 

 オレンジ色のボールが、高い、高い放物線を描いて、体育館の天井に向かって吸い込まれるように飛んでいく。

 

『ビィィィィィィ────ーッ‼‼!』

 

 ボールが空中の最高点に達した瞬間、試合終了を告げる無情なブザーが鳴り響いた。

 

 体育館にいるすべての人間が、息を呑んでそのボールの行方を見上げていた。

 

 誰も声を出さない。

 

 時間すらも止まったような、永遠に感じる数秒間。

 

 ボールは美しい弧を描きながら落下し。

 

 ──スパパァァンッッ‼‼ 

 

 バックボードにも、リングの縁にも一切触れることなく。

 

 完璧な軌道で、ネットの中心を射抜いた。

 

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ‼‼‼‼」」」」」

 

 次の瞬間、体育館の屋根を吹き飛ばすかのような、割れんばかりの大歓声が爆発した。

 

「やったぁぁぁっ‼ 入ったぁぁっ‼」

 

「逆転‼ ブザービーターだああああっ‼」

 

(ひいらぎ)くぅぅぅんっ‼ 最高おおおおおっ‼」

 

 得点板のスコアが、『58対60』へと切り替わる。

 

 逆転優勝。

 

 クラスメイトの女子たちが、泣き叫びながらコートになだれ込み、着地した志穂(しほ)の元へ殺到した。

 

 志穂(しほ)はもみくちゃにされながらも、西園寺(さいおんじ)さんたちチームメイトと抱き合い、汗と涙で顔を濡らして、最高の笑顔を弾けさせていた。

 

「すげえ……マジですげえわ、あいつ。マンガかよ……」

 

 隣で(れん)が、鳥肌をさすりながら呆然と呟いている。

 

 僕はギャラリーの手すりに寄りかかったまま、小さく息を吐き出した。

 

 心臓が、まだ早鐘のように打っている。

 

 手のひらには、じっとりと汗をかいていた。

 

「……本当だな。かっこよすぎるだろ」

 

 誰にも聞こえない声で、僕はそう呟いた。

 

 あんなプレイを見せられたら、認めざるを得ない。

 

 彼女は紛れもなく、この学園の、そして僕だけの、最高の王子様だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【R18】オンゲのフレンドがリアルのセフレになりまして ~フレンドなんだからリアルでもボクと一緒に楽しいことしよ!~(作者:真喜屋五木路)(オリジナル現代/恋愛)

「だからさ――ボクと、セックスフレンドになろ?」▼高校生である吉永徹(よしながとおる)にとって、学校は楽しい場所とは言い難い。登校すれば陽キャ女子たちに席を占拠されているのは毎朝のことで、それを愚痴れる友達もいない。▼そんな彼にとって唯一の楽しみは、オンラインゲームで知り合った『ポーン』という名のフレンドと一緒にゲームをすることだった。▼声以外何も知らない彼…


総合評価:230/評価:-.--/完結:34話/更新日時:2026年06月14日(日) 20:00 小説情報

【R18】ボーイッシュ幼馴染みを甘くトロトロに調教する件~強がりなあの子が、俺だけのメスになるまで~(作者:ぬぷんもにゅき)(オリジナル現代/日常)

 幼馴染の葵(あおい)は、短い黒髪に細身の引き締まったボーイッシュボディがトレードマークの超体育会系女子。女子サッカー部のエースで、いつも俺(主人公)を「弱っちい男」と見下し、男勝りな口調で突っかかってくる強気な存在だ。▼ ある夏の日、葵がいつものように俺をからかいながら「勝負しろよ! 負けたら言うこと聞けよな!」と体育倉庫で腕相撲を挑んでくる。俺が普通に勝…


総合評価:21/評価:-.--/短編:1話/更新日時:2026年07月17日(金) 16:03 小説情報

【R18】天才幼馴染のヒモ生活(作者:猫屋敷てん)(オリジナル現代/恋愛)

幼馴染の朝霧琴葉は天才だった。若くして音楽家として成功し、巨万の富を得た才女だ。▼そんな琴葉に、ブラック企業で壊れてしまった俺は養われることになる。▼俺とセックスすると良い音楽を作れると言う琴葉と、ドロドロの日々はとても甘美で退廃的だ。▼おはようフェラからお仕事中も後ろからセックス。誰もが名を知るアーティストの体を好きにする日々が、始まる。▼と思っていたらど…


総合評価:390/評価:8.75/完結:18話/更新日時:2026年06月13日(土) 20:15 小説情報

【R18】攻めギャル-金髪黒ギャルの玲香さんは色々デカイ-(作者:もすまっく)(オリジナル現代/恋愛)

小柄な男子高校生・水崎拓斗と大柄な金髪黒ギャルのJK・花宮玲香▼この二人が送る身長差カップルの二人のイチャイチャラブラブな日常『性』活。


総合評価:108/評価:-.--/完結:69話/更新日時:2026年08月25日(火) 18:51 小説情報

【R18】中学のころ性処理してもらってたスタイル抜群ツンデレ淫乱ギャルと成人式で再会して秘めた想いを汗だく本気交尾を通してぶつけられ相思相愛になるまでの話(作者:蒼むらさき)(オリジナル現代/日常)

タイトル通りの内容になります。


総合評価:86/評価:-.--/短編:1話/更新日時:2026年05月02日(土) 20:27 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>